課題解決型学習のアウトプットをiPadで多様に

横浜市立川和東小学校(横浜市都筑区)

横浜市立川和東小学校(横浜市都筑区)は、『創造する子「Create~自分・仲間・学校・まち・夢を創る」』を学校教育目標に掲げ、プログラミング教育やオンライン学習などのICT教育にチャレンジしている学校だ。5年3組を受け持つ中島鑑教諭のクラスは、実証実験として2020年12月~2021年1月の2ヵ月間、1人1台環境のiPadが整備され、ICT活用に取り組んできた。

同校を訪れた日は、総合的な学習の時間で、環境問題の課題解決型学習に取り組んでいた。テーマは、「学校・家庭・地域の人々に3R(Reduce/リデュース、Reuse/リユーズ、Recycle/リサイクル)の大切さを伝えよう」。このプロジェクトは、横浜市資源循環公社の職員による環境問題の出前授業をきっかけに、児童たちが3Rの大切さを伝えたいという想いからスタートしたという。3Rをより身近に感じるために、学校で回収したペットボトルを布にリサイクルしてランチョンマットを作るなど実体験も盛り込まれ、最終的に動画やポスター、アニメーションなどで3Rの大切さを表現した作品を制作する。

児童たちが作った作品は、iPadの文書アプリ「Pages」を用いたポスターや、動画編集アプリ「Clips」を用いた動画、プログラミングツール「プログラミングゼミ」を使ったアニメーションなどさまざまだ。一方で、iPadに要点をまとめ、それを見ながら紙に手書きでポスターを仕上げる児童もいる。

Pagesを用いたポスター
プログラミングゼミを用いたアニメーション
Clipsを用いた動画
紙でポスターを仕上げる児童も

児童に話を聞くと、「低学年の子が3Rを理解するならアニメーションがわかりやすいと思ってプログラミングゼミを選んだ」という意見や、「Clipsは編集がしやすく、言葉(テキスト)も使えるので伝わりやすいと思った」など、選んだツールに違いはあれど、意図をもって選択しているのがわかる。

各グループでは、プロジェクトに協力している企業担当者から受けたアドバイスをもとに、どの部分をどんな風に修正するのがよいか、活発に意見交換をしていた。たとえば、「動画の説明が長いので短くしよう」というアドバイスには、言葉で説明していた部分を絵に変えて一目で分かるようにしたり、「目立たせたい部分の色を濃くしてみよう」というアドバイスなら、どんな色がいいかグループで話し合っている。

アドバイスを受けて、どのように修正するのがいいか試行錯誤する

ほかにも、「音声に雑音が入っているので撮り直そう」や「細かい情報は見ている人が覚えられないので簡単にしよう」といったアドバイスも。児童からは「いろいろなアドバイスをもらえたことが嬉しかった」という感想も聞かれ、刺激になったのも伺えた。どのグループも、どうすればもっと伝わる作品になるか、熱心に話し合い、修正作業に夢中。授業はあっという間に終わった。

“もっと良いものを作りたい”、子どもたちを主体的にする学習サイクル

中島教諭はiPadを活用した学習について、「子どもたちがクリエイティブになれることが一番のメリットです」と述べた。今まではポスター制作にしても、調べたことを手書きし、必要な資料や写真を印刷して切り貼りし、文章の訂正が入れば、消してやり直すという具合に、作業に費やす時間が多かった。しかしiPadになると、こうした作業はデジタルで簡単にできる。しかも、写真や動画、イラストも簡単に扱えるようになるので、児童たちの表現も多様になるのが特徴だ。

横浜市立川和東小学校、5年3組を受け持つ中島鑑教諭。横浜市小学校情報教育研究会 STEAM教育部会 部長

「iPadの魅力は今までの学習にもうひとつ、新しいアイデアが出てくることですね。それが簡単に扱えて、しかも楽しい。今回の活動もiPadがある前提だったから、動画やアニメーションを作るという発想が子どもたちから出てきました」と中島教諭は語る。紙と鉛筆だけの学習とは異なり、表現できるツールが増えると子どもたちは解決手段や表現を広げていけるようだ。

実際、児童たちの作った作品を見ると、さまざまな工夫が見られて面白い。Pagesで作られたポスターには、低学年でも読めるようにふりがなが付いていたり、ある児童は水の入ったペットボトルのイラストを作りたくて「Memo」アプリで手描きしたり。さらには、アニメーションのBGMを音楽制作アプリ「GarageBand」で自作する児童もいる。そして、分からないことをネットで情報収集している姿も見られ、子どもたちが主体的に取り組んでいるのがよく分かった。このような学習は、先生が“正解”を持っていないから、自分たちが考えた“答え”を作ろうという雰囲気も伝わってきた。

分からないことはネットで情報収集

「iPadで表現できる手段が増えたことで、子どもたちは“こういうのを作りたい”、“こうすればもっと良くなる”と思えるようになり、さらに周りに見てもらうことで、“もっといいものを作りたい”、“もっと上手くできるようになりたい”という意欲を持つようになります。この活動サイクルが子どもたちを主体的にし、結果として学習に対して前向きになれると思います」と中島教諭は語る。

1人1台iPad環境は、「思考」と「交流」の時間を生み出す

このような課題解決型学習に取り組む中島教諭であるが、2020年12月から2021年1月の2ヵ月間は、GIGAスクール構想の本格実施に向けて、先行的に1人1台iPad環境にもチャレンジした。1人1台環境になると学びはどのように変わるのだろうか。

2ヵ月間、1人1台環境を実証実験したときは、GIGAスクール構想で整備されるiPadを使用

中島教諭は「子どもたちの思考する時間が増えると実感しました」と1人1台のiPad環境に手ごたえを感じていた。「たとえば算数の場合、ノートに書いたり、図形を切り貼りしたり、ワークシートを配ったりといった作業が、iPadで簡単にできるようになりました。1人1台あるので、配布した問題をiPad上で考えることができ、以前に比べて思考の時間が増えています。教員が教材の準備にかかる時間も減って、ノートや教材の概念も変わっていくと感じましたね」(中島教諭)。

ロイロノート・スクールで教材を配布し、iPad上で問題を考える。思考する時間も増加

また文章を書く活動でも変化が。中島教諭は、紙とiPadのどちらでも文章作成に選べるようにしたところ、数人が紙を選択。しかし最終的には、全員がPagesで文章を書くようになったという。子どもたちはiPadを使っていくうちに、原稿の書き直しや文章の推敲にはデジタルの方がやりやすい、と気づいたようだ。一方で、物語の魅力を伝える読書カードは、温かみが伝わるようにとイラストを交えて手書きを選ぶ児童が多いという。

「デジタルとアナログ、目的に合わせて選べることが大切だと思います。ただ、個人的な手応えとして、デジタルで文章を書くようになってから、推敲する機会が増えたせいか、児童の文章構成がしっかりしてきたように思います。手書きの場合、ダラダラと長く書いてしまいがちですよね」と中島教諭は語る。

子どもにとって、書いたものを全部消して、一からまた書き直す、という作業がなくなるのは、大きな変化であり、それだけで学びに主体的になれる子もいる。実際、取材当日も子どもたちにiPadを学習に活用するメリットを聞いたところ、「ノートに書かなくていいので楽になった」「絵や写真が使いやすくなった」という意見が聞かれた。子どもたちの実感としても、学習の効率化にメリットを感じていることがわかる。

消す作業が減ることで学習効率があがることを、子どもたちも実感している

ほかにも1人1台環境の変化として、データの共有がやりやすくなるため、子どもたちの交流が活発になったという。たとえば、図工の時間の作品鑑賞。友だちが作った作品の実物を見た後に、今度は作品のアピールポイントを書き込んだ写真をロイロノート・スクールで共有するという。「実物を見てから写真を見ることで、“〇〇くんは、こういう工夫をしていたんだね”、“本当はこういうことを表現したかったんだね”と新たに子どもたちに気づきが生まれました」と中島教諭は語る。

図工の作品鑑賞では、友達が作った作品の実物を見た後に、工夫したポイントが書き込まれた写真をロイロノート・スクールで共有して、もう一度鑑賞。ここで新たな気づきが生まれると中島教諭

制限ではなく、使い方を考えることが生活の一部になるように

一方で、1人1台iPad環境になると児童たちの使い方に不安を感じる教員や保護者も多い。子どもたちは情報モラルや情報リテラシーもまだ発達段階にあり、実際にトラブルに巻き込まれてしまう児童もいる。

この点について中島教諭は正直に、iPadを使い始めた当初は、面白半分や不適切な使い方もあったと打ち明けてくれた。iPadに夢中になりすぎて、授業中もよそ見をしてしまう児童がいるなど、その都度、子どもたちに話をしながら正しい使い方を考えるように促してきたという。

「iPadを1人1台環境で持つようになると、最初のうちはどうしてもトラブルが起きてしまいます。しかし、最初から厳しくルールを設けるのではなく、『個人情報に気をつけること』と『人を傷つけることやらない』という2つをルールにし、あとは日々の中で指導する形で実践してきました。こういう形を最初からやっていくと、子どもたちの中でも使い方を考えることが生活の一部になっていき、トラブルは少なくなりました」と中島教諭は語る。

休み時間のiPad利用についても、特に制限を設けていなかった。そのため、最初の1ヵ月はどの児童もiPadに夢中だったようだが、それも1ヵ月が過ぎると外に遊びに行くようになったという。「休み時間もiPadを使えるようにしたことで、プログラミングでオリジナル作品を作る児童もいました。1人1台環境では授業以外の日常生活でいかに使うかが、結果として授業につながると思います」(中島教諭)

2ヵ月の試用期間では休み時間の利用にも挑戦

2ヵ月という短い試用期間ではあったが、1人1台iPad環境で児童たちはどのように変わっただろうか。中島教諭は「子どもたちは、学ぶことが楽しいと思えるようになったと思います」と語ってくれた。算数の時間に、早く問題を解き終わった児童が自分で問題を作ってロイロノート・スクールで配布したり、週末に出かけた先で学習に使える動画を撮影してくれたりと、学ぶことで喜びを感じる場面があるようだ。ほかにも、iPadがあることで、学習に取り組むことができなかった児童が、取り組みやすくなった出来事もあったという。

一方で、GIGAスクール構想の本格的な活用に向けた課題点としては、「学校として統一した運用が求められることです」と中島教諭は話す。いつでも、どこでもつながるICTのメリットを学校はどのように活用していくか。教員の情報モラルも向上させながら、子どもや保護者が混乱しないような運用が求められるというのだ。

今後は、「Keynote」を活用したプロジェクションマッピングにも挑戦したいと語る中島教諭。1人1台iPad環境を大いに活かし、子どもたちとつくる新たな学びが楽しみだ。

(2020年3月25日公開 インプレス「こどもとIT」掲載記事から転載)