週7~8時間の削減。働き方を劇的に変える、ゼロトラスト

――最初に、貴校におけるICT活用について教えていただけますか。

増田 本校は探究型学習に力を入れています。まずは「学び屋さん」というキーワードで、育てたい生徒像を3つの観点で設定。学び屋さんを実現するためにどうすればいいかを考え、先生たちが工夫しながら授業を行なうのが特徴です。

メインは「聖徳プロジェクト」というカリキュラムで、週に4時間の「総合的な探究の時間※LHR(ロングホームルーム)を含む」があります。3年間を通じて展開し、最終的には一人ひとりが卒業研究を発表します。普段の授業でも、先生はファシリテーターとして関わり、生徒同士が協力しながら学び合うことを重視しています。例えば数学ではホワイトボードに問題を書いて生徒たちがお互いに解き合ったり、社会ではグループで単元を決めて教科書の内容を教え合ったりしています。

渋谷 グループ学習では、生徒たちが「Microsoft Teams for Education」(以下、Teams)を使いながらグループごとに発表する授業を行なっています。リアルタイムで情報を共有できるため、従来型の発表より進度が早いのが利点です。

私は情報科を担当していますが、プログラミングの授業で「Microsoft 365 Copilot Chat」(以下、Copilot)を使うことで、瞬時に正しい答えを導き出す手助けになっています。情報科の教員は私だけなので、負担はかなり軽減されました。Copilotによってもう一人の教員がいるようなイメージです。

「聖徳プロジェクト」生徒発表の様子

――いつからMicrosoft 365 A5を導入されたのですか。

増田 2018年度に無償版のOffice 365 A1を全校導入、まずはTeamsから活用し始めました。ですからコロナ禍でもオンライン授業はコマ数を減らさずに1日6時間やり切ることができました。今でも、翌日に雪の予報があって生徒が登校できないことが想定されるときなどは、すぐにオンライン授業に切り替えています。

その後、2019年度のPCのリプレースに伴い、Microsoft 365 A5を使って校務系・学習系の情報をクラウド上で一元管理することにしました。 これにより、場所を選ばずに仕事ができるようになり、劇的に働き方が変わりました。校務用PCが据え置きのデスクトップから「Microsoft Surface Pro」にリプレースされ、Microsoft 365 A5でしっかりとセキュリティが担保されたからです。自宅や外出先で校務や授業の準備をしたり、教室で生徒と話しながら作業したりすることも日常的になっています。

――校務環境でゼロトラストを取り入れようと思った背景は。

渋谷 職員室でしか仕事ができなかったリプレース前は、時間的制約からお子さんのいる先生は仕事を残したまま帰らねばならないことがありました。そうすると仕事がどんどん溜まる悪循環に陥ってしまいます。しかも当時は校務用端末で作成した教材を、授業用端末に移動する際、USBメモリでデータをやり取りする必要があり、データ漏えいのリスクを抱えていました。これらの課題を解決するためにゼロトラストセキュリティを取り入れようと考えたのがきっかけです。

――Microsoft 365 A5の導入で校務がどのように効率化されたのでしょうか。

渋谷 さまざまな部分で効率化を図ることができました。まずTeamsの活用によって教員朝礼の時間が短縮され、最小限の連絡だけで済むようになりました。また職員会議が週1回から月1回になり、必要な議論だけを職員会議で行なうことで、会議の時間削減にもつながりました。帰りのショートホームルームも廃止しています。

電話当番の業務も廃止されました。以前は当番の先生が7時半に出勤して欠席連絡などを受けていましたが、今は保護者からの問い合わせ等は「Microsoft Forms」からTeamsに連携して学年団(学年ごとの教職員チーム)に連絡が行くフローになっています。週のトータルで7、8時間は削減できており、改善で生まれた時間を生徒指導や授業研究、探究型学習充実のために活用しています。

増田 Teamsを活用して業務改善を図ったことで、連絡の伝達における「伝言ゲーム」のようなムダをなくすことができました。その結果、先生たちの雑談や授業改善について話し合う時間が生まれました。何より生徒に向き合う時間が増えたことが大きい。より創造的で前向きな時間を捻出できています。

生成AI や Teams の自発的な利活用をサポートし、「生徒同士で学びあう授業」を設計

――業務改善で特に効果が大きかったことは。

渋谷 申請関係はかなり大きかったですね。紙による各種申請を「Microsoft Power Apps」(以下、Power Apps)と「Microsoft Power Automate」を使って自分たちでアプリ化したことで、いつでもどこでも申請できるようになり、承認状況の見える化も可能にしました。

増田 保護者との連絡も本当に楽になりました。保護者も都合の良い時間に連絡でき、きちんとテキストで残りますから。発端は保護者からの「保護者もTeamsを使いたい」との要望でした。そこで保護者にゲスト登録してもらい、以降はTeamsをフル活用しています。

各種ツールを駆使して高度なセキュリティ対策を自動化

――校務用端末としてWindows OSを選定した理由について教えていただけますか。

渋谷 まず先生たちにWindowsユーザーが多いこと。そして定期的なアップデートにより、セキュリティ面でも安心して使えることを考慮しました。端末を紛失しても遠隔でデータを削除できる機能があることから、安心して利用できます。

増田 生徒にとってもWindows OSはメリットがあります。大学や社会に出てからもWindowsを触る機会が多いため、その準備も含めて選びました。Microsoft 365も同様で、社会に出てから使うツールとの理由で選んでいます。

――「Microsoft Entra ID」や「Microsoft Intune」、「Microsoft Purview Information Protection」などの各種ツールを用いたセキュリティ施策の効果をどのように実感されていますか。

渋谷 Microsoft Entra IDは保護者情報や生徒情報の一元管理、リモート端末管理機能のMicrosoft Intuneは校務用端末のセキュリティ、アプリやアップデートの一斉配布に活用。暗号化サービスの Microsoft Purview Information Protection 、機密情報の高度なステージ設定で利用しています。具体的には校内で使用するすべてのWordファイルにA、B、C、Dといった段階ごとのラベルをつけ、「Aは閲覧のみ可能で印刷はできない」といった形で運用しています。

標準搭載されているセキュリティソフト「Microsoft Defender」も活用

増田 そもそも本校のセキュリティは、「人間はミスするものだから、ミスしても大丈夫なようにしておく」という方針です。重要な文書を高いセキュリティレベルで設定しておけば、万が一情報が漏えいしたとしても強固なセキュリティを確保できます。

多要素認証も導入していますが、それに関しても現場での戸惑いやハードルはなかったと思います。しかもMicrosoft 365 A5はこうしたセキュリティ設定を自動で行なってくれるので、その点も魅力の1つです。私はセキュリティに精通しているわけではありませんが、管理者をしていて困ったことはないです。

渋谷 何か問題が発生した場合はTeamsの中に設けている「お困りチャンネル」でエラーの内容や解決方法を先生同士で共有しています。どうしてもわからないものは専門家に相談しますが、大体はそのチャンネルで解決できています。

先生たちも非常に前向き、アプリ開発などを通じて校務改善を続けていく

――教員のICT活用スキルを高めるために、どのような支援や研修を行なってきましたか?

渋谷 初期にはアクティブラーニング研修をじっくりと開催しましたが、以降は職員会議の合間などで少しずつ研修を重ねています。先生たちも非常に前向きで、研修が終わった後に職員室に戻ると、関連する会話が多く見られます。例えばCopilot研修のときも、「こんなことをCopilotに聞いてみた」といった事例を皆で自然に話し合っています。

増田 シンプルに「便利なものは使いたい」という姿勢があります。「そんなの無理」といった後ろ向きな反応はほとんどありません。

――教員や生徒への生成AIの活用はどのように進めていますか。

渋谷 本校ではあまり制限せずにどんどん使っていくスタンスで進めており、実際の授業で活用する先生が何名かいらっしゃいます。

増田 それこそCopilotの実践例をTeamsや職員会議で共有しています。私も授業の中で小論文の作成に活用しました。でも生徒たちには使い方そのものではなく、アイデアの壁打ちに使うことをアドバイスしました。

――校務改善に向けて、どのような取り組みを考えているかお聞かせください。

増田 職員室での先生たちの雑談から困りごとがたくさん出てくるので、そのつど解決策を探るようにしています。そこから生まれたのがPower Appsで独自開発した図書室貸し出しシステムのアプリです。今後は生徒用貸出端末の管理アプリも開発しようと考えています。校務改善で意識しているのは、管理者の私たちが大変にならないこと、なおかつ便利になることです。これからもできる範囲から少しずつ変えていきたいと思います。

聖徳大学附属取手聖徳女子高等学校 IT管理者 情報科 渋谷将晴 先生
理科 増田瑞綺 先生