探究的な学びの成果を卒論に

金沢錦丘中学校では、GIGAスクール構想を契機に導入された1人1台のChromebookを文房具のように日常的に活用しながら、「自律的に学ぶ生徒」の育成に取り組んでいる。自律的に学ぶ生徒とは、「学習者自身が生涯にわたって、必要な知識や能力を認識し、身につけた力を他者との関わり合いや実生活の中で応用し実践できる生徒」のことを指しており、石川県教育委員会による「GIGAスクール構想の実現に向けた教員のICT活用指導力強化事業」における同校の研究主題になっている。

導入されたChromebookの日常的な活用は広く進んでいる。
例えば国語の授業では、オンラインフォーム作成ツール「Google Forms」を活用して俳句や短歌の投票を行ったり、デジタルホワイトボード「Google Jamboard」を活用したりしてグループ活動での意見共有などが行われたという。また、これらの「Google for Education」以外のツールも学びに活用されており、例えば画面共有や資料共有に学習支援アプリ「ロイロノート・スクール」を使うなど、教員の授業スタイルに応じてツールを使い分けているという。

自律的に学ぶ生徒の育成を、さらにステップアップさせる取り組みも進んでいる。それが学びのアーカイブス化だ。
金沢錦丘中学校では、開校当時から3年生の総合的な学習の時間において卒業研究に取り組んでいる。数年前からはSDGsをテーマにしており、生徒たちはSDGsで設定された17の国際目標などから課題研究テーマを設定し、1年間をかけて探究的な学びに取り組んでいく。
「3年生は5月ごろからこの卒業研究のテーマ設定に取り組みます。しかし、研究テーマを決めるのは一筋縄ではいかず、非常に時間がかかります。そうした生徒たちの研究テーマを決めるヒントとなるよう、本校では中高一貫教育の中高連携の学びとして、金沢錦丘高校の2年生と中学校3年生が意見交換する『課題研究テーマ交流会』を実施しています。また。これまで卒業研究の本文(卒業論文)と概要を示したポスターを保管しており、生徒たちが参照できるようにしています。しかしこれらの過去の卒業研究は紙で保管しており、生徒たちが自身の興味関心に合った過去の卒業研究にアクセスすることは難しい状況にありました」と振り返るのは、金沢錦丘中学校 教諭の田中祐介氏。

そうした卒業研究のテーマ設定にまつわる課題を解決するため、同校が取り組んだのが「卒業論文アーカイブス」の作成だ。
2022年度と2023年度分の卒業研究の本文(卒業論文)とその概要を示したポスターをPDFデータでGoogleドライブ上に保存し、アーカイブス化した。生徒たちは自身のChromebookを活用し、関心のあるキーワードで検索することで、保存された卒業論文などのPDFを閲覧できるのだ。

先行研究からより発展的な学びへ

金沢錦丘中学校 校長を務める嶋 耕二氏は「商品開発でも事前にマーケットリサーチをするように、論文を書くときも過去の研究をレビューする必要があります。中学生に求めるには少々レベルが高いかもしれませんが、卒業研究のテーマを設定する上で、先輩たちはどこまで調べたのか、どこを攻めたら新規性があるのか、といった切り口から卒業研究に取り組む生徒が、1人でも2人でも出てきてくれたらうれしいですね」と語る。
金沢錦丘中学校では探究的な学びに力を入れており、1年生や2年生の段階から図書館の使い方やデータの調べ方などを学びながら、3年生の卒業研究に向けた基礎を養っているという。

また、こうしたアーカイブスは、教科学習でも活用が進んでいる。
例えば理科の授業では、生徒の自律的な学びの一環として「探究レポート」の取り組みを行っている。授業で取り上げた内容や、生徒自身が興味のある内容を基に深く掘り下げて調査し、その結果を手書きのレポート1枚にまとめるものだ。同校ではこの理科の探究レポートのアーカイブス化も進めており、スキャンしてPDF化した探究レポートを「Google Classroom」上にまとめている。

このような学びのアーカイブス化は、「錦丘学びのアーカイブス」として金沢錦丘中学校の各教科に広がりつつある。
「例えば数学では、生徒たちの問題に対する解法の中から、特徴的なものをPDF化して共有しているようです。社会科ではさまざまな地域のレポートや、歴史上の人物のレポートなどのアーカイブス化を進めているなど、先輩たちの学びを踏まえた探究的な学びを実現できる環境の構築を進めています。一方で、単年度の活用にとどまってしまっている課題もあり、今後は学年が変わったり、新入生が入ってきたりしても、柔軟にアクセスができるようにしていきたいですね」と嶋氏。

卒業論文アーカイブスをはじめとした錦丘学びのアーカイブスは、今後も金沢錦丘中学校の生徒たちの自律的な学びをサポートする“学びのための図書館”のような存在として、改修を重ねながら継続した運用を進めていく。

※上部画像説明
英語の授業では、クイズアプリ「Kahoot!」を活用。生徒たちは正しいと思う選択肢を選び、その結果に一喜一憂しながら学びを楽しんでいた。

※上部画像説明
社会科の授業ではグループで協力しながら株式会社の企画書を作成していた。
生徒たちは企業の目標、事業内容といった事柄を、共同編集機能を活用しながら話し合ってスライドにまとめていた。

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