Microsoft 365のツール類による可視化で授業の質を向上

――最初に、貴校で推進しているICTEIPの概要について教えていただけますか。

三好 もともと本校では2018年までに第1期ICT教育整備事業が完了し、全普通教室にプロジェクターおよびスクリーンを設置していました。しかし、コロナ禍でのオンライン授業が上手く活用できていない状況を鑑み、2021年9月に当プロジェクトが発足しました。

プロジェクトの柱は、学校法人全体の「ICT教育環境改革」「授業改革」「校務改革」「教育力向上改革」です。具体的にはICT 環境整備の検証や改善、デバイス活用と発展、教員の ICT 活用スキルのボトムアップ、「自走する生徒」の育成および「生徒中心の学びを、ICT で支える(Student-Centered Learning)」を軸として展開。また本校グループは中学、高校、大学まで運営しているため、ICT教育による中高連携、高大連携、さらには中高大連携も視野に入れています。

――Windowsデバイスと「Microsoft 365」を導入されていますが、どのような観点から採用したのでしょうか。

三好 大学進学後とその先の社会人生活を見据えたときに、Windows OS を利用する場面が圧倒的に多いからです。2024年4月時点でWindowsのシェアは世界1位で73.34%、日本も同様に1位で70.59%を誇ります。ですから、高校の時点でWindows環境に慣れ親しんでおくことは必須だと考えました。

――デバイスやソフトウェアの選定基準は何でしたか?

三好 本校では2019 年度に生徒向けデバイスの本格導入がスタートしました。本校には5つのコースがありますが、1年生の95%の生徒が在籍する3つのコースで採用した当時のデバイスはバッテリーの不具合や起動の遅さ、挙動の不安定さが顕著で、そのことが先ほども触れた円滑なオンライン授業の妨げとなっていました。使いづらさが授業時間を圧迫するデバイスだったため、なかなか活用が進まなかったのです。

そうした中、1年生の5%の生徒が在籍する2つのコースで採用していた「Surface Go 2」は、その起動の早さ、安定的な挙動、生徒が普段使いして持ち運ぶのに適したサイズ・重量感といった数々の点が学内でも高評価であったため、2022年度入学生からデバイスをSurface Go 2に切り替えました。

――生徒の学習環境や学習成果にどのような影響がありましたか?

三好 本校の生徒からは「キーボードが取り外せて普段使いにはちょうどよい大きさと軽さ。Windowsに適したアプリをタッチ操作できるのは便利」との声が寄せられています。「ICT を活用した教育について」のアンケート結果では「授業がわかりやすくなった」とする生徒が88%に上り、教育支援アプリの利用率が高まるなど、生徒の授業理解度向上にデバイスの安定性や利便性が寄与しています。

何より、ICT 機器を活用するメリットは「時間と場所の制約」がなくなることです。例えば、授業前に予習を行い、授業では議論や発表といった対話型の学習を行う「反転授業」を、「Teams for Education」(以下、Teams)による事前課題の配信で実施したり、Teamsを用いて志望理由書や面接原稿、小論文の添削といった進路指導をオンラインで行うなど、先進的な取り組みを実現しています。

三好 Teamsのクイズ機能で「Microsoft Forms」(以下、Forms)を連携すれば、オンラインでの小テストを実施できます。これにより、現状で生徒ができていること、できていないことを可視化し、教員が個別にフィードバックする「学びのはしごを掛けていく活動」が可能になります。

Formsの回答をTeamsで集約することで、一番の答えを選んだ人、二番の答えを選んだ人、正解は何人いたかなどの得点率が一元的に把握できます。複数のクラスで横断的に実施すれば、クラス間の比較も容易になります。以前は生徒が回答した用紙を先生がExcelに入力したうえで平均を出してグラフ化していましたが、統計的に集団の傾向をリアルタイムに分析することで、授業の質向上に役立てています。

私自身、黒板とチョークで行なっていた30代の頃に比べると、授業のペースは4倍速くなっています。先日の学年末考査前の授業は6回分の時間が余りました。余った時間は通常授業ではなかなか扱うことができない小論文指導の時間に充て、それでもまだ2回余ったので、その分は駿台模試の過去問を扱いました。

私自身、時短を実現したいとの思いからICTの導入を推進しているので、少しでも時間を短縮したい思いが強いです。50分という限られた時間の中で生徒にどれだけ考えさせ、教えることができるかを踏まえると、省ける時間はICTツールに頼って削減したいと考えています。

ICT導入のコンセプトは「楽・得・易」

――導入にあたっての課題は何でしたか。

三好 やはり「チョークと黒板で授業してナンボ」という考え方の先生も一定数いたので、教員のマインドセットを変革することが最大の課題でした。そこで、「やらなければいけない」との義務感から臨むのではなく、さまざまな面で助かることを共通認識にしようと考えました。

私はいろんな場所で講演させていただく機会がありますが、自分のコンセプトとして「楽・得・易」を示しています。その心は、「教育現場にICTを導入すると、楽ですよ、得しますよ、意外と易しいですよ」との意味です。この3つに抵抗を持つ先生は少ないはずです。

ですから、最初は職員室でかしこまらずに声がけすることで輪を広げていきました。「バンドワゴン効果」と呼ぶらしいのですが、私がICT関連の利点を話すと自然に周りに集まってきて興味を持つようになりました。まずはキーパーソンを見つけてどんどん仲間を増やしていくことが大切です。ハブになる先生がそれぞれ動いてくれれば自然と普及していくものです。

PCの画面を投影して授業を行う様子

――教職員や生徒へのトレーニングはどのように行ないましたか?

三好 教員のトレーニングについてはTeamsやFormsだけでなく、リアルタイム画面共有を用いた教育支援アプリの「MetaMoJi ClassRoom」や、個々の生徒に合った学習をサポートするアプリ「Classi」などの研修を定期的に実施しています。生徒に関しては授業活用で実践することに加え、生徒同士が教え合うなどして慣れてもらっています。

もちろん私自身、先頭に立って勉強しなくてはいけない立場です。現在はマイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE※)、2024年からはMIE Fellow※にも認定していただいているので、日本マイクロソフトの品川本社に何度も勉強に行ったり、東京都や神奈川県のICT教育先進校を視察したりして知見を持ち帰っています。他校のMIEEの先生たちとの情報交換は非常に有益で、本校でもMIEEに認定された先生が2人増えました。

※MIEE(Microsoft Innovative Educator Expert)とは、教育現場でマイクロソフトのツールを活用している先生をはじめとした教育者への認定制度。
※MIE Fellowとは、MS認定の教育者のことで、MIEEの中でも特に周囲にインパクトを与える教育者に与えられる。

国内でも数校しかないMicrosoft Incubator Schoolに選ばれている同校(2025年3月現在)。ICT活用で教育の質を向上させ、生徒を支援する

CopilotやPower BIでさらなる体質強化を図る

――WindowsデバイスやMicrosoft 365の導入によって、校務のどのような部分が改善されましたか? 

三好 生徒向けデバイスをSurfaceに更新したタイミングで校務用デバイスも高性能なPCに切り替えました。パフォーマンスが向上したことで大幅にストレスが軽減されたのは目に見える成果です。

実務ではTeamsの活用が進んでいます。現在では共有を前提とした業務フローとなっており、会議もTeamsで開かれることが多くなりました。データで送受信することでペーパーレスが普及し、精神的な負担はかなり減ったと感じています。

Microsoft 365はもともとA1でしたが、セキュリティの強化や「Microsoft Power BI」(以下、Power BI)と「Microsoft Bookings」(以下、Bookings)を利用したかったこともあり、Microsoft 365 A5にアップグレードしました。

Bookingsの効果はてきめんです。これまでは三者面談の予定表を保護者に紙で配布して、候補日に丸をつけて返してもらっていました。この運用をどうにかしたいとのリクエストが複数の先生からあり、今ではBookingsを使って三者面談の予定を組む先生が大半を占めます。私はさらなる普及に向けて、活用することで生まれる利点を資料にまとめて共有し、意識の変革を促しています。ICT教育が浸透してくれば、ひいては生徒募集時の学校のアピールにも有効だからです。

――さらに校務DXを進めるための計画や目標はありますか?

三好 1点目は「Microsoft 365 Copilot」(以下、Copilot)の全学的な導入と活用です。すでにCopilotチャットは多くの先生が利用しています。先日、若手の先生から調査書の担任所見に活用したいと相談されたので、データをもらってCopilotチャットを使い、短時間でベースを仕上げたらすごく驚いていました。今年の3年生を担当する先生にはこの方法を共有し、効率化に役立てています。それこそ1時間の作業が数分で済んでしまう効果が得られます。

もちろん生徒一人ひとりの特徴は把握していますが、それを言語化するとなると文書の作成能力が必要になってきます。学校の先生は学年に依らず文書を作成する機会は多いので、無料で使えるCopilotチャットを自分のアシスタントとして存分に使ってほしいのです。

2点目はPower BIによるデータ活用です。データに基づいた客観的な資料作成、教材や資料作成の時短化が可能になれば、教員の働き方改革につながります。現在、どのようにデータを利活用できるかを検討しているところです。

――今後の教育におけるテクノロジーの役割についてのビジョンを教えてください。

三好 教育の質と効率の向上に加え、個別最適化教育が実現できるのがデジタルのメリットです。必ずしも一斉授業にこだわる必要がなくなり、時間があるときにTeamsで添削したり、Formsで送信してくれた回答をもとに生徒の弱点を分析したりできます。このように、生徒の強みや弱点を踏まえた個別最適な指導ができるようになります。

それから不登校生の対策にも効果的です。2024年10月時点で小中学生34万6,482人、高校6万8,770人の不登校生がいますが、そうした若者たちにオンライン授業によって新たな可能性を提示することができます。今の時代は主体的に通信制で学び、早々と起業する若者もいます。全日制普通科がスタンダードの時代は20年後には変わっているかもしれません。そこに向けてもデジタルの活用が重要性を増してくると考えています。