GIGAスクール構想とは

GIGAスクール構想とは、全国の小学校や中学校の児童・生徒に1人1台のパソコンやタブレットなどの端末を用意し、端末をインターネットへ接続し快適な通信が行える校内LANや無線LANといったネットワーク環境を整備する計画を指します。このように、教育でパソコンやインターネットを活用する環境のことをICT(Information and Communication Technology)環境といいます。

GIGAスクール構想の「GIGA」は「Global and Innovation Gateway for All」の頭文字を取った言葉で、「すべての子どもたちのためのグローバルで革新的な教育の機会を与える」といったニュアンスを表します。

このように、児童や生徒それぞれにパソコンを与えることで、一人ひとりの個性に合った学習環境が実現し、苦手分野の克服や得意分野をさらに伸ばせるようになります。また、従来の教育では1人の教師が数十人の児童・生徒に対して一方的に授業を行う方法が一般的でしたが、パソコンやタブレットなどを活用することで、教師と児童・生徒の双方向のコミュニケーションも取りやすくなり、より子どもに寄り添った教育が可能となります。

なお、文部科学省では、GIGAスクール構想を以下のように定義しています。

・1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備することで、特別な支援を必要とする子供を含め、多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、公正に個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育ICT環境を実現する
・これまでの我が国の教育実践と最先端のICTのベストミックスを図ることにより、教師・児童生徒の力を最大限に引き出す
参照:GIGAスクール構想の実現へ(文部科学省)

GIGAスクール構想の目的

現在の日本社会は「Society5.0」と表されており、内閣府では「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」と定義しています。

Society5.0では、AIやビッグデータなどを活用しサイバー空間とフィジカル空間(現実)を融合した技術の開発やビジネスの推進が求められています。このような社会で子どもたちが生きていくうえで、将来的にさらに技術革新が進むことも考慮し、早い段階からデジタルツールなどの先端技術に触れる機会を設けることが重要視されています。

GIGAスクール構想が実施された経緯

OECD(経済協力開発機構)が、義務教育修了段階の15歳児を対象に、「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」の3分野の学力調査のために実施した「OECD 生徒の学力到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント」において、日本では読解力が課題となりました。

OECD加盟国におけるランキングでは、数学的リテラシーは1位、科学的リテラシーは2位と上位に入っていたものの、読解力では11位と大きく順位が下がっています。

順位が低い読解力の分野では、特に「必要な情報がどのWebサイトに記載されているか推測し探し出す」「情報の質と信ぴょう性を評価し自分ならどう対処するか、根拠を示して説明する」といった問題において正答率の低さが目立っていました。

このとき、同時に行われたICT活用調査では、日本の授業でのデジタル機器の利用時間がOECD加盟国の中で最下位という結果でした。この調査結果により、日本よりも読解力の分野で順位の高い国においては学校教育でICTを活用しており、上記の問題で問われるような情報処理能力を高めやすい環境が整っていることが推測できます。

特に順位が低い読解力においては、国語科の指導の充実を図り、「読むこと」の指導における「㋐文章の構成や論理の展開、表現の仕方を捉え内容を解釈すること」「㋑文章と図表の関係を踏まえて内容を理解すること」「㋒文章を読んで理解したことに基づいて自分の考えをもち表現すること」を強化する取り組みが挙げられました。

このような背景により、日本では全国の学校でのICT環境の整備の加速化を行い、子どもたちが先端技術に触れる機会を増やすためのGIGAスクール構想を計画しました。

GIGAスクール構想が前倒しで実施された理由

PISA2018の結果を踏まえて検討されたGIGAスクール構想は、当初は2020年から4年間かけて全国の小中学校のICT環境を整える計画で、小学校の学習指導要領の改定に合わせて行う予定でした。しかし、2020年より新型コロナウイルスの感染拡大を受け、全国の小中学校では休校措置を求められました。このように、児童・生徒が登校しての授業が不可能となった状況から、政府ではGIGAスクール構想の前倒しを発表しました。

前倒しによって、当初は4年かけて行われるはずだったICT環境の整備は、わずか1年ほどで98%の小中学校で実現できています。

GIGAスクール構想による学習の変化

ここでは、GIGAスクール構想によってパソコンやタブレット、デジタルツールなどの利用が促進することで、児童や生徒の個別学習や自主学習にどのような変化が起こったかをご紹介します。

個別学習

授業中に問題集やドリルを解かせるなどの個別学習の時間では、デジタル教材を用いることで、子どものレベルに合った問題を用意できるようになりました。

これまで紙の問題集やプリントなどを扱っている学校では、全員に同じ問題を解かせることが一般的だったため、子どもによって簡単すぎる・難しすぎるという差が生じてしまうケースがありました。

デジタル教材では、AIが子どもの理解度に合わせて適切な難易度の問題を選定し、どのような問題を解いたか、どれだけ進んだかなどの学習状況を記録できます。教員は学習状況の記録を見ながら、それぞれの子どもへの最適な教育方法などを検討しやすくなりました。

自主学習

作文やレポート、調べ学習などの自主学習においては、さまざまなデジタルツールが活用できます。

例えば、文書作成ソフトや校正・校閲ツールを利用することで文章の誤字脱字を防いだり、プレゼンテーションの作成ソフトを利用することで発表用資料のテンプレートに沿って効率よく資料作成を行ったりすることができるようになりました。また、録画・録音ソフトを利用すれば自身の発表内容を振り返り、次回の改善にも活用できます。

また、自主学習においてはインターネットを活用して調べものをする機会も多いです。子どもたちがパソコンやタブレットで調べたい内容を検索する習慣を身につけることで、求める情報に素早くたどり着ける力や、正しい情報を選択する力を得やすくなります。

一斉学習

教員が大勢の児童や生徒に対し授業を行う一斉学習では、クラスの情報を「Microsoft Teams for Education」のようなコミュニケーションツール上で管理することで、教員が一人ひとりの学習状況や進捗を把握しやすくなりました。

また、課題を配布する際も、紙のプリントを配るのではなく端末上で指定の課題を送信することで、配布漏れなどのリスクも防げます。

児童や生徒の学習状況をツール上で一元管理することで、子どもたちがつまずきやすいポイントや、重点的に教えたほうがいいポイントなども可視化しやすくなるため、教員の指導方針の検討にも役立っています。

グループワークなどの協働学習においても、デジタルツールは役立っています。学習用のツールによっては、生徒同士で画面を共有し、簡単に情報共有や意見交換が行えるものもあります。このようなツールは、人前での発言が苦手な生徒のサポートや、気軽な意見交換の促進につながります。

また、画面を共有しながら画面に意見やアイデアを書き込むことで、「発言者の声が聞き取りづらい」「言葉での説明では理解できない」など、発表における課題も解消できるようになりました。学習ツールによる画面共有機能をグループワークで活用することで、スムーズな議論やレポートの作成なども期待できるでしょう。

協働学習

グループワークなどの協働学習においても、デジタルツールは役立っています。学習用のツールによっては、生徒同士で画面を共有し、簡単に情報共有や意見交換が行えるものもあります。このようなツールは、人前での発言が苦手な生徒のサポートや、気軽な意見交換の促進につながります。

また、画面を共有しながら画面に意見やアイデアを書き込むことで、「発言者の声が聞き取りづらい」「言葉での説明では理解できない」など、発表における課題も解消できるようになりました。学習ツールによる画面共有機能をグループワークで活用することで、スムーズな議論やレポートの作成なども期待できるでしょう。

GIGAスクール構想に今後期待される効果

ここまで、GIGAスクール構想を推進したことで変化した学習環境についてご紹介しました。今後もGIGAスクール構想の環境を維持することで、さらに期待できる効果は、次のとおりです。

生成AIを活用した教育

AIの技術も日々進化を遂げており、画像や文章を瞬時に作成する生成AIの精度も高まっています。このような生成AIは、教育現場で適切に活用することで、児童や生徒の学習のサポートや、教員の業務効率化が期待できます。

2023年に文部科学省から発表された「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」では、生成AIを教育現場で扱う際のルールについて定めています。ガイドラインの中での活用例としては、以下のような使い方が挙げられています。

・グループの考えをまとめたり、グループ内での足りない視点を見つけ、議論を深めたりする
・教員が、⽣成AIが⽣成する誤りを含む回答を教材として使⽤する
・英会話の相手として活用する

児童・生徒の情報活用能力や日本語入力スキルの向上

2024年に文部科学省より発表された「公立学校情報機器整備事業に係る各種計画の策定要領」では、GIGAスクール構想による教育DXの目標として、「①個別最適・協働的な学びの充実」「②情報活用能力の向上」「③学びの保障」「④働き方改革への寄与」を掲げています。

目標の中では、学習用端末を活用する頻度の増加や、学びが困難な児童や生徒へのフォローなどを挙げており、学習面では、情報活用能力のレベル向上や、キーボード日本語入力スキルの向上を挙げています。情報化社会で適切な情報を見極めたり、大学や会社でパソコンを使用したりする際に必須となるスキルのため、これらのスキル強化に力を入れることで、さらにデジタル社会で活躍できる人材の育成に貢献できるでしょう。

GIGAスクール構想を進めるうえでの今後の課題

先述のとおり、GIGAスクール構想は2020年から徐々に全国の小学校・中学校に必要なICT環境を整備する方針でした。しかし、GIGAスクール構想は当初のスケジュールよりも前倒しで実施されたこともあり、現在もさまざまな課題が挙げられています。

校務や教材をシステムで管理する際の課題

GIGAスクール構想の実施において、授業で使用する教材や教員の校務をシステムで管理することに関する課題が挙げられます。

2022年に文部科学省で行われた「校務の情報化に関する調査結果」では、出欠や成績処理などをデジタルで管理できる「校務支援システム」を利用している割合が約80%と高い結果が出ていました。このようなシステムを利用することで、学校側は児童や生徒に関する情報の管理や健康診断表、指導要録などの作成を電子化できるため、管理業務にかかる負担の軽減や、業務効率化につながっています。

しかし、教員が「自宅から校務支援システムにアクセスできない」「自宅から校務支援システム以外の業務上必要なシステムにアクセスできない」などの課題もあり、場所を問わずにシステムへアクセスできる次世代の校務支援システムの稼働が急務となっています。

学校以外の場所で端末を利用する際の課題

2021年に文部科学省が発表した「GIGAスクール構想に関する各種調査の結果」内での「自治体におけるGIGAスクール構想に関連する課題アンケート概要」では、GIGAスクール構想実施時の課題として「持ち帰り関連」を1番目・2番目に挙げた自治体が32.3%いることから、多くの自治体で課題とされていることがわかります。

学校内でパソコンやタブレットを使用する環境が整っていたとしても、児童や生徒が持ち帰って自宅で学習する際のルールや環境が整っていないケースも見られます。

例えば、端末の学校外での利用時のルールとしては、学習目的以外のコンテンツの閲覧やアプリケーションのインストールに関する制限、端末が故障・紛失した際の対応、セキュリティ対策などが挙げられます。ほかにも、自宅でのネットワーク環境が整えられない家庭の児童・生徒に対する対応やサポートなども必要になります。

学校ネットワークの通信環境に関する課題

GIGAスクール構想でのネットワークを整備する際に、文部科学省では学校の規模ごとに1校当たりの帯域の目安(推奨帯域)を提示していました。

しかし、2024年に文部科学省より発表された「学校のネットワークの現状について」では、推奨帯域を満たしている学校はわずか2割ほどで、学校規模が大きくなるほど推奨帯域を満たせていないことが明らかになりました。

これにより、児童や生徒、教員が扱うデバイスを同時に使用することでネットワークを圧迫し、「インターネットにつながりにくい」「電子化された課題の配布や提出に時間がかかる」などのトラブルが発生します。通信トラブルによる学習の遅れを防ぐために、定期的にネットワークアセスメント(評価)や、使用中のネットワーク機器の見直しなどを行いましょう。

GIGAスクール構想を推進するメリット

GIGAスクール構想を推進することで、児童や生徒だけでなく、教員にもメリットがあります。ここからは、まだGIGAスクール構想へ取り組んでいない方へ向けて、メリットをご紹介します。

プログラミング教育に貢献する

小学校では2020年度、中学校では2021年度よりプログラミング教育が必修化されています。プログラミングを行うにあたっては、パソコンやネットワーク環境が必須であり、ICT環境が整備されることで児童や生徒がパソコンに触れる機会が増えるため、プログラミング教育をより充実させられ、子どもたちがプログラミングなどのIT分野に興味を持つきっかけを作りやすくなります。

アクティブラーニングに取り組める

アクティブラーニングとは、児童や生徒が能動的に考え、学習する教育方法を指します。これまでの教育方法では、教員が子どもたちに対し一方的に講義する授業の形式が一般的でした。

また、これまでの教育方法では挙手制で子どもたちからの意見を得ることから、人前で話すことが苦手な子どもが発言できず、発言者が偏ってしまうケースや、教員に指名されることで萎縮してしまうケースも多く見られました。

しかし、アクティブラーニングではグループディスカッションやグループワーク、ディベートなど子どもたちが自主的に学んだり、意見を出し合ったりする学習方法を取り入れることで子どもの学力の向上や、人前で話すことが苦手な子どもが発言しやすい環境の実現を図ります。

パソコンやタブレットでの画面共有機能やプレゼンテーションソフトなどを活用することで、子どもたちが意見交換や発表をしやすい環境を整えられるため、学校でのアクティブラーニングをより促進できるでしょう。

児童や生徒の個性に合わせた学習環境を実現できる

これまでの教育方法では、教員が児童や生徒へ一斉に授業を行い、子どもそれぞれの理解度は関係なく、同一の難易度の問題を解かせながら授業を進めるといった方法が一般的でした。そのため、理解が追いつかず後れを取ってしまう子どもや、学校の授業内容では物足りなさを感じてしまう子どもなど、子どもごとの学習状況や理解度の差が目立っていました。

GIGAスクール構想を推進し、デジタルツールを活用することで、教員は児童や生徒それぞれの学習状況や理解度を確認しやすくなります。そのため、それぞれの子どもに合った学習環境の提供や、一人ひとりの理解度に合わせた学習サポートが行えます。

リモート環境での学習が可能になる

パソコンやタブレット、ネットワーク環境が整備されることで、これまで学校へ登校しなければ受けられなかった授業が、自宅など学校外でも受けられるようになります。

例えば、登校が難しい子どもや入院中の子どもなど、教室で授業を受けられない子どもたちへの遠隔授業や、授業の様子の録画配信などを行うことで、学習の遅れを取り戻しやすくなります。

ほかにも、直接教室へ呼ぶことが難しい専門家の講義や、海外の授業などをリモート環境で受けられるようになることで、子どもたちの学習の幅を広げられるでしょう。

教員のITリテラシーを高められる

教員のITリテラシーを高められることも、GIGAスクール構想の推進によるメリットとして挙げられます。

文部科学省より「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」などのガイドラインが発表されているように、GIGAスクール構想に関係なく、AIなどの先端技術がさまざまな場面で活用されつつある現代社会においては、将来的に教育現場でも先端技術を積極的に取り入れていくことが予想されます。

しかし、紙の教材や黒板をメインで用いたアナログ方式の教育方法を長年行っていたベテランの教員にとっては、プライベートも含めてデジタルツールの扱いに不慣れなケースも多いです。

GIGAスクール構想を促進させつつ、先述したGIGAスクールアドバイザーやICT支援員などのサポートによってデジタル環境へ慣れることができるため、パソコンやデジタルツールを活用したより効果的な教育を実施できるようになります。

教員の業務効率化が期待できる

JTU 日本教職員組合が発表した「2023年 学校現場の働き方改革に関する意識調査」によると、勤務日において4時間以上にわたる時間外労働に従事する教員が3割強、休日に自宅で仕事をしている教員が6割強いることが示されており、教員の長時間労働が課題視されています。

長時間労働の原因はさまざまな要素が考えられるものの、テストの採点をはじめとした校務などの多岐にわたる事務作業が主に挙げられます。

このような事務作業をデジタルツールを活用し自動化させることで、教員の業務効率化につながり、労働時間の軽減に寄与します。また、業務負担が減ることで児童や生徒に向き合う時間が増えたり、授業の準備に多くの時間を割けたりするため、授業の質を高められるでしょう。

GIGAスクール構想を推進する上での課題

先述のとおり、GIGAスクール構想を推進することでさまざまなメリットが得られる一方で、推進する段階で課題も生じるため、業務の遂行に支障をきたすことがあります。GIGAスクールを推進する際に生じる課題は、次のとおりです。

教員の理解や協力を得るのに時間がかかることがある

先述のとおり、GIGAスクール構想を推進するうえで、教員にパソコンやタブレットの操作、デジタルツールの扱い方などに慣れてもらう必要があります。ただし、学校によってはこのようなデジタル機器やツールの扱いに慣れていない教員も少なくないため、GIGAスクール構想になぜ取り組む必要があるのか、実施するにあたって必要なことは何かなどを丁寧に説明し、理解や協力を得ることが必要です。

このとき、教員が難色を示したり、説得が必要になったりするケースもあるため、GIGAスクール構想の推進に時間がかかる場合があります。

児童や生徒の保護者への説明や協力を得る必要がある

授業でパソコンやタブレット、デジタルツールを活用することなどは、多くの保護者が経験していない取り組みです。そのため、「子どもが不審なWebサイトにアクセスしてしまうのではないか」「パソコンやタブレットを用いた勉強について、自宅で詳しく教えられる自信がない」などさまざまな不安を抱く場合があります。

そのため、GIGAスクール構想はどのような取り組みなのか、学校では児童や生徒に対してどのようなフォローをするか、各家庭で必要なものなどを詳しく説明し、理解や協力を得る必要があります。

教員のITリテラシーを高めるのに時間がかかる場合がある

GIGAスクール構想を推進するためには、子どもたちを指導する教員がICT環境に慣れ、さまざまなデジタル機器やシステムを使いこなせることが必須です。

しかし、2021年に文部科学省が発表した「GIGAスクール構想に関する各種調査の結果」内での「自治体におけるGIGAスクール構想に関連する課題アンケート概要」では、GIGAスクール構想実施時の課題として「教員のICT活用指導力」を1番目・2番目に挙げた自治体が35.8%おり、課題の中でも上位に入っています。

これまでデジタル機器やシステムに触れる機会が少なかった教員も少なくなく、教員によってITリテラシーは異なります。授業や校務を行ううえでICT環境が整備された場合、業務を滞りなく進めるために教員はあらかじめ機器やシステムに関する知識を得る必要があります。

このように教員のITリテラシーを高めるためには、学校や自治体での研修の実施やICT支援員、ICT活用教育アドバイザーといった団体などによるサポートが必要となります。

特に、教員は普段の業務を行いながらデジタル機器の扱い方などを学ぶ必要があり、児童や生徒に比べて知識やスキルの習得に時間がかかることも考えられるため、早急の実施やサポート体制の整備などが不可欠です。

GIGAスクール構想の推進に必要なこと

GIGAスクール構想に取り組むにあたっては、教員がスムーズに機器やシステムを扱いながら授業や校務が行える指導体制の整備や、端末などの整備、端末にインストールするアプリケーションやデジタルコンテンツの整備などが必要になります。

教員が授業や校務を行える体制の整備

ICT環境を整備し、児童・生徒へのデジタル機器を用いた指導や、システムを活用した校務の効率化などが必要です。このように教員がICTを活用できる体制を整えるためには、学校や自治体が行う研修や勉強会以外にも、以下のような団体などからのサポートを受けることもおすすめです。


団体・職業名

役割

 独立行政法人教職員支援機構 

 学校教育関係職員に対する研修の実施、学校教育関係職員に対する研修に関する指導、
 助言およびサポートなど

 GIGAスクールサポーター

 学校におけるICT環境整備の設計や、使用マニュアル(ルール)の作成

 ICT活用教育アドバイザー

 ICT環境における指導方法、方針の策定など、専門的な助言や研修支援

 ICT支援員

 学校における教員のICT活用(授業、校務、教員研修など)のサポート


児童・生徒に与える端末やネットワーク環境の整備

児童・生徒が1人1台パソコンやタブレットなどの端末を利用し、かつ快適に利用できるネットワーク環境を整えるために、端末の調達やセットアップ、アカウント作成、通信環境の整備、通信費の確保などが必要となります。

なお、端末には「Microsoft Windows」「Google Chromebook」「iPad」などさまざまな種類があり、指導内容や方針によっても適する端末は異なります。あらかじめ端末ごとの特長やスペックを確認したうえで、指導上過不足のない端末を選択することが大切です。

文部科学省では「公立学校情報機器整備事業費補助金交付要綱等の制定について(通知)」内で、「学習者用コンピュータ最低スペック基準」として端末に必要な最低スペックを提示しているため、あわせてご確認ください。

端末にインストールするアプリケーションの整備

端末を用意するだけではなく、デジタル教科書などの教材や、学習に必要なアプリケーションなど、デジタルコンテンツの導入も必要です。例えば、端末上でテストが行えるCBT(Computer Based Testing)ツールやデジタルノート、オンライン辞書などのコンテンツが挙げられます。

なお、文部科学省では、国や地方自治体など公的機関が作成した問題を活用し、オンライン上での学習やテスト、評価などができるCBTプラットフォーム「文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)」を開発・展開しています。

メクビットは2021年12月より全国の小中高等学校に展開され、2024年2月時点では公立小学校の80%以上、ほぼすべての公立中学校で登録されています。

デジタルツールの教科別の活用例

パソコンやタブレット、デジタルツールなどを各教科でどのように活用できるのか、教科別の活用例をご紹介します。

国語

国語では、文書作成ソフトや校正・校閲ツールを活用することで、作文やレポートの推敲がしやすくなります。

また、ファイルを生徒同士で共有することで、作成した文章を手軽に生徒が読めるようになるため、文章を読んでの感想やアドバイスを言い合える機会も増えるでしょう。このような推敲や第三者からの助言を踏まえて、児童や生徒の文章力・読解力の向上を図れます。

外国語

ビデオ通話ソフトを活用することで、海外の学校の生徒とのコミュニケーションや、海外の授業を受けることができるようになり、教科書のみでの学習よりも本格的な語学力を身につけられます。

また、AIを活用した英会話や英作文の添削機能なども合わせて使用することで、自主学習や個別学習でも十分にスキルを伸ばすことができます。

算数・数学

算数・数学では、表計算ソフトを活用することで簡単にグラフや表を作成できます。

グラフに組み込まれた数字を変更するだけでグラフの形状を自動で変更できるため、書き直しの手間が省けます。また、手書きのグラフよりも正確な図を描けるため、数値の違いによるグラフの傾きなどを視覚的に理解しやすくなるでしょう。

理科

理科では、タブレットのカメラ機能や、画像・動画編集ソフトを活用することで、正確な観察データや実験データを記録できます。撮影した写真や動画は後から見直せるため、正確な記録や分析ができるでしょう。

また、文書作成ソフトや表計算ソフトを活用することで、実験記録をまとめたレポートの作成や、レポートに使用する表やグラフを作成できます。

社会

社会では、表計算ソフトを活用することで人口の推移や都道府県別の統計データなどのさまざまなデータをグラフや表にまとめやすくなります。ほかにも、地図作成ソフトを活用することで、地図を利用した地域の特徴などを示しやすくなり、手書きで作成する手間を省けます。

作成したグラフや地図などのデータは、プレゼンテーションソフトを活用して資料にまとめることで、発表の準備も効率よく進められるでしょう。

まとめ

この記事では、GIGAスクール構想とは何かを、目的や実施された経緯、メリットやデメリット、各教科での活用例などとあわせてご紹介しました。GIGAスクール構想は、児童や生徒の能動的な学習環境の実現や、一人ひとりの個性に合わせた指導内容の提供が可能になり、今後も生成AIの活用などさらなる教育内容の発展が期待されます。

GIGAスクール構想に初めて取り組む学校では、あらかじめ教員がICT環境に慣れておく必要があります。これまでデジタル機器やツールに触れる機会が少なかった教員もスムーズに取り組めるよう、学校だけでなく、自治体も含めて各学校および教員へのサポートが不可欠です。記事内でご紹介した独立行政法人教職員支援機構の研修や、ICT活用教育アドバイザーのサポートなども活用しながら、ICT環境の整備を行いましょう。