STEAM教育の実践校に聞いてみよう

校長:わか子先生、ちょっといいかね?

わか子:はい、何でしょうか?

校長:STEAM教育を実践している学校を探しているんだって?

わか子:えっ、なんで知っているんですか? 

校長:ひろと先生から聞いてね。「総合の授業を発展させて、STEAM教育を実践するには各教科の相互の関わりを意識しながら学校や教員がカリキュラムや授業を組み立てていくことがとても大事なんです!」と言っていたよ。はやお先生も含めて、3人で話し合ったそうだね。

わか子:(私から報告しようと思っていたのに、ひろと先生ったら!)はい、そうなんです。ただ、具体的にどのような授業をすればいいのか、全然イメージが湧かなくて…。

校長:だから、STEAM教育に取り組んでいる学校を参考にしようと思ったんだね。私も人脈を辿って探してみたんだ。東京都武蔵野市にある聖徳学園中学・高等学校へ行ってみるのはどうかね?

わか子:あれ、その学校、ネットの記事で見た気がします。

校長:STEAM教育のリーディングスクールだよ。そこにSTEAM教育を担当する品田健(しなだ・たけし)さんというすごい先生がいるから、話を聞いてきたらどう?

わか子:校長先生、さすが! はい、すぐに行ってみたいと思います。

STEAMを開始するのに重要な「校風」

聖徳学園中学・高等学校
聖徳学園中学・高等学校

品田 健 先生

<プロフィール>
桜丘中学・高等学校で副校長としてiPadの全校導入を推進。2017年4月から聖徳学園中学・高等学校で学校改革本部長・Executive ICT Directorに就任し、STEAM教育の開発を担当。2015年よりApple Distinguished Educator認定。2023年4月よりProgram Coordinatorを務める。一般社団法人Yohaku Education代表。

わか子:品田先生、はじめまして。この度はお時間をいただき、ありがとうございます。

品田先生:いえいえ、何でも聞いてください。

わか子:じゃあ、さっそく。まず、聖徳学園中学・高等学校(以下、聖徳学園)でSTEAM教育を始めたのはいつからですか?

品田先生:中学のICTの授業、いわゆる「総合(総合的な学習の時間)」でSTEAMのような授業は行っていたり、高校でも国際協力プロジェクトに取り組んでいましたが、正式にSTEAM教育としてスタートしたのは2017年からです。

わか子:開始するにあたり、聖徳学園ではどのような準備をされましたか?

品田先生:2013年からiPadの導入を段階的に進めて、生徒全員が1人1台で学べる環境を整えました。また、2017年にはSTEAM教育を実践するのに適した校舎「STEAM棟」を新たに建設しました。

わか子:これまでの教室の概念を覆す、新たな学びの空間を目指して作られたんですよね。記事を読みました。アクティブラーニングに適したラーニングコモンズや動画の編集スタジオ、実験室、美術室、音楽室、和室などがあるすごい施設ですね。

品田先生:「ツール」と「場所」が準備できても、やっぱり「人」を見つけるのが大変ですね。私も前の学校を2016年に辞めたタイミングで、縁あって今の学校長からお声がけいただいたという経緯です。

わか子:品田先生は、STEAM教育を行うにあたり、どのような準備をしたのですか?

品田先生:STEAM教育の実践例は国内にほとんどありませんでしたし、教科書的なものもほとんど存在しませんでした。海外の事例なども調べてみたのですが、そもそもSTEAMやSTEMといった言葉の定義はバラバラで、実践例も何が正解なのかよくわかりませんでした。モノづくりをしていればSTEAMなのか、プログラミングをしていればSTEAMなのか、そのあたりもよくわからないままスタートしましたね。

わか子:そうですか。やはり最初はいろいろと悩まれたんですね。STEAMを開始する際に、外部の企業と連携はしなかったのですか?

品田先生:しませんでした。当時は一緒にやりましょう!というお声すらかからなかったように記憶しています。ですから、最初は中学でICTを担当していた2人のスタッフ、そして高校で情報を担当していた2人の先生を合わせた5名でスタートしました。でも、私以外のほかの4名はSTEAMに取り組むことを耳にしていたものの、「それって一体何?」という状態でしたし、ましてや自分たちが関わることすら想像していなかったと思います。

わか子:そうした中で、STEAMの取り組みはスムーズに進みましたか?

品田先生:中学でICTを担当していた2人のスタッフは似たような授業を行っていたのでイメージしやすかったと思います。ただ、高校の情報担当の2人の先生にとってはなかなかストレスだったと思います。というのも、私が赴任する前の情報の授業は、パソコン教室でWordやPowerPoint、Excelなどの使い方を教えていましたので…。実際に2人の先生から「なぜ情報の授業の中でSTEAMという、これまでと違うことをやるのかよくわからない」と言われたこともあります。

わか子:たしかに、困惑してしまうのも仕方がない気がします。ちなみに、STEAMを開始する前に、学校でタブレットなどのICT活用は進んでいたのですか?

品田先生:私が2017年に着任したときは、iPadを導入して4年目に入るタイミングでした。生徒はもちろん先生も1人1台持っていましたし、活用度合いに違いはあるにせよ、授業でももちろん使っていました。また、聖徳学園では生徒、先生、そして保護者が校内SNSを通して情報共有を行っているので、学校生活全体でiPadは当たり前のように利用していました。

わか子:そのようにICTの活用が校内に定着していることが、STEAMをスタートする条件の1つになりますか?

品田先生:タブレットを使うことへの抵抗感が生徒にも先生方にもなかったため、有利だったとは思います。ただ、それよりも大きかったのが校風です。というのも、聖徳学園は「自由・規律の尊重」を重要な指導方針の1つとして、社会のルールの中で自ら考え、自主的に行動できる人間を育てることを目標としています。わかりやすい言葉でいえば、とても自由な校風なんです。私学から移ってきた私でも、「こんなにゆるくていいの?」と思ったほどで。生徒一人ひとりが思い思いに自由なことに取り組むSTEAMの授業は、ともすると授業崩壊しているようにも見えるのですが、ほかの先生や保護者の方に許容されるような土壌があったからこそうまくいったのだと思います。

わか子:「STEAMのような取り組みはきちんとした授業ではないからダメだ」と思われるような教育環境だと、たとえスタートしてもうまくいかない可能性が高いということですね

生徒の創造的な時間を増やすために

わか子:実際の授業デザインについて教えてください。まず、STEAMを実践するうえで心がけていることはありますか?

品田先生:アウトプット中心の授業を行うことです。これまで、そして今でも授業の大半の時間が、生徒のインプットのために使われています。「しっかりとインプットしなければアウトプットできない」という従来の考えはわかりますが、これからの時代はアウトプットありきで授業をデザインすることが重要です。つまり、アウトプットしたいと思わせるような課題を生徒に与えて、生徒が自主的に必要なことをインプットできるような授業を常に心がけています。

わか子:アウトプットを中心にするために、授業をどのように設計しているのですか?

品田先生:授業設計の基本的な方針としては、とにかく私が喋る時間を減らすようにしています。先生って、どうしても繰り返し説明してしまうことが多いですよね(笑)。大事なことかもしれませんが、そうしていると先生から生徒への説明の時間が長くなってしまい、アウトプット中心の授業にはなりません。なので、私のSTEAMの授業では説明する時間を極力コンパクトにして、生徒がもう一度聞きたい場合は、授業後に動画やデジタルテキスト、PDF化したKeynoteスライドなどを渡して自分の方法で学び直してもらったり、私やほかの生徒に質問してもらったりしています。生徒が創造的な活動に費やせる時間をできる限り増やしてあげたいんです。

わか子:えっ、「先生が喋る時間を減らす」なんて考えもしませんでした…。

品田先生:たとえば、アプリやサービスの使い方や機能をひととおり説明してから、「はい、作りましょう!」だと、説明を聞いているだけで生徒は飽きてしまいますよね。それに、そもそも1度の説明ではすべてを理解することはできません。それよりは「こういうものが作れるよ」「昨年の先輩はこんなものを作ったよ」とアウトプットの見本を提示してあげるんです。そうして授業をスタートすれば、生徒はやりたいことがあれば自分で学ぼうとします。自分で調べたり、私や友だちに聞いたり、各々の方法でインプットしようとするんです。

わか子:たしかに最初からあれこれ教えてしまうと、それをコピーすることが目的になってしまって、とても創造的とは言えないですよね。

品田先生:もう1つ心がけているのが、なるべくプロジェクトを大きくしないことです。何カ月もかけて行うプロジェクトを与えるのではなく、できるだけ小さいプロジェクトを数多く行って、生徒がいろいろなアプリやサービスを使えるようにしています。

わか子:それはなぜですか?

品田先生:選択肢を増やしたいのです。動画を作るにしても、生徒によって作りたいものが違うので、必然的に求められるツールも異なります。「Clips」がいい場合もあれば、「iMovie」や「Keynote」、「Premiere Rush」などがいい場合もあります。それを生徒自身が考えて選べるようにするためです。聖徳学園では高校2年生になると国際協力プロジェクトを1年かけて行うのですが、そうした大きなプロジェクトを行う際にツールをうまく使い分けて、自分が満足いくものを作ってもらいたいと思っています。

教科横断的な学習と学内での啓蒙活動

わか子:具体的にどのようなSTEAMの授業を行っているのか教えていただけませんか?

品田先生:PBL(Project Based Learning)に取り組む前の段階で、いろいろなツールをたくさん使ってもらうことを意識した授業では、たとえば「授業の解説動画を作る授業」を行っています。中間考査までの試験範囲の授業の中で、自分が説明できるテーマを選んでもらい、KeynoteとiMovieなどを組み合わせて、30秒の動画を作ってもらいます。また、ワープロの授業では「模擬定期考査問題を作る授業」を行ったほか、動画をテーマにした授業では「外国語レッスン動画を作る授業」を行っています。それぞれ3コマ(3時間)しか取っていないので生徒に負担はかけますが、授業中に終わらない場合は授業外に頑張ってもらっています。

わか子:今説明いただいたのは「情報」の授業ですよね。教科横断的にほかの授業にもSTEAMを取り入れていますか?

品田先生:高校2年の「総合的な探究の時間」(探究)で行っている「国際協力プロジェクト」と連携しています。発展途上国の課題解決にグループで取り組むプロジェクトなのですが、それを行ううえで必要となる情報収集や企画書作成、プレゼンなどについては情報の授業で学習できるようにコラボレーションしています。

わか子:連携することのメリットはどこにあるのですか?

品田先生:たとえば、国際協力プロジェクトで生徒がプレゼンをする際に、以前だったら「探究」の中でプレゼンの作り方の授業を行っていました。ただ、探究の先生はその専門ではないので詳しく教えられない、また時間が足りないという課題を抱えていたんです。当初「私に教えてにきてほしい」と頼まれたのですが、私のほうも情報の授業に時間が足りないですし、それだと私の授業数が増えてしまいます。そこでプレゼンの内容に関しては国際協力プロジェクトのほうで行い、Keynoteの操作方法やスライドのデザインなどのプレゼンテーションの作り方に関しては情報の授業で行うようにしたんです。年間の授業スケジュールは決まっているので、それに合わせて連携すれば、探究ではその授業を行う必要はありませんし、情報の授業では生徒が本当にやる気になれるテーマを扱えるので、互いにメリットがあるのです。

わか子:生徒にとっても、仮想的なプロジェクトではなく、実際に行うプロジェクトだからモチベーションが高まるというわけですね。ほかの学科とも連携は行っていますか?

品田先生:年間必ず1コマもらって授業を行うようなことはしていません。その代わり、特定の学科の協力が欲しいときにその学科の先生に頼むようにしています。たとえば、映画作りの授業をやっていたら、映画のストーリー作りについては国語の先生に、GarageBandを使ったBGM制作に関しては音楽の先生に相談しています。将来的にはそれぞれの学科で年間数コマもらえるようにしたいのですが、ほかの先生方も時間的に自分の学科で手一杯なので、実現するのがなかなか難しいですね。

わか子:それは、よくわかります。うちの学校でも、それぞれの学科の先生が口癖のように「時間が足りない」と言っています…。

品田先生:少しずつほかの先生も上手に巻き込んでSTEAMを浸透させているような状態です。私が直接頼むのではなく、生徒に「それは理科の〇〇先生が詳しいから聞きにいくといいよ」と教えて質問させたりもします。質問されたら先生も嬉しいので、喜んでその生徒に教えてくれます。そして同じような質問ばかり続くと「最近、情報の授業で取り組んでいることに関して生徒から同じことを聞かれるけどなんで?」と問われるので、そのときに事情を説明すると「それなら、私のほうで1コマ取って、生徒にまとめて説明しますよ!」と言ってくれたりします。

わか子:教科横断的な授業を行ううえでは、その教科を担当する先生の協力も不可欠になってくるので、それをいかに上手に行うかも大切なんですね。

品田先生:私がSTEAMの授業を行っている、本校1階のLearning Commonsは全面ガラス張りで、しかも2面は道路に面しているので、授業の風景が周りから丸見えなんです。もちろん、学校としてはそれが狙いなのですが、STEAMを始めたばかりの頃は、生徒各々が自由なことをやっているので、それを見たほかの先生が「生徒が言うこと聞かないの? 大丈夫?」と心配して入ってきてくださったこともあります(笑)。STEAMは多くの先生にとって馴染みがなかったので、そういうところからスタートしました。

わか子:現在は、先生方の協力を得られるようになっているのですか?

品田先生:はい。授業風景は毎日のように見てもらっていますし、授業で作成した作品は私が評価のために見るだけではなく、生徒や先生方とも共有しています。ですから、それを見た先生が「彼女の動画解説はとてもいい!」だったり、「彼の説明は間違っている、もう一度説明しよう」などと言ってくれたりします。

教員がワクワクする課題を

わか子:聖徳学園では、PBLにもSTEAMを取れ入れていますよね。どのように授業で扱う課題を選べばいいのでしょうか。

品田先生:アドバイスとしては、まず先生自身がワクワクする課題を見つけることが大事です。STEAMだから理数系の課題でなくてはいけない、なんて思わなくて全然いいんです。たとえば、映画を見てとても面白かった、だからそれを題材として生徒に考えてもらったらどうなんだろう?というスタートでいいと思います。先生がワクワクしていると、生徒には伝わりますので。あともう1つは、工夫の余地がある課題にすることです。正解があってそこに生徒を寄せていくのは生徒にとってもつまらないので、先生の見本よりもっと面白いものが作れると思わせるような余白を与え、そこを評価できる形にしてあげるのが大事だと思います。

わか子:なるほど。先生が熱量を持っていることがまず大事なんですね。そのほかに、STEAMを実践するうえで教員に求められることはありますか?

品田先生:こういった知識や技術が必要というのはあまりないと思います。それよりも大事なのは「教えなくてはならない」という考えを捨てることです。先生が時間をかけてたくさん話して、板書をして教え、それを叩き込むことで生徒は賢くなる、というような考えを一切捨てないと、STEAMはできません。

わか子:えっ、「教える」という考え方が間違っているということですか?

品田先生:生徒に教え込んでしまうと、生徒が創造性を発揮する余地がなくなってしまいます。それに、STEAMでは「生徒を待つこと」が大事なんです。たとえば文章を書くのだって、「書け!」って言われていきなりスタートできませんよね。人によって「ちょっと置いておこう」だったり、あるタイミングですらすら書き出せるようになったりすると思うんです。STEAMの創造的な学びもそれと一緒です。計算問題をするなら「はい、スタート!」でいけますが、面白い動画を作るのはそうはいかないんです。生徒があれこれやっていて、遊んでいるように見えるときもあります。また、生徒によっては最初から全開の子もいれば、最後に帳尻を合わせるように頑張ってくる子もいます。なので、先生はそれを見守る必要があるんです。これまでの先生からすると、ものすごくストレスに感じることなので、どのようにマインドを切り替えられるかがポイントですね。

わか子:STEAMの授業を行ううえで、教員にSTEAMの知識は必要ないんでしょうか?

品田先生:知識があるのに越したことはないですが、それを身につけてからでないと教えられないと思うのは、これまでの考え方です。古典の授業を行うには古典の文法がわからないといけませんが、STEAMでやろうとしていることはそれとは違うんです。ICTツールだってそうです。iPadの使い方を先生がすべて知っている必要はないんです。基本さえわかればいいですし、わからなければいくらでもWebやYouTube上で説明されているので、それを見て学んでもらえばいいのです。そうした固定概念を捨てて、先生は自分が面白いと思うプロジェクトを提示して、生徒をワクワクさせること。そして、自分がわからないことは「よくわからないなぁ」と言いながら一緒にやってみたり、生徒がその答えに辿り着けるようにアドバイスしてあげたりすることが重要なんです。STEAMの授業はこれまでの授業スタイルとはまったく違うので、こうした面でも先生方のマインドセットを変えることが重要ですね。

わか子:ティーチングではなく、サポートするというファシリテーションやコーチングのマインドが大切なんですね。

品田先生:私のPBLの授業では「火星に取り残された宇宙飛行士を助けるか助けないか」をテーマに、生徒自身がNASAの長官になり、どのような声明文を出すかというプロジェクトをしています。私はもともと国語の教員なので、たとえば地球から火星までどれだけ時間がかかるのか、なぜそれが時期によって変わるのか、火星で酸素を生成するにはどうすればいいのか、といった生徒からの質問には答えられません。これまでの先生だとそうしたテーマを扱う場合に、「すべての生徒からの質問に答えられなければならない!」と思うかもしれませんが、その答えを先生がすべて知っている必要はないんです。とはいえ、生徒に聞かれたときにまったく頼りならないのではなく、「わからないなぁ、一緒に調べてみよう」と同じ目線で考えたり、「この部分が大事なんじゃない? 調べてみたら?」とか「クラスの誰々や理科の先生に聞いてみたら」とアドバイスするなどといった“ちょっと頼りになる”くらいのスタンスで十分だと思っています。

失敗にもめげないマインドが大事

わか子:STEAMに取り組む中で、失敗もありましたか?

品田先生:もちろんです。たとえば先生自身がワクワクすることが大切だと言いましたが、そこで私と生徒の熱量が違ってしまい、大コケした授業があります。それが先程説明した「火星に残った宇宙飛行士」のプロジェクトなんですが、実はこれ、私が好きなとある映画を題材にしていて。本来なら映画をしっかり見せたいんですが、それだと時間がかかるので、90秒くらいの予告編だけ見せて、あとは口頭で映画のストーリーやシチュエーションを説明したんです。それで、生徒に「みんなだったら、どうする?」と聞くと、まったく盛り上がっていない…。なぜかと思って聞いてみたら、「先生が面白いと思っているのはわかるんだけど、そもそも予告編や口頭の説明だけでは映画の世界に入れないです」と言われて、それはそうだよな、と。そこで翌年から映画のオープニングを30分ほど見せたところ、生徒の反応がまるっきり変わりました。うまくいかない授業があったときは、授業後に生徒に直接聞くのがいいと思います。「これ、つまらない?」と。

わか子:授業が失敗してしまったとき、どのようなマインドで向き合えばいいんでしょうか。

品田先生:先生自身がワクワクすることが大切だといったのは、試行錯誤してもうまくいかないときに自分が面白い!と感じていれば、ほかにもやり方はあるはずだと考えて努力できるからです。「こんなに面白いのに、それをわからないのは生徒が悪いんだ」というような考えはよくありません。もし生徒に面白いと感じてもらえないなら、それは先生側の提示の仕方に問題があると考えることが大切だと思います。

わか子:ところで、情報科の授業において、生徒の評価はどのように行っているのですか。

品田先生:情報の授業なので成績はつけなければなりませんから、アプリやサービスの使い方などに関してはペーパーのテストもしています。いわゆる定期考査といわれるもので、その結果を見て習熟度を評価しています。そして残り半分の作品に関しては、最初にルーブリックを提示しています。つまり、「このような内容が作品に含まれていれば何点」という尺度を示しています。そして出来上がった作品を私たちがチェックして、その結果を定期考査と一緒に渡します。その際に、生徒からのフィードバックを受けつけ、納得がいかない生徒の意見を聞いて、作品を一緒に見ながら評価を変えていくこともしています。一学年あたりすべての生徒の作品を見るのに3日間くらいかかるので、ものすごく時間と手間がかかります。

わか子:創造的な作品はなかなか評価がつけにくいと思うのですが。

品田先生:表現するのが得意な子もいれば苦手な子もいると思いますが、情報の授業は芸術科目ではないので、芸術的センスは本来求められません。つまり、ルーブリックに従ってしっかりと作品を作れば、80〜85点以上の「5」がつかないとおかしいわけです。そうした観点から作品に芸術性や創造性が感じられなくても、情報の授業としてはやるべきことはやれば5を取れるようにしていますが、ここで難しいのは、ものすごいクリエイティビティを発揮した作品を作った生徒の評価です。いろいろと調整してきたのですが、今はそれでも最大でプラス15点以内に抑えるようにしています。もちろん、気持ちとしてはプラス30〜40点上げたいところを最大15点しかあげられないもどかしさはあります。ですから、1つの解決策として、プロジェクトごとにオリジナルのシールを作っていて、とてもクリエイティビティあふれる作品を作った生徒には、こちらの気持ちとしてそのシールを渡しています。

STEAM教育を実践する効果

わか子:STEAM教育を実践していて、どんなときに生徒の成長を実感したり、やりがいを感じたりされますか?

品田先生:私のSTEAMの授業を面白いと思ってくれて、「もっと日本にこの教育を広めなくてはいけない!」「STEAMをテーマに研究したいことをアピールしてAO入試で大学に行きたい」という1人の生徒がいたんです。その生徒がSTEAMや教育改革をテーマに対話したいというので何回か一緒に話して、それで小論文を提出して、大学の面接を受けたら、なんとSFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)とICU(国際基督教大学)に受かったんです。なかなか一般入試で両方に受かることは難しいですし、本校でも両方受かったのは彼が初めてでした。本当に理想的な、というかとても素晴らしい人物で、その後はITチューターとして学校に頻繁に来てくれていて、総合型選抜を受ける生徒のサポートをしてくれたり、ICTのことを手伝ってくれたり、今はAdobeのPhotoshopとIllustratorの講座を放課後に行ってくれています。この生徒の存在がとても大きくて、STEAMに否定的だった先生も「STEAMってけっこういいのかも」と校内的なイメージがだいぶ変わりましたね。

わか子:素晴らしいですね!

品田先生:この生徒の話は特例かもしれませんが、日常的にもさまざまなSTEAMの効果を感じ取ることができます。たとえば「外国語レッスン動画を作る授業」では、最初の年は私が見本で作ったものを真似てくる生徒がほとんどでした。しかし、その次の年に「先輩方はこういうのを作ったよ」などと生徒に見せると、どんどんと私の想像を超えた作品が出てきます。たとえば、1人の女の子が、映画「美女と野獣」のストーリー展開に合わせてフランス語を学ぶ動画を作ったんです。お芝居形式の作品なのですが、動画の後半のほうでは生徒が主人公のベル役になりきって、自分の家で美しいドレスまで着て演じてくれているんです。ご家族の方もびっくりされたと思いますが、ここまでやってくれるのかと、私も本当に驚かされ、同時にとても嬉しく思いました。どんなプロジェクトをしていても、このような姿を見ることができるので、生徒の創造性が伸びていることを本当に実感しますし、作品を通して、同じクラスの子や後輩、保護者、先生が1人の生徒の成長を見ることができるのもSTEAMの授業のいいところだと思います。

【次回予告】

聖徳学園の視察で大きな気づきを得たわか子先生。次回は「正解は1つではない」STEAM教育の実践に向けて、そのほかの学校でSTEAM教育がどのように行われているかも見てみることに。兵庫県加東市にある、兵庫教育大学附属小学校を訪れます。