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通信量を節約してアプリやOSアップデートの課題を解決する、Macのコンテンツキャッシュの真価とは

2021年09月22日 記事

学校現場におけるiPad活用について、前編では同志社中学校の先進的な事例を紹介した。後編の本稿では、そうした学習を支える同校のネットワーク環境を紹介しよう。

 

注目したいのは、学習アプリやOSのアップデートなどのダウンロードで効果を発揮するMacの「コンテンツキャッシュ」を導入していることだ。学校現場で同時に多くのiPadを快適に運用するには、高速で安定したネットワーク環境が欠かせないが、GIGAスクール構想でiPadを採用した学校の中には、ネットワーク環境に課題を抱えている自治体や教育機関も多い。同志社中学校ではどのようにコンテンツキャッシュを活用し、快適な学習環境を構築しているのか。同校における導入事例とその効果をレポートする。

 

同志社中学校のネットワーク環境は、Mac miniによるコンテンツキャッシュの利用で快適に
同志社中学校のネットワーク環境は、Mac miniによるコンテンツキャッシュの利用で快適に

iPadの活用増を想定して、当初からコンテンツキャッシュを利用

同志社中学校(京都市左京区)では、2014年度の新1年生から1人1台iPadの導入を開始し、2016年以降は生徒全員がiPadを使えるICT環境が整備されている。現在約900名の生徒が授業や課外活動にiPadを利用しており、導入当初と比べて校内ネットワークの通信量が格段に増加しているという。

 

また、例年秋になるとiPadOSのアップデートが行われるほか、多くの教育アプリも順次更新が必要となる。さらに年度替わりのタイミングでは、新しい生徒がアプリの登録などで校内ネットワークのトラフィックが増える傾向にある。

 

もちろん、既に超高速なネットワーク環境が整備されている学校であれば影響は出にくいだろう。しかし、既存のネットワーク環境が老朽化している場合は、通信速度が低下して生徒の学習体験が損なわれるおそれもある。

 

同志社中学校でICT教育を担当する反田任教諭は、情報システムの導入に際して、重複する各種コンテンツのダウンロードを効率化するキャッシュサーバーの設置を仕様書に盛り込み、ネットワーク負荷の増大に備えてきた。

 

同志社中学校 EdTech Promotions Manager(教育ICT推進担当)、図書・情報教育部主任、英語科 反田 任教諭
同志社中学校 EdTech Promotions Manager(教育ICT推進担当)、図書・情報教育部主任、英語科 反田 任教諭

「iPadを活用するシーンが増えることは想定していました。インターネット回線自体は2020年12月にビジネス用の1Gbpsに変更し、ベストエフォートですが実測で650Mbpsは出ています。しかし、回線の増強だけではスピードの余裕は出ないと考え、iPad導入当初からMac miniによるコンテンツキャッシュを利用しています」(反田教諭)

※クリックすると拡大表示されます
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同志社中学校のネットワーク構成模式図。一般的な校内LANの構成であれば、サーバーに有線LANケーブルでMacを直結するだけでコンテンツキャッシュを構成可能

Mac mini1台でOSやアプリのアップデートを高速化

コンテンツキャッシュは、校内LANを利用するiPadやMac、Apple TVなどのAppleデバイスに対して、Appleが提供するクラウドサービスやコンテンツを効率的に配信するサービスだ。Macでこの機能を有効にすると、一度ダウンロードされた各種のコンテンツはMacにキャッシュ(一時保存)され、同じネットワークにある生徒のiPadなどはインターネットに接続しなくても校内のMacから直接取得できる。

 

以前はmacOS Sever専用の機能として提供されていたコンテンツキャッシュだが、2017年のmacOS High Sierra以降はシステム標準の機能として提供されている。そのため、据え置き型のMac miniなどが1台あれば、校内LANに有線LANケーブルで直結することですぐに運用を開始できる。

 

Macにキャッシュされる主なコンテンツの種類としては、iPadではiPadOSのアップデート、App StoreやiTunesで配布されているアプリやコンテンツ、さらにiCloudに保存された書類や設定データなどが含まれる。場合によっては1本で数GB以上となるアプリやデータを生徒の人数分ダウンロードする必要がなくなると考えれば、どれほどの負荷軽減がもたらされるか想像に難くないだろう。

 

ネットワーク負荷軽減のために一般的なプロキシサーバーが設置されている場合は、5GB以上のファイルをキャッシュできるように設定することで、iPadOSのアップデートファイルも保存できる。しかし、通常はApp Storeで配布されているアプリやApple Books、iTunesのコンテンツなどはプロキシサーバーではキャッシュされないため、Macで運用するコンテンツキャッシュの完全な代替とはならない点には注意したい。

 

なお、ウイルスチェックなどのためにプロキシサーバーを運用している場合には、iPadなどの端末がプロキシを経由せずにコンテンツキャッシュにアクセスできるようプロキシ自動設定(PAC)ファイルを作成することで既存のシステムと併存できる。ただし、別途Webサーバーの設置が必要になるなど構成はやや複雑になる。(この場合、キャッシュサーバーもプロキシサーバーを経由せずにインターネットにアクセスできる様にすることが望ましい)

 

省スペースなMac miniはコンテンツキャッシュを動かすサーバーに最適なモデル。キーボードやマウス、ディスプレイは接続せず、管理者はネットワーク経由で画面にアクセスする。組織内のコンテンツキャッシュがオフラインとなっている場合には、インターネットから直接リソースを取得するためMac miniの冗長化は必要ない

なお、同志社中学校のケースでは2014年以来1台のMac miniで約900人以上のコンテンツキャッシュをカバーしてきた。2018年に新しいMac miniを導入した際に、余剰となったMac miniを2台目のキャッシュサーバーとして追加することで、ローカルネットワーク内の負荷をさらに軽減することに成功している。

学習が止まらない安定したネットワーク環境は必須。生徒が楽しめる学習体験もあきらめない

コンテンツキャッシュの設定もMacらしくシンプルでわかりやすいインターフェイスとなっている。同志社中学校のように単一のパブリックIPでインターネット接続する環境の場合には、「システム環境設定」を起動して、[共有]パネルから[コンテンツキャッシュ]のチェックボックスをオンにするだけである。

 

あとは必要に応じてキャッシュするコンテンツの種類をメニューから選択し、[オプション]項目でキャッシュのサイズをスライダで調整する。特別な事情がなければ初期設定のままで問題ないが、児童生徒がiCloudを個別に利用する場合はキャッシュを圧迫する恐れがあるため、コンテンツの種類を[共有コンテンツのみ]に設定するとよい。ネットワークの構成でコンテンツを配信するセグメントを分ける応用的な設定も可能だ。

 

コンテンツキャッシュを有効にしたいMacでチェックボックスをオンにすれば、すぐに利用可能。コンテンツキャッシュを有効にしたMacは、通信帯域やストレージなどに余裕があれば、その他の管理用途で利用しても問題はない

コンテンツキャッシュを設定した後は、Macの起動時と55分ごとにAppleのサービスに自らのパブリックIPアドレスとプライベートIPアドレスを自動的に登録する。そして、同一のネットワーク内にある生徒のiPadなどからAppleのサービスにコンテンツのリクエストがあれば、コンテンツキャッシュとの照合が行われる。該当するコンテンツがキャッシュされていなければ、初回のみAppleのサーバーからダウンロードされてキャッシュされ、その後は同一のリクエストがあった場合は校内のコンテンツキャッシュから配信される、というのが基本的な仕組みとなる。稼働後は監視や設定変更などの保守作業を頻繁にする必要がないため、管理の負荷が大きく減るのもメリットだ。

 

そしてコンテンツキャッシュが有効に働いているかどうかは、macOS標準ユーティリティの「アクティビティモニタ」からリアルタイムで確認できる。機能が有効になっていれば[キャッシュ]タブが表示されるので、一定期間にどれだけの量のデータがキャッシュされたのかをグラフや数値ですぐに把握できるのが特徴だ。年度替わりなどの多忙な時期と夏休みのアクセス数を比較して、ピーク時の負荷を想定する材料にもなるだろう。

 

アクティビティモニタではAppleのサーバーから提供されたデータ容量やキャッシュされたコンテンツが配信された容量を、[1時間以内][24時間以内][7日間以内][30日以内]といった単位で把握できる

「一般的に言って、企業のネットワークよりも学校のほうが同時に同じコンテンツにアクセスする頻度が高いと思いますので、コンテンツキャッシュは必須の機能と考えています。授業の前までに必要なアップデートが終わっていなければ学習が滞ってしまいますし、ネットワークへの負荷が高いからといってGarageBandやKeynoteの楽しい機能を諦めるのでは生徒のモチベーションが上がりません」(反田教諭)

 

同志社中学校ではコンテンツキャッシュを初期から導入していたため、それ以前と比べて体感速度がどの程度向上しているかについての定性的な調査は行われていない。しかし、iPadアプリのダウンロードなどで大きなトラブルなどは報告されていないことからも効果は十分に実感できているという。

 

「現在、80本以上のiPad用の学習アプリを利用していますが、コンテンツキャッシュがどれほど効いているか、生徒はもちろん教職員の多くも意識していないでしょう。ですが、こういう目には見えない部分を強化しておくことが、iPadの学習体験を向上させるポイントとなります。今あるネットワークにMacを1台追加するだけで実現できますので(※)、iPadを導入された学校には、ぜひおすすめしたいですね」(反田教諭)

 

※ネットワーク構成等により必要となるMacの台数は異なります

 

センターと学校それぞれにコンテンツキャッシュを設置して構造化するペアレント構成など高度な設定の場合は、[option]キーを押しながら[詳細オプション]をクリックすることで設定可能になる

コンテンツキャッシュの動作に推奨されるマシン性能は、現行モデルのM1 Mac miniの場合はメモリを16GBに増設したほうがよい。

 

また、コンテンツキャッシュの性能はNICの帯域に大きく依存する。Mac miniは購入時のオプションで10Gbイーサネットに換装できるので、接続先のスイッチが10Gbpsで接続できる場合にはあらかじめアップグレードをおすすめしたい。

 

参考:Macのコンテンツキャッシュとは

https://support.apple.com/ja-jp/guide/mac-help/mchl9388ba1b/mac

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