マルチOS管理に大きな効果をもたらすMicrosoft Intune
――山口県ではGIGAスクール構想を前倒しで進めたと伺いました。どのような状況だったのでしょうか。
浜本 当初は2020年度から2025年度(令和2~7年度)にかけて段階的に整備していく想定でした。しかし、新型コロナウイルスの流行に伴い、山口県の村岡 嗣政 知事の指示のもと、すべての県立学校に対して2020年度中に一斉に整備を行うことになりました。対象は県立学校の生徒・児童で、高校・中学校・中等教育学校・特別支援学校が含まれます。
――結果的にWindows端末とiPadを選択された背景は。
浜本 企業や大学ではWindowsを使用するケースが多く、社会に出ていく前の準備段階でWindowsに触れる経験は非常に重要です。そのため、高校・中学校・中等教育学校ではWindows端末を選択しました。一方で特別支援学校では個々の児童生徒のニーズに応じた支援が求められるため、一人ひとりに合った機能や、教育に活用できるアプリの豊富さを重視し、iPadを選定しました。
――マルチOS端末の一元管理の具体的な方法を教えてください。
浜本 短納期で大量端末を導入したため、効率的にマルチOSの管理をしなくてはならないことが課題でした。それを解決したのが「Microsoft Intune」です。Microsoft Intuneで管理を行うことで、WindowsもiPadも安定的に運用できています。
Windows端末については、Microsoft Intuneと「Microsoft Entra ID」(導入当時は「Azure AD」)による管理が前提となっており、導入時からスムーズに運用できていました。一方、iPadに関しても、「Apple School Manager」とMicrosoft Intuneとの連携が非常に円滑であることから、同様に効率的な管理が可能でした。
特に、Microsoft Intune上であらかじめ構成プロファイルを設定しておくことで、ユーザーはiPadの電源を入れて簡単な初期操作を行うだけで、すぐに利用可能な状態になります。この仕組みにより、現場の教職員が複雑な設定作業を行う必要がなくなり、導入時の負担を大幅に軽減することができました。
端末導入においては、「先生たちの負荷をいかに下げるか」が重要なテーマの一つでしたが、IntuneによるiPadの一元管理は、その課題に対する非常に有効な解決策となりました。WindowsとiPadという異なるOS環境を、同一の管理基盤で統合的に運用できる点は、教育現場におけるICT活用の柔軟性と効率性を大きく高める要因となっています。

ゼロトラストでセキュリティを強化、情報漏洩対策も重視
――次に校務改善とセキュリティ対策についてお伺いします。校務用端末と学習指導用端末を一台に集約したそうですが、いつから実施したのですか。
浜本 2023年度から2024年度(令和5~6年度)にかけて実施しました。2023年度に文部科学省の実証事業の採択を受け、モデル校での実証の後、ゼロトラストセキュリティを全校に展開しました。2024年度には、フルクラウド化および教職員端末の1台化が完了しています。
以前は、校務用端末と学習指導用端末の2台持ちであり、校務用端末は基本的に各学校で管理されていました。学校ごとにADサーバーを構築・運用していたこともあり、セキュリティに不安を抱えていましたが、Microsoft Intuneを用いて県教委による一括管理を行うことで、より強固なセキュリティ運用が可能になりました。

――ゼロトラストセキュリティの構築において特に重視した点は。
浜本 セキュリティと利便性のバランスです。コンテンツの暗号化やアクセス制御を行う秘密度ラベルの種類は必要最低限に抑えて、細かなアクセス制御は「Microsoft SharePoint」のアクセス権管理で対応しています。あまり運用を複雑にしないよう、先生にもわかりやすい仕組みを心がけました。先生は異動も多いので、秘密度ラベルが複雑になると、運用に支障をきたしてしまうからです。
クラウドを使った授業を行う上では、ファイルの誤アップロードによる生徒への情報漏洩がリスクとなりますが、ヒューマンエラーが起こっても機密情報が漏れないように、情報のコントロールはかなり意識しました。
さらに山口県では地域連携教育も盛んに行われていますが、外部の人とコミュニケーションが取りやすい環境の構築を考慮しました。

――先生に向けてセキュリティ研修も実施されているとお聞きしました。
浜本 ゼロトラスト化の導入に先立ち、全教員を対象としたセキュリティ研修としてオンデマンド形式の動画を作成し、視聴してもらいました。今後もこの研修動画を定期的に更新し、最新のセキュリティトピックを提供するとともに、先生方が安心してICTを活用できるよう、理解度の確認を含めた継続的な取り組みを進めていく予定です。
運用面では、細かなセキュリティ上の課題が発生することもありますが、「Microsoft 365 Education A5」(以下、Microsoft 365 A5)の仕組みにより、基本的には自動的に復旧されるため、大きな支障はありません。復旧の過程で判明した事象については、「こういったケースがあったので注意してほしい」といった形で、学校現場に情報を共有し、再発防止に努めています。
校務DXに貢献するMicrosoft 365 A5
――Microsoft 365 A5を活用した校務改善の具体例について教えてください。
浜本 一番のメリットはロケーションフリーになったことです。フルクラウド化により、職員室に限らず教室でも校務が可能になり、業務効率が大幅に向上しました。管理職の先生が出張先でも業務を行えるようになったほか、今年度からは在宅でのオンライン研修受講も制度的に認められるようになりました。
――校務DXに関するMicrosoft 365 A5の貢献度はいかがでしょうか。
末松 効果は大きく、「Microsoft Teams」(以下、Teams)や「Microsoft Forms」などのツールを使って業務効率化を図っています。アプリの活用方法については、先生たちがTeams上で自発的に意見を交換し、互いに教え合っている点が特徴です。
Microsoft 365 A5の利用によって、従来は各校のシステムに分散していたデータが一元的に集約されるようになりました。山口県では教育データの活用を進めており、まさにその基盤ができつつあると感じています。今後はこれらのデータを活用して、さらなる校務DXを進めていきたいと考えています。
浜本 もはやクラウドベースで仕事をするのは避けては通れませんし、現在はTeamsを中心に業務が回っています。それを実現できるのは、Microsoft 365 A5でしっかりと守られているからです。オンプレミス環境と比較すると業務のやり方そのものが変わりました。日々アップデートされて機能が増えていますし、先生たちも以前に比べて便利になっていることを実感されています。
―昨今注目される「Microsoft 365 Copilot Chat」(以下、Copilot)の活用は進んでいますか。
浜本 Microsoft 365に付属するCopilotを使用しています。情報が保護された形でAIを活用できるのが利点ですし、Microsoft 365の中でAIを試せるのは教育現場にとって非常にありがたいです。現在はプロンプト集を作って、学校での校務活用を広めているところです。
――最後に、今後の教育DX推進の計画についてお話しください。
浜本 山口県はほかの都道府県に先駆けてフルクラウド化、ゼロトラスト化を達成しました。そのため、この環境の優位性を活かさない手はないと思っています。まずは先生にこの環境に慣れていただき、働き方改革や魅力的な授業づくりに効果的につなげていくことが次のステップになります。
末松 今後もクラウドサービスを中心により利用しやすい環境づくりを進めることで、先生方の業務負担が少しでも軽減され、生徒との関わりの時間を増やすことに貢献できればと考えております。また、学習データのフォーマット化と利活用により、一人ひとりに寄り添った、個別最適な学びの実現ができるよう支援できればと思います。
