STEAM Lab 活用事例

STEAM Lab活用の目的、ねらい

本校はスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校として、生徒の科学的思考力を育成してきました。本校の教育活動の中核として、プロジェクト型学習である個人課題研究が存在しており、本校のSTEAM教育を実現しているコンテンツの1つです。個人課題研究をはじめとした生徒による主体的な活動の中でSTEAM Lab環境を活用することによって、生徒の創造性を育むためのより良いi藁境を整え、生徒個別の活動を支援することを目的としています。


活用実績事例(サマリー)授業での活用

教科 学年 単元名
物理 高校1年 音波
総合(個人課題研究) 高校2年 課題研究

活用実績事例(サマリー)授業以外での活用

学年 概要
生徒会 生徒総会・文化祭・生徒会選挙・六送会などでのLIVE配信
六送会での部活動画の編集
科学部物理班 竹トンボのひねり角度と飛距離の関係を考察するため、竹トンボを3Dプリンターで印刷
科学部無線工学班 科学部無線工学班におけるアマチュア無線交信への活用
科学部化学班 科学館連携事業·小学校連携事業の実験紹介ポスターの作成
高校3年 課題研究での統計処理

1.音波 教科:物理 学年:高校1年


【授業の目標】

音波によって作られる定常波の理解。

【展開計画】

区分 学習活動 活用ツール
導入   音波における定在波の説明   ・デジタル教科書
展開   気柱共鳴の実験   ・3Dプリンター
導入   実験データから振動数を求める   ・Microsoft Excel

柱の水だめを3Dプリンターで印刷しました。生徒も3Dプリンターで印刷したものが実験器具として使えるのかと驚きを隠せない様子で、授業後にたくさんの生徒が3Dプリンターの使い方を聞きにきました。

2.マウスの脳波解析 教科:総合(個人課題研究) 学年:高校2年

【授業の目標】
ナルコレプシーを発症しているマウスにチョコレートを与えるとカタプレキシーが誘発されるという先行研究を基に、マウスの脳波を測定することによってカタプレキシーとチョコレート摂取の関係を明らかにしました。

【授業の様子】
実験用マウス6匹に、脳波を測定するための電極を外科手術にてマウス頭蓋内部に設置し、その後、試料サンプルであるカフェイン含有量の異なるチョコレートを連続投与しました。
脳波解析には、脳波計、筋電図計、定点観測カメラの3つのデータを同時に表示して、覚醒・レム睡眠·ノンレム睡眠などを判断する必要があります。そのためデータ量が莫大な3つのデータを同時に表示できるスペックが必要であり、一般的なノートパソコンの処理能力では難しかったが、快適に作業を行うことができました。

3.生徒総会・文化祭・生徒会選挙・六送会などでのLIVE配信、
  六送会での部活動画の編集
  学年:生徒会 活用ツール: Adobe Premiere Pro・ Microsoft Teams

LIVE配信:生徒総会や生徒会選挙、文化祭·六送会などの行事の際、MicrosoftTeamsの会議やYouTube配信を使った2カメラ配信を校内限定で行いました。
部活動画の編集:卒業生に対するお別れの言葉動画を各部ごとに撮影し、それらを編集、六送会で上映しました。

4.竹トンボのひねり角度と飛距離の関係を考察するため、竹トンボを3Dプリンターで
  印刷 学年:科学部物理班 活用ツール:3Dプリンター

よく飛ぶ竹トンボは作成者の技術によるものが多く、生徒たちの、「よく飛ぶ竹トンボを研究して、みんなが気軽に作れるようにしたい」という熱い思いから始まりました。自分たちで3Dプリンターの使い方を学び、ICTスキルを向上させていきました。そしてより積極的に活動へ関与するようになりました。

5.科学部無線工学班におけるアマチュア無線交信への活用 学年:科学部無線工学班
  活用ツール:PC ・モニター GPSレシーバー ・アマチュア無線機

アマチュア無線の交信:近年アマチュア無線では、FT8と呼ばれる通信モードが全世界的に活用されています。STEAM Labの PCにFT8ソフトウェアをインストールし、アマチュア無線機と接続して信号を送受信することにより、世界中の無線局と交信することができています。信号にはアマチュア無線のコールサインと、位置情報 (GPS)、電波強度などが含まれています。南極大陸との交信も可能になりました。生徒による課外活動の範囲を大きく広げることにつながり、生徒もより主体的に、そしてより積極的に活動へ関与するようになりました。

6.科学館連携事業・小学校連携事業の実験紹介ポスターの作成
  学年:科学部化学班 活用ツール: MicrosoftPowerPoint

高スペックのPCを活用し、効率よく作業することができました。地域住民や小学生に対して、実験紹介を行うことができ、成果の普及に寄与しました。

7.個人課題研究においてSSH生徒研究発表会参加生徒が、統計解析SPSSを利用
  学年:高校3年 活用ツール:SPSS統計解析

植物のアレロパシー(生長阻害活性)を調査する実験において、検定植物であるレタスの下胚軸および幼根の長さを測定したデータ(各1500個)について、SPSS統計解析ソフトにて、クラスカルウォリス検定を行い、各実験結果において有意差があるかどうかを比較検証しました。MicrosoftExcelの統計解析では時間がかかる大量のデータでも、SPSSを用いることで素早く解析できるうえ、応用的な分析も可能となり、効率的に統計処理を行うことができました。

その他、活用ツール

教員の感想·変容

本校ではBYOD方式を導入していますが、生徒のノートPCでは限界のある高品質の動画やオンライン配信が、STEAM Labの PCを使ったおかげでストレスなく編集、配信することができ、業務に関する生産性は飛躍的に高まりました。科学部無線班の活動においてはハイスペックなPCを導入できたことにより、FT8の交信もスムーズに進めることができ、ディスプレイも精細であるため、制御状況や通信状況などを効率的に把握することができました。結果として、生徒に利用してもらう際にも、スペックを気にすることなく、すべての機能を利用してもらうことができるため、円滑に指導をすることができました。
PCや3Dプリンターなど、そういった機材が十分に授業や実験機材として活用できることを実感として持つことができ、今後の教育活動の充実に向けて視座が高まりました。

児童・生徒・学生の感想·変容

ハイスペックなPCが利用できることにより、生徒の活動の幅が増しました。科学技術に関する新たな魅力を見出すことができました。
STEAM Labの機材の利用を楽しみにする生徒が増え、全体の活動が活性化しました。PCや3Dプリンターが活用できることに驚きを覚え、科学技術についての知的好奇心・関心を高めることに寄与しました。

保護者・地域の声

実験室に3Dプリンターが置いてあるというだけで、非常に驚かれた様子でした。まだ日本ではテクノロジー教育が発展途上であるということを改めて実感しました。

今後の課題

3Dプリンターについて、日本語で説明しているサイトがまだまだ少なく、日本語のマニュアルを作っていかないと、日本のテクノロジー教育が発展していかないと実感しています。
学校の施設面の課題。PCとモニター、3Dプリンターを配置したメディアセンターのような空間を設置したいと考えていましたが、空き教室の都合上、備品を配置する十分なスペースを取ることができませんでした。
Adobe Creative Cloudの導入方法の理解が難しく、十分に活用することができませんでした。

STEAM Lab 実証研究校インタビュー


茨城県つくば市に位置する茗溪学園中学校高等学校は、 1979 年に筑波大学、 東京教育大学の同窓会「茗渓会」によって創立された中高一貫校。2011 年に文部科学省スーパーサイエンスハイスクールに指定、 さらに 2017 年には国際バカロレア(IB) の認定を受けるなど、 国際標準のカリキュラム開発に日々取り組んでいます。さらに、 2021 年に知を武器に生きる若者を育成すべく、 アカデミアコースを開設したほか、留学生コースの設置など、国際色豊かで常に新しいチャレンジに取り組んでいる同校の「STEAM Lab」活用についてお話を伺いました。

専門知識を持ったスタッフを常駐させることで、より質の高いICT環境を提供

学術研究都市に位置する同校は、文部科学省よりスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定を受け、12 年間もの科学技術系人材の育成実績がある進学校。プロジェクト型学習である個人課題研究を教育活動の中核としており、 STEAM 教育もその一環として実施しています。また、近隣の研究機関と提携し、課題研究などを通じ指導しているのも特色。その地域性もあって生徒は科学技術分野や STEAM 教育に対して強い興味を持っていると教諭の三枝氏は語ります。そんな同校では、STEAM 教育を教育活動の中核とした個人課題研究の一環として実施。生徒の創造性を育むために、より良い環境を整え、生徒の個別活動を支援することを目的として STEAM Lab が設置されました。同校では、中学 1 年生より BYOD を実施しているほか、校内に DX 戦略室を設置し、 専門知識を持ったスタッフが常駐。生徒が学習に集中できるのはもちろん、 教員も環境構築やメンテナンスから解放され、質の良い教育を行うための環境が整備されています。

五感を働かせ “本物に触れる” ことを重視した STEAM 教育を実践

同校の STEAM 教育において、三枝教諭は “本物に触れる” 指導を重視していると語ります。「例えば、理科では単純に写真を見るだけではなく、実験などで実際に手を動かして何かを感じる。五感を刺激することが大切ですね」と続けます。同校では、 教科横断的な学習として化学と美術、 家庭科と科学など、 異なる教科を組み合わせた学習を推進。ガラス細工やベーキングパウダーの実験など、実生活に結びついた教育を行い、生徒の知的好奇心 ・ 関心を高めています。また、 同校では成果物の活用にも重点を置いた指導を実施。そのひとつの取り組みが 3D プリンターの積極的な活用です。同校の小林教諭は 「物理の授業で使用する実験器具を作成したり、 部活動での探究活動として「竹とんぼ」を 3D プリンターで作成し、 羽の角度を変えながら最も飛距離が出る方法を研究するといった場面でも活用しました」と語ります。こうした一連の活用で欠かせないモデリングソフトは、生徒の BYOD 端末では動作に不安があったものの、 STEAM Lab に設置された高性能な PC によってスムーズな作業が行えたと評価しました。

3D プリンターで出力したものが、実験器具として活用できることに驚く生徒が続出
竹とんぼの作成は「よく飛ぶものを研究して、 皆が気軽に作れるように」という思いから始まったという

STEAM Lab の存在が生徒の意欲を意識を刺激する契機に

STEAM Lab 設置による効果について、 同校の小林教諭は 「3Dプリンターを導入したことによって、 実際に気になるものを自分で 3D モデリングしてプリントしようといった具合に意欲に変化が見られました。私自身も実験器具を自分で作りましたので、 教員の意識も変わってきていると思います」 と語ります。また、 三枝教諭は同校の生徒会活動にも大きな変化が現れたと加えます。 「最も大きな変化は生徒総会や生徒会役員選挙の在り方の変化。どちらも従来は体育館に約 1,500 人の全校生徒を集めていましたが各教室での動画配信に変更されました。また、 生徒会選挙にはインターネット投票が導入され、欠席者や留学中の生徒も投票できるようになりました」 と変化について言及。後者の選挙に関する変化は、 選挙運動やポスターが投票行動に及ぼす影響などについて分析するなど、つくば市と筑波大学との共同研究の一端を担う取り組みです。教科横断の授業や個人課題研究、 生徒会活動に部活。 STEAM Lab は学校生活のすべてに密着する中心的存在としての役割を担う場として活用されています。

多くの生徒が 3D プリンターに興味を示し、 授業後に使い方を学びに来るように
生徒総会や生徒会選挙などの行事を校内限定でカメラ配信する様子

生徒の学びの質を上げるだけでなく、 教員の業務効率も改善にも寄与

同校では STEAM Lab を生徒の学びだけでなく、 教員の業務にも活用。そのひとつの取り組みがデジタル採点システムだ。従来のように、 1 人の教員が答案用紙に対して採点していくのではなく、 デジタル化された答案用紙に対し、複数の教員が同時にアクセスできることによって、採点をはじめ結果の集計などに要する時間を大幅に短縮。このシステムは、 定期テストだけでなく入学試験にも取り入れられているという。こうした採点システムを運用するには、 大量の答案用紙をスキャンして取り込んで処理する必要があるため、 高性能な PC が欠かせないと三枝教諭は語ります。STEAM Lab は、生徒と教員の垣根を超え、学校全体の学びと運営の効率化にも寄与しています。また、 同校の宍戸教諭は「学校見学会や学園祭など、 保護者や地域の関係者などが実験室に 3D プリンターが置いてあるというだけで非常に驚かれた。まだ、 日本におけるテクノロジー教育は、発展途上であるということを改めて実感しました」と振り返り、STEAM 教育のさらなる発展に意欲を見せています。

STEAM Lab 導入機材


• 株式会社マウスコンピューター
 DAIV Z7 シリーズ 10 台
• 28 型 4K 液晶モニター「XUB2893UHSU」、3D プリンター
• Adobe Creative Cloud 小中高校サイトライセンス