兵庫教育大学附属小学校の視察へ

はやお:あ、わか子先生。聞きましたよ。STEAM教育の実践校へ視察に行ってきたそうじゃないですか。

わか子:そうなんです! 聖徳学園中学・高等学校へ行ってきて、本当に勉強になりました。授業デザインの方法も参考になったんですが、一番大きな気づきだったのは「先生の在り方」がとても大事ってことでしょうか。

はやお:つまり、教員がいかにSTEAM教育と向き合うかって話ですか?

わか子:そうです。STEAM教育はこれまでの教育スタイルとは大きく異なるから、教員がそこにどうアジャストするか、そしてカリキュラムを組むうえで教員間の連携をいかに図るかが重要だとわかりました。

はやお:たしかに教科横断的な学習を行うには、STEAM担当のわか子先生だけでなく、各教科の教員の協力が必要になりますよね。

わか子:あと、「STEAM教育を行う先生がまずワクワクすることが大事」という話も胸に刺さりましたね…。やっぱり先駆者の話を聞くのって本当に大事。さぁ、私も張り切って頑張ろう!

はやお:なんだかテンション高いですね。ちなみに、ほかの学校へは視察に行かないんですか?

わか子:次はSTEAM教育を実践している小学校に行きたいので、今探しているところです。

はやお:あの、僕の学生時代の友人に久しぶりに連絡したら、小学校でSTEAMを担当しているそうなんです。よかったら紹介しましょうか? 

わか子:えっ、なんでそんなお友だちがいること隠してたんですか? ぜひ、ぜひ、お願いします!

はやお:そうくると思って話をしておいたので、兵庫教育大学附属小学校の林孝茂(はやし・たかしげ)先生を訪ねてみてください。STEAM教育を積極的に推進している冨田明徳(とみた・あきのり)校長もお話を聞かせてくれるそうです。

わか子:ありがとうございます。すぐに行ってみますね。

運動会を総合学習の発表の場に

兵庫教育大学附属小学校

兵庫教育大学附属小学校
兵庫教育大学附属小学校
冨田 明徳 校長(左)  林 孝茂 先生(右)
冨田 明徳 校長(左) 林 孝茂 先生(右)

冨田 明徳 校長
兵庫教育大学附属小・中学校校長。兵庫教育大学大学院非常勤講師。泉大津市教育委員会指導主事、大阪府警察本部少年課課長補佐、大阪府教育委員会首席指導主事、泉大津市立小津中学校校長、泉大津市教育委員会教育長などを歴任。

林 孝茂 先生
兵庫教育大学附属小学校教諭。ICT夢コンテスト2020優良賞受賞。Type_T(とにかくやってみるプログラミング教育ティーチャーズ、NPO法人タイプティ)メンバー。著書に『逆引き版 ICT活用授業ハンドブック』(共著、東洋館出版)、『事例と動画でやさしくわかる!小学校プログラミングの授業づくり』(分担執筆、学陽書房)。現在EdTechZine(翔泳社)にて「低学年でもできますよ! 誰でも簡単GIGA端末活用術 Chromebook編」をウェブ連載中。

わか子:冨田校長、林先生、はじめまして。この度は貴重なお時間をいただきましてありがとうございます。

林先生:はやお先生から話は聞いていますよ。STEAM担当に任命されて、とても頑張っているそうですね。今日は何でも聞いてください。

わか子:では、まずは兵庫教育大学附属小学校(以下、附属小)でSTEAM教育を開始された経緯について教えていただけますか?

冨田校長:本校は、文部科学省が指定する全国4校の「教員養成フラッグシップ大学」の1つである兵庫教育大学の附属小学校です。兵庫教育大学では現代社会に対応した教員の育成を目指して民間の企業と連携をしながら先端的な教育を進めていることから、本校にも大学と一体になった先導的な教育実践研究の推進が求められます。そうした中で、兵庫教育大学がインテルさん(インテル株式会社)やDISさん(ダイワボウ情報システム株式会社)といった民間企業とSTEAM教育のプロジェクトを開始する際に大学側からお誘いいただいたのがきっかけです。

わか子:附属小でSTEAM教育はいつから開始されたのですか?

冨田校長:本格的にスタートしたのは令和4年度(2022年度)からですが、本校ではそれ以前に、令和2年度(2020年度)まで文部科学省の指定を受け、「社会の一員として新たな問題を創造的に解決する能力をはぐくむデザイン思考教育を実践する新総合領域『未来デザイン』の教育課程に関する研究開発」に取り組んでいました。秋の運動会のことを我々は「カーニバル」と呼んでいるのですが、そこでは毎年「ミュージカル」という学習活動を行っています。令和3年度(2021年度)は、総合的な学習の時間に位置づけ、子どもたちに平和や環境問題などのテーマを決めてもらい、探究学習を交えながらストーリーや出演者のキャラクターを決め、衣装を作成して音楽や歌、セリフ、ダンスを交えてミュージカル形式で発表する取り組みを行いました。

わか子:運動を中心に総合的な学習を行い、その発表を運動会で行っているなんてとても画期的な試みですね。

冨田校長:ありがとうございます。STEAM教育に関しては、令和3年度(2021年度)から兵庫教育大学大学院・森山潤先生などの指導も受けながら、幼・小・中の共同研究という形で総合学習に関する研究や取り組みを行う中で知見を深めていました。本校では「人間として生きぬく力を育てる」を教育目標に掲げていて、Society 5.0を生きる子どもたちにはSTEAM教育が重要だと判断し、令和4度から教育カリキュラムを再編成して総合学習の中心にSTEAM教育を位置づけたのです。

林先生:私が赴任してきたのは、まさにこのタイミングです。校長が話したように本校では以前から教科横断的な取り組みを積極的に行っていたのですが、STEAM教育の「T」(Technology)と「E」(Engineering)の部分が十分ではありませんでした。ですから、私がSTEAM教育担当者としてその部分を強化しながら昨年1年を通してSTEAM教育を実践していきました。

GIGA端末の活用ステップ

わか子:STEAM教育を開始するうえではそれを許容する学校環境が整っていることが重要だと思いますが、附属小はいかがでしたか?

冨田校長:本校は比較的新しいことにチャンレンジできる自由な校風だと思いますが、林先生から見てどうでしたか?

林先生:公立の学校ではやりたいことがあっても確認に時間がかかったり、1クラスだけに制限されたり、ストップがかかったりすることも多くありましたが、本校は教育大学の附属校として先進的な教育を行っています。そのため、校長はもちろんのこと、ほかの先生方もSTEAM教育に関しては肯定的に捉えてくれていたので、とても取り組みやすい環境でした。

わか子:兵庫教育大学を通して外部の企業と連携したことによるメリットはありましたか?

林先生:STEAM教育を開始するにあたり、インテルさんやDISさんをはじめとする多数の企業の協力・支援を受け、STEAM教育を実践するための「STEAM Lab」を2022年4月に設置しました。室内には、25台の高性能PCや4台の3Dプリンタ、 micro:bitやレゴⓇWeDo 2.0といったプログラミング教材があります。こうした環境があるかないかによって授業内容は変わってくるので、企業との連携によって素晴らしい学習環境を整えることができたのはとても大きかったと思います。

わか子:STEAM教育を開始される前に、1人1台の学習者用端末は配備されていましたか?

林先生:はい。私が赴任した1年前にはGIGAスクール構想によって配備された端末(以下、GIGA端末)が揃っており、各教科の授業で活用されていました。

わか子:どのように活用されていたのでしょうか?

林先生:文部科学省では「『1人1台端末・高速通信環境』を活かした学びの変容イメージ」としてGIGA端末の活用ステップを3段階で示していますが、その第1ステップにあたる「“すぐにでも”“どの教科でも”“誰でも”活かせる1人1台端末」の段階でした。そして私が赴任してきて本格的なSTEAM教育が始まり、昨年1年間の実践を通して、第2ステップの「教科の学びを深める。 教科の学びの本質に迫る。」、そしてSTEAM教育の部分にあたる第3ステップの「教科の学びをつなぐ。 社会課題等の解決や一人ひとりの夢の実現に活かす。」までステップアップできたと思います。

「附小DXプロジェクト」の実践例

わか子:では、具体的にどのようなSTEAMの授業を行っているのか教えてもらえますか?

林先生:この図を見てください。これは令和4年度に本校で行ったSTEAM教育の実践をまとめたものです。GIGA端末の3つの活用ステップ(※1)を横軸に、そして「教科学習」とならんで「教科指導におけるICT活用」「情報教育」といった教育の情報化の3要素(※2)のうち授業にかかわる2つの要素(※ちなみにもう1つは校務の情報化)を縦軸に記載して、さまざまな授業例をマッピングしています。

わか子:ステップ1、2を通して学びを深め、ステップ3に当たるSTEAM教育という単元に至るまで、それぞれの教科でSTEAMの要素をどのように取り入れたかが説明されているんですね。

林先生:はい、そのとおりです。S、T、E、A、Mという頭文字がそれを示しています。教科学習でいうと、国語ではふせんを使った話し合い、社会ではスーパーの見学を通したインタビューの仕方やお店の工夫、図工ではさまざまな工作の技術や表現方法、音楽ではiPadを使ったメロディ作りなどをA要素として位置付けています。同様に、理科では「電気の通り道」で電気の性質や働きなどのS要素、や表計算ソフトでのグラフづくりなどのM要素など、教科の学びを深めるためにICT活用を行ってきました。情報教育としてはアプリの基本操作の習得やプログラミング教育(T要素とE要素)を並行して行いました。

わか子:段階に応じて、教科の学習の中にICT活用を上手に含ませていますね。

林先生:このような各教科の授業を行ったうえで、総合的な学習の時間でSTEAM単元である本実践を行いました。「お任せ!何でも解決団! 〜わたしたちの附小DXプロジェクト」(以下、附小DXプロジェクト)というテーマを設定し、子どもたちは学校のDXに挑戦しました。「附小をDXしてください」という校長先生からの依頼がビデオメッセージで来るところからスタートします。

わか子:なんだか、似たような名前の人気テレビ番組がありますね(笑)。とてもおもしろそうです。

林先生:この図を見ていただければ、具体的にどのように進めたかがわかってもらえると思います。これは本校でSTEAM教育を実践するうえで参考にしている森山潤先生の「J-STEAM」というSTEAM単元の学習モデルです。探究し知る学びには、これまでの総合的な学習の時間に用いられてきた探究プロセスが踏襲され、発想し創る学びとしてデザイン思考5Steps(※3)が位置付けられています。

わか子:「課題設定」から一連のプロセスがスタートするのですか?

林先生:はい。いきなりアイデアを考えたり何かを作ったりするわけではありません。グループごとに学校内をフィールドワークして、どんな仕事があるのかを付箋を使って整理します。そして、校長室や図書室、給食室などの仕事を見つけたら、実際にインタビューや観察をして「情報の収集」を行い、なぜその仕事が必要なのかを、集めた情報をさまざまなアプリを使って「整理・分析」します。ここで自分たちの学校生活がたくさんの仕事に支えられていたことに気付きます。こんな大切なことは学校中に知らせなければいけないということから、「まとめ・表現」の段階でポスターセッションとして校内発表します。ここまでが「探究し知る」学びです。

わか子:なるほど。国語での話し合いだったり、カメラや表計算アプリの活用だったり、各教科の学習や情報教育で学んだことが活かされるようになっているんですね。

林先生:そのとおりです。ここから課題解決型学習(PjBL(Project-Based Learning))に入ります。「知る学び」から「創る学び」にはすぐに移行できないので、両者をつなぐ「ユーザの設定」のフェイズがあります。感謝の気持ちをカタチにし届けるという目的で「附小DXサミット」を企画し招待状を送ります。ここで誰のために行うプロジェクトなのかというユーザ認識が強まります。ここから「発想し創る学び」です。「共感」フェイズでインタビューやアンケートを通してより具体的にユーザの困りごとに寄り添い、「問題定義」で困りごとの正体(解決すべき課題)を明らかにし、解決方法のアイデア(発想)を出します。

わか子:そして、課題解決のためのプログラミングによるものづくりを行うのですね。

林先生:これまでの授業でプログラミングやロボット教材に触れていますので、自分たちで解決法を選んでもらいます。図工のアナログ的なものづくりの授業も活きてきますし、3D CADを使ったデジタルファブリケーションの観点からもアプローチして、どんどん子どもたちのアイデアをカタチにしていきます。そして、プロトタイプが完成したら「附小DXサミット」でユーザにプレゼンを行い(テスト)、もらったフィードバックを反映して完成品をお礼の手紙と一緒にユーザに届けます。そして最後に一連のプロジェクトを振り返って出てきた課題は次の各教科の学びへとつなげていきます。

わか子:しっかりと体系化されていて驚かされます。最終的に各グループはどんなものを作ったのですか?

林先生:給食室では給食のお皿が汚れたまま返ってくるという問題を解決するために「お皿が汚れているかを確かめるロボット」、図書室は「椅子が出しっぱなしになっていることを教えてくれるロボット」、校長室では「校長先生の運動不足を解消するためにスクワットの回数を数えるロボット」などを作りました。

わか子:えっ、そんなすごいものを作ったんですか! どれくらいの期間でこのプロジェクトを行ったのでしょうか?

林先生:本来は年間プロジェクトとして行うべきですが、昨年度は年度当初から計画を開始してスタートしたので、このSTEAM単元は3学期に集中的に行いました。

わか子:このようなプロジェクトを全学年で実施されたわけではないですよね?

林先生:そうですね。初めての試みだったこともあり、まずは私の担当学年である3年生で実施しました。今後はさまざまな学年で取り組んでいくことになりますが、基本的な実践方法は変わることはありません。それぞれの教科でICT活用や情報教育の授業を行ったうえで、総合的な学習の時間で子どもたちの発達段階に合わせたSTEAM単元としてのプロジェクトを行っていきます。昨年は中学年だったので「学校のDX」を課題にしたのですが、高学年では市の問題や、低学年では家族やクラスの困りごとなど発達段階に応じたテーマ設定にしようと思っています。

(※1)文部科学省 「GIGAスクール構想」について
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20200706-mxt_syoto01-000008468-22.pdf

(※2)文部科学省 教育の情報化に関する手引き
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00724.html

(※3)スタンフォード大学ハッソ・プラットナー・デザイン研究所 スタンフォードデザインガイド〜デザイン思考5つのステップ〜
http://www.nara-wu.ac.jp/core/img/pdf/DesignThinking5steps.pdf

STEAM教育で重要なポイント

わか子:このようなSTEAM教育を行ううえで、どんなことが重要ですか?

林先生:各教科で「すでに学んでいる」ことが大事だと思います。というのも、そうでないと、子どもたちが問題解決する際に「Scratchを使えるな」といったような発想が浮かんでこないからです。また、あらかじめロボット教材の基本的な使い方なども身につけておく必要があります。STEAMの授業でいちからそれを説明するような状態だと、なかなかうまくいかないでしょう。あらかじめ各教科の授業を情報活用型にしておき、その中で子どもたちがスキルや教材を使えるようにしておくことが、探究的・創造的な学習につながると思います。

わか子:そうなると、やはりそれぞれの教科の先生方の協力も必要になってきますね。

林先生:はい、それが理想です。ただし、もちろん先生方もお忙しいですし、情報活用型の授業が苦手な先生もいます。また、理科や図工などは教科書の単元の学びをそのまま活かせられますが、そのほかの学科では難しいですし、そもそも小学校には,TとEを学ぶ中学校技術科や高校情報科のような授業はありません。ですから、昨年は私のほうでそうした授業を受け持ちました。各教科の先生方の協力をどれだけ得られるかはこれからの課題の1つです。

わか子:どのように協力を仰いでいこうと思っていますか?

林先生:無理強いするのではなく、しっかりと話し合って相談すれば否定的なことにはならないと思います。実際に「附小DXプロジェクト」では校長先生はじめ、保健室や給食室などの先生方が仕事をしているときに子どもたちがインタビューに行ったりするので、前向きな協力がなければ成立しませんでした。教科の学びをつなぐのはこれからの課題ですが、それ以前に本校では学校全体でSTEAM教育に臨むという姿勢が共通認識として定着していたのがよかった点です。

わか子:そのような共通認識を先生方と共有するためにはどうしたらいいのでしょうか?

冨田校長:子どもたちのどのような資質能力を育むのかについて、学校全体でコンセンサスをとれていることが大事だと思います。本校では「人間として生き抜く力とは何なのか」について教員と議論を重ね、その考えを共通化させました。もちろん教科ごとに目標や子どもたちに身につけてほしい力はあると思いますが、これからの時代は子どもたちに新しい資質能力を身につけてもらうことが大事であると教員の方々が大前提として理解しないと、教科間の積極的な交流にはつながりにくいと思います。また、教科担任制を採り入れている本校は一般的な公立の学校よりも教員の入り変わりが激しいため、新しく赴任される教員の方にも本校のSTEAM教育の考え方や取り組みをしっかりと説明し、スタートラインに立っていただくことが大事だと考えています。

林先生:私が大事だと思うのは、ほかの先生方に子どもたちが楽しんでいる姿や子どもたちが作った作品を実際に見てもらうことです。STEAMを概念的に理解するだけではイメージが湧かないこともあります。本校でも、「附小DXプロジェクト」を通して授業の様子や子どもたちの姿を見たことで理解が深まったという先生が多くいます。各教科の先生方は豊富な知識や指導力をすでに持っているので、そうしたきっかけさえあれば「自分なりにこうしてみよう!」と創意工夫して、自分の授業に落とし込んでもらえるのではないでしょうか。

STEAM教育で育まれる資質・能力

わか子:STEAM教育で子どもたちの評価はどのように行っているのですか?

林先生:各教科の学習では、その教科の評価観点があります。一方で、プログラミング教育では、たとえば「〇〇をするためのプログラムをつくることができた」か否かを評価することはありません。児童の資質能力の伸びを捉え、意欲や工夫など成長の見られる児童にはその伸びを捉え、それを適切に伝えることにより児童の学びがより深まるようにしていくことが望ましいとされています。

私の場合は兵庫教育大学大学院で研究開発された「STEAM教育における児童のデザイン思考を把握する測定尺度」や、個人的に研究しているプログラミング教育の形成的評価尺度を参考にしていますが、プログラミングや情報活用の出来不出来を成績や通知表で点数にすることはありません。あくまでも教育目標に照らして児童の学習が成立しているかどうか、どのような力をつけたのかを形成的に評価することが大切です。(※4)

わか子:コーチのように形成的評価を行っているのですね。

林先生:はい。テストはしませんが、「この活動ではここが大切」という観点をもって授業に臨むようにしています。そして、子どもたち一人ひとりの活動を確認して、質問したり、声をかけたりして、学習の進展を促すようにしています。

わか子:STEAM教育の効果を感じられた、子どもたちの印象的なエピソードはありますか?

冨田校長:「附小DXプロジェクト」で印象的だったのは、私のために開発してくれたスクワット回数を計るロボットのプロトタイプのプレゼン中に、一部の部品が落ちてしまったときです。私は「壊してしまった!」とショックを受けたのですが、子どもたちはそんなことにもめげず、すぐに改良版を持ってきてくれました。このように失敗してもチャレンジし続ける子どもたちの姿はこれまでの通常の学習ではあまり見ることができなかったように思います。そうした子どもたちの姿を見るととても嬉しく感じますし、子どもたちの深い学びにつながっていることを実感します。

林先生:STEAM教育を通して子どもたちが身につけなければならないのは、将来の予測困難な問題にぶつかったときに、立ち向かって打ち勝つ力です。そのために欠かせないのがコンピュータの活用であり、ひとたびコンピュータによって問題解決ができるようになれば「このようにすればできる」という成功体験が積み上がります。もちろん、そこに至るまではトライ&エラーの繰り返しになりますが、新たな価値創造の喜びを小学生の段階で感じ取っている子どもたちの姿を見ると、STEAM教育をやっていて本当に良かったと思います。

わか子:STEAM教育を行っていて苦労されたことはありますか?

林先生:もちろん、私たちもトライ&エラーの繰り返しです。子どもたちがこのように動いてくれるかなと思っても、その通りには決して動いてくれませんから。たとえば「附小DXプロジェクト」では、「給食のお皿が汚れたまま返ってくる」という給食室の問題に取り組むグループは「残さないで食べるように呼びかけるデジタルサイネージ」を当初作る予定でしたが、途中から「お皿が汚れているかを確かめるロボットを作りたい!」となりました。それを聞いたとき「3年生でそんなプログラムが作れる?」と最初は不安になるわけです。私は多少の機械学習の知識があるので、そのためにどんなツールや方法を使えばいいかはわかりましたが、見本のプログラムは存在しません。そのため、サンプルプログラムを用意する必要があり、とても大変でした。

わか子:子どもたちの発想を大事にしたり、自分たちが見つけた課題解決法を叶えてあげたりするには、そうした先生の裏側の努力も必要なんですね。

林先生:特にプログラミングでは先生の補助的なサポートが欠かせません。また6班あればそれぞれのグループが別々のことに取り組んでいるので、頭の中でそれぞれの活動を理解して、なおかつ一人ひとりの活動を見ていくのもとても大変です。また、特に小学校ではグループ学習をしているときに、意見が合わなくて子どもたち同士のトラブルになってしまうことがあるんです。自分たちで話し合いをして解決することが難しいケースもあるので、そのあたりを教員がうまくコントロールする必要があります。ただ、子どもたちが知らぬ間にトラブルを解決して次の活動に臨んでいたりする姿を見ると、モチベーションをリセットできて嬉しさもひとしおですよ。

わか子:教員にとって子どもたちの成長を目の当たりにできるのは、本当に素晴らしいことですよね。たくさんの貴重な話をお聞きでき、とても参考になりました。私もSTEAMをいち早く実践して、子どもたちの将来につながる笑顔をもっと見たいと思います。

(※4)文部科学省 プログラミング教育の手引き(第3版)
https://www.mext.go.jp/content/20200218-mxt_jogai02-100003171_002.pdf

【次回予告】

2校のリーディングスクールの視察を終えたわか子先生。次回はこれまで学んだことを踏まえて、STEAM教育を実践するにはどのような課題があるのか、また具体的にどのように取り組んでいけばいいかについて考えます。