STEAM Lab 活用事例

STEAM Lab活用の目的、ねらい

本校では表現をキーワードとして、自分が伝えたいことを形・動き・音にするような活動に取り組んでいます。自分自身の個性を表現する際、アナログな活動に加えて、より最適化されたデジタルな活動を取り入れることで、表現手法の幅を多方面に広げることができます。1人1台端末にはiPadを採用し日々の学習活動に利用していますが、一歩進めた高度な活動に取り組みたいと思ったときに、このような高性能PCが並んだラボがあることは大いに生徒たちの可能性を広げ、探究心をくすぐる種になります。


活用実績事例(サマリー)授業での活用

教科 学年 単元名
探究 中1 STEAM(デジタルものづくり)

活用実績事例(サマリー)授業以外での活用

学年 概要
中1~高3 放課後のラボでの有志の活動

1.STEAM(デジタルものづくり) 教科:探究 学年:中1


【授業の目標】

デジタルものづくりによるプロトタイピング的な思考
知的財産としての自分のデザインの価値を知る
問題解決に繋がるデジタルものづくりに進展

【展開計画】

区分 学習活動 活用ツール
導入   双方向性があるグループの理解
  3Dモデリングの基礎
  ·Tinkercad
展開   キーホルダー作成を通して、自分のデザインの知的財産としての価値を
  知り、他者のデザインに対しても守らなければならないルールを学びま
  す。基礎的なモデリングスキルを使って、身の回りの問題を発見し解決
  できるモノを創作します。
  ·Tinkercad
  ·3Dプリンター
まとめ   デジタルものづくりのファーストステップをオリジナル・キーホルダー作りとすることで、カワイイ
  などの思いを大切にし、興味を持つことを念頭に置いてスタートしました。可愛い物を作る中で基礎
  的なスキルやサイズ感、面積、体積についても実感できる活動となっています。 また、問題解決に
  向けた活動ではなかなか動き出せない生徒もいましたが、友人との話の中で創作イメージに繋がり、
  他者の意見を取り入れ自分の考えに活かすことができたり、友人とよく似たデザインのモノを制作す
  ることで仲間意識を育むことにもつながりました。

オリジナル・キーホルダー作成をスタートにし、問題解決のツールとして3Dプリンターでの造形という選択肢を与えました。クラスの掃除用具入れのフックを増やしたいという生徒はそれを作成しにきていました。

その他にも、学内の壊れた機器を収集し、それを分解することからモノの構造を学ぶ分解女子活動を行ってみましたが、思わぬ産物として、破壊したHDDから出てきたピカピカのディスクを自分の手鏡にしようとそのケースを3Dモデリングし、リサイクルした生徒もいました。インターネットでダウンロードできるフリー素材をプリントアウトすることも特に禁止しておらず、造形する中で次の発見に繋がればと思っています。

2.放課後のラボでの有志の活動


学年 概要 活用ツール
中1~高3   本校のラボには3Dプリンター以外にレーザーカッターも設置しており、
  カットデザインの作成にAdobe Illustratorを利用しています。ものづ
  くりを目的としてアプリをその手段として使用する中でのスキルアップ
  を目的としています。
  ・Adobe Illustrator
  ・レーザーカッター

中高生に対して、Adobe Illustratorアプリを利用したアートやデザインに向かわす際、なかなか目的設定が難しく、単なるスキルアップ講座になってしまうことに悩んでいました。3Dプリンターやレーザーカッターでの造形を通して、より複雑なものを作成したくなった際の次のステップとして、Adobe Illustratorの使用を進めています。特にレーザーカッター用のSVGデータを作る際には相性が良く、切り抜くパスと模様として焦がす塗りデータ、またレイヤー構造などを造形するための設計図作成として、 Adobe Illustratorの基本的な作業を習得できるようにサポートしています。

その他、活用の成果

教員の感想・変容

このような環境が学内にあることはとても大事なことで、現代の技術を知り実体験することで、これからの可能性は大いに広がると思います。自分ができなくてもできる人にお願いすればどんなことができるのか知っているだけで、社会人になりチームで動き出したときに、何らかのひらめきに繋がると信じています。また、私の教育観にはプロトタイピング的な思考が柱にあります。生徒にも他者の意見を取り入れるためにもまずはプロトタイピングしようという流れを意識しています。共同作業し、より良い物を作り出していくためにも他者との協働は欠かせないものだと信じているため、プロトタイプ作成にもデジタルものづくりは欠かせないものになっています。

児童·生徒·学生の感想·変容

1つ造形できた後に、改良版や異なるパターンを放課後に造形しに来る生徒は多いです。授業などで扱った際の日直日誌や生活学習ノートには良い感想を書いてくれているようで担任の先生からそのような声を聞いています。自分のデザインが認められ、褒められる成功体験に繋がっていると感じられます。

保護者・地域の声

今年度は地域の女子小中学生向けのSTEAMレッスンを開講し、本校のSTEAM Labを地域に拓けたスペースにしていく予定です。保護者からのご意見をいただくようなアンケートは実施できていません。

今後の課題

現状は担当者が常駐しているラボでのみの活動になっていますが、生徒たちが主体的にデジタルものづくりに没頭できるようなスペースを確保できるように企画していきたいです。またDXハイスクールにも採択されたことから、私の構想にあるDXカフェという日本中の高校生をオンラインで柔軟につないで、情報交換できるような場を実現し、本校のSTEAM教育に語れる生徒を育てていきたいと思います。

STEAM Lab 実証研究校インタビュー

大阪府東大阪市菱屋西に位置する樟蔭中学校 ・ 高等学校は、 女子教育が不十分だった大正初期 (1917 年) に歩みを始めた伝統ある女子校。100 年を超える歴史を持つ同校は、 「知 ・ 情 ・ 意」を建学の精神に持ち、 「考える力」「感動する心」「行動する意思」 を併せ持つ豊かな女性の育成を実践しています。ICT 教育に関する取り組みも積極的に行われており、その取り組みのひとつとして STEAM Lab を設置。2024 年には文部科学省の「DX 加速化推進事業(DX ハイスクール)」事業にも採択された同校の ICT 利活用に加え STEAM Lab 活用について、川浪隆之教諭に話を伺いました。

始まりは「iPad の病院」。それが生徒の好奇心を芽生えさせる STEAM Lab へと変貌

同校は、 2020 年に端を発したコロナ禍の初期段階あたりに当初から予定のあった一人一台環境として iPad を導入。同時に 「Google Classroom」を導入し、 ICT 教育環境を確立してきました。現在、 STEAM Lab が設置されているのは、もともとは情報準備室として活用されていた教室。当時は「iPad の病院」と称し、 端末の不具合の解決や修理、 メンテナンスをする部屋でした。しかし、 それだけでは面白くない。そう考えた川浪教諭は、ノート PC やロボット ・ プログラミング、レーザーカッター、3Dプリンターを設置するなど ICT 教育の拠点として設備を拡充し、 現在のSTEAM Lab へと変貌を遂げました。さらに設備を拡充するだけではなく、 PC などの各機器を収める机や棚を生徒とともに作り上げたといいます。女性本来が持つ能力や特性を伸ばすといった伝統的な教育が行われている一方で、 「モノづくりによってたくましい女子が育つのもいいですね。そこを STEAM 教育の入り口として、 融合性も考えつつデジタルによるモノ作りの基盤としています」と川浪教諭は語りました。

生徒がアートなどに興味を持つには、 目的設定が難しいため、モノ作りを通じて生徒の好奇心を刺激
表現の場が広がる micro:bit を活用した成功体験が、さらに深い学びと探究心へとつながります

個性を表現手法を大きく広げる。その場となるのが STEAM Lab が担う役割

同校は、 STEAM Lab 活用の狙いとして「表現」を掲げ、 自分が伝えたいことを「形」「動き」「音」として表現する活動に中心に取り組んでいるといいます。その活動のひとつが「micro:bit」を活用した授業。中学 1、 2 年生を対象とした同授業では、 micro:bit を用いてロボットに動きを加えたり、 光や音を出すためのプログラミングを行なうといった表現手法を学んでいます。生徒にとって、目新しいものを与え、実際に動かすといった感動体験、 そしてうまくいったときの成功体験を感じられることが、 より深い学びと探究心の刺激に繋がっているといいます。また、川浪教諭は「STEAM Lab はテクノロジーに触れる部屋としてさまざまな機器を完備しています。アナログとデジタルの両面からアプローチすることで、 個性を表現する手法の幅を広げられます。また、一歩進んだ高度な活動がしたいと思ったときに、高性能 PC が並んだラボがあることは生徒たちの可能性を広げ、探究心をくすぐる種になります」と、STEAM Lab 設置の意義について語りました。

他人との “協働” こそ、ひらめきの要。STEAM Lab がその一助に

一人一台端末や既存の PC 環境で授業を展開してきた同校だが、 動画編集をはじめ 3D プリンターやレーザーカッターの出力用データの作成など、 PC に大きな負荷が掛かる作業を行なうには、 やや厳しい現実があったという。とくに、 3D スキャナーを使って立体モデルのスキャンを行なう際、高性能な PC が重宝したと川浪教諭は振り返ります。さらに、「生徒の端末や情報室の PC では動作が重たくなってしまう作業も、 STEAM Lab に移動すれば快適に行える。そういった環境があることが大切です。また、 現代技術が実体験できることで、 将来的な可能性も広がります」と川浪教諭は続けて語りました。また 「教育の柱としてプロトタイピングの思考も取り入れています。例えば、 自分が分からないことを他人に聞いてヒントを得て、 意見を出し合い、 協働することでより良いものが作り出せます。デジタルならやり直しも容易ですし、 他者の意見を取り入れつつプロジェクトを進めるという社会に出てチームで働くときに求められるスキルも磨かれます」と STEAM Lab がその一助を担っていると評価いただきました。

壊れた機器を分解して、 モノの構造を学ぶ活動も実施。分解したパーツから作品を作る生徒もいました
HDD のプラッタを手鏡に。そう発想した生徒が実際に制作した作品

全国の高校生と気軽に語れる情報交換の場に。 それが STEAM Lab の目指す未来

DX ハイスクール事業への採択が行われたことで、 同校はこれまで培ってきたノウハウを活用し STEAM Lab のさらなる拡充と幅広い活用についても模索しています。そのひとつが、 設置する 3D プリンターを増やすことで、さらにモノ作りを身近にするといった取り組み。これは、学内のみに留まらず、たとえば幼稚園児などが保護者と一緒に STEAM Lab に訪れて 3D プリンターでモノ作り体験を行うといった内容から、 近隣の小中学生などを対象としたプログラミング教室の開講といった、 地域に根差した取り組みとしての活用を模索しているといいます。また、 川浪教諭は、 今後の展望として「現状は担当者が常駐しているラボでのみの活動になってますが、 生徒たちが主体的にデジタルものづくりに没頭できるようなスペースを確保できるように企画していきたいです。また DX ハイスクールにも採択されたことから、 私の構想にある DX カフェという日本中の高校生をオンラインで柔軟につないで、 情報交換できるような場を実現し、 本校の STEAM 教育を語れる生徒を育てていきたいと思います」と締めくくりました。

STEAM Lab導入機材


• 株式会社マウスコンピューター
 G-Tune HL シリーズ 10 台
• 28 型 4K 液晶モニター「XUB2893UHSU」
• 3D プリンター
• Adobe Creative Cloud 小中高校サイトライセンス