1人1台端末のリプレースをどう進める?次のステージへ進むGIGAスクール構想
2020年から2021年にかけて学校現場に導入が進んだ児童生徒1人1台の学習者用端末。
その更新時期が近づく中、文部科学省がそれらの端末の更新予算として2,661億円を2023年度補正予算に計上している。
予備機の整備も含めたこれからのGIGAスクール構想の動向について、文部科学省 初等中等教育局 修学支援・教材課庶務 助成係長 小宮山雄輝氏に聞いた。
GIGAスクール構想のこれから
2019年12月に文部科学省が打ち出した「GIGAスクール構想」。
本構想では、子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育むICT環境を実現するため、児童生徒向けの1人1台端末と高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備する方針が定められた。当初は2023年度に達成予定としていた1人1台の端末環境整備は、コロナ禍によってその計画が大きく前倒しされ、2020年度から2021年度当初にかけて一気に整備が進んだ。
GIGAスクール構想立ち上げ時の関係予算を見ると、1人1台の端末整備に約2,800億円、高速大容量のネットワークの整備に約1,400億円、GIGAスクールサポーターの配置促進に約100億円、緊急時おける家庭でのオンライン学習環境の整備に約200億円を計上しており総額約4,800億円(2019年度予算および2020年度1次、3次補正予算)が計上された。
これらの第1期GIGAスクール構想で整備された1人1台端末は、すでにさまざまな学びのシーンでの活用が進んでおり、学びの効果も広がりを見せている。
しかし積極的な端末活用が進められる一方で顕在化しているのが、端末の不具合だ。バッテリーの消耗が進んでいることに加え、端末故障も増加するなどさまざまな問題が生じている。早い自治体では2025年度に端末の更新時期を迎えると言われており、第1期GIGAスクール構想で導入した1人1台端末のリプレースが今後進んでいく。そこで課題となるのが、端末の更新にまつわる予算だ。
数年単位の見通しを持った整備を
文部科学省では、このGIGAスクール構想の第2期を念頭においた1人1台端末の更新に向けて、「GIGAスクール構想の推進〜 1人1台端末の着実な更新〜」として2023年度補正予算に2,661億円を計上した。本予算には、今後5年程度をかけた端末の計画的な更新を進めるための予算と共に、端末の故障に備えた予備機の整備予算が含まれている。公立学校の端末整備に2,643億円、国立や私立、日本人学校などの端末整備に18億円が割り当てられている。
第1期GIGAスクール構想と異なるのは、公立学校の端末整備スキームだ。
以前の端末整備予算は自治体への補助事業として1台当たり上限4.5万円の補助が行われていたが、2023年度補正事業では「基金」の扱いとなる。具体的には、都道府県に基金(5年間分)を造成し、当面必要となる2025年度までの更新分に必要な経費を今回計上する。
第2期GIGAスクール構想における端末整備を基金で補助する背景について、小宮山氏は「補助事業は単年度予算となるため、まだまだ使用可能な端末について補助金があるうちに急いで更新をしようという考えになりがちですが、1人1台端末の更新を平準化するなど、複数年かけて計画的に更新を行う必要があると考えています。自治体において、数年単位の見通しを持って安心して端末更新が行えるよう、今回は基金という形を取りました」と語る。
2023年度補正予算では2025年度までの更新予算(全体の7割)となるが、今後5年間同一の枠組みの支援を実施する予定であり、残りの3割分の端末更新予算の確保も次年度以降進めていく方針だ。なお国立や私立、日本人学校などの端末整備予算については、前回整備と同様に補助事業によって支援を進めていく。
前回整備と異なる点はほかにもある。
一つ目は前述した通り、予備機の整備予算も含まれる点だ。児童生徒数全体の15%以内を対象とした予備機の整備に、本予算を活用できる。小宮山氏は「前回整備で導入された端末は、さまざまな学校現場で積極的な活用が進められていますが、利活用が進む中で故障が多いという声がありました。当省としては端末の持ち帰りも推奨していますので、持ち運びが多い都合上、一定の故障は致し方ないと考えています。しかし、故障した端末を修理に出した際に、端末の返却が遅くなったり、予備機の用意にも時間を要したりするといった課題が生じていました。一定の故障を見越した上で、子供たちの学びを止めない観点から予備機の整備も本予算で進めていきます」と説明する。
二つ目は補助基準額と補助率だ。前回整備では1台当たり上限4.5万円としていた補助金額を、5.5万円に引き上げている。
物価の高騰によって端末1台当たりの価格が前回整備時点と比較して上がっていることや、技術の進展により、学びに求められる端末の性能が向上していることが背景にある。「前回整備の際は、端末整備に当たりスペックの目安となる『標準仕様書』を発表しましたが、今回も整備基準の目安となる仕様書を策定する予定です。2024年1月中の発表を予定しており、端末の仕様はもちろん、運用上必要となるセキュリティ対策の事項などについても併せてお知らせをしていく予定です」と小宮山氏は語る。
なお補助率は公立学校、私立学校、日本人学校等で3分の2、国立学校で10分の10となる。
【GIGA スクール構想の推進事業の内容およびスキーム】
ネットワークの問題を調査せよ
冒頭で述べた通り、第1期GIGAスクール構想では、高速大容量なネットワーク環境も併せて整備された。端末活用が活発化するに伴い、学校のネットワークが遅いといった課題の指摘が見られる中、第2期GIGAスクール構想ではネットワーク環境のリプレースに向けた予算などはあるのだろうか。
「2023年度補正予算および2024年度予算においては、前回整備のような大規模なネットワーク整備事業の実施予定はありません。これは、ネットワークのアクセスポイントはタブレットPCと比較して耐久年数が長いためです。またもともと学校の施設整備に対する補助金の中にネットワーク整備事業を用意するなど、恒常的にネットワーク整備への支援を行っています。一方で、第1期GIGAスクール構想でネットワーク環境が整備され日常的な活用が進む中、ネットワークに対する不満の声も聞こえてきています。それらを踏まえ、2023年度補正予算では『ネットワークアセスメント実施促進事業』に23億円を計上し、現状のネットワーク環境の分析や診断に要する費用の一部を国が補助します」と小宮山氏。
ネットワークアセスメント実施促進事業は、もともと2022年度から実施されてきた「GIGAスクール運営支援センター整備事業」からスピンオフした事業だ。後述するGIGAスクール運営支援センター整備事業と一体的に事業実施することも、ネットワークアセスメント実施促進事業のみを実施することも可能だ。
今後、デジタル教科書の導入や全国学力・学習状況調査のCBT化、動画教材やクラウドベースのデジタル教材を十分に活用するためには、通信ネットワーク環境の不具合解消は不可欠となる。一方で多くの自治体では、ネットワークに不具合を抱えていてもネットワークアセスメントを実施しておらず、最適な解決策につなげることが難しい。
小宮山氏は「ネットワークが遅いという課題でも、アクセスポイントをずらすことで解消するケースもありますし、そもそもの通信の契約が学校の利用形態に合っていないケースもあります。まずネットワークアセスメント実施促進事業で、問題点や改善策を洗い出すことによって、改善を図っていただきつつ、当省としても必要に応じて今後の施設整備の予算の確保に繋げていきたいと考えています」と語る。なお、ネットワークアセスメントによって発見された不具合に対して、簡単な工事などの応急対応は本事業の補助金でサポートすることも可能だ。
【ネットワークアセスメントの例】
・ネットワーク測定(通信量やセッション数を測定)
・ネットワーク構成調査(ネットワークの構成や機器の設定の調査)
・スループット・レイテンシー調査(通信速度や通信遅延の調査)
・無線調査(無線の電波干渉の有無やカバーエリアの調査)
自治体間の格差解消を目指す
ネットワークアセスメント実施促進事業と一体的に行うことも可能な「GIGAスクール運営支援センター整備事業」は、2024年度予算案として5億円、2023年度補正予算として35億円の合わせて40億円が計上されている。
GIGAスクール運営支援センターは、学校のICT運用を広域的に支援する拠点であり、本事業ではその整備を支援するため、都道府県等が民間事業者へ業務委託するための費用の一部(補助割合3分の1)を国が補助する。本事業は第1期GIGAスクール構想の半ばで顕在化した自治体間の格差を解消することを目的としており、2023 〜 2024年を集中推進期間と位置付け伴走支援を徹底強化していく。
小宮山氏は「本事業で設置するGIGAスクール運営支援センターでは、主にヘルプデスクの運営やサポート対応、ネットワークトラブル対応、支援人材の育成、休日や長期休暇などのトラブル対応を行います。一方で、5 〜 6割の自治体で本事業の補助を活用されていますが、そのほとんどがヘルプデスクに利用されているケースが多いです。もちろんICTに慣れていない先生方をヘルプデスクでサポートすることは非常に重要ですが、ヘルプデスクの運営費に補助金の大半が使われ、ほかに経費を回すことが難しいという声も聞きます。ネットワークアセスメント実施促進事業がGIGAスクール運営支援センター事業から独立したのは、そうした予算的な背景もあります」と語る。
GIGAスクール運営支援センターの補助事業は2024年度までを予定しているが、依然として自治体間の格差やICT支援人材の不足といった課題も存在している。「2025年度以降は、ネットワークアセスメント実施促進事業のように、GIGAスクール運営支援センター事業から個別事業化したり、一つの補助金の中の1メニューのような形でGIGAスクール運営支援センターのサポートを継続したりしていくなど、今後も支援を継続していく方針です」(小宮山氏)
【GIGA スクール運営支援センターの取り組み】
【主な業務内容(支援対象)】
●ヘルプデスクの運営およびサポート対応
ヘルプデスク運営、各種設定業務
可搬型通信機器 (LTE 通信 ) 広域一括契約(学校外の学びの通信環境整備) 等
●ネットワークトラブル対応
ネットワークトラブル対応
セキュリティポリシー改訂支援、
セキュリティアセスメント(セキュリティ基盤の確保) 等
●支援人材の育成
支援人材の確保
教師・事務職員・支援人材 ICT 研修
学びの DX に向けたコンサルティング等
●休日・長期休業等トラブル対応
授業での生成 AI活用事例も創出
GIGAスクール構想における自治体間の格差を解消するためには、GIGAスクール運営支援センターによる運営支援を行うと同時に、効果的な実践事例を創出し、横展開していくことも重要となる。文部科学省では「GIGAスクールにおける学びの充実」として、2024年度予算案に3億円、2023年度補正予算に2億円を計上している。
本事業のうち、2023年度補正予算で取り組むのが「リーディングDXスクール」だ。
リーディングDXスクールは2022年度補正予算でスタートした事業で、1人1台端末の活用状況の把握・分析と、効果的な実践事例の創出に向けて、1人1台のGIGAスクール端末とクラウド環境の活用した教育活動の高度化に取り組んできた。都道府県、指定都市の中から1カ所以上の学校を指定校とし、さまざまな実践事例から効果的な指導技術の創出・展開を行う。
2023年度補正事業では、従来のこの取り組みにプラスして、生成AIを活用した授業実践研究にも取り組む。第2期GIGAスクール構想に向けて、従来のGIGAスクール環境を使いこなす準備が整った自治体や学校にも展開しやすい先進事例の創出に取り組む。
「今年度実施しているリーディングDXスクールは、すでに200校程度で取り組みが進められています。そのうち数校では、先行して生成AIを活用した授業に取り組んでおり、その結果も見ながら次年度の取り組みに生かしていきます」と小宮山氏。
現在注目が集まっている生成AIの教育現場での活用については、「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を2023年7月4日に発表しており、このガイドラインを順守して事業を進める。
【リーディング DX スクール事業】
また、GIGAスクール構想の加速化事業では、「学校DX戦略アドバイザー」も併せて行う。
こちらは2024年度予算案として1億9,000万円を計上している。課題を抱える自治体や学校へアドバイザーを派遣することに加え、事前の調査によってオンラインや現地派遣を組み合わせた集中的な伴走支援も新たに実施していく。
GIGAスクールにおける学びの充実の中では、「情報モラル教育推進事業」(2024年度予算案:5,000万円)と、「児童生徒の情報活用能力の把握に関する調査研究」(2024年度予算案:9,000万円)も実施する。情報モラル教育推進事業はこれまでも継続的に行われてきた事業だが、前述したような生成AIなど新しい技術が登場する中で、普段から意識すべきことや直面する諸課題について、児童生徒自ら考えて、解決できる力を身に付けることを目指していく。児童生徒の情報活用能力の把握に関する調査研究は2023年度に予備調査を実施しており、2024年度に本調査を実施予定だ。プログラミング教育によって育成される資質・能力も含めた情報活用能力を構成する要素がどの程度身に付いているかを測定し、今後の情報教育関係施策の改善などに活用していく。本調査は「文部科学省CBTシステム(MEXCBT)」で実施できるよう、予算を含めた準備を進めているという。
「第2期GIGAスクール構想に向けた取り組みは、2023年11月2日に閣議決定した『デフレ完全脱却のための総合経済対策』において『教育DXフロンティア戦略を始めとする公教育の再生』の取り組みに位置付けられており、第1期と同様国策として推進していきます。一方で、整備された1人1台端末を全ての授業で使うことが最終的なゴールではなく、端末を文房具のように使う中で効果的な活用シーンを見いだし、授業の土台として使いこなしていただけたらと思います。そのための支援を、文部科学省としてもGIGAスクール運営支援センターなどをはじめとした事業で続けていきます」と小宮山氏は教育現場へメッセージを贈った。
GIGAスクール構想の“次”を見据え、教育と校務の双方で活用する先端技術
GIGAスクール構想によって1人1台の端末活用が進んだことに加え、生成AIといった新たな技術が急速に普及する中で、GIGAスクール構想のさらに先を見据えた“次世代”の取り組みが求められている。2023年度補正予算および2024年度予算案では、そうした次世代の教育を推進するための事業も行われる。それぞれの取り組みを見ていこう。
最先端の技術を学びに生かす
次世代の教育推進に向けた事業の一つ目が、「次世代の学校・教育現場を見据えた先端技術・教育データの利活用推進」だ。2024年度予算案として1億円が計上されている。三つの事業に取り組む予定だ(下図参照)。
文部科学省 初等中等教育局 修学支援・教材課 庶務 助成係長 小宮山雄輝氏は「2024年度は新たに、教育課題の解決に向けた生成AIの導入・利活用に関する実証事業が盛り込まれました。例えばChatGPTなどの既存の文章型生成AIツールとAPI連携を行い、学校現場向けの生成AIツールとして活用することなどを想定しています。リーディングDXスクール事業でも生成AIの活用を進めていきますが、本事業はさらに“川上”と言いますか、どういった技術が学校現場で活用されるのか、活用できるのかといった、まだ世の中で普及していないような先進的な技術を学びの中で取り入れて行くことを検証していきます。今後、事業委託先の公募を進めていきますので、具体的な技術例を挙げることは難しいのですが、本事業は学校設置者はもちろん民間事業者の方が応募してくることが多く、新しい技術をどのように学校現場に生かしていくことができるか、期待しています」と語る。
先端技術・教育データの利活用を促進する3事業
(1)最先端技術及び教育データ利活用に関する実証事業
●学校が抱える教育課題解決に向けて、1人1台端末環境とクラウド環境、デジタル教科書の導入を前提とした上で、例えば、センシング(画像認識や音声認識)、メタバース・AR(拡張現実)・VR(仮想現実)などの先端技術の利活用について、実証研究を実施。
(2)教育課題の解決に向けた生成 AI の導入・利活用に関する実証事業
●「生成 AI の利用に関する暫定的なガイドライン」を踏まえ、学校が抱える教育課題の解決を図るため、学校現場向けの生成 AI ツール(アプリケーション等)の導入・利活用に向けた実証研究を実施。
※例えば、ChatGPT 等の既存の生成 AI ツールと API 連携等を行うことで、学校現場向けの生成 AI ツール(アプリケーション等)の導入を行うことなどを想定
(3)実証事例を踏まえた先端技術の活用方法・諸外国の先端技術の動向に関する調査研究
●先端技術の教育活用に関する諸外国の動向調査(我が国での導入可能性に関する分析を含む)を継続的に実施・公表することにより、事業者・学校設置者における技術開発・導入検討を促す。
●上記に加え、(1)(2)の実証団体の取組状況を調査・分析し、利活用事例の普及に向けた検討を実施。さらに、生成 AI に関する動向についても調査を実施し、生成 AI についての最新情報の把握・検討を実施。
デジタルで教員の働き方を変える
児童生徒の学びとともに、教員の働き方にも変革が求められている。校務効率化に寄与する統合型校務支援システムの整備率は86.8%(2023年3月時点)まで上昇している一方で、その多くはネットワーク分離によって職員室の校務用端末からしかアクセスできないため、教育DXの阻害要因にもなっている。文部科学省ではそうした校務のデジタル化にまつわる課題解決に向けて「次世代の校務デジタル化推進実証事業」に2023年度補正予算として2億円、2024年度予算案として3億円を計上している。
本事業のうち、「次世代の校務のデジタル化モデル実証研究」(2024年度予算案:3億円)は2023年度からの継続事業となる。2023年度に二つの自治体で構築した校務系と学習系を統合したネットワーク環境を活用し、校務効率化を進めるユースケースの創出や、ダッシュボードを活用した校務のデータ分析などを行い、事業終了後の全国レベルでの効果的かつ効率的なシステムの入れ替えを目指す。
そして新たにスタートするのが「生成AIの校務での活用に関する実証研究」だ。2023年度補正予算で計上された2億円を活用し、校務で生成AIを活用する実証研究を行い、学校や教育委員会で活用する際の留意点を含めた実践例を創出することで、全国レベルでの校務における生成AIの活用を推進していく。また上記二つの実証研究を踏まえながら「校務DXのガイドライン的文書」の更新や「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」の改訂を進めていく。
「生成AIの校務での活用に関する実証研究では、個人情報や機密情報が自治体や学校の外に漏れないように対策したセキュアな環境下で行います。すでにクラウドベースの環境下で校務システムを運用している自治体などが向いているでしょう。先生方の業務負担は、第1期GIGAスクール構想のスタート当時と比較して減少してはいるものの、まだまだ時間が足りていないのが現状です。GIGAスクール運営支援センターでのサポートや、次世代の校務のデジタル化による校務負担の軽減に加え、抜本的な働き方改革も重要になります。例えば現在、小学校では高学年の教科担任制を進めています。教科担任制を導入した小学校の先生方の話を聞くと、端末の活用を含めて自分の担当教科の教材研究に特化できて、久しぶりに楽しんでいるといううれしい声がありました。1人1台端末はまさに有用な必須ツールです。どんどん研究し、活用いただきたいです」と小宮山氏。
ICTの活用のみならず、抜本的な改革を進めることが教員の働き方改革を推進していく上では重要になるだろう。
次世代に向けたDX基盤を
次世代の校務デジタル化や、教育データの利活用を進めていくためには、それを支える基盤の整備も欠かせない。
文部科学省では「教育DXを支える基盤的ツールの整備・活用」に対して、2024年度予算案として9億円、2023年度補正予算として5億円を計上している。本事業では、教育データの利活用に必要な知見と成果を共有できる基盤的ツールの整備に加え、相互運用性を確保するためのルールの整備などを進めるために、三つの事業を行う。
一つ目は、「文部科学省CBTシステム(MEXCBT)の改善・活用推進」(運用:2024年度予算案額7億1,400万円、開発:2023年度補正予算額3億9900万円)だ。MEXCBTは文部科学省が開発、運用するCBTプラットフォームで、2020年から開発を実施している。2023年4月に実施された全国学力・学習状況調査の中学校英語「話すこと」調査において、実際にMEXCBTを使用した調査が実施された。2024年度の全国学力・学習状況調査の生徒質問調査などにおいても活用を予定している。また2025年度の全国学力・学習状況調査の中学校理科の悉皆実施の検討状況に従って、必要な機能拡充も進めていく。
二つ目は「文部科学省WEB調査システム(EduSurvey)の開発・活用促進」(運用:2024年度予算案額6,700万円、開発:2023年度補正予算額4,800万円)だ。文部科学省から教育委員会や学校を対象とした業務調査を迅速化するWeb調査システムであり、2022年度から試行している。2023年度は約80の調査を実施予定であり、2024年度は約120の調査をEduSurveyで行う予定だ。「実際にEduSurveyを活用したことで、教育委員会において、約 6 割の職員から業務負担が軽減したと回答がありました。2023年度は表形式の回答フォームを実装するなど、新機能の拡充にも力を入れました。学校や教育委員会側からのフィードバックを基に2024年度も継続して機能強化を進めていきます」と語るのは、文部科学省 総合教育政策局 主任教育企画調整官・教育DX推進室長 藤原志保氏。
三つ目は「教育データの利活用の推進」(2024年度予算案額8,600万円、2023年度補正予算額6,000万円)だ。教育データの標準化や教育データの分析・利活用推進に向けた取り組みを進めていく。藤原氏は「2022年度までは児童生徒、教職員、学校等のそれぞれの属性などの基本情報となる『主体情報』、学習指導要領コードなどの学習内容に関する情報である『内容情報』の定義(標準化)を中心に取り組んできました。2023年度は具体的な場面を想定して必要なデータ項目の標準化や、教育現場において想定される活動を整理して分類する『活動情報』の標準化を中心に取り組み、2024年度以降も継続していきます」と語る。
藤原氏は「『学習eポータル標準モデル』の改訂も進めていきます。学習eポータルは各社が提供するデジタル教材やデジタルドリル、協働学習ツール、そしてデジタル教科書などにアクセスするハブとなるツールであり、2024年1月時点で10社から標準モデルに準拠して開発された学習eポータルが提供されています。将来的には複数のツールを横断した学習データ分析が行えるよう、必要なルール作りを継続して進めていきます」と語る。
学校現場に対する学習者用デジタル教科書の導入も継続して進めていく。「学習者用デジタル教科書購入費」に2024年度予算案として15億6,500万円、「学習者用デジタル教科書の効果・影響等に関する実証研究事業」に1億2,400万円が計上されており、2023年度の同事業を継続して進めていく方針だ。
「昨年事業との違いとして、学習者用デジタル教科書が購入費に変わっています。2023年度は実証研究という形でデジタル教科書を提供していましたが、2024年度では購入費の位置付けで全ての小中学校等を対象に英語のデジタル教科書と、一部の小中学校等を対象に、算数・数学のデジタル教科書を提供していきます。いずれも対象は小学校5年生から中学校3年生になります。算数・数学のデジタル教科書は2023年度事業でおよそ5割の学校に配布しており、2024年度事業ではこれを5 〜 6割に拡充することを予定しています」と文部科学省の初等中等教育局教科書課の担当者は語った。
1,000校を対象とした“DXハイスクール”で成長分野を支える理数系人材の育成を図る
指導要領改訂に伴う「情報Ⅰ」の新設など、高等学校(以下、高校)においてもデジタル技術の進展に対応した学びの改革が
進められている。そうした中、2023年度補正事業で一つの大きな取り組みがスタートする。それが「DXハイスクール」だ。
国策として理数系人材を育てる
1人1台の学習者用端末の配備は、義務教育段階のみならず高校でも進んでいる。
2023年7月に発表された「高等学校における学習者用コンピュータの整備状況について(令和5年度当初)」を見ると、2022年12月時点で整備済みとなっているのが23自治体、2023年1 〜 3月に整備済みとなるのが2自治体、2023年度整備予定が5自治体、2024年度に整備予定となっているのが17自治体であり、2024年度中には47都道府県全ての自治体の高校で1人1台端末による学習環境が整う予定だ。
同時に進められているのが高校における学びの改革だ。
例えば、2022年度に学習指導要領が改訂されたことに伴い、2022年度事業の「新時代に対応した高等学校改革推進事業」において、従来の普通科に加えて探究的な学びを重点的に行う「学際領域学科」や「地域社会学科」などの新たな学科を設置する「普通科改革支援事業」を行っている。また、2022年度第2次補正事業として、共通必履修科目に「情報Ⅰ」が新設されたことに伴い、専門性の高い指導者の育成や確保の仕組みを確立する「高等学校情報科等強化によるデジタル人材の供給体制整備支援事業」を実施するなど、さまざまな改革支援を行っている。
特に高校に求められているのが、理数系人材の育成だ。大学教育段階でデジタルや理数分野への学部転換が進む中、その効果を最大限に発揮するため、デジタルなどの成長分野を支える人材育成を、高校段階から行う必要がある。文部科学省ではそうした課題を解決するため、2023年度補正予算において「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」を実施するべく、100億円を計上している。
文部科学省 初等中等教育局 参事官(高等学校担当)の田中義恭氏は「日本はほかの先進国と比べて、デジタルや理数系分野の人材育成が弱いという指摘があります。成長分野をけん引する高度専門人材の育成を目指すべく、2022年度第2次補正予算において3,000億円の基金を創設し、意欲ある大学や高専(高等専門学校)が成長分野の学部転換などの改革を行えるようにしました。本事業は、そうした大学への進学につながる人材育成を、高校段階から国策として行う取り組みです」と語る。
デジタルラボの設置を義務化
事業では、情報や理数などの教育を重視するカリキュラムを実施するとともに、ICTを活用した文理横断的・探究的な学びを強化する学校に対して、必要な環境整備を支援する。具体的には、公立・私立の高校などを対象に、1校当たり1,000万円を上限として必要な経費を補助する。「全国の高校約5,000校のうち1,000校を対象とするため、およそ5校に1校に支援を行う予定です。対象となる学校は普通科高校のみならず、農業高校や商業高校などの専門学科、総合学科の高校も含みます。これらの教育現場ではデジタルは不可欠ですので、積極的に使ってほしいですね」と田中氏。
本事業で補助の対象となる高校では、「情報Ⅱやそれに相当する学校オリジナルの教科・科目や総合的な探究の時間、職業系の教科・科目の実施」「デジタルを活用した課外活動や授業を実施するための設備を配備したスペースの整備」の2点を必須要件として求める。情報Ⅱなどの教科・科目の履修推進に当たっては遠隔授業の活用も可能で、そのための通信機器整備も本予算でカバーできる。
そして注目したいのが、デジタルを活用した課外活動や授業を実施するための設備を配備したスペースの設置だ。「これまでPC教室として使用してきた環境をアップグレードし、ハイエンドPCや3Dプリンターといったハードウェア面や、動画編集ソフトウェア、画像生成ソフトウェアなどのソフトウェア面のICT整備を行うことを想定しています。デジタル人材を増やすためには、そのための環境整備が不可欠です。また課題解決や問題解決を行うための探究的な学習は、机上の空論ではなく、実際にアプリ開発のようなもの作りによる課題解決や、データ分析による現状把握が行える環境が求められます。これからのデジタル人材や成長人材を育成していくために、先端技術を有した教室の設備は必須と言えるでしょう」と田中氏。これらのハイエンドPCや3Dプリンターを整備した環境は、デジタルラボやSTEAM Lab、Fab
Labなどの名称で、先端的な学校現場で整備されている事例があるが、その整備を1,000校一気に進めていく。整備されるICT設備は学校ごとの裁量に委ねられており、より発展的なもの作りを行いたい場合は3Dプリンターのほかにレーザーカッターを導入したり、アプリ開発に注力したい場合はハイエンドPCアプリケーション開発ソフトを導入したりといったように、学校に合わせた学びの場の構築が求められている。なお、ハイエンドPCは生徒1人1台端末としてではなく、1教室40台程度の共有端末として整備を行う方針だ。
IT企業の知見を人材育成に生かす
上記必須要件以外の取り組みは、学校に応じて多様であり、情報・数学などを重視した学科への転換やコースの設置、デジタルを活用した文理横断的・探究的な学びの実施、高大接続の教科や多面的な高校入試の実施などさまざまだ。
理数教育の強化を図っている高校を「スーパーサイエンスハイスクール」(SSH)に指定する取り組みは2002年度から行われてきているが「SSHは理系進学校が主ですが、DXハイスクールはよりボリュームゾーンの高校を含めて対象としています。SSH指定校はDXハイスクールの対象外ですが、すでに指定校から外れている高校や、SSH指定校から落選した高校などが、このDXハイスクールの予算を活用して、理数教育を強化してもよいでしょう」と田中氏。
最後に田中氏は「本事業は、学校だけでなくIT企業の協力が不可欠です。ハードウェアの整備はもちろんのこと、IT人材を含めた理数系人材の育成を進める上での知見を含めた協力をお願いできればと思います。高校の学びを変えていくため、現場で本予算をしっかりと活用し、教育を変えるきっかけにしてもらえたらと思います」と企業への協力を呼びかけた。
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