*MIEE(Microsoft Innovative Educator Expert)とは、教育現場でマイクロソフトのツールを活用している先生をはじめとした教育者への認定制度。
Windows環境で統一しているのが笛吹市の強み
――笛吹市の公立小中学校でWindowsやMicrosoft 365を展開する背景や目的を教えてください。
土田 笛吹市の小中学校では学習、校務、学校の共用デスクトップPCに至るまで、すべての環境でWindowsを採用しています。仮に児童・生徒の端末を別のOSにしてしまうと、先生たちも新規で操作を覚えなくてはなりません。しかし普段の校務でWindowsを使っているため、Microsoft 365の活用に関してもスムーズに教えることができ、指導のハードルは下がっているように思います。
加えて、山梨県の県立高校や一部の特別支援学校のBYOD(個人所有デバイス)は県の教育委員会がWindowsで指定しています。高校の探究学習ではPowerPointを活用したプレゼンテーションが普及しているので、準備をするうえでも効果的です。その先の社会人でもWindowsが主流ですから、小中学校の貴重な9年間でWindowsの操作に慣れ親しんでほしいと考えました。
別の側面では、圧倒的な教員不足があります。この状況をカバーすべく民間企業出身の教員も増えていますが、Windowsを触ってきた人たちが大半なので、営業や企画などで培ったソフトのスキルをそのままGIGAスクールや校務に活かせます。新卒採用の教員も学生時代にWindowsで学習していますから、環境の統一が笛吹市の教育現場にとってアドバンテージになっているのです。
――既にセカンドGIGAに着手していると聞きました。プロジェクトの内容やスケジュールについて教えてください。
土田 セカンドGIGAについては、ほとんどの自治体が2025年度から動き始め、5カ年計画で順次進めていきます。しかし笛吹市では一刻も早く性能が向上した環境を導入したいと考え、2024年度にWindowsデバイスの一括更新を行いました。
全体で約4,600台になりますが、現時点で納品が完了し、導入作業を実施しています。2025年度の2学期開始までには、すべての児童・生徒の端末が新たな仕様に沿ったWindows 11搭載PCに切り替わる予定です。実は2025年3月から、利活用頻度が高い小中学校の一部学年に先行的に導入済みです。私が利活用のデータを見て、実際に現場に足を運んで活用状況を判断しながら進めています。
ファーストGIGAを振り返って実感しているのは、こどもたちの主体的な学びが加速したことです。また、さまざまな事情でクラスに登校できないこどもたちに授業を配信するなど、時間と場所の制約に縛られなくなりました。このように何でもできる可能性があるからこそ、性能が高いに越したことはありません。先生や児童・生徒がやりたいと思ったときになかなかパフォーマンスが出ないとなると、やる気が削がれてしまいます。


――デバイスの選定や導入にあたっての準備や課題について教えてください。
土田 総じて時間がかかるのが最も大きな課題でした。億単位の予算が動くプロジェクトですから、とにかく情報収集に努めました。最も時間をかけたのは、新しいWindowsでどこまで高度な授業ができるのか、どれだけ先生たちの校務DX(デジタルトランスフォーメーション)に寄与するのかという点です。活用が進んでいる学校の授業を数多く視察して、必要な性能の見定めに力を入れました。
選定にあたっては、私が加入しているマイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)のコミュニティがとても役に立ちました。MIEEは自主的に登録する制度ですから、能動的に行動する人たちの集まりです。そのためマイクロソフトのサービスやGIGAスクール構想、校務DXに対する思いが強い。コミュニティに困りごとを投げかけると、即レスでアドバイスをいただくことが多く、非常に参考になりました。
――教員のデバイスも同じタイミングで切り替えるのでしょうか。
土田 先生たちの切り替えは2025年度に実施します。5年間使用しているためバッテリーの劣化が激しく、CPU性能も限界に来ています。コロナ禍ではデジタル教科書の投影など軽いタスクが多かったので問題ありませんでしたが、今は資料や課題をオンラインで共有したり、教員が行う校務を「Microsoft Teams」(以下、Teams)で行うのが当たり前になってきましたから、過不足のない性能が求められます。ですから、なるべく長期間使えるモデルを候補にする予定です。
全小中学校のICTリーダーが教育現場のハブに
――これまで、教職員のトレーニングはどのように行ってきたのですか。
土田 笛吹市の小中学校には、「ICTリーダー」と呼ぶ各校2名ずつのICT担当教員がいます。ICTリーダーは教頭から新採用で入った先生まで多岐にわたります。中にはICTが得意ではない先生が志願して、自ら学びながらスキルを身につける場合もあります。
具体的にはTeamsに資料共有やオンライン会議室のチャネルを設け、ICTリーダー、校長、教頭、教育委員会で情報を共有し、悩みごとや課題を解決しています。この仕組みが笛吹市全体のトレーニングにつながっています。
これに加え、2カ月に1回のペースで年6回開催するリアル会議も重要です。この会議体はグループディスカッションに重きを置いている会議で、6回のうち4回はICTリーダーだけですが、残りの2回は夏休みと冬休みに開催し、全職員を対象としています。長期休業中の会では、1日4部構成の研修会にして私が講師を務め、Microsoft 365の基本編や応用編、クラウドツールの操作研修、GIGAスクールに関する国の動向などをレクチャーします。

――WindowsデバイスやMicrosoft 365の導入によって、校務のどのような部分が改善されたのでしょうか。教職員の業務効率化やコミュニケーションの向上についての事例を教えてください。
土田 目覚ましい効果は職員会議でのペーパーレス化です。紙で見ていた内容をデバイスで確認する学校が増えてきました。資料はTeamsのフォルダで共有し、アーカイブを閲覧できるようにしています。
ペーパーレスが進んだ学校では、次のステップとして共同ファイル編集に取り組んでいます。先生たちは日常的に文書を書くため、「Microsoft 365のWordを使って共同編集を行い、より良い内容にブラッシュアップしてはどうですか」と提案しました。自由なタイミングで修正でき、変更履歴も残りますから安心です。
Teamsの投稿機能もフル活用してほしいと呼びかけています。学校には保護者を含めて校外からたくさんの連絡が入りますが、現時点では紙のメモを書いて机に置くしかありません。でも先生によっては職員室に戻るタイミングが夕方までない人もいます。そこで受電した人がTeamsの投稿に@メンション機能によってメッセージを送る取り組みを始めました。これにより、Teams がWeb会議だけではなく、優秀なコミュニケーションツールであることを体感してもらっています。
保護者向けには、校内イベントで撮影した写真や動画を「Microsoft SharePoint」や「Microsoft Stream」を経由して閲覧できるようにしています。保護者の方々は校内音楽会や学芸会、運動会などでビデオ撮影に手一杯なことが多いので、イベントに集中し楽しんでいただくためにも、後から閲覧のみ可能なURLを共有することにしました。パスワードを設定したり、リンクの有効期限も決められるので、保護者へのファイル共有もセキュアに管理できます。

笛吹市ではセキュリティ対策の強化も踏まえ、Microsoft 365のライセンスをA1からA3にアップグレードしました。そのおかげで、個人デバイスで市のMicrosoftアカウントにセキュアにログインして、校外から校内データにアクセスできる環境が整いました。教員間の連絡はTeamsで済みますし、緊急の場合でも学校に戻ってファイルを探す必要がなくなりました。これまでは5分、10分の作業のために休日出勤している先生もいましたから、教員の働き方改革にも大きく貢献しています。
これらの活動を通して実感したのは、日常の校務に落とし込む方が抵抗感も少なく、習得も早いということ。普段の業務を楽にするコツをつかめば、どんどんICT活用に積極的になってきます。
Copilotを先生の助手として活用していく
――さらに校務DXを進めるため、生成AIの利活用などの計画はありますか。
土田 校務での「Microsoft 365 Copilot Chat」(以下、Copilot)活用を推奨しています。紙をペーパーレスにするデジタイゼーションは進んでいますが、そこから先のデジタライゼーション、DXを目指すとなるとまだまだ努力が必要です。生成AIサービスのCopilotはその点をサポートしてくれるツールです。文書の生成や校正、要約などに優れているので、先生たちには「まずは自分の助手として使いこなしてほしい」と伝えています。
背景には、先生の業務負荷の増大が挙げられます。1+1は難しいとしても、AIを活用すれば0.5を増やすことは十分に可能です。文部科学省も校務の中で生成AIを活用した業務効率化の目標を定めているので、大いに使ってほしいと考えています。
MIEEには生成AIを研究している先生のグループがあるので、連携を行いながら、まずはICTリーダーの先生たちに理解してもらう勉強会を開始しました。Copilotを上手に使いこなせるようになれば校務がぐんと楽になるのは間違いありません。さらにICTリーダーを手本にしながら一般の先生たちが使えるようになることで、業務効率化と生産性向上が両立できると思います。
――今後も校務DXの重要性は高まると考えていますか。
土田 もちろんです。先生たちの職場環境が過酷になる中で校務DXは生命線と捉えています。デジタルの活用で業務の負担は緩和されます。また授業においても役割が変わるのではないでしょうか。これまで先生は伝達者でしたが、今後はファシリテーターになっていくと思っています。
GIGAスクールのデジタル化によって、こどもたちは自分に合った学びを通じて学習理解が向上し、先生たちはワークライフバランスの実現につながります。私はこれからも教育現場のために、DX推進を続けていきます。