STEAM Lab 活用事例
STEAM Lab活用の目的、ねらい
本校が行っている授業の中で、「理数探究」という課題研究の授業があります。理数科生徒が対象となる授業であり、年間を通して自身の研究テーマに沿って探究活動を進めていきます。その中で、必ずと言っていいほど、「実験」や「観察」を行う必要が出てきます。既存の実験方法ではなく、自身で考える実験・観察方法を叶えるためには、高度な実験が可能となる大学や専門機関レベルの機器や自作の機器が必要になってきます。授業の時間などとの兼ね合いもあり定期的に大学や専門機関に赴いて使用することは現実的ではありません。そこで可能な限り実験機器を自作できないか、数年前から検討することが多かったものの、そのほとんどは実現することがありませんでした(例:船の流線形が水流とどのように関係しているか→プラスチック製の船のモデルを作成しようとしましたが、曲線の表現が難しく実験結果に大きく影響を及ぼす結果になってしまった。など)。そこで、3Dプリンターを活用できるようになれば、生徒の研究テーマに沿った実験の実現の幅が広くなるのではと考えました。また、普通科生徒が行っている探究活動にもあわせて活用されることも期待しています。
活用実績事例(サマリー)授業での活用
教科 | 学年 | 単元名 |
理数探究 | 2年 | 年間を通して |
英語 | 1年 | 3Dプリンターの活用方法やアプリの活用などを通して英語の表現力を 高める(単元に当てはめた訳ではない) |
1.年間を通して 教科:理数探究 学年:2年
【授業の目標】
実験や計測したい活動について、理想とする機器の作成の一助とするため。【展開計画】
区分 | 学習活動 | 活用ツール |
導入 |
実験器具や計測機器の作成などで、自作するには厳しそうな部品(またはその 物自体)がないか、確認する。 |
|
展開 |
必要な作成したい部品の設計図を担当教員と共有し、3Dプリンターで作成可能 か確認し、作成にうつる。 |
・PC ・Adobe Creative Cloud |
まとめ |
実際に完成した機器を使用し、実験・計測結果が得られたか確認する。改善点 がある場合は、担当教員と協議し、新しい部品を作成する。 |
・PC ・Adobe Creative Cloud |
授業の様子
・計測機器が完成せずなかなか実験を進められることができない状況でした。
・3Dプリンターを用いてからは、計測機器の完成は加速度的に進んでいき、生徒自身も楽しんで研究に臨むことができました。
・計画していたよりも機器の作成に多くの時間を割かれてしまったので、計測やデータの解析を十分に行えなかったことが心残りでしたが、3Dプリンターを活用していなかったら、計測自体もできていたか定かではありませんでした。
・発表会などでは計測結果や発表内容だけでなく、自作機器も評価されることもありました。
・発表会において、他校生徒が同じように3Dプリンターを活用して研究を行っており、生徒同士だけでなく教員も情報交換し、新たな活用方法などを共有することができました。(作成したマイク固定台座)



2.3Dプリンターの活用方法やアプリの活用などを通して英語の表現力を高める
(単元に当てはめた訳ではない) 教科:英語 学年:1年
【授業の目標】
3Dプリンターの起動中の様子を見せたり、完成した作品を見せたりしながら英語で解説·説明することで、英語表現能力の向上を目指しました。また、3Dプリンターの活用について多くの生徒に知ってもらい、活用できるようにすることをねらいとしました。【展開計画】
区分 | 学習活動 | 活用ツール |
導入 |
事前にALTが3Dプリンターで作成した物(恐竜)を生徒に見せる。プラスチック 製の固い物質が滑らかな曲線で作られていることに注目させる。 |
・PC ・Adobe Creative Cloud ・ウェブカメラ(自校) |
展開 |
3Dプリンターの活用方法、起動中の様子をウェブカメラで映し、生徒へ英語で 解説する。また、生徒のタブレットのアプリを用いて設計図を作成させる。 |
・タブレット(生徒) ・設計図作成アプリ |
まとめ |
教科書に載っている文章だけでなく、生徒の興味関心をひくような事柄を題材 にすることで、英語で表現することの楽しさや有用性を感じさせる。 |
授業の様子
・3Dプリンターを認知していたり見たりしたことがある生徒はいても、実際に動いているところを見たことのある生徒は多くなく、非常に興味を持っているようでした。
・完成する作品について、何が完成するか予想したり、今どの部分を作成している途中なのか、英語で表現することができました。


その他、活用の成果
教員の感想・変容
①本事業担当者(教諭:理科)
プログラ三ングや周辺機器の知識が乏しく、活用までのハードルが高く感じました。ほかの教員に聞きながら操作しようとしましたが、個人的にはなかなか効果的に活用できませんでした。機器について、職員研修などを行っていただけると、多くの教員·生徒への活用が臨めると感じました。
②ALT(英語を和訳した文章)
レベリングは時々難しいので、自動にした方が良いです。PLAの接着性に一貫性がありません。Wi-Fi接続があると、プリントをインポートするのに便利だと思います。
上記を修正した方法として、イソプロピル・アルコールを買ってきて、ベッドを掃除しました。これにより、接着性が大幅に向上しました。また、台座とノズルの温度を変えることも役に立ちました。台座温度を50°Cに上げ、ノズル温度を200°c前後にしました。レベリングについては、手動レベリングに細心の注意を払い、数回のプリントごとにレベリングし直しました。こうすることでうまく機能しているように見えました。プリンターの筐体はとても丈夫でよくできています。
③教諭:化学
良かった点は、SDカードにデータを入れ挿入するだけで作成できるところです。難しい操作はなく、慣れれば3Dプリンターを活用するのは難しくないと考えられます。
改善点は、台座に作成物がくつつかないことが多かったことです。下絵を台座に書くがうまくいかないことが多かったです。
児童·生徒·学生の感想·変容
①理数探究での活用(2年理数科生徒(男子))
Raspberry Piを用いて、電車内の気圧・湿度・気温・音·電車の加速度などを計測し数値化させ、トンネルドン(トンネル微気圧波)の仕組みや耳がキンとする仕組みを研究している生徒が多く活用しました。本生徒は、上記の項目を計測する機器をすべて自作することにこだわっていました。工具入れを外箱とし、その中に納まるように機器の開発を行っていました。
しかし、Raspberry Piやマイクなどを固定する台座などが必要になった際、木材やプラスチックを自分の手で成形し、実験の
結果に悪影響を及ぼさないように完成させるのは困難を極めました。そんな中で、3Dプリンターを活用し、自分の理想とする台座などを作成することができ、計測機器完成の一助となりました。
今後の課題
3Dプリンターやその周辺機器について、実際に活用した職員や生徒が少なく、性能を生かし切れていないと感じます。ただ、職員や生徒に周知するだけでは使用するためのハードルが低くならないため、まずは多くの職員が気軽に使えるような環境づくりをしたり、マニュアルづくりをしたりする必要があります。多くの職員が気軽に使えるようになれば、各授業で困っている生徒について3Dプリンターなどで解決できることがあればすぐに紹介することができます。また、新たな授業展開の構想についても生かせると考えられます(情報の授業など)。活用者が増えれば、活用方法も改善できそれらを記録に残すことで、教員の授業指導の向上や校内研修などにも生かせます。STEAM Lab活用のポテンシャルを十分に発揮できるように、環境整備を進めていきたいです。
STEAM Lab 実証研究校インタビュー

九十九里浜にほど近く、 自然が豊かな千葉県茂原市に位置する長生高校は、 普通科と理数科を有する伝統校です。平成 22 年度に文部科学省よりスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受け、 普通科の希望者と理数科を対象に「SSH コース」を設定しました。同年度には課題研究をはじめとした探究活動を展開。さらに、 それを発展 ・ 進化させた独自のカリキュラム 「長高メソッド」 を開発し、 未来を切り拓くイノベーション人材の育成に力を注いでいます。そんな同校に設置された 「STEAM Lab」の活用状況について、小関教諭にお話を伺いました。
生徒の学びに必要な環境を整えたい。それが STEAM Lab 導入の推進力に
文部科学省から SSH の指定を受けた同校はこれを契機に、 生徒全員が課題研究に取り組むことを目的とした探究的な教育モデル 「長高メソッド」を開発。世界を舞台に活躍するグローバルリーダーや未来を切り拓くイノベーション人材を育成するためのバイブル、そして同校の教育の大きな柱として活用されています。そんな同校では、 入学と同時期に BYOD 端末として各生徒がタブレットを購入することで 1 人 1 台環境を構築。学内に整備さ
れた Wi-Fi 環境に接続し、 授業をはじめとする学校生活全般で Microsoft Office や Microsoft Teams を活用するほか、Microsoft Forms を用いてクラス全員の意見を集約しながら学びを進めていくなど、 積極的な ICT 活用が行われています。そんな同校は、SSH の指定に伴って策定した学校独自のメソッドによる学習が行える環境が整ったことで新たな取り組みについても検討。「生徒が理科的な思考を行っていくなかで、 必要な教材や教具を自分で作れる環境が必要だと感じたことが STEAM Lab 設置の決め手でした」と小関教諭は語ります。


生徒の頭の中を具現化する場所として活躍する STEAM Lab
理数科を有する同校では、年間を通して自身の研究テーマに沿って探究を進める「理数探究」を実施。理系科目の探究に必須となる実験において、従来はモデルや実験器具などが思うように制作できない、そもそも用意できないといったことがありましたが、 3D プリンターが設置されたことで、 これらの道具を自分たちで用意できるようになったと小関教諭は語ります。また、「生徒たちの中で “これが作れないから、 この研究ができない” といった場面が減ったと思います。例えば、 プロペラ船のスクリューの研究ではモデルが作成できずに頓挫するということもありましたが、 3D プリンターがあればそれが制作できる。しかも、 角度や枚数を変えたりできる。それだけで学びが深まりますね。そして BYOD 端末では扱えなかったソフトウェアが軽快に動く。こうした環境が整えられたことは大きな意義があると思います」 と、 STEAM Lab の設置に伴って生徒たちの創造をカタチに変える場所ができたこと、そして、より深い探究活動の一助として寄与していることを評価しました。
さらなる探究心の刺激。その一端を担う場所としても活用
同校の理数科は、年に 3 回ほど県内の大学で開催される研究成果の発表会に参加。生徒が制作した論文やポスター、プレゼン資料などを用いて大学教授や他校の生徒などの前で研究成果を披露しています。その研究成果を導くための実験において、 活躍したのが STEAM Lab に設置された 3D プリンター。加速度計や速度計測器、 気圧計測器などを 1 つの筐体に組み込んだ測定器を作成する際、それぞれの機械をぴったりと収めるためのパーツを 3D プリンターで作成。実験結果を踏まえた研究発表はもちろん、 使用した計測器も大学の教授から称賛を受けたと小関教諭は振り返ります。こうした STEAM Lab の活用は、 理数関連だけでなく他教科への広がりも見せています。そのひとつが英語の授業での活用。あらかじめ外国人教諭(ALT)が 3D プリンターを用いて恐竜のモデルを制作し、その過程を録画。機器の使い方から制作方法をそれぞれ英語で解説するといった具合に生徒の興味関心を惹く事柄を題材にすることで、英語表現の楽しさや有用性を感じさせるといった取り組みも行われています。


教員が生徒のニーズに応えられるような環境の整備が今後の課題
探究活動を中心に活用される同校の STEAM Lab ですが、 設置に伴う効果について小関教諭は「まず、 これまで機材の関係で生徒が諦めていた研究が進められるようになった点が大きいです。そして、最新機器を活用する生徒のニーズに応えるため、 それらの機器を教員も使いこなす必要があるという危機感を教員側に持たせてくれたことですね」と語ります。また、「世の中には、さらに多くの STEAM Lab のような最先端機器があります。これらを活用するための技能やソフトウェアの研修プログラムみたいなものを確立し、 校内外を問わず教員間で共有できるようになるといいかと思います」 と続けます。しかし、 その一方で、 教員や生徒がまだまだ STEAM Lab を活用しきれていないという課題も挙げます。「教員や生徒が気軽に使えるような環境を整えれば、各授業で困りごとのある生徒が高性能 PC や 3D プリンターなどを使って解決策を模索できます。それが新たな授業展開の構想となり、利用者を増やすことができます。今後も STEAM Lab 活用のポテンシャルを十分に発揮できるように、環境整備を進めていきたいですね」と今後の展望を語り、インタビューを締めくくりました。
STEAM Lab 導入機材

• 富士通株式会社 LIFEBOOK U7511/H 6 台
LIFEBOOK U9311X/H 2 台 ESPRIMO D7011/H 2 台
• 3D プリンター
• Adobe Creative Cloud 小中高校サイトライセンス
【千葉県立長生高等学校】STEAMLab活用事例集 (PDF 10.7 MB)