※STEAM教育:科学(Science)」「技術(Technology)」「工学(Engineering)」「芸術・リベラルアーツ(Arts)」「数学(Mathematics)」を対象とする分野横断的な学習
さいたま市と協力し、Minecraftのコンテストを成功へ
――先生方が集うMELC(メルシー、Microsoft Educator Local Community )とは、どのようなコミュニティでしょうか。
宮内 マイクロソフトのソリューションを活用する教育関係者が、地域や校種、立場を超えて交流することで「こどもたちの未来に繋がる教育におけるテクノロジー活用」を目指す教育コミュニティです。「Local Community」の通り、MELCは全国各地で作られ、その一つがさいたま市に存在する最初のMELC「SAITAMA-CITY MELC(以下、さいたまMELC)」です。現在は那須や愛知にも作られていて、今後もさらに増えていくのではないかと期待しています。実はマイクロソフトが運営しているわけではなく、完全にボランティアだけで運営をしています。
教職員、学生、保護者など、テクノロジー教育への活用に関心があり、教育への熱い想いを持つ人たちが集まっていて、その想いがあれば誰でも参加できます。勉強会やWebサイトを通じた定期的な情報発信のほか、イベントや展示会にも参加しています。
――MELCはどのようにして立ち上がったのでしょうか?
宮内 私が2020年にさいたま市最初の「マイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)」になった後マイクロソフトの担当の方々とお話しした際に今後の教育には「地域のコミュニティ活動」が重要になる」との考えに達し、さいたまMELCを立ち上げました。
黒須 デジタル化が加速する現代において、私たち大人は、こどもたちの未来のために、彼らをテクノロジーの善き使い手に導く義務があると考えています。そのためには、先生や保護者だけでなく、「こどもたちの日常に関わる全ての人たち」が主体的に実践し、助け合い、より良いアプローチを発見することが大事なんです。私も立ち上げ当時からのメンバーですが、リラックスした雰囲気の中で、具体的な事例や困りごとを共有できるコミュニティになっています。


――実際にどんな取り組みをされているのでしょうか?
宮内 こどもたちが発表できる場をつくる、というのは取り組みのひとつです。最近だとさいたま市が開催しMinecraftで「未来のさいたま市」をつくるコンテスト「SAITAMA Minecraft AWARD 2024(さいたまマイクラ)」をさいたまMELCがサポートしています。
宮内 参加資格は、さいたま市内に在住、在学している小学校1年生から中学校3年生までの児童と生徒です。さいたま市を忠実に再現した3Dデータを活用し、未来のさいたまをMinecraftでつくるコンテストです。2024年10月から2025年1月にかけて作品を募集しました。さいたま市主催のもと、テーマ性、独創性、作品完成度、技術力、さいたま愛の5つの視点で審査され、2025年2月9日に最終審査会と表彰式が行われました。ここではグランプリ、市長特別賞、審査員特別賞が授与されています。
――当コンテストを支援することになったきっかけや経緯について教えてください。
宮内 Minecraftは学校教育にも取り入れられており、こどもたちの興味関心が高いです。さいたまMELCでは、かねてから「Minecraftに関するアワードをやりたいね」と話していました。2023年に企画書を書いて皆さんと共有したのですが、費用や場所、スタッフなどが必要になるため、どうしたものかと悩んでいたわけです。
そんな時、さいたま市の都市局で同様のアワードを検討しているという話を聞きました。国土交通省が進めている日本全国の都市の3Dモデルを無償配布し、デジタルツインの社会実装を進めるプロジェクト「PLATEAU(プラトー)」を使ったイベントの1つとして、Minecraftのアワードを考えているというものです。PLATEAUのデータは、比較的容易にMinecraftに変換できます。私たちの企画書を見せたら「ぜひ一緒にやろう」という話になり、その後はトントン拍子に進みました。
黒須 都市局と一緒になったことで、いろんな人を巻き込みやすくなりました。そこに教員も加わり、大きなムーブメントになりました。教員だけの力では、あそこまでできなかったと思います。
PLATEAUが提供する精度の高いデータを使い、さいたまの街をMinecraftで忠実に再現しました。市の担当者がチラシを配ってくれたり、私たち教員も現場で広めていきました。皆でアイデアを出し合い、魅力あふれるコンテストにできたと思います。Minecraftを用いた学習は、コンピュータ等による情報処理を通じプログラミング的思考を活用するという意味でもSTEAM教育に大きく関わっていますから、私たちが協力して、こどもたちが取り組める環境を少しでも多くつくっていきたい。実際に参加した子の真剣な眼差しや、楽しむ様子を見ると、心からそう思いますね。
答えのない課題に取り組み、能力や可能性を広げる
――STEAM教育について、どのような魅力を感じていますか。
黒須 一般教科の学習にはしっかりとした枠組みがあり、評価も伴います。どうしてもテストの点数や成績に意識が向いてしまい、こどもたちの受け止め方にも固さが出てきます。一方で現在、私が関わっている市のSTEAM教育は教科の学習ほど評価のことを気にせず、こどもたちが主体的に取り組みやすいのではないかと感じています。そのため、探求的な学びを実現し、自分が興味を持ったことをどんどん試して深めていけると思います。
宮内 さいたま市では、STEAMの後ろにスポーツ(Sports)の「S」を加えて「STEAMS TIME」と名付けた学習時間を特別に設けています。中学生は創造性を育むPBL(Project Based Learning:プロジェクト型学習)を9時間、小学生はPBLを6時間と、プログラミング的思考を育む内容を3時間の合計9時間という形になっています。教科横断的に探求的な学びを進める点がポイントです。
――STEAM教育は、こどもたちの成長にどのように役立つとお考えですか。
宮内 STEAM教育のテーマには、正解がありません。自分で仮説を立て、検証し、一定の解決を得た後、アイデアを周囲の人にわかるようにまとめたり、発表したりする能力を養います。正解がない課題に取り組む能力は、こどもたちがやがて社会に出て、自己実現を図るために役立ちます。
黒須 こどもが自分の能力や可能性を自然に感じ取り、それを大きく広げていく能力を養えると思います。STEAM教育では、友達と対話しながら、自分とは違う価値観や新しい視点に触れることができます。その成果として、思ってもみなかった新しい価値を生み出すことを体験できるわけです。そうした体験を通じ、正解のない課題に自分なりに挑むための素地が得られる気がしています。

STEAM教育の視点と、私が一般教科の教育で大切にしたい視点は、実はかなり似通っています。私が担当している算数の授業でも、こどもたちが課題に主体的に取り組み、興味を生かして探求できる学びを重視しています。教科の授業とSTEAM教育はつながっていると感じます。

身の回りの課題を見つけ、解決する仕組みをつくる
――STEAM教育では、Minecraft以外にどのような取り組みをしていますか。
黒須 例えば、ソニーの「MESH(メッシュ)」という教材を用いて9時間にわたる問題解決型の学びを実践しました。ボタン、LED、人や動き、明るさ、温度、湿度などを感知するセンサーがセットになっていて、プログラミング言語を使わずにそれらをつなげてアイデアを実現できるキットです。
こどもたちと「日常生活をより便利にするものを作ろう」というテーマを設定しました。まず「より便利にする」とはどういうことか、自分なりに考えてもらいます。そこからMESHでできそうなアイデアを出し、対象や目標を設定して計画を作り、実際に組み立てていきます。何度も試行錯誤しながら、解決を目指してもらいました。制作したものを皆で体験した後、活動を振り返ります。
誰に向けて何を提供するべきか。そこをしっかりと設定しなければ、課題は明確になりません。使う人がより便利に感じてもらうために、どんな工夫や取り組みが必要になるのか。皆で話し合い、形にしていく過程が、こどもたちを成長させたと感じます。
こどもたちの関心は、最初から最後まで非常に高かったのではないかと思います。自分たちで好きなようにMESHをいじりながら、「こんなことができるよ」と教えてくれる児童もいました。こどもの工夫は実に独創的です。
これを5年生のSTEAMS TIMEで実施し、6年生ではMinecraftを使った体験学習を行いました。未来の理想的なさいたま市をイメージし、Minecraftの中でつくってもらう授業です。
宮内 「AkaDako」というセンサーデバイスを20台ほど使い、PBLのプログラミング学習をしました。距離、光、加速度、温度、気圧などのセンサーを組み合わせ、簡単なプログラミングで様々な機能を実現できるキットです。これにより、身の回りの小さな社会課題を解決するような授業を行いました。
ある生徒は、ゴミのポイ捨てを防止するために、ゴミ箱のフタの開け閉めを感知するセンサーを使い、捨ててくれた人に感謝の言葉を聞かせる仕組みをつくりました。また、温度センサーで熱中症の人を感知し、注意を喚起するような仕組みをつくった生徒もいました。
身構えず、楽しみながらSTEAM教育を広げてほしい
――今後、STEAM教育の取り組みをどのように発展させていくお考えですか。さいたま市や学校への期待はありますか。
黒須 今感じるのは、時間数がもっとあったらいいのになぁということです。こどもたちが興味を持ったことに触れられる時間をもっと増やせたら、こどもたちは学びの喜びをもっと感じられるし、他の教科にも良い影響が出てくると思います。こどもたちがのびのび学べる時間を増やすためには、カリキュラム等との兼ね合いが大切だと思いますが、そのあたりのバランスが少しずつ変わっていってくれたら嬉しいです。
また、先生方には、STEAM教育をこどもと一緒に楽しんでほしいです。難しく考えたり、身構えたりする必要はないと思います。こどもたちと共に、先生も一緒になってのんびり楽しんでいくことがSTEAM教育の更なる発展につながっていくのではないでしょうか。
宮内 この教育は今日の先生方が体験したことのない新しい教育です。自分たちが体験したことのない授業を、こどもたちにどうファシリテートしていけばよいのか。多くの教職員にとってチャレンジであり、容易なことではないと思います。
従来の教育は、自分が学んだことを先生としてこどもに教える「ティーチング」がほとんどでした。しかし近年では、こどもたちの自律的な学びをうながす「コーチング」や「ファシリテート」というコンセプトが重視されつつあります。その実践こそが、STEAM教育の目的の1つです。
中には、STEAM教育と聞いただけで拒絶反応を起こすような先生もいると聞いています。しっかりとしたプログラムでそうした先生方を支え、じっくり進めて行かないと、なかなか成功しないように思います。
ティーチングが悪いわけでは全くありませんし、今後も引き続き重要です。しかし、こどもたちが将来、変化が激しい時代を生き抜くには、STEAM教育のような課題解決型の学習も重要になっているのです。それをファシリテートできる先生を増やしていくことが、時代の要請だと感じています。
もう1つ。この教育をさらに広げていくには、人やモノ、お金が必要です。それを確保するための協力体制を作っていく必要があります。今回のさいたまマイクラでは、行政と教職員グループがコラボし、効果的なアウトプットができました。こうした取り組みをどんどん増やして、STEAM教育を盛り上げていきたいと思います。