教員生活も12年目を迎え、ICT担当として学校運営にも積極的に関わり始めたわか子先生。勤めている小学校でも、すべての学年の生徒にGIGAスクールのタブレット端末が導入されました。

ところが、授業での活用となるとまだまだ手探りで課題はいっぱい。同僚の先生たちはもちろん、子どもたちや保護者からも毎日のように多くの質問が寄せられています。

PCに詳しいはやお先生たちとともにチームで課題解決に取り組んでいるわか子先生。そんな中、校長先生から突然呼び出しがありました。

タブレット導入後の成果やいかに

タブレット導入後の成果やいかに

校長:お?、わか子先生おつかれさま。そこに座ってくれるかな。実はちょっと相談したいことがあってね。

わか子:何か問題でもありましたか(ドキドキ)?

校長:いやいや、問題というようなことではないんだけど、実は教育委員会から本校でのタブレット端末の利用状況や活用法について意見を求められてね。でも、僕はその辺り詳しくなくてさ…。

わか子:前にアンケートのようなものにお答えしたと思うんですけど、何かまた新しく頼まれたのでしょうか?

校長:うん、実はその時にうちの学校にはわか子先生というICT教育のスペシャリストがいるという話をしたら大変興味を持たれてね。ぜひICT実践モデル校として取り組みを発表してもらいたいと。

わか子:えええ?! いやいや無理ですって。私ははやお先生のようにそこまでICTに詳しくないし。いい加減な紹介しないでくださいよ、もう!

校長:まあまあ、わか子先生は昨年一斉休校になった時も家庭からリモート学習ができるように頑張ってくれただろう? そういう経験やタブレット導入後の成果について、他の学校の皆さんに役立つ話をしてもらえればいいなと。

わか子:まあ、確かにあの時はタブレットがなければ乗り切れなかったかもしれませんが…。でも、毎日目の前のことで手一杯で、ほかの学校の皆さんがタブレットをどう使われているかなんて考えたこともありませんでした。

校長:うん、視野を広げるのは教師として大事なことだね! 特別研修の期間も用意するから、いろいろ調べておいてくれないかな。はやお先生にも話はしてあるので、詳しいことは彼から聞いてよ。

わか子:え〜何という無茶振り。うーん、でも現状がどうなっているのか、私も知りたいので頑張ってみます!

「1人1台」環境は実現したけれど

「1人1台」環境は実現したけれど

わか子:はやお先生! 校長先生から聞きましたけど、そんな話があるなら先に教えてくれたっていいじゃないですか!

はやお:え? あぁ、ごめんごめん。調査とか資料のまとめとかは手伝うので勘弁してよ。

わか子:タブレット導入の成果がどうなっているかと言われても、自分の学校のことくらいしか知らないので、これが普通かどうかも見当がつかないんですよね…。昨年までにほとんどの小中学校にタブレットが行き渡ったと思うので、皆さんもそれぞれ活用されているんじゃないですか? 調査といっても何から手をつければいいのやら。

はやお:ICT環境の整備と1人1台の学習用端末の導入はゴールではなくて、これからの学びをつくるためのスタート地点だということはもうわか子先生も気づいているよね。進んでいる学校もあれば、そうでない学校もあるはずなので、まずはデータに基づいて現状を整理してみるのはどうだろう。

わか子:…と言いつつ、はやお先生のPCで文部科学省のホームページが開かれてますけど、まずはこれをよく読めってことですか?

はやお:最新とは言えないかもしれないけど、公的な発表からわかることも多いよ。GIGAスクールに関する民間会社の調査もいくつか発表されているので、それも参考にしよう。

わか子:ですね。どれどれ、令和3年(2021年)7月時点では全国の公立小学校等の96.2%で「全学年」または「一部の学年」で端末の利活用が開始されている…と。小学1年、2年には配付しない自治体のケースもありますよね。そして、公立中学校等は96.5%ともう少し高いようです。

はやお:義務教育段階における学習用端末の1人1台導入はほぼ2021年中には完了したということだね。

わか子:次の「平常時の端末の持ち帰り学習の実施状況」っていうのが気になるんですけど、実施している学校が26.1%、実施・準備をしていない学校が22.1%となっていて、思ったよりも持ち帰りを許可している学校って少なくありませんか?

はやお:「非常時」には実施していないとする学校は2.6%だったので、普段は必要ないと考えたのか管理上の問題があったのか、ここは気になるところだね。

アフターGIGAをめぐる現状とは

アフターGIGAをめぐる現状とは

わか子:こちらのMM総研の調査データもありました。こちらは小中学校の児童・生徒と保護者への調査で、2021年8月時点では63%が学習用端末を配付されていて利用しているとのことです。配られていないというのが36%もあって、先ほどの文部科学省のデータとは開きがありますね。

はやお:調査対象に私立校が含まれているかもしれないね。調査時期も近いし、2万人を対象にしているとのことなので信頼性はあると思うけど。

わか子:端末の利用シーンは授業が57%となっていて、そのうち「毎日使用している」が12%、「1週間に2~3回程度」が27%になっています。持ち帰り学習については実施が28%です。何だか活用実態についてだんだん不安になってきました…。

はやお:現時点での数値の評価はさておき、実際に利用している児童・生徒の反応はおおむねデジタル学習に対してポジティブに見えるので、もっと楽しく使ってもらえるといいよね。

わか子:こちらのイー・ラーニング研究所の調査による保護者への調査結果もなかなか衝撃的ですね。GIGAスクール構想の実現に向けての課題は「教師や保護者などITリテラシー・スキルの不足」とする答えが最多になっています。

はやお:調査母数が252で複数回答なので、これが突出した意見かどうかはわからないけど、こうした懸念を持って僕たちは見られているという認識は持ったほうがよさそうだ。

わか子:う〜ん、いろいろデータを見ていたら、だんだん頭が混乱してパニックになってきました!

はやお:あくまでデータなので、これを踏まえたうえで実際のところは現場の先生方に聞いてみるのが一番だよ。校長先生からもいろんな学校をわか子先生に見てきてもらうように言われているので、そうしよう。どこの学校に話を聞いてみたい?

わか子:近所の小学校なら、何人か知り合いがいるんだけど…すいません、スマホにメッセージが。あっ! そうだ彼女がいた!

はやお:心当たりでも?

わか子:はい、今メッセージを送ってきたのが大学時代の後輩で、教職課程の授業で仲良くなった子なんです。彼女は地方の中学校で教員になったのですが、最近はお互い忙しくて全然会えてなくて…。でも、彼女にならいろいろ突っ込んだ話も聞けると思います。そうと決まればさっそく連絡しなくちゃ。

はやお:わか子先生は6年生の担当だから中学校の状況を知っておくのもいいよね。じゃあ、僕のほうで出張に必要な申請書類なんかは用意しておくので…あれっ? もういない。やれやれ、さすがの行動力だなあ。生まれついての無鉄砲…さしずめ現代の『坊ちゃん』先生というところか、校長先生の人を見る目はさすがです。

【次回予告】
アフターGIGAの現状と課題を探るため、学校を飛び出したわか子先生。端末の活用が進んでいない理由は教員のスキル不足というのは本当なのか? 次回は、後輩の中学校教諭しおり先生のところに向かいます。お楽しみに!

次回:第2回 2年目を迎えるGIGAスクール 教育現場の活用と改善策

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