2年間の成果と課題は?本当の課題解決力を養うために必要なこと

最終報告会では、飯塚鎮西小学校の取り組みに関する成果や課題が共有されたほか、実証研究を連携しながら進めてきた九州工業大学情報工学部の青木俊介教授による講演が行われた。

同校の研究副主任 有光賢太教諭は、1年から6年までの各学年で行ったSTEAM教育の授業について、動画を交えながら紹介した。

研究副主任の有光賢太教諭

たとえば1年生は、図画工作科で身近な材料を並べて作品を製作。さらに影絵に教員がレーザーカッターで作成した色板を組み合わせ、数や大きさに気付きながら作品を創りかえ、写真や動画で発表した。5年生は総合的な学習の時間で「学校に役立つもの」をテーマに製品を考案し、3Dプリンターで試作と改良を重ね、スライドで提案。6年生は校内遊具を企画し、3Dデータや動画を制作し、互いに改善し合いながら最終提案をまとめた。

有光教諭は学習の成果について、「創りかえる」の段階を設けたことで、 失敗を前向きに捉え、根拠をもとに改善を重ねる姿勢が見られたこと 、また、 アプリやツールを自分の表現や課題解決の「手段」として適切に選択・活用する力が身についたことを挙げた。

また課題については、高度な3Dモデリングや映像編集など、学年ごとのICTスキルの系統表の作成が必要であることや、教員が児童にヒントを与えすぎる傾向があったことを挙げた。あくまでも児童自身で課題や解決策を発見し、主体的に取り組めるよう手立てを講じる必要があると説明。さらに、STEAM教育のうち、今回十分関連させられなかったS(科学)とM(数学)をどう関連させるかも課題だと語った。

「創りかえる」段階を設定することで、失敗を前向きに捉えられるようになった

九州工業大学情報工学部の青木俊介教授は、STEAM教育がイノベーション創出にどう結び付くのかを、学問の階層構造と結び付けながら解説した。医学・生物学・化学・物理・数学と分断されがちな学問を統合し、社会課題の解決へとつなげる発想こそがSTEAMの本質であると説明。そのうえで、共感力の高い日本人の特性は、ユーザー理解から出発する「デザイン思考」と親和性が高いと述べた。

九州工業大学情報工学部の青木俊介教授

デザイン思考では、「観察・共感―課題定義―アイデア創出―プロトタイプ―検証」を反復することが重要であり、試作と改善を高速で繰り返す姿勢がイノベーションにつながる。同時に、その過程を支えるのが、 失敗を否定せず学びに変えるマインドセットと、困難から立ち直る力である「レジリエンス」であると語った。

また、青木教授がSTEAM教育のサイクルとして指導した「創り、創りかえ、伝える」の3つの学習段階のうち「創りかえる」プロセスが最も重要で、本当の課題解決能力を養うと指摘。今回の実証研究では、ツールを目的化せず課題解決の“手段”として活用し、協働の中でより良いものへと磨き上げるプロセスが機能していると評価した。

飯塚鎮西小学校で実践されたSTEAM教育の学習サイクル
デザイン思考のフレームワーク
飯塚市長 武井政一氏

また最終報告会には、飯塚市長の武井政一氏も登壇し、市長当選以来、教育改革を最優先課題の一つとして取り組んできたことを述べた。「これからの予測困難な社会に向けて持続的に発展していくためには、既存の枠組みにとらわれず、新たな価値を創造できる人材の育成が不可欠です。ここに整備されたii-Labを拠点として、STEAM 教育はまさに本市の次世代のまちづくりそのものであります」と語った。

講評に立った飯塚市教育委員会 学校教育課 主任指導主事 金城太郎氏は、「創りかえる」過程の質の高さと協働的な学びを高く評価。ii-Labの環境がその実現を支え、「失敗を恐れず作り変える文化は探究的な学びのモデルになる」とまとめた。続いて、飯塚市教育委員会教育長の桑原昭佳氏も、本実践が教科横断的な学びにつながっているとし、「本物志向、未来志向のひとづくり」の実現に向け、市全体の教育へ広げていきたいと語った。

飯塚市教育委員会 学校教育課 主任指導主事 金城太郎氏
飯塚市教育委員会 学校教育課 主任指導主事 金城太郎氏

ゼロからスタートしたSTEAM教育、身近な困りごとが出発点

飯塚鎮西小学校 合田賢治校長

最終報告会の最後に、飯塚鎮西小学校 合田賢治校長と、公開授業を担当した研究主任の平田長崇教諭に話を聞いた。

今回の実証研究を始めるにあたり、合田校長は「最初、校内でSTEAM教育といっても誰も知らなかった」と振り返る。そのうえで、「新しいことに挑戦するからこそ、先行している学校の事例をマネるのではなく、創意工夫をして新しいものを作っていこうと呼びかけました 」と語る。子どもに変化を促すだけでなく、教員自身も「こんなことをやってみたい」とイメージを膨らませながら取り組むよう後押ししたという。

平田教諭はSTEAM教育について、「モデル授業も一切見てはいけないと言われて、全部ゼロからスタートしました」と振り返る。そして、試行錯誤の末にたどり着いたのが、 子どもたちの身近な困りごとから出発する学びだった。

「子どもたちに学校で不便だと思っていることを聞いたところ、鉛筆がよく落ちて困るという意見が出て、その課題解決として3Dプリンターで鉛筆キャップを作るという活動につながりました。制作する過程で、適切なサイズに改善したり、転ばないようにデザインを変えたりと試行錯誤が生まれるのを見て、 教師が課題を与えるのではなく、児童が課題を持つことが大切だと考えています 」と語る。

こうした学びを通して、子どもたちは自分たちで課題を見つけるようになり、主体性を引き出すことにもつながっている。また平田教諭自身も、「答えを言わなくなりました。『自分で考えてみて』と返すようになったことで、子どもたちが自分で調べたり、友達に聞いたりする姿が増えました」と変化を語る。

合田校長も「子どもたちが対話をしながら、答えを見つけることが上手になっている」と語る。「コラボレーションやコミュニケーションの中からイノベーションが生まれる、その姿が以前より見えてきた」と話しており、確かな変化が芽生えつつある。一方で、「STEAM教育は大変だと思われてしまうことが課題だ」と合田校長。機材やソフトが継続的に使用できる環境維持も考慮しなければならず、こうした点は今後さらに議論や検討を重ねていく必要があるという。

本実証研究は、産学官が連携して学習環境を整備し、授業のあり方そのものを問い直した2年間であった。特別な環境だからこそ見えた可能性と、持続性という課題。浮かび上がったのは、設備の充実以上に、子どもが「課題を見つけ、対話し、創り、創りかえ、伝える」学びのプロセスをどう根付かせるかという本質的な問いだといえる。ii-Labの実践は、公立小学校におけるSTEAM教育のモデルと次の段階へ向けた示唆を教育現場に投げかけている。