学年主任でICT担当のわか子と、新米教師のしんじが繰り広げる『教えて!ICTのA to Z シーズン2』も、いよいよ今回で最終回です。
ここまで英語教育やプログラミング教育、タブレットを活用した授業など、さまざまなICT活用について取り組んできた2人ですが、最終回は新学期に向けて、初日から使えるICT活用を考えます。新学期、新しいクラスに、新しい担任。子どもたちも教師も、新たな出発を迎えます。そんな時期だからこそ、タブレットを活用して表現豊かにコミュニケーションを深めるのはどうでしょう。
新米教師のしんじ先生なんて、早速、何か面白いことをやり始めたようですよ。
学級開きの日に、タブレットを使おう!
卒業式も修了式も終わった4月のある春休み。わか子たちは、新学期に向けて準備で忙しい毎日を過ごしていました。そんなとき、新米教師のしんじ先生がなにやら一人で動画撮影をしています。一体、なにをしているのでしょうか。
わか子:し、しんじ先生。どうしたの? 一人で動画なんか撮影しちゃって。
しんじ:あっ、わか子先生! なにって、動画撮影ですよ。最近は、スマートフォンでも簡単に撮影できるじゃないですか。
わか子:それはわかるけど、どうしたのいきなり? なにを撮っていたの?
しんじ:YouTuberですよ!
わか子:ゆ、ユーチューバー??
しんじ:そうです。Youtuberになりきって、自分の自己紹介動画を撮影していたんです。新学期になったら、子どもたちに見せようと思ってね。
わか子:は、はぁ?
しんじ:わか子先生、知らないんですか? 今、Youtuberは子どもたちのなりたい職業ランキングで3位ですよ! いやね、新学期で子どもたちの心をつかむために、Youtuberっぽく動画を見せるのも面白いかなと思いまして…。
わか子:しんじ先生、若いわね…。
新学期、新しいクラスの始まりとともにタブレットを活用するのはどうでしょうか? しんじ先生の例は大袈裟かもしれませんが、言葉だけじゃなく、写真や動画などイメージを使って先生が自己紹介をするのは子どもたちの興味を惹きやすいでしょう。また、クイズ形式の自己紹介も子どもたちが楽しみながら先生を知るきっかけになります。例えば「先生の下の名前は次のうちどれでしょうか?」「次の写真を見て、先生の趣味を当ててください「先生のふるさとはここです。何県かわかりますか?」などタブレットで映写しながら自己紹介をすると、楽しい雰囲気をつくることができます。子どもたちが「この先生、楽しそう!」と思ってくれたら、良いスタートにもつながりますよね。ほかにもタブレットを活用したプレゼンテーションで、担任の先生の所信表明やクラスのルールを伝えるのも、1つの手段として有効でしょう。子どもたちの意識や視線を集めることができ、教師の想いを届けることができるはずです。
しんじ:わか子先生もどうですか? 初日からタブレットを使ってなにかやってみましょうよ。
わか子:そうねぇ。いい考えかもしれないわね。そうしたら子どもたちにも「この先生はタブレットとか、電子黒板とか、ICTをたくさん使う先生だ」って思ってもらえるかも?
しんじ:そうですよ!
子どもたち同士がタブレットを使って自己紹介
はやお:やあ、わか子先生にしんじ先生。2人揃ってなにをしているんだい?
わか子:はやお先生。しんじ先生が学級開きの日に見せる自己紹介動画を撮影していたので、覗いていたんです。なんでも、ユーチューバーを意識しているとか…笑。
はやお:ははは。しんじ先生の考えることにはいつも驚かされるね。
わか子:でも、学級開きの日からタブレットを使うなんて、私なんて考えもしなかったなぁ。
はやお:そうだ! わか子先生としんじ先生。子どもたちの自己紹介もタブレットを使ってやってみるのはどうだろう? あるいは、友達を紹介する他己紹介なんかも良いかもしれない。カメラ機能を使ってペアで互いにインタビューして、その内容をまとめて、プレゼンテーションで発表するといった活動なんて、コミュニケーションが図れていいんじゃないかな。
しんじ:面白そうですね! 今度のクラスなら、みんなタブレットの操作も慣れているからできそうです。
わか子:私のクラスでもできそうだわ。いいかもしれない。
タブレットの操作に慣れている子どもたちであれば、新学期の自己紹介や他己紹介などに活用するのも良いでしょう。自分の伝えたいことを写真で表現したり、グループでメンバーの良いところをプレゼンテーションにまとめたりしながら、表現豊かにアウトプットできれば、クラスが打ち解け合う雰囲気を作ることもできます。またクラス替えがない学級であれば、春休みのできごとを簡単なプレゼンテーションにまとめて発表し合うのも良いでしょう。いずれにしても、学級開きのときは、子どもたち同士が互いにコミュニケーションを積極的に取ることが重要です。それを円滑に行うツールとして、タブレットを活用するのは有効だといえます。
友達との関わり方をロールプレイで!
はやお:さっき、しんじ先生がユーチューバーになりきって動画を撮影してたって話だけど…。
しんじ:あ、いや、まぁ、それは、その、なんというか…ウケるかと思いまして。
はやお:ははは。なにも、怒っているんじゃないよ。今の子どもたちはYouTuberが身近だし、動画撮影も好きなので、それを学級開きの3日間で生かすっていう方法もあると思うんだよ。
わか子:どういうことですか?
はやお:学級開きのときは、友達をつくったり新しいメンバーが打ち解けたりすることが大事だろう? だから、友達との関わり方をテーマにしたロールプレイを行って、その様子を動画としてまとめるのはどうだろう。短い時間でも動画で撮影しておくことで、あとで何回でも見られるのがいいと思うんだ。
与えられた立場の人について考え、それを表現するロールプレイは教育手法として広く定着しています。それを新学期に行うことで、良好な人間関係を築くヒントにつながることがあります。例えば、「友達のつくり方」「誘い方」「声のかけ方」など子どもたちがそれぞれに役割を決めて演じることは効果的です。また、そこからさらに発展して、「けんかの止め方」「あいさつの仕方」「ありがとうのいい方」「上手な断り方」などのロールプレイをしてみるのも良いでしょう。そして、各場面に応じて、もっとも適切な態度はどういうものなのかをグループで話し合い、動画に撮影して、クラス全員で共有すれば共通理解が深まります。学級スタート時に行うことで、仲間意識が高まり、スムーズなクラス運営にもつながるでしょう。
わか子:なるほど?! 学級開きの間にロールプレイで友達との関わり方を考えるってことね。たしかに。友達をつくるのが苦手な引っ込み思案の子もいるし、けんかを止めるときにどんな言葉をかけていいかわからない子も多いはずだわ。動画に録っておけば、あとでみかえせるのもいいですね。
しんじ:授業でタブレットを活用することばかり考えていましたが、学級開きなど授業以外の場面でも、まだまだたくさん活用できるってことですね。
はやお:その通り。何度も話しているように、ICTはツールでしかない。そのツールを活かすかどうかは、教師のアイデアとやる気次第なんだ。子どもたちがより良い学校生活を送り、充実した学びを与えられるように、我々教師が学ぶことが大切だと思うよ。
わか子:本当に、その通りですね。私、これからももっとICTについて学んでいきたいです。
しんじ:わか子先生、ついていきます!
こうして、わか子としんじ先生は新学期の初日からタブレットを活用し、動画を見せたり、プレゼンテーションを披露しながら子どもたちと早々に打ち解け合いました。二人はこれからもICT担当として、このような新しいチャレンジをどんどんやって行きたいと考えています。
学年主任わか子のストーリーは今回でおしまいですが、またいつかお会いできる日を楽しみにしています。
クラス開きの黄金の3日間
4月。新しい学級がスタートする日は子どもたちも、教師も緊張するものです。どんなふうに自己紹介しようか、どんなふうに子どもたち同士の自己紹介をさせあうか、担任としての子どもたちにどんなふうに思いを伝えるかなど1日目はファーストインプレッションがとても大切な日になります。2日目は、日直や当番のルールを伝えたり、学習用具の確認をしたり、授業のススメ方を伝えたりしていきます。そして、3日目には教師は子どもたちの名前をしっかりと覚えて、どんな学級にしていきたいかを話し合ったり、どんなふうに友達と助け合ったりするかをつたえていきます。いわば学級の土台をつくっていく3日間になります。 学級の土台をつくっていくのですから、みんながしっかり理解することが大切です。しかし、ただ先生が語ってばかりでは、子どもたちはすぐに飽きてしまうでしょう。そんなときこそ”ICTの活用“です!ユニバーサルデザインの視点からも、ICT機器をつかって「視覚化」したり、タブレットをつかって互いに協力し合う「共有化」は、全員が理解するために効果的です。また、ロールプレイなど限定したテーマで役割演技をさせることは、子どもたちの思考を「焦点化」して、生活の中に生かしやすくなっていくでしょう。何より、わかる、できる、楽しい授業を展開する3日間をICTでつくりだせば、好スタートをきれるはずだと思います。 (札幌市立屯田北小学校 教諭 朝倉一民) |
<プロフィール>
わか子:小学校教員10年目。新しい学校でもICT担当となり、子どもたちのために日々奮闘中。
学級開きでは、テコンドー大会準優勝の動画を盛り込んだプレゼンを披露し、子ども達を震撼させた。
はやお:小学校教員30年のベテラン。趣味はコンピュータ製作で、ICTにも詳しく、各地に専門家の知り合いがいる。
実はわか子が中学生の時、担任の先生だった。
しんじ:小学校教員3年目。学生時代、野犬に襲われているところをわか子先生に助けられた事から教師を目指すようになった。
後に現役教師のユーチューバーとして有名になる。