自然の中で学ぶ探究

山々の自然の中で学ぶ全寮制の五ヶ瀬教育学校は、前述の通り探究的な学びに力を入れている。「高等学校における探究の時間は、以前は『総合的な学習の時間』と呼ばれていましたが、その総合的な学習の時間の学びを開発するモデル校として作られたのが本校です。本校ではこの総合的な学びを『フォレストピア学習』と名付け、自然の里山の中だからこそ実現できる、地域と協働した探究活動に注力してきました」と語るのは、五ヶ瀬教育学校 研究調査部主任 中島洋雄氏。 

2014年度には文部科学省から「スーパーグローバルハイスクール」(SGH)、2019年度には「地域との協働による高等学校教育改革推進事業(グローカル型:G型事業)」に認定され、グローバルの視点を取り入れた「グローバルフォレストピア学習」として教育カリキュラムを編成し、国内外の研究機関とも連携した研究開発を進めた。

その学びの中で活用されているのが、1人1台の学習者用端末だ。

1.山々に囲まれた自然の中で学ぶ五ヶ瀬中等教育学校は、フィールドワークも多い。

2.Chromebook、Windows PC共にデタッチャブルタイプの端末を採用しており、フィールドワーク時にはタブレット部だけを持ち歩くなど柔軟に活用している。

3.2021年6月からは寮でも端末を使えるよう取り組みを進めており、寮内から東京大学主催のオンライン講座へ参加するなど、シームレスな学びの環境を構築している。

Web会議で国内外の識者とつながる

もともと同校は、宮崎県とGoogleによる「1人1台Chromebook実証研究フィールド校」(2020年12月〜2021年9月)や宮崎県の「県立学校BYOD導入モデル調査研究校」(2021年4月〜2022年3月)に指定されたことで、3年前から校内の学習者用端末の整備が進められていた。現在は1 〜3年生がWindows端末、4 〜6年生はChromebookという1人1台の学習者用端末が整備された環境で、学びに取り組んでいる。

中島氏は「これらの端末が整備されたことで、グローバル視点を取り入れた学びがより広がりました。五ヶ瀬町から国内外の専門家とやりとりをするのは、地理的な問題でハードルが高かったのですが、全校生徒の手元に学習者用の端末があることで、日常的にメールやWeb会議ツールを使い国内外の専門家とコンタクトが取れるようになりました」と語る。これらの端末が整備される以前も専門家とのメールでのやりとりは実施されていたが、生徒1人に1台の端末は整備されていなかったため、教員のメールアドレスを利用して外部とコンタクトを取っていた。また実際に話を聞く場合は学校に直接来てもらうなど、時間や手間を要していたようだ。そうした課題が端末整備により一気に解消されたのだ。

同校で教育DX推進チームリーダー・研究調査部を担当し、社会科を教えている上田聖矢氏は「特にここ1 〜2年で端末活用は大きく進みました。本校には学校林があり、生徒たちは端末を持ち出してGoogle ストリートビュー用の360 度写真を撮影したり、愛媛県の県立高校とWeb会議ツールでつないで、お互いの地域を紹介し合うバーチャルフィールドワークを行ったりしています」とその活用事例を語る。

こうした探究型学習の目的は、生徒自らが課題を発見して仮説を立てながら、周囲と協働的に学び課題解決を目指していく中で、思考力、判断力、表現力、課題解決能力などの資質や能力を育むことにある。一方で、こうした探究活動で養われる資質や能力は、これまで客観的に可視化することが難しかった。中島氏は「以前は、生徒自身の自己評価で探究活動で身に付く資質や能力の成長を評価していましたが、この評価をより客観的かつ公正に行えるようにしたい思いがありました。そうした時に知ったのが、Institution fora Global Societyが提供する評価ツール『Ai GROW』でした」と話す。

Ai GROWは生徒の資質や能力を、AIを活用して可視化する評価ツールだ。生徒の自己評価と、生徒同士が評価する「相互評価」の方法を取り入れている。また、人同士の評価で生じやすい忖度や性格上の評価のぶれなどをAIが補正し、主体性や協働性、批判的思考力、創造的思考力、協働的思考力に加え、リーダーシップやイノベーションといった25のコンピテンシーをスコア化する。

五ヶ瀬教育学校ではこのAi GROWを活用した生徒の資質・能力の評価を、2022年度12月および3月に、当時の3 〜5年生の授業で実施した。「12月から3月の間に、生徒たちが探究活動で学んだ内容を発表する発表会があったため、その前後の評価を調査しました。面白いのは、学年が上がるごとに課題解決能力や創造的思考能力が伸びていくことです。次年度以降は探究活動の中で確実に伸びている力とそうでない力などの可視化にも取り組んでいきたいですね」と中島氏は語る。

探究活動で得られる力は、めまぐるしく変動するVUCA※の時代を生き抜く21世紀型スキルにつながる。「本校ではこれまで、『野性味あふれるグローバル人材の育成』を目指し探究活動を進めてきましたが、これからはそれをさらに発展させた『野性味あふれる価値創造人材の育成』を目指していきます。そのためには生徒が探究活動の中で伸ばしたスキルの可視化は不可欠であり、Ai GROWやさまざまなICTツールを活用しながら、教育活動をアップデートしていきます」と上田氏は展望を語った。

Web会議ツールを活用して遠方の専門家や学校とオンラインでつながりながら、
学びを進めている。




探究活動で伸びた力を測定するため、Ai GROWを活用している様子。
測定した能力のデータを活用して、探究活動の教育効果を科学的に検証できる。



※ Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の四つの単語の頭文字を取ったアクロニムで、将来の予測が困難な状況を指す

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