提出から評価、そしてフィードバックも視野に入れた学びを目指す

2020 年の全国一斉休校によってオンライン授業に対する関心度は高くなる一方で、GIGA スクール構想によって 1 人 1 台の PC 環境整備が整っていても、実際に教育現場で ”どう活用すればいいのか” 戸惑う声も少なくないのが現状だ。

2021 年 11 月 22 ~ 26 日に開催された「DIS WORLD Digital Days 2021」のブレークアウトセッション「学びを止めない、教育現場でのオンライン活用と環境整備のポイント」では、実際に「おてがる遠隔授業パック」を活用している教育現場、そして教育委員会の二方を招き、その活用実績の報告と ICT 教育整備のポイントについてトークが繰り広げられた。

まず、最初に活用実績を報告したのは、広島県に位置する修道中学校・修道高等学校の中学校教頭、藏下一成氏。同校は、浅野藩の藩校をルーツとし、創立 295 年と深い歴史を持つ県内屈指の進学校。中高で約 1800 名が在籍し、教職員の数は約 120 名。ICT 担当事務職は 1 名だという。

修道中学校・修道高等学校では、GIGA スクール構想が持ち上がった当初から “学びを進化させるために必要な道具である” という信念のもと学内の Wi-Fi など通信環境をはじめとした積極的なインフラ整備を実施。学びのツールとなる PC は、生徒が準備すべき “文房具” のひとつとして BYOD を取り入れ、2020 年度までに 1 人 1 台環境を確立している。遠隔授業はもちろん、通常授業でも動画配信を活用するブレンデッドラーニングなど、先進的な取り組みも実施されてきた過去がある。

このように先進的な取り組みを行ってきた同校は、2020 年の全国一斉休校に見舞われた際、特別な時間割を振り、オンライン授業を実施。一斉休校が明けた後も 3 日に 1 日程度の分散登校スタイルを取りつつ、オンライン授業も並行して行われたという。さらに 2021 年 5 月からは、広島県知事からの要請によって、より本格的なオンライン授業を展開。生徒からの課題提出や成果物の提出、授業担当者による評価、そしてフィードバックも視野に入れた学びを目指している。

こういった取り組みが、地元紙からも注目を集め、授業の様子が誌面に取り上げられたこともセッションで報告。おてがる遠隔授業パックに加え、5 枚ものモニタを駆使することで多面的な配信が行えている実例を紹介。さらに、教職員だけでなく生徒会の公式 SNS におけるクラブ紹介動画などの編集にも活用されているという。

5 枚のモニタを活用した授業の様子。生徒が自宅にいることを生かし、家にある洗剤などを持って来させ、それぞれの用途や機能の説明をした。
オープンスクールを現地と配信のハイブリッドで開催するために、おてがる遠隔授業 パックの機材を設置する様子。

藏下氏は、おてがる遠隔授業パックについて、それまで使用していた機器だとスペック面において動画配信はキツいと思っていたこともあり導入を決めたと語る。パックに含まれるインテル® vPro® プラットフォーム搭載 PC は動作が軽くストレスなく使えること。そしてモバイルルーターやビデオカメラ、マイク、三脚など、場所を選ばずどこにでもすぐ設置して使えるようパッケージ化されていることの利便性についても言及。「このパックを使ってどういった授業を展開するか。そんな夢が膨らむというか、教員の中でやってみたいという気持ちが芽生えやすくなりました」。と同パックを評価している。

また、同校では新型コロナウイルスの影響を受け、オープンスクールを現地での講演と動画配信によるハイブリット方式で開催したこと。そして、日常的に行われている職員会議に参加できない教職員に向けた同時配信を行うといった取り組みについても報告。設置のしやすさ、ストレスなく配信できる環境作りに「おてがる遠隔授業パック」が非常に役立ったと活用実績の報告を終えた。

教育現場においても DX(デジタルトランスフォーメーション)が重要

続いて活用実績を報告したのは、鳥取県教育センターの GIGA スクール推進課で係長を務める岩崎有朋氏。同氏は、2020 年の全国一斉休校時、県内の中学校に勤務しており “生徒が学校に来なくなる” といった環境の中でどう学びを進めていけばいいのだろうという感覚に襲われた経験を持つ。その後、2020 年 4 月の異動で鳥取県の県教育センターへ赴任。主に教職員の研修を司る要職を務めている。

中学校勤務時からオンライン研修の経験があった同氏。県教育センターに赴任して以降、オンライン研修に関する提案を行ってきたものの、現場には “そもそも機材が無い” もしくは “通信速度が遅い” といった課題を抱える中で途方に暮れる日々が続いたと振り返る。

そんな折、「おてがる遠隔授業パック」と、そのモニターの募集を知ることになり、教育委員会として応募。その後、モニター自治体としての歩みを進めることになる。

おてがる遠隔授業パックを導入する以前、県教育センターが置かれる県庁には、そもそもオンライン会議を行うといった習慣はなかった。しかし新型コロナウイルスの影響によって状況は一変。一斉にオンライン会議が開始されたものの、PC 端末や通信機器、カメラなどの設備が整った部屋がフル稼働し、パンクするといった事態に陥ったという。しかし、モバイルルーターが含まれる本パックを利用することで、空いている部屋を使ってすぐにオンライン会議を開始することができるようになったという。「パッケージされたツールというものが、どれだけ便利なものかを実感。そして、業務を滞らせることなく進めることができて本当に助かりました」。と語る。

鳥取県では、県内の東部・中部・西部といった県内各域の指導主事を集めた一斉研修をしている。岩崎氏が赴任した直後のタイミングでは、県内にコロナウイルス感染者がいなかったため、指導主事が集合すること自体は可能だったとのこと。さらに、当時は県内の指導主事の間でもオンライン経験を持つ人がほとんどいなかったという。しかし、上席のスケジュール調整が困難で限られた時間だけなら出席することが可能といった状況もあり、オンライン会議を導入。オンラインで出席している上席の講話や指示を出席者全員が共有しながら研修を実施することができたという。各域の指導主事は、移動時間の縛りからの解放、そして双方ともにスケジュール的にも無理なく実施できるといった利便性を体感できたと振り返った。

また、鳥取県では、先進的な ICT 推進モデル校として中学校区の 4 地域を指定。そして、インテルの PBL(プロジェクト学習) を導入し、高校でも進めている。これらのモデル校で行われる授業や行事の様子を配信するといった取り組みも行われている。例えば、これまでは他校で行われる授業や行事の様子を見る場合、その学校に赴く必要があったが、おてがる遠隔授業パックを導入したことで簡単に各校へ配信することが可能。県内でも遠いところだと片道 1 時間半も掛かるといった時間的な負担が軽減できるだけでなく、より多くの授業が共有できたとのことだ。

さらに動画配信の場合、モバイル性が高いため、児童生徒のそばまでカメラを持って移動することが可能。児童生徒たちがどのような操作を行っているか、そしてグループ内の会話やつぶやきなどが収録できるため、児童生徒の学び方や考え方をより多くの教職員と共有するための環境が整ったと振り返る。また、それまでは主に指導主事などの研修をはじめとして使ってきた機器が授業や行事など学校での配信に繋がり、教職員がいかに機器を使っていくべきかのアイディアに繋がる。それをもとに自校で整備をしつつ、文化祭や運動会などの学校行事の配信。または、学校間における学習の交流といった具合に活用の幅が広がるなど、さらなる教職員のイメージ作りにも大いに役立っているという。

PC を活用した授業中の様子。教室全体ではなく、児童生徒一人一人の姿を詳 しく見られるのも便利なツールがあってこそ。
教職員や保護者の研修や会議だけではなく、児童生徒との交流も可能に。

鳥取県では、インテル株式会社と連携協定を結び、県内のモデル校と教育委員会、教育センターの 3 者を結ぶ会議システムを構築。大型のレンズを搭載したカメラとスピーカー、そして PC を設置しているが、このシステムは持ち運びもセッティングも簡単に行える “可動性の高さ” に優れているという。特に教育現場となる学校の場合、空き教室などでオンライン研修会が行われているため、この可動性の高さが大きな武器となっている。さらに、学校によっては、教育委員会や教育センターとの会議だけでなく、保護者オンライン研修会を開いているというケースもあるという。開かれた教育課程の実現に向け、特に高校ではより深い探究的な学習が拡大することが予想される。そういった時に、外部人材との交流は欠かせないが、オンライン会議向けのパックがあれば、外部との繫がりも持ちやすいのではないかと語った。

何の機材で学ぶのかだけではなく、ソフトを使って何を学ぶのか。学びのスタイルの変容も大事。

2021 年 11 月 22 ~ 26 日開催の「DIS WORLD Digital Days 2021」では、全体のテーマとして DX(デジタルトランスフォーメーション)、端的に言えば、IT による業務を前提として、より活用するために業務自体を再構築・改革することが挙げられている。教育においても、同様に ICT をベースとして、より利活用するための学び、そして学びをもっと進めるための教務、公務の再構築や改革が重要だ。学校教育の場で必要とされる今後の学びのスタイル、そして環境整備のポイントについても現場で働く教職員から言及された。

修道中学校・修道高等学校、中学教頭の藏下氏は「何の機材で学ぶのか︖というハード面だけでなくソフトウェアを使って何を学ぶのか︖という学びのスタイル変容も今後は大切になっていくと思います」。と語る。同校では、中学 3 年生と高校 1 年生の美術選択者、全教職員を対象に「Adobe Creative Cloud」 アカウントを取得した。「おてがる遠隔授業パック」に含まれる動画編集ソフトの「Adobe Premiere Elements」の活用を経験したことで、これからの時代は、画像や動画に関するリテラシーも重要、そしてインハウス制作などが必要になると実感したのが理由だ。そして、新型コロナウイルスによって遠隔授業を経験したことで、普段の授業でも自作の動画を活用する教職員は増えてきたという。生徒は、授業の最初に教職員が製作した動画を視聴して基礎を習得させることで演習に力点を置くことが可能となる。いわゆるブレンデッド・ラーニングが加速したことで「教職員にも変容が起こった」。と実感していると付け加えた。

また、学校教育に必要な機器類の環境整備については、「1 人 1 台があればいいじゃないか」。というご意見もあるのは事実。しかし、教職員と生徒の PC を一斉に接続して授業を始めると、オーバースペックに陥ることも少なくないという。高性能な PC と接続環境が得られる、おてがる遠隔授業パックのような機材は、各教室に 1 つ欲しいとのことだ。

さらに、オンライン授業はもちろん、学内外の研修等を行う際、もっとも気になるのは音声だという。オンライン接続ができたからといって、音声がよく聞こえないと、途端にガッカリする。同校では、多くの教職員がヘッドセットを活用して遠隔授業を行っているが、そういった音に関する環境整備も重要ではないかと藏下氏は語った。

動画編集の活用や遠隔授業の経験により、教職員が対面授業で動画を活用するなど、生徒以外にも変容が起こった。

「大事な授業を止めない」ためにも、高スペックな PC が必須

教職員への研修を行う立場である県教育センターの岩崎氏は、「大事な授業を止めないためには、高スペックな PC を整備していくことが重要」であると強く感じているという。

学習を行う児童生徒の学習用端末は、1 人 1 台が整っているが、教職員の 1 人 1 台環境は、まだ揃っていないのが現状だ。各教室に指導者用の端末が設置されている学校もあるというが、あくまでも教室に 1 台なので、複数の先生が関わると足りないというケースもある。

また、古い PC を使ってオンライン授業や会議を行うと、動作が固まってしまうという声も少なくない。操作に不慣れな教職員の場合、PC が少しでも重くなるだけで焦りを生むことにもつながりかねない。さらに、せっかく授業や会議が順調に進んでいても PC が止まってしまえば、授業や会議の進みは自然と滞る。学びを止めないためには、高スペックな PC が必須だと繰り返し訴える。

また、各教育機関の情報担当者が必ずしも PC のスペックやネットワークに詳しいとは限らない。若い教職員が担当になる学校もあるが、担当教職員が 1 人で困っているケースもあるという。そういった情報担当の教職員には、最低限の稼働スペックなどを案内するのではなく、“最低限、これだけあれば止まることなく安心して使える”、“モニター校でどう使われているか” といった具合に、具体的な機器や事例を示していくことが大切だとのことだ。

そういった意味で、校内の担当者が個々に機器を選んで組み合わせるのではなく、オンライン授業や会議に必要な機器類がパッケージ化された「おてがる遠隔授業パック」は、学校としても選びやすい。そして、モバイルルーターなどは、学校が 1 つ 1 つ契約手続きを行う必要があるものだが、パックに含まれていることで業務の負担軽減にもつながるので重宝されるのではないかと付け加える。

児童生徒たちは学校で実際に動いている機材を見ながら学びを進めることになる。より快適な学びの環境を提供することで、10 年後、20 年後の購買層となる児童生徒たちにも “便利” で “快適” だと印象付けられるのではないかと語り、セッションを締めくくった。

快適な環境を提供することは、学びを止めないだけではなく児童生徒たちの 10 年後、20 年後にも繋がっていく。