秋田県大潟村教育委員会 教育長 北林 强 氏

昭和24年生まれ 北秋田市出身:東京農業大学卒業後、秋田県内の高等学校教諭、高校教育課指導主事、県立博物館副館長、鷹巣農林高等学校長、金足農業高等学校長で退職、総合教育センター教育専門監、秋田県立大学非常勤講師を経て、2013年より現職

大潟村DATA

【都道府県】秋田県
【郡】南秋田郡(隣接する自治体:男鹿市、八郎潟町)
【人口/世帯数】3,276名/1,089世帯(平成26年8月1日現在)
【小中学校数】小学校1、中学校1
【児童・生徒数】児童191名、生徒105名
【備考】琵琶湖に次ぐ、わが国第二の大きさを誇る湖であった八郎潟が、昭和32年に戦後の食糧難を克服する目的から、「国営八郎潟干拓事業」として干拓工事が始まり、昭和39年に干陸された。爾来50年、日本農業のモデル農村として歩み続け、今年、立村50周年の大きな節目の年を迎えた。
海抜ゼロメートル以下の緑輝く美しい大地と真っ直ぐ続く長い道、空の色、田圃の色、自然の息吹に包まれた異国を思わせる村の景観は、訪れる人々を魅了する

21世紀のグローバル社会を先取りする大潟村

―大潟村ならではの子どもたちの育成環境について、特徴をお聞かせください。

北林 「国営八郎潟干拓事業」により昭和32年から干拓工事がはじまり干陸され、今年立村50周年を迎えた大潟村。干拓事業モデル農村として、全国各地からの入植者により形成されたパイオニア精神溢れる地域で、子どもたちはそんな祖父母や親の姿を見て育っています。全国の多様な文化が集う背景から、入植後2~3世代目となる今の親も子どもたちも標準語を話します。また、世界各地からモデル農村事業の視察団の訪問が多く、地域に世界の共通語としての英語を話す人材も多く、子どもたちがグローバル社会を身近に感じる環境があります。

このことから大潟村は、時代を拓くチャレンジ精神、多様な文化の共存やコミュニケーションのための語学の必要性など、21世紀のグローバル社会を先取りしていると言えます。

高い基礎学力をベースに課題発見・課題解決力育成を実現するICT教育

―今回のDIS School Innovation Projectに参加されたねらいと成果は何ですか。

北林 素直で心優しい大潟の子どもたちには、高い学力に加えて、“社会を生き抜くたくましさ”が必要と考えています。そのためには、基本的な知識・技能を活用した課題設定や、問題解決のための思考力・判断力・表現力の育成が必須です。学習に主体的に取り組み、解決しようとする学習意欲を育てる新しい授業への取り組みが求められ、ICT機器の活用は重要な要素だと考えています。

秋田県には授業力のあるベテラン教員が多く、ややもすればICT機器の活用には消極的になりがちですが、実証研究校の大潟小学校では “子どもたちのために何が必要か”を原点に、ICTを活用した授業に全教職員が前向きに取り組んでいます。

例えば、本プロジェクトの実践においては、算数の授業でICTを取り入れましたが、計算式を考える学習活動が多くなる算数において、どのような手順で式を解いたのかを、タブレットPCと電子黒板を活用して全体発表させる場をつくることで、事前に自分の考えを整理し、効果的にどう伝えるか、プレゼンテーションまでの見通しをもって学習することができるようになりました。

また、式だけではその意味が理解できない子どもたちも、式と図を対比させながら説明する友達の発表を参考にして自力解決ができるようになったことは、学習意欲の向上の面から大きな成果だと考えています。

このように、2年間の実践で、電子黒板はもちろん、発達段階や学習目的に応じたタブレットPCの活用により、思考活動においては他者との共有や発信を通して自身の考えを深め、表現活動においては自身の考えを効果的にまとめ、伝えるなどの学習に、一定の効果を見出しています。

次の50年に向け、学校教育と家庭教育の接続で新たな学びを実現する

―今後の展望についてお聞かせください。

北林 今回のDIS School Innovation Projectで提供された40台のタブレットPCを活用した授業により、児童・教員のみならず、保護者や地域の人にICT教育の意義と必要性が醸成されたことは大きな成果といえます。この土壌をベースに、191名の小学校児童全員に、さらには105名の中学校全生徒に対して、一人一台環境をできる限り早期に、一斉配布を実現しなければと考えています。

一人一台環境の整備は、学校教育と家庭教育の接続を実現し、さらには家庭での宿題や予習のあり方を変えることになるでしょう。そしてそれは、21世紀を主体的に生き抜く子どもたちの学びのあり方そのものを進化させることにつながると確信しています。
立村50周年を迎えた大潟村が、全国に先駆けて、小中学校すべての子どもたちのICT教育環境を整え、それにつながる保・幼連携教育に意欲的に取り組むことで、ICT教育のパイオニアをめざしたいと思います。