これからはAIに聞けば悩みも解決!?

わか子:失礼します! 校長先生、お呼びですか?

校長:忙しいところ申し訳ないね。まぁ、座って、座って。ちょっと相談したいことがあってね。

わか子:(また、何か突然の思いつきかしら…)何でしょう?

校長:(パソコンの画面を見ながら)突然だけど、今、何か学校のことで悩んでいることはある?

わか子:そうですね。我が校のICT活用も進んできたと思うんです。ICT実践校としても認知され始めましたし。ただ、ICTを活用して今後どのような教育をしていったらいいのかについて悩んでいます。

校長:なるほど。じゃあ、「これからの教育に求められることは?」と入力。ちょっと待ってね。

わか子:(いったい何をやっているのかしら?) 

校長:はい、これが答え。ちょっとこのパソコンの画面を見て。読み上げるね。

これからの教育に求められることは、以下のようなものが挙げられます。

1.21世紀スキルの育成
今後の社会で必要とされるスキルとして、創造力・批判的思考力・コミュニケーション力・協働性・問題解決能力などが挙げられます。これらのスキルを育む教育が求められます。

2.STEAM教育の強化
STEAM(Science, Technology, Engineering, Art, Mathematics)教育は、現代社会において不可欠な分野です。STEM教育を強化し、技術革新に貢献する人材の育成が求められます。

3.グローバル人材の育成
グローバル化が進む現代社会において、異なる文化や言語に対する理解や、国際的なコミュニケーション能力が求められます。異文化体験や留学制度の充実、外国語教育の強化などが必要です。

4.個別最適化された教育の実現
個人差を考慮し、子どもたち一人ひとりに最適な教育を提供することが求められます。AIやデータ分析技術を活用した教育システムの開発などが進められています。

5.学びの場の多様化
学校だけでなく、オンライン教育やコミュニティカレッジなど、多様な学びの場を提供することが求められます。また、職業訓練や社会人向けの教育プログラムなど、ライフステージに合わせた教育プログラムの充実も必要です。

以上が、これからの教育に求められることの一例です。

わか子:えっ、すごい! 質問を入力しただけで、すごい答えが返ってきた!

校長:今話題の「対話型AI」だよ。本当にAIの進化ってすごいよね。もうこんなことができるんだから。これからの将来、子どもたちに求められる資質や能力も変わってくるのは間違いないね。というわけで、ここにも書いてあるように、本校でも「STEAM教育」にこれから力を入れていこうと思っていてね。

わか子:STEAM教育…。聞いたことはもちろんありますけど…。

校長:GIGAスクール構想によって1人1台の学習者用端末を使った新しい学びを実践する環境が整って、本校でもプログラミングの授業や「総合的な学習の時間」などで活用しているよね。ただ、さらなるICTの活用を図るためにも現状に満足するのではなく、文部科学省も推進するSTEAM教育を積極的に取り入れていこうと思うんだ。

わか子:(さすが、校長! ちゃんと考えてるのね)。わかりました。ICTの活用は教育方針や教育手法を確立したうえで実践することが望ましいと思いますので、私もSTEAM教育についていちから学び、校内研修会でほかの先生方にも説明できるようしたいと思います。

STEAMっていったいどんな教育?

STEAMっていったいどんな教育?

ひろと:わか子先生、なんだかお疲れのようですが…。

わか子:校長先生がこれから我が校で「STEAM教育」に取り組んでいくというから、毎日必死に勉強してるのよ。

ひろと:スチーム? あっ、なんかそんなゲームプラットフォームありましたね。ゲームのしすぎで寝不足なんですか?

わか子:そうじゃないわよ! STEAMというのはね、2000年代後半からアメリカで開始された新しい教育手法のことなの。Science、Technology、Engineering、Art、Mathematicsの5つの単語の頭文字を組み合わせて、STEAMと呼ばれるの。

ひろと:わ、失礼しました! 知らなかったです。はやお先生はSTEAM教育って知ってましたか?

はやお:もちろん。日本語でいえばSは「科学」、Tは「技術」、Eは「工学やものづくり」、Aは「芸術やリベラルアーツ」、Mは「数学」のことを指すんだよね。「STEM教育」という言葉もなかった?

わか子:よくご存じで。STEAM教育の前身に当たるのがSTEM教育で、これは「S(科学)、T(技術)、E(工学・ものづくり)、数学(M)」の頭文字をとったものね。そこに「A(芸術やリベラルアーツ)」が加わったの。今では、こちらのほうがよく使われるわね。

はやお:アメリカのオバマ元大統領がSTEM教育支援を選挙公約に掲げて当選し、STEM教育を優先課題として国家戦略に掲げたことが大きなきっかけで、米国のみならず世界でも知られるようになったよね。

ひろと:そうなんですね。でも、すでにそれらの教科はあるじゃないですか。どこが新しいんですか?

わか子:STEAM教育の狙いは、それら1つ1つの教科の学びを基盤としながら、教科の枠を超えて横断的に学び、問題を見つける力や解決する力、創造する力を育むことにあるの。

ひろと:教員が子どもたちに向かって一方的に授業を行うスタイルから、テーマや課題を与えて子どもたちが自主的に学べる「アクティブラーニング」を取り入れた探究学習や課題解決型学習(PBL)などを行っていますよね。それとも関係があるんですか?

わか子:そうだね。そうした新しい学びを実践するうえでベースとなるのが、STEAM教育の考え方。たとえば、「二酸化炭素を減らすには?」という課題解決型の学習をするとき、二酸化炭素について知ることは当然だけど、世界全体の排出量について知るには社会や算数の知識が必要だし、それを調べるためにはタブレットなどのテクノロジーを活用する必要があるよね。それに、たとえば子どもたちが大きくなって、実際に二酸化炭素を減らすための製品や技術を開発することになれば工学の力も必要。さらに新たな解決手法を生み出したり、研究や成果をアウトプットするにはアートの力も必要になってくる。課題や問題に対して主体的に取り組み、具体的な解決策を学問横断的に創造的に表現することを体験させるのが、STEAM教育というわけ。

ひろと:新しい学びを実践するうえで「EdTech」という言葉が使われますよね。それとは何が違うんでしょうか?

わか子:お、よく知っているね。EdTechは、Education(教育)×Technology(テクノロジー)を掛け合わせた言葉で、ICT技術を効果的に活用した教育手法のこと。一方でSTEAM教育は、個別最適化された学習を行うために1人1台のタブレットなどのICT技術や環境は必要なものの、学びの効率化を主眼としたものではなく、さまざまな課題を見つけ、クリエイティブな発想で問題解決を創造・実現していくことに重きが置かれているの。

STEAM教育が求められる理由とは?

STEAM教育が求められる理由とは?

ひろと:でも、そもそもなぜSTEAM教育が必要なんでしょうか?

わか子:アメリカで当初STEM教育が注目されることになったのは、やはりロボットやAIといったテクノロジー技術の急速な進歩が背景にあるの。新たな技術革新を行ううえでは、教科等横断的な学習が欠かせないからね。それに、社会とテクノロジーの関係がますます密接になり、目まぐるしいスピードで進化するこれからのAI時代を生き抜くには、子どもたちに21世紀型の新しいスキルや人材育成の手法が必要となるからなの。

ひろと:たしかに、これからAI(人工知能)がますます発展していくと、人間に求められる資質や能力も変わってくる気がします。

はやお:「Society 5.0」(仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会)を生き抜くために求められる体験を、学校で経験させるのがSTEAM教育の狙いなんだ。

わか子:そうね。今後のIT社会に順応した競争力のある人材に育てるためには、「探究」(問題を見つける力や解決する力)、そして「創造」する力(クリエイティビティ)が大切だし、子どもたちが将来特定の分野へ進むことになったときに、専門知識を深めることにもつながるわよね。

ひろと:STEAM教育は、STEM教育が先行したことから理系的な取り組みと思われがちだけど、A(芸術やリベラルアーツ)が加わっている点がもっとも重要なんですね。

わか子:そう、これからの時代は「答えは1つではなく、正解もない」。だから、答えを自ら見つけ出す力を養うために、「創造」が重要なキーワードとなっているの。

ひろと:今の子どもたちは本当にすごい時代に生きていますね。もし僕がこの時代の子どもだったら、大丈夫かなと心配になっちゃいます…。

はやお:そうだね、同感。STEAM教育は21世紀型の「読み書きそろばん」みたいなものだから、子どもの未来を拓くために、私たち教員や学校がいち早く実践していかないといけない気がするね。

わか子:STEAM教育については理解したけれど、これからそれを実践するには具体的にどうすればいいのかについては、私もまだこれから学んでいくところ。お二人もこれからちょっと力を貸してね。

ひろと:もちろんです! まずは今日わか子先生に聞いたことを頭にしっかりと叩き込んでおきます。

わか子:ひろと先生、対話型AIって知ってる? このWebサイトに「STEAM教育とは?」と質問してみて。復習に役立つわよ。

ひろと:わっ! AIが自動的に答えを教えてくれるんですか。教員もアップデートしないと、これからの時代を生き抜けないな…。

STEAM教育とは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Art)、数学(Mathematics)の頭文字を取った言葉で、これらの学問を統合的に学ぶ教育のことを指します。つまり、単にSTEM教育(科学・技術・工学・数学の教育)に、芸術を加えたものです。

STEAM教育は、現代社会に必要な多様な能力を養成することを目的としています。具体的には、問題解決能力、創造力、コミュニケーション能力、協調性、批判的思考力、情報リテラシーなどです。

この教育手法は、学生が単一の科目に留まらず、多様な分野を結びつけて学ぶことができるようになるため、より総合的な知識を身につけることができます。また、STEAM教育は、現実世界の問題を解決するために必要なスキルやアイデアを身につけることができるため、将来的には社会に貢献する人材を育成することができると期待されています。

【次回予告】

STEAM教育の概念をしっかりと学んだことを校長先生へ報告するわか子先生。とはいえ、これから大事となるのはSTEAM教育をいかに授業へ落とし込むか。次回は、そのために理解しておくべき、STEAM教育の国内への広がりや課題、文部科学省の方針や施策、教員に求められる姿勢などが話題に上がります。

次回:第2回 STEAM教育の現状と、学校・教員に求められること

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