子どもたちの「やりたい」に応える、STEAM教室「ii-Lab」

福岡県の中央部に位置し、福岡市と北九州市のベッドタウンでもある飯塚市。子育て支援の手厚さでも知られる同市で、実証研究に挑んできたのが飯塚市立飯塚鎮西小学校(小中一貫校飯塚鎮西校小学部)である。
同校は令和6年度から2年間、飯塚市STEAM教育実証研究校に指定され、飯塚市はじめ、Intel、ダイワボウ情報システム(以下「DIS」)、麻生情報システム、国立大学法人九州工業大学の産学官5者が連携し、STEAM教育を進めてきた。
実証研究の中核となったのは、旧パソコン室のリニューアルで新たに整備されたSTEAM教室「ii-Lab(いいラボ)」 だ。この教室に3Dプリンターやレーザー加工機、ハイスペックPC、壁面クロマキーなどが導入され、先進テクノロジーを活用して学べる空間ができた。

「ii-Lab(いいラボ)」を整備するにあたり、同校の合田賢治校長は「 子どもたちが扉を開けた瞬間に、新しいことが始まりそうだと感じてほしかった 」と語る。当初は木目調の教室で、色は小学生が好きなパステルカラーを使用する案もあったそうだが、合田校長はそれらを見送り、従来の延長線上ではない新しい空間にこだわった。子どもたちの集中力を高める深いブルーを基調とし、壁や床材、机の形状に至るまで、デザインや学びやすさを優先したという。
また、機材の選定も「何を置くか」ではなく、「 どんな学びを実現したいか 」から逆算した。動画制作に自分で作ったBGMを入れたい、イラストも既製の素材ではなく自分で描いたものを使いたいなど、子どもたちには「やりたい」ことがある。それらに応えられるよう、音楽制作のためのキーボードやペンタブレットを導入。創作活動を支える環境を整えた。









飯塚鎮西小学校は、このような環境で特にSTEAM教育の「A(Art/芸術)」の部分に着目し、図画工作科やデザイン思考に重点を置きながら、子どもたちが自ら課題を発見し、問題解決へと向かう学習スタイルに取り組んできた。その軸に据えたのが、「 創り、創りかえ、伝える 」という3ステップの学習段階を位置づけた探究・課題解決型学習である。
まず「創る」段階では教科で身に付けた資質・能力を活用して試行。次に「創りかえる」段階で失敗や改善を重ね、より良い形へと再構成する。そして「伝える」段階で成果や想いを発信し、フィードバックを通して学びを深める。この循環を通じて、個の学びと協働の学びを行き来しながら課題解決を行う学習を目指した。

「創りかえる」段階で見えた、協働と表現の深まり
公開授業が行われたのは、6年生の総合的な学習の時間。テーマは「飯塚鎮西小PR大作戦~ぼくらの学校すごかろう~」。新1年生に向けて学校の魅力を伝える動画作りで、全9時間で構成。同校が掲げる「創り、創りかえ、伝える」の流れに沿い、今回の授業は、動画を見直し改善・再編集を行う「創りかえる」の段階にあたる。

授業ではまず、教員が作った紹介動画を視聴。子どもたちは動画の良い点を挙げながら、自分たちの動画と比較し、改善点を探していく。各グループでホワイトボードやタブレット端末を活用しながら、「声を大きくハキハキと話す」「間をあけて話す」「ジェスチャーやテロップを入れる」など動画を見ながら改善点を書き出していった。


その後、動画の撮り直しに取り組むグループが出てきた。撮影係や案内役、カンペ係などを各自が役割を担い、グループで協力して作業を進める。子ども同士で「もっと手ぶりを入れた方がいい」「ここで場面が変わるから、少し余韻を残そう」など、表現の工夫も自然に意見が出ている。どのグループも生き生きと撮影しながら、試行錯誤していたのが印象的だ。

撮影後は「Adobe Premiere Pro」を用いて動画編集を行った。小学生がクロマキー合成などの編集作業をスムーズに行う姿に驚かされたが、このスキルは最初に教員が動画編集を学び、代表者の児童数名にレクチャー。使えるようになった児童がほかの児童にさらに教えるという方法を取っているという。高性能カメラで撮影した動画データも、ハイスペックPCなのでサクサク編集できる。子どもたちがストレスを感じることなく、試行錯誤できる環境も学びを後押ししている。

こうした環境のもとで動画制作に取り組む児童たちに、「ii-Lab」での学習でよかった点を尋ねると、「 ずっとグリーンバックを使って動画を作ってみたかった。この学校に作ってくれて本当にうれしい」と笑顔で話してくれた。YouTubeに親しんでいる子どもたちにとって、動画は身近な表現手段のひとつ。それを学校で、本格的な設備を使って学べることに価値を感じている様子だ。
また別の児童に「ii-Labでの学習でどんな力が伸びたと思うか」と聞くと、「交流する力 」と回答してくれた。「3Dプリンターや動画制作をしていると、友達と話しやすい 」という。ものづくりを介して子ども同士で対話が生まれ、協働が自然に促されていることが伝わってきた。

