2021年度から本格的に運用が開始された、1人1台のGIGAスクール端末。2022年3〜4月には、多くの学校が導入後初めての入学・進級・卒業シーズンを迎えます。

本格的なデジタル時代を迎え、子どもたちのアカウントをどのように取り扱えばいいのか、わか子先生と一緒に対応方法を確認していきましょう。

今までと違う「年次更新」注意すべきポイントは?

今までと違う「年次更新」注意すべきポイントは?

わか子:いろいろ話をしていると、子どもたちの学びだけではなく、先生自身もICTリテラシーを高めなくてはいけないと実感するよ。しおり先生の言うように、情報セキュリティも学校や自治体できちんと整備していかないといけないね。子どもたちのアカウントにパスワード、いろいろ管理するものがあって大変だな?。

しおり:そういえば、もうすぐ3月ですし、「あれ」のシーズンですね。わか子先生のところの小学校ではもう準備できていますか?

わか子:「あれ」って何だっけ? 花粉症のシーズンとか?

しおり:またまた、とぼけちゃって。恒例の「年次更新」の時期じゃないですか。しかも、学校によってはGIGAスクール端末導入後はじめての更新になるので、今までとは勝手が違って困っているという話もよく聞きます。

わか子:年次更新ね! もちろん準備はできているよ! ……たぶん。でも、教育委員会とのやりとりや導入業者さん、ICT支援員さんとの打ち合わせは同僚のはやお先生にお願いしてしまっているから、実はあまり把握できていないかも。校務系で利用しているサーバやアカウント管理については理解が追いついていなくて…。

しおり:はやお先生はそういうの詳しそうですもんね。公立校なら教育委員会が運用ポリシーを定めてマニュアルを作って渡してくれるかもしれませんが、このあたりは自治体の方針や学校側の受け入れ態勢によっても、対応が多少異なるかもしれませんね。

わか子:学校側としては運用マニュアルに沿って進めていけばいいのだけど、やっぱり最終的にはそれぞれの学校の事情に合わせて現場で調整して判断していかないとね。また私の仕事が増えちゃうけど。

しおり:アナログからデジタルへの移行は、一時的にはなりますが、作業が増えて大変です。完全にデジタル化してしまえば作業は楽になるんですけどね。

わか子:だよね。うちももっと予算があれば設定や更新作業はシステム会社さんに丸ごとお願いしたいところだけど、それにしたって学校としての方針をきちんと把握して伝えないといけないからね。

しおり:まずは、アカウントの運用方針をきちんと決めるのが前提で、そのうえで年次更新に必要なタスクの洗い出しとスケジューリング、担当者への作業分担と調整が必要です。うちの中学校では、情報担当の先生が中心になって年次更新のためのタスクフォースを作って対応しました。

わか子:タスクフォースって名前が格好いい! チームの力で何とか乗り越えたいな。でも今からでも間に合うのかな…。

しおり:わか子先生なら何とかなりますよ! 年次更新作業のポイントとしては大きく分けて①アカウントIDの更新、②端末の更新、③データの取り扱い3つと、それらを円滑に遂行するための組織づくりがあります。デジタル化で最初に戸惑うのは①のアカウントIDの更新なので、この点を中心にお話ししたいです。

情報資産を重要性で分類して対策しよう

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わか子::アカウント更新については私よりもはやお先生が詳しいかも。ちょっと電話して聞いてみるね。

しおり:先輩! そこは電話じゃなくてビデオ会議とかチャットにしましょう。せっかくタブレットをお持ちなんだし。

わか子::あっ、そうか。ではビデオ会議でつないでみるね。

はやおわか子:先生、こんにちは。特別研修はどうですか? 校長先生も気にされていましたよ。

わか子::後輩のしおり先生の話がとても参考になっています。今は年次更新について話しているんですが、はやお先生の話もお聞きしたいです。

しおり:はやお先生はじめまして。さっそくですが、はやお先生はアカウント更新についてどのように進めていらっしゃいますか?

はやお:う~ん、特別なことをしているつもりはないんですが、大体はGIGAスクール向けのタスクリストに沿って進めています。まずは、教育委員会から送られてきた運用マニュアルを参考に、必要な作業リストとスケジュールを立てますね。アカウントに関していうと、教育委員会で管理しているものと学校で管理しているものがありましたので、すべての利用サービスのアカウントのリストアップからですね。具体的にはApple ID、Googleアカウント、MicrosoftのアカウントなどOS系のアカウントのほか、デジタル教科書や授業支援サービスその他諸々です。大体3つか4つくらいは、多くの学校で扱われているのではないでしょうか。そこから年次更新が必要なものがどれかをライセンス形態も含めて確認しています。

しおり:そうなんですね。最近はSSO(シングルサインオン)で1つのアカウントで複数のサービスを利用できるものがありますが、その辺はいかがでしょう。

はやお:ええ、うちの学校で使っている授業支援のノートサービスはSSOに対応しています。子ども用に発行した学校のメールアドレスでいくつかのサービスにサインインできるので、比較的管理の手間は少ないかと思います。

しおり:スケジュールについてはいかがでしょう?

はやお:大体2月の中頃から年次更新のタスクを列挙して関係者との打ち合わせなどを始めています。実際の作業は年度が代わったタイミングでないと更新できないシステムもあるので、結構ギリギリまで作業することになるはずです…。

しおり:その辺はどこも似たようなものですね。準備が整ったら更新に必要な子どもたちの情報を集めるステップということでしょうか。

はやお:ええ、うちでは校務系の情報はネットワークから切り離したサーバをオンプレミスで管理していますので、そこから更新に必要な情報だけを抽出してCSVファイルにまとめています。教育委員会向けに送るものはフォーマットに合わせて整えていますが、英数字の全角や半角などの細かい指定があったりするので注意しています。

しおり:フォーマットは全国共通というわけではないですものね。そうしたら次は、卒業や転出する子どもたちのアカウント停止や、新入生用のアカウントIDとパスワードの発行という流れですね。

はやお:データは一定期間保存してから削除する運用です。配付されたGIGAスクール端末か、BYOD(Bring Your Own Device)で持ち込んだ端末かによって管理方法は異なりますが、MDM(モバイルデバイス管理)を使って一定期間が経過したら切り離すといった運用はかなり楽です。新しく入学する子どもについては、うちは小学校なので学校側でセットアップしてすぐ使えるようにして渡しています。年次更新の全体的な流れとしてはこのような形ではないでしょうか。ステップごとにチェックリストを作っておくと、確認漏れや不明な点が減りますよ。

しおり:よくわかりました! ありがとうございます。なんだ、わか子先生の学校はしっかり計画を進めてらっしゃるじゃないですか。

はやお:あともう一点、予備の端末があれば、デモ機を作成して設定や動作を検証したあと、全台に適用する方法を取られることをおすすめします。検証段階で設定ミスや不具合がああった場合、すぐ修正すれば全体に影響することはありませんからね。

しおり:なるほど、とても参考になります。

わか子::はやお先生、意外と仕事されていたんですね!

年次更新は運用改善のチャンス?

年次更新は運用改善のチャンス?

しおり:せっかくですので、はやお先生にもう少し質問させてください! アカウントの命名ルールはどうなっていますか?

はやお:たとえばiPadの場合ですが、「ASM(Apple School Manager」)で管理対象Apple IDを生徒に発行しています。導入時に教育委員会ともいろいろ検討して、メールアドレスの学校名のドメインより前の部分を「生徒ID」として、学籍番号などのコードで構成されています。この生徒IDの部分だけで、ほかの授業支援サービスのアカウントとしても利用できるので、子どもたちの混乱も起こりにくくなっています。

しおり:なるほど、事前に将来的な運用も見越したルールを決められていたのですね。GIGAスクールで慌てて導入した自治体ではメールアドレス(生徒ID)がやたらと長くなってしまったなんて話も聞きました。

はやお:最初はそういう問題もあるかもしれませんね。もし運用上の問題があるのであれば、関係者間で相談してより使いやすいものにしていくのもいいと思います。

しおり:そうですね。ほかに年次更新でのトラブルなどがあったら教えてください。

はやお:幸い、今のところ本校で重大なトラブルはありません。ただ、ほかの学校では、導入している授業支援サービスに登録しておいたクラス替えの情報を誤ってオンにしてしまって、始業式より前に子どもたちに新しいクラスの情報を公開してしまったという話を聞いたことがありますね…。

しおり:個人情報漏洩というわけではないですが、多くの子どもたちがクラス替えを楽しみにしていますものね。あと、はやお先生おすすめのシステムや、注意点はありますか?

はやお:学校によって事情は異なると思いますが、端末を保護者負担で導入した場合もMDMを同時に導入するのがおすすめです。これは、基本的にどのメーカーの端末を使っていても同じことではないでしょうか。予算がないからといって、1台1台有線で繋いで設定変更やアップデートしないといけないというのでは、誰がその負担を負うべきなのか?という問題が生じてしまいます。

しおり:参考になります。

はやお:それに端末も何年かすれば古くなって更新しなければいけませんからね。中高一貫の付属校だったりすると内部進学とそれ以外の子どもで使うデバイスのスペックが違っていたりして、教育の機会均等の面からもあまり望ましいとは言えません。5年もすればそのあたりの問題が顕在化してくるかもしれませんね。

わか子:ハードウェアもシステムも長い目で考えていく必要がありますね。今までは誰かが決めたマニュアルに沿っていれば間違いないと思っていたけど、私たち自身も考えていく必要を感じました。

はやお:デジタル時代でもルールやフォーマットを決めるのは結局は人間だからね。わか子先生もだいぶ成長しているね! あ、もう次の授業だから僕はこの辺で。

ビデオ会議終了

【監修】反田任(同志社中学校教諭)

【監修】反田任(同志社中学校教諭)

同志社中学校教諭。EdTech Promotions Manager(教育ICT推進担当)。
2014年度から同校における1人1台のiPad導入を推進し、Wi-Fiネットワークや学習ポータルサイトの構築・運用なども担当している。
Apple Distinguished Educator Class of 2015。

【次回予告】
わか子先生の特別研修もいよいよ大詰め。シリーズ最終回のテーマは「教員のICT向上のためにできること」。わか子先生はこの研修の成果を校長先生に伝えることはできるのでしょうか。お楽しみに!

次回:第5回 先生の『ICT活用指導力』向上のためにできることって?

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