石川県内灘町 教育長久下 泰功(くげ やすのり) 氏

昭和26年生まれ。昭和49年から県立高校の教諭、平成16年は県教育委員会スポーツ健康課 課参事、平成19年から県立高校の教頭・校長を歴任。平成24年から石川県教育センター准教授、平成25年3月から現職。

内灘町DATA
【都道府県】石川県
【人口/世帯数】26,990名/10,492世帯(平成26年12月1日時点)
【小中学校数】小学校5、中学校1
【児童・生徒数】児童1,558名、生徒869名
【備考】西に日本海、東に河北潟を擁し、白山・立山連峰を望む光溢れる砂丘の町。

手探りの実践からスタートしたICT活用

―内灘町が『特色ある授業づくり』の一つとして進めているICTの活用について、これまでの取組みをお聞かせください。

久下 平成26年度の町教育基本方針において「夢や目標に向かって主体的に学び、生命を尊重し、たくましく生きる児童生徒の育成」を掲げ、学校教育重点事業の柱の4項目「特色ある授業づくり」の一つとして「ICT利活用教育の推進」を進めています。これからのグローバル時代を生き抜く子どもたちの育成にICTの利活用は不可欠であると考えています。

平成22年、町内にある小学校5校のうち2校が総務省の「フューチャースクール推進事業」と「地域雇用創造ICT絆プロジェクト」の実証校として採択されたことをきっかけに、内灘町の情報教育への取組みがスタートしました。

フューチャースクール推進事業では、町内でもっとも規模の大きい大根布(おおねぶ)小学校の1年生から6年生の児童全員598名に一人一台のタブレットPCが、また全クラスに電子黒板が整備され、3カ年の実証研究に取り組みました。またICT絆プロジェクトでは、清湖(せいこ)小学校において4年生から6年生を対象に158台のタブレットPCと電子黒板を整備し、4カ年にわたり教育現場におけるICTの利活用に取り組んできました。取り組みの当初はICT利活用に対する経験はもちろん知識もなく、リーダーとなる教員による手探りの実践から、いくつかのICT活用の効果を見出していきました。

ICTは21世紀型スキルの養成に有効なツール

―今回のDIS School Innovation Project に参画されたねらいと成果は何ですか。

久下 前述の二つの事業の取組みノウハウを活いかしつつ、町内に5校ある小学校のうち残りの3校すべてを実証研究校とすることで、内灘町におけるICT教育の機会の公平性を図はかるために参画しました。

具体的な目的は、①教員のICT活用指導力の向上、②児童生徒の思考・判断・表現力等の21世紀型スキルや情報活用能力の向上による教育の情報化の推進です。

低学年の児童には主に電子黒板を活用した学習への意欲を喚起する取組みを、中学年にはデータについての考察など、学習のねらいを達成する活動でICT機器を活用しました。さらに高学年では、電子黒板を活用したプレゼンテーションで相互に意見を交わし、思考を共有することによる学習の深まりがみられました

また学年を問わず、課題に対して積極的に学ぼうとする姿勢や、自分の考えをもとうとする児童が増えたことも成果の一つといえるでしょう。自分のタブレットに入力したものがスクリーンに映し出されるため、授業に参加しようという意欲を喚起し、集中力を保つ効果があります。課題解決型、探究型授業がこれからの学力養成にはどうしても必要ですが、ICTはそのための有効なツールといえます。

一方、教員は児童の反応や変化などからICT活用の効果を実感しており、より積極的な活用につながっています。校内研修で繰り返し実践共有されたことで、指導力の向上がみられました。今後、スキル育成型・探究型授業の実現に向けて、研修のさらなる充実による情報教育の質の向上をめざしています。

ICT利活用による学力向上が証明されることを期待

―今後の展望についてお聞かせください。

久下 これから大切なのは、具体的に「どの科目のどの単元で、ICTのどのような活用方法が有効であるのか」という教材研究が進み、教材としての位置づけが明確にされていくことです。多忙化する教員にとって、より具体的な活用方法の共有や蓄積は必須といえます。

内灘町では機器環境、ネットワーク環境ともに一定の整備ができたものの、課題もあります。一つは更新時期をむかえ始めたICT機器の再整備、もう一つはこれまで手つかずになっている町内1校の中学校の環境整備です。その早期実現のためには、費用対効果の証明も必要です。21世紀型スキルや情報活用能力の向上に加え、ICT利活用による学力向上の成果が証明されることを期待しています。