STEAM Lab 活用事例

STEAM Lab活用の目的、ねらい

本校は機械科、電気科、建設科(令和4年度新設)、化学科の4科を擁する工業高校です。3学年では研究グループを各科ごとにつくり、これまで培ってきた学習内容を活用しながら課題解決に臨む「課題研究」という授業を履修します(建設科は令和6年度より履修)。
STEAM教育の理念に基づき科の枠を超えさまざまな分野の知識を持ち寄ってSTEAM Labを活用し課題解決に取り組む形式をとることとしました。


活用実績事例(サマリー)授業での活用

教科 学年 単元名
課題研究 3年 建築模型製作(機械科・電気科・化学科合同)
課題研究 3年 ゲーム・プログラ三ング、3D CG作成(機械科)

1.建築模型製作(機械科・電気科·化学科合同) 科目:課題研究 学年:3年


【授業の目標】

学校施設の建築模型をできるだけ正確に作成し、施設·設備の把握および避難経路·避難場所などの検討などに利用し今後の防災教育に活用することを第一の目標とするとともに学校紹介や文化祭での展示など学校のPRに役立てることも視野に入れたものとして設定しました。

【展開計画】

区分 学習活動 活用ツール
導入   ・製作物の縮尺·寸法・素材などの確認
  ・各科担当部分の確認
  ・使用する機材などの確認
  ・PC
展開   ・躯体図面の製作
  ・躯体加エデータの作成
  ・LED照明点灯プログラムの作成
  ・躯体塗装計画・実施
  ・PC
  ・Fusion 360
  ・3Dプリンター
  ・Python
まとめ   ・躯体組立
  ・点灯確認
  ・研究発表
  ・次年度へ向けての準備
  ・PC

LED制御基板

・2次元データを立体化し3次元データを画面上で組み立てるという一連の作業をとおして、3DCADの基本操作や概念を身に付けることができました。
・CADで作成した図面を加エデータとして加工機械へ転送し加工する工程を体験することで「ものづくり」の楽しさを知ることができました。
・照明の点灯・消灯プログラムを作成することによりプログラ三ングの難しさ、成功した時の達成感を得ることができました。
・アクリル板の塗装方法・塗料の選定などをさまざまなウェブページから収集し検討を重ねることにより普段知りえない知識を得ることができました。

切断したアクリル板(躯体)
アクリル板への塗装
完成した校舎(教室棟の半分)

2.ゲーム・プログラ三ング、3DCG作成(機械科) 科目:課題研究 学年:3年


【授業の目標】

オリジナルのパソコン用ゲームをすべて自分たちで作成することにより、ゲーム作成に必要な、シナリオ・画像(キャラクターや背景など)・音楽(効果音など)・プログラムの作成方法の基礎知識を身に付け自身のスキルの向上を図りました。

【展開計画】

区分 学習活動 活用ツール
導入   ・作成するゲームの概要を検討
  ・ゲームに必要な素材の検討
  ・素材を作成するためのアプリケーション・ソフトの選定
  ・PC
展開   ・Unityの基本操作について調べ学習
  ・Unityを使用した簡単なキャラクター作成
  ・Unityを使用した簡単なプログラム作成
  ・オリジナルゲームの作成
  ・PC
  ・Unity
  ・Blender
まとめ   ・オリジナルゲームのテストプレイ
  ・研究発表
  ・PC

・作成するゲーム:ブロック崩しのような画像や音楽がシンプルなものを作成することとしました。
・アプリの選定:無料かつゲーム作成に必要な機能をすべて兼ね備えたプラットフォームであるUnityを使うこととしました。
・基本操作の修得:YouTubeに配信されている動画を参考にキャラクター作成からプログラ三ングまでを学習しました。 STEAM Labの高性能パソコンによりスムーズに作業は進められましたが、知識不足のためか動画どおりの動きが再現できず計画していた時間に大幅な遅れが生じてしまいました。
・計画の変更:プログラ三ングを行うには時間が足りないと判断し、キャラクター・デザインのみに変更しました。使用アプリもBlenderに変更しました。
・キャラクター・デザイン :学校図書館に所蔵されている書籍やYouTubeを参考に簡単な3Dイラストを作成しました。
・1からのゲーム作成を体験することにより、シンプルなゲームでもさまざまな知識や技術が必要なこと、また膨大な時間が必要なことを知ることができました。

Unityでの作成画面
Blenderでの作成画面
Blenderにより作成した3D画像

その他、活用の成果

教員の感想·変容

本研究2年目を終え、今年度の生徒たちも昨年度と同様に建築模型を作成することの難しさと楽しさを経験するとともに、実際にでき上がった校舎を指さしながら会話の中に避難経路などの話題を取り上げるようになり、研究目標のひとつであった「意識付け」を達成することができたように思います。また先輩から引き継いだ研究を進め、「さらに良いもの」を作るという目標を達成することができ達成感·満足感を得ることができたように思います。模型の作成は今後も継続してくことになるため、次の生徒達にも成果を上げ達成感を味わえるような授業にしていきたいと思います。

児童・生徒・学生の感想·変容

普段使用しているパソコンでは思うように起動しないアプリケーション・ソフトウェアがスムーズに動く高性能パソコンを扱うことができ、CPUやメモリーなどの違いによって作業効率が格段に変わることを体験できました。これから研究に携わる後輩たちにもこの素晴らしい環境をぜひ体験してもらいたいと思います。また、環境が整っていても基本的な知識や技術、応用できるセンスなどが伴わなければよいものが作成できないことを身をもって学ぶことができました。今後の社会人としての良い教訓となったと思います。

今後の課題

校舎模型については教室棟の半分まで完成させるのに2年の時間を費やしてしまいました。残りの教室棟半分および管理棟·実習棟を完成させなければ当初予定していた避難経路の確認ができないため、完成を急がなければなりません。次の学年への引継ぎ方法を工夫し、4月から作業が開始できるように計画をたてることが必要だと考えています。
目標:完成まであと2年!

STEAM Lab 実証研究校インタビュー

神奈川県は横須賀市に位置する神奈川県立横須賀工業高等学校は、 機械科 ・ 電気科 ・ 化学科、 そして新設された建設科を加えた 4 学科の教育課程を有する創立から 82 年を迎えた横須賀市内で唯一の工業高校です。工業高校らしく、 金属加工機や小型プラントなどをはじめとする専門的な機器を多く保有しています。地域産業や社会に貢献できる人材の育成を掲げた同校では、 ものづくり日本を支える人材を育成するためにどのように ICT の利活用や STEAM 教育を進めているのか、 機械科を担当される中澤清和教諭にお話を伺いました。

生徒たちが使うべきツールが十分に扱えないという課題

同校では Wi-Fi などの問題なく通信できるネットワーク環境の整備はもちろん、 生徒各自がタブレット端末を準備(購入)することで、 授業での ICT 利活用が推進されていたため、 生徒たちが早くから ICT に慣れ親しめる環境が整えられています。しかし、 工業高校としての特性上、 使用頻度の高い 3D CAD をはじめ、 高性能が要求されるソフトウェアの利用においては、 生徒のタブレット端末はもちろん、 学校に配備されていた PC でも性能が不十分で追いつかないという課題を抱えていました。工業に似た部分のある STEAM 教育について興味があったものの、 そういった課題から手が出なかったという同校は、 STEAM Lab の募集を発見し、 応募に至りました。 「普段なかなか使用できないソフトウェアや高性能 PC が使えるという点はもちろんですが、 何より STEAM Lab によって生徒たちが今まで扱いきれなかった 3D CAD を不満を感じることなく扱えるようになってほしかったです」と中澤教諭は STEAM Lab 実証研究に応募した経緯を振り返りました。

STEAM 教育の理念に基づいた、1 つの科にこだわらない授業の実現

そういった課題もあり、 STEAM 教育を意識した科目の導入などはしていなかったものの、 3 年生からはじまる自分でテーマを見つけ課題をクリアする ・ 解決策を見つけるという 1 科それぞれが行う課題研究の授業がSTEAM 教育の理念に最も近いものだったと、 中澤教諭は STEAM Lab導入前を振り返りました。 「STEAM Lab を導入した後の課題研究の授業は、1 科だけでなく、3 科すべてが集合して実施するようになりました。災害時の避難経路の確認などに使用する校舎の模型を制作するという課題を設定し、それぞれの科が持つ特性を活かした内容で研究を行ったものを持ち寄って 1 つの校舎を制作するという形をとりました。もちろん、 模型制作時には高性能 PC を使用して、3D CAD でデータを制作、そして 3D プリンターで出力をし、校舎の中に配置しましたが、そういった時も不満なく扱えたのは嬉しいですね」と STEAM Lab について評価していただきました。

すべての科が課題研究に集まることで内部照明のシステムも実現しました
内部の照明などの細かい部分まで作り込まれ、 教室棟の半分まで完成した校舎

最先端の技術を体感することで見つかった生徒の想い

課題研究の授業の発展に大きく寄与した STEAM Lab の機材ですが、活用は課題研究だけに留まらないと中澤教諭は語ります。例えば、鉄道研究部が鉄道の形を作るといった部活動での活用、 化学科の生徒が大学との連携研究でメッキ加工するための素材を打ち出すといった研究領域での活用、 そして文化祭で配布するキーホルダーの制作と、 同校ではさまざまな場面で STEAM Lab が活用されています。 「STEAM Lab の機材で、生徒の活動の場が広がったことはもちろんですが、 3D データを扱う企業で使う高性能 PC についての説明を授業で行う時も、 今までの動作の重い PC とは異なり、 3D データを扱っても快適に動作する高性能 PC のおかげで、生徒たちはイメージがしやすくなりました。何より、そういった快適に動く高性能 PC が使えることで、 自分たちの将来の仕事について興味を持つ生徒たちが増えてきたことが嬉しいです」 と中澤教諭は STEAM Lab の効果について語りました。

建築図面をトレースして CAD データを作成する際も STEAM Lab が活用されています
Unity や Blender なども快適に動くようになり、 ゲ ーム制作にも手が出せるように

生徒がより主体的に取り組める勉強の方法が課題

中澤教諭は今後の展望として「横断的な考えを浸透させつつ、 制作中の校舎模型を完成させ、 文化祭で展示したり防災教育で活用することを目標としています。また、 新設された建設科を含めたすべての科で 1 つのものを作り上げるような新たな取り組みも考えています」と語ります。しかしその一方で、座学の苦手な生徒に興味をどう持たせるか、 生徒たちの主体性をどう高めるかといった課題も挙げられました。「実技以外でも積極的に取り組める環境を整えていく中で、 生徒から一層レベルの高い内容の提案ができるようになって欲しいですね。また、モニターに選ばれた我々でもこれだけ悩んでいるので、予算の関係で STEAM 教育に取り組めない学校はなおさらだと思います。 STEAM Lab のような素晴らしい取り組みはぜひ継続していただいて、他校の方にも我々のように恩恵を受けてもらえると嬉しいですね」と中澤教諭は締めくくりました。

STEAM Lab 導入機材

• 株式会社サードウェーブ
 GALLERIA UL7C-R36 5 台
• 3D プリンター
• Adobe Creative Cloud 小中高校サイトライセンス