これからの未来を創造するSTEAMの学びを実践事例から知る

一般社団法人 日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)が主催する教育関係者向けセミナー「School Innovation セミナー in 関西」が2023年8月8日、グランフロント大阪北館で開催された。

「未来を切り拓くSTEAM教育~これからの学びを作るための環境推進」という副題がつけられた本セミナーでは、自治体や小学校、中学校、高校の教員などの視点から、STEAM教育の基盤づくりへの取組とそのための環境整備について語られた。本リポートではその充実したセミナーの中から、特に注目すべきポイントを抜粋してお伝えしていく

戸田市におけるGIGAスクール構想 第2フェーズの取組について
~STEAM教育からデータ活用まで~

戸田市の取り組みから見るGIGAスクール構想最前線

基調講演では、戸田市教育委員会 教育長を務める戸ヶ﨑 勤氏が登壇。「戸田市におけるGIGAスクール構想 第2フェーズの取組について~STEAM教育からデータ活用まで~」と題して講演を行った。

戸田市では、2016年から一人一台端末活用に向けた取り組みをスタートしており、「Just do it」や「百聞百見は一験にしかず」をキーワードに環境整備を進めてきた。2020年からはこれらの一人一台端末活用の整備が第2フェーズに入っており、データの利活用や戸田型オルタナティブ教育の実行など、GIGAスクール構想によって広がるICT活用の更なる展開について触れた。

戸ヶ﨑氏はICT教育を推進していくための方策や留意事項について触れ、フロントランナーへの支援の重要性を訴えた。「早くから一人一台端末を整備してきた自治体などは、2024年度から端末の更新時期を迎えるとみられており、その更新費の捻出が大きな課題です。先日、岸田総理と永岡文科相にお話をする機会があり、GIGAスクール構想が日本の教育のデジタル化元年として未来に記憶されてほしいことや、それに伴って、GIGAスクール構想の成果や課題などを国で検証し、セカンドステージに向けた検討をお願いしたところ、今年の6月に発表された『経済財政運営と改革の基本方針2023』(通称:骨太の方針2023)の中で『国策として推進するGIGAスクール構想』という重みのある言葉が入りました」と語る。

その一方で、端末活用が進んでいない自治体も少なからず存在することも指摘し、「端末活用があまり行われていない自治体は、端末更新の流れに水をさすことになりかねないという自覚をもってほしい。もし近隣で活用が進んでいない自治体があれば、活用を促していただければ」と訴えかけた。

産学官連携で知的好奇心を育てるSTEAM教育の学び

戸田市の教育改革の中で特長的であるのが産官学での連携の多さだ。産学官との連携による「戸田市SEEPプロジェクト」について、戸ヶ﨑氏は「教育委員会側は新しい学びの原材料や『人財』を用意し、料理は各学校で行ってもらうようなイメージです」と語る。外部機関と学校が連携することで、教職員の業務負担が増えるという意見も存在するが、戸ヶ﨑氏は「全く逆で、業務改善のアウトソーシングという考え方で、最先端の知のリソースを教室に取り入れることのメリットや、働き方改革に直結するという学校改革のトリガーになり得る。」という可能性に言及した。

講演の中では産学官連携の事例として、メディアリテラシー教育におけるスマートニュースメディア研究所と連携した教材作成や研修の事例や、STEAM教育の基盤作りの実践としてインテル株式会社との連携について触れ、「Intel Teach Program」を活用したPBL(Project Based Learningの略。日本語では「課題解決型学習」と訳される)研修の実施や、次世代のメディアルームである「STEAM Lab」の活用事例が紹介された。

STEAM Labについて戸ヶ﨑氏は「GIGAスクール構想で整備した端末は、小学校1年生から中学校3年生までスペックが同一です。これを私は非常に問題だと考えています。小学校1年生と中学校3年生では、端末でやりたいことが大きく変わるため、より高性能なPCの整備も必要になるでしょう。また端末上で作ったデータを出力する3Dプリンターのような最新のデバイスも求められます。そうした子供たちの好奇心に応える場として、ハイスペックPCや3Dプリンターなどを整備し、高度で先端的な学びを実現できるわくわく感のある空間として、STEAM Labが必要です」とSTEAM教育の上で求められる基盤作りの重要性を語った。

STEAM教育の可能性
~小中高における実践事例~ 小学校・中学校事例

日本のSTEAM教育の定義と重視されるデザイン思考

「STEAM教育の可能性~小中高における実践事例~」と題し、小学校、中学校、高校のそれぞれの教員から、日本型STEAM教育の具体的な実践事例と、事例に向けたポイントが講演された。前編となる本記事では小学校と中学校事例を紹介していく。

コーディネーターとして、兵庫教育大学 教授の森山 潤氏が登壇し、日本におけるSTEAM教育の捉え方についての認識を共有した。

森山氏は、STEAM教育は学習指導要領で明確に定められていないことを前置きした上で、経済産業省と文部科学省のSTEAM教育に対する捉え方を整理し「『総合的な学習(探究)の時間』を中心とした教科横断的な学び」であることや、「文理融合の学び」であることなどが挙げられ、「STEM(理)とArts(文)をつなぐのがテクノロジーであり、知識を習得して終わりではなく、探究/創造を中心としたPBLの学びとの往還が重要になります。また日本におけるSTEAM教育の議論ではデザイン思考が重要な要素を持っています」と語った。

実践事例:その1
デジタル田園都市をテーマにした朝来市立山口小学校のSTEAM教育の取り組み

デザイン思考を重視したSTEAM教育を実践しているのが、朝来市立山口小学校だ。

「デザイン思考を中核にプログラミングによる問題解決を位置付けた小学校STEAM教育の試行的実践~朝来デジタル田園都市づくり~」と題して実践事例を語った朝来市立山口小学校 教諭の尾花和哉氏は、地域課題の発見と活性化を目指すSTEAM教育事例を紹介した。

同校の6年生を対象とした総合的な学習の時間の単元は「地域の魅力と課題を見つける」「ユーザーを想定する」「朝来デジタル田園都市つくる」の三次で構成され、子供たちは市役所職員などにヒアリングした課題をもとに、デザイン思考を用いた課題解決のアイデアを出し合い、それを「デジ田甲子園ジュニア2022」と名付けたイベントで発表した。

「例えば、ゴミの減量・再資源化をテーマとしたグループは、自動でゴミを分別してくれるロボットの制作に取り組みました。もともと『レゴ WeDo 2.0』を使って制作していましたが、ゴミを受け取ってから移動させるとさらに便利になるのではないかと考え、『mBot』と組み合わせた制作に切り替えるなど、プロトタイプと発想を行きつ戻りつしながら制作を続けていました」とデザイン思考を生かしたSTEAM教育の特長を語った。

実践事例:その2
IoTシステムモデルを生かしたSDGsの課題解決に取り組む明石市立大久保北中学校

中学校の実践事例として登壇した明石市立朝霧中学校 教諭の山口誉允氏は、大久保北中学校の共同取り組み事例として「STEAM教育の可能性~小中高における実践事例~中学校技術科における実践発表」と題し講演を行った。

紹介された事例は、2022年6~10月に掛けて、大久保北中学校の2年生6クラス計221名の技術科の授業の実践だ。授業は、「D 情報の技術」における「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによる問題の解決」の単元において、SDGsをテーマに実践された。

授業では、micro:bitを用いたIoTシステムのモデル作りにチャレンジし、「漁師が漁に出るかどうかの判断を助けるシステム」や「海岸にゴミを捨てる人を察知するシステム」の開発などに取り組んだという。

「生徒からは、『自分が住んでいる明石市に関する内容だったため、いつもより興味を持って取り組めた』『何回もエラーが出て諦めそうになったけれど、最後まで粘り強く試行錯誤できた』といった感想が寄せられるなど、それぞれチャレンジ、クリエイティブ、コラボレーションに取り組んだ結果が見られて非常によかったと感じています」と山口氏は振り返った。

■後編では高校の実践事例とSTEAM教育実現に向けた鼎談をリポートしていく。