【DISわぁるど模擬教室ゾーン全景】
2024年12月11日・12日に長崎県にて開催した当社最大の ICT 総合イベント「DIS わぁるど in 長崎」内 STEAM 模擬教室ゾーンにて、飯塚市教育委員会 教育部 学校教育課 ICT 推進室 金城 太郎 指導主事と、飯塚市立飯塚鎮西小学校 合田賢治校先生にご登壇いただき、現在当社が福岡県飯塚市様と協同で取り組んでいる「飯塚市 STEAM 教育実証研究」について、市としての STEAM 教育取り組み方針や実証校での実践事例をご紹介いただきました。
今回のレポートでは、ご登壇時のお話のトピックスを皆様にお届けいたします。
【飯塚市立飯塚鎮西小学校「ii-Lab」】
1.飯塚市におけるSTEAM教育の取り組みについて
福岡県飯塚市教育委員会 ICT推進室 金城 太郎 指導主事によるご発表
飯塚市は『「本物志向・未来志向」のひとづくりのために』を基本理念とし、 「コミュニケ ーション能力・コラボレーション能力・イノベーション能力」の3本柱を主体とした「かしこく・やさしく・たくましい」子どもの育成を目指しております。
2024 年度より、飯塚市内小中学校において STEAM 教育を推進しており、小中一貫校である『飯塚市飯塚鎮西小学校』をSTEAM教育実証研究校に指定し、飯塚市×Intel×DIS×麻生情報システム×国立大学法人九州工業大学連携の元、STEAM教育に特化した教室となる『ii-Lab』を整備・開設いたしました。
この『ii-Lab』には、高性能 PC・壁一面のクロマキー・3D プリンター・レーザーカッター等、最先端の ICT 機器を導入し、従来の自治体・学校での整備だけでは限界のある空間デザインを地域・大学・企業の連携により可能としました。
『ii-Lab』で行われている探究的な学習とは?
『ii-Lab』では実社会・生活との関りから問いを見いだし「①課題の設定>②情報の収集③整理・分析>④まとめ・表現」を繰り返し行い、考えや課題を更新し続ける探究的な学習が行われています。
例えば6年生の総合的な学習の時間では、椅子につけるテニスボールが外れやすいという身近な課題を元に、新たな椅子用ケースを3DCADソフトでデザインし、3Dプリンターで印刷しました。まずは試作品を印刷し、児童が意見を出し合いながら改善を重ねていく様子が見られました。 この授業の詳細は後半の合田校長先生のお話で詳しく出てまいります。
飯塚鎮西小学校の探究学習は、3 つの段階(創る段階>創りかえる段階>伝える段階)を定義し、実施しております。
『創る段階』では、子どもたちの「興味・関心」を引き出す課題設定を大切にしています。「知りたい・解きたい・学びたい」など児童生徒に「したい」と思わせる課題の仕掛けが主体的な学習に必要不可欠です。
『創りかえる段階』では、情報整理や分析の手段として、思考ツール・ゲストティーチャーを活用しています。児童生徒が本物の考え方に触れるために、大学とも連携しております。
『伝える段階』 では、グループごとに振り返る時間を大切にしています。グループごとに進捗度や課題が異なるため、毎時間グループごとに振り返り・課題解決を行う学習スタイルを実践しています。
2025年度へ向けて
2024年度現在、モデル校である飯塚市立飯塚鎮西小学校を筆頭に、将来的には飯塚市内 29 校にSTEAM教育展開を目指しております。総合的な学習の時間を中心に教科横断的な学習を展開し、現代的な諸課題に対応するための資質・能力のさらなる育成を目指してまいります。
2.実証校におけるSTEAM教育授業 授業実践事例報告
飯塚市立飯塚鎮西小学校 合田賢治校長先生 によるご発表
飯塚市 STEAM 教育実証研究校である『飯塚市立飯塚鎮西小学校』の合田校長先生にご登壇いただき、実践事例についてご紹介いただきました。
『ii-Lab』は子ども達の集中力を高める「青」に統一する事で日常とは違う異空間を構築しました。 子どもたちは『ii-Lab』で学習することを非常に楽しみにしており、「次はいつ使えるんですか?」と取り合いになるほど人気の空間になっています。
そんな飯塚市立飯塚鎮西小学校では、「柔軟な思考力や創造力を育てる教科横断的な STEAM 教育の授業デザイン開発~キャリア教育を軸とした探究・課題解決型学習の実践を通して~」を研究主題としました。飯塚市全校で推進している『キャリア教育』で身に着ける基礎的・汎用的能力と飯塚鎮西小 STEAM 教育で重点的に育成する資質・能力を関連付け、『キャリア教育』を軸とした探求・課題解決型学習の授業デザイン開発に取り組んでいます。
飯塚市立飯塚鎮西小学校での実証研究は、令和6・7年度の2年間にて実施中であり、2024 年11月21日(木)には中間報告会が開催されました。以下の事例は、取り組み段階である点にご留意の上、ご確認下さい。
各学年の取り組み事例
1年生「えがおは せかいをすくう~1日1ニコミッション~」(生活科)
ii-Lab でしかできない家族へのお礼動画を制作しました。
各グループでシナリオを立て、クロマキーの前で撮影を行い、AI 生成ソフトで背景を差し込みました。他のグループの良さを取り入れながら何度も練習し、改善を重ねました。
●単元の目標
知識・理解 |  家族の大切さを理解し、ICTを活用して、ものづくりをすることができる。 |
思考・判断・表現 |  家族への感謝の気持ちを伝える方法を考え、気持ちがより伝わる表現の仕方を  工夫しながら製作することができる。 |
主体的に学習に取り組む態度 |  進んで感謝を伝える方法や工夫の仕方を考えたり、友達と考えを出し合いながら、  協力して作ったりすることができる。 |
2年生「作って試して~チンザらス!」(生活科)
動くおもちゃを作成し、生成 AI を使用したおもちゃ紹介ポスターの制作に取り組みました。
ポスター作成時は、本来 3・4 年生で習得することが多いローマ字入力を、表を見ずに行うことができました。
おもちゃは試作品を何度も作り変えるなど、意見を出し合いながら主体的・協働的に取り組む様子が伺えました。
●単元の目標
知識・理解 |  動くおもちゃを作って遊ぶ活動を通しておもちゃの動きや見た目を工夫したり、  遊び方を工夫したりすることができる。 |
思考・判断・表現 |  作ったおもちゃやポスターに創意工夫を凝らして作品作りに取り組むことができる。 |
主体的に学習に取り組む態度 |  グループの意見を取り入れてポスターやおもちゃを作成しようとする。 |
3年生「地域調べたい~大好き!鎮西のまち~」(総合)
自分たちが住んでいるまちの良さを市内に伝えるために、市役所の中に貼ることを最終目標にポスター制作に取り組みました。
共同製作が可能なグラフィックソフトを使用し、高学年や他グループともアイデア交換を重ねながら試行錯誤して、ポスターを作り替えていきました。
●単元の目標
知識・理解 |  地域の良さを理解し、ICTを活用してポスター作りを行うことができる。 |
思考・判断・表現 |  自己の課題に沿って情報収集し、視点を絞って表現することができる。 |
主体的に学習に取り組む態度 |  グループの友達の意見を尊重し、協働して学びを進めようとする。 |
4年生「それCHINZEIKOにやらせて下さい~水害から鎮西のまちを守る~」(総合)
過去の水害から住んでいる地域の被害状況を調べ、地域の人々を災害のリスクから守るためにグラフィックソフトの動画テンプレートを使用し、防災のCM制作に取り組みました。子どもたちは保護者や地域の方々など渡す相手に応じた内容であるかという点を大切に、何度も話し合いの中で試行錯誤しながら、CM 制作に取り組んでいる様子が伺えました。
●単元の目標
知識・理解 |  平成15年「遠賀川集中豪雨」による水害で実際にあった困難や、地域で水害が起きた  際に起こり得る問題について理解を深めるとともに、自助・共助の視点から、自分自  身が地域の一員としてできることを考えたり選択したりすることができる。 |
思考・判断・表現 |  過去の水害の学びから、もしもの時に必要なことを分析し、それを視点として地域の  水害時のリスクや備えについて調べたり聞いたりして情報を収集し、飯塚鎮西小校区  の人にとって必要な情報を考え、方法を工夫しながら表現し、発信することができ  る。 |
主体的に学習に取り組む態度 |  災害や復旧を経験した方や、市役所や町内会の防災担当者と関りながら、もしもの時  に自分たちの地域や自分自身の備えは十分なのかを追求することを通して、友達と考  えを出し合ったり、よりよい発信を目指して方法や内容について話し合ったりして、  地域の一員として自分にできることは何か課題解決に向けた探求に取り組む。 |
5年生「No safety , No school life ~安全なくして学校生活なし~」
学校生活の中に潜む危険を解決しようと、校内で廊下を走る児童が多いという課題を見つけ、3DCADソフトや3Dプリンターを活用し廊下を走らないようにするための具体物を製作しました。対策を立てた前と後で、廊下を走る人数・比率のデータを収集し、データ分析から成果と課題明らかにし、改善策を話し合いました。
●単元の目標
知識・理解 |  課題解決のための具体物を製作することができる。 |
思考・判断・表現 |  学校生活において危険な場所や場面を分析し、解決方法を見つけ、発表することが  できる。 |
主体的に学習に取り組む態度 |  グループで協力し、課題解決のために進んで話し合おうとする。 |
6年生「学校生活に必要なものを自らの手で創り出そう」(総合)
6年生は掃除をしても机の脚にごみが付着する点を課題に設定し、3DCAD&3Dプリンタ ーで取り外し可能で掃除がしやすいカバー『まもるん』の製作に取り組みました。3D プリンター製作した試作品を脚につけ、サイズや機能性・有能性をポイントに 3DCAD で何度も改善を行いました。
●単元の目標
知識・理解 |  「作ってみよう!」アプリを活用し、取り外し可能で清潔に保つことができる机の  脚カバー「まもるん」を考えて作りだすことができる。 |
思考・判断・表現 |  3Dプリンターで出力した試作品について協議することを通して、デザイン画や機能面  から改善点を見出すことができる。 |
主体的に学習に取り組む態度 |  他の児童と協働的に学習に取り組む中で、お互いの意見を尊重しながら活動し、計画  的に学習に取り組むことができる。 |
以上、各学年の取り組み事例をご紹介いたしました。
どの学年でも、児童の『興味・関心』を引き出す身近な課題を設定し、改善を重ねながら解決方法を探っていく様子が伺えました。また、合田校長先生は普段から先生方へ「失敗してもいいんです。子どもたちに課題を見つけさせ改善させて下さい」と伝えているようです。 実際に児童はグループ内に留まらず、他学年・他グループともアイデア交換しながら、児童主体で改善に課題解決に取り組んでいる様子が伺えました。
中間報告時の成果と課題
【成果】
「創る」「創りかえる」「伝える」の 3 段階により課題発見・問題解決学習の流れに慣れ、子どもたちが自力解決する姿が多く見られました。また、『ii-Lab』は今までには思い付きもしなかった新たなものを生み出そうとする発想を刺激する場になったと合田校長先生は語ります。また、先生方は身に着けたい資質・能力を意識しながら授業デザイン開発に取り組んでおりました。
【課題】
「創る段階」では、子どもたち自身で課題発見させるための導き方・「創りかえる段階」では、改善ポイントやヒントを早い段階で与えずに子どもたち自身でしっかりと考えさせる点にはまだまだ改善の余地があると合田校長先生は語りました。 また、授業方法においてはカリキュラム・マネジメントによる、より教科等横断させた効果的・効率的な単元計画の検討・学年に応じた授業デザインの系統の整理等が課題として挙がりました。