これまでICT担当として、さまざまな知識を学んできたわか子。ようやく、彼女の学校にもタブレット端末が数台導入され、試験運用がスタートしました。ところがある日、タブレットを授業で使おうとすると、「先生! 私のプレゼンのスライドに誰かがいたずらした!」と話す子どもがいるのです。こんなとき、わか子はどうすればいいのでしょう? 子どもたちがタブレットを正しく使うために、教員はどのようなことを教えれば良いのでしょうか?

情報モラルの教育は、小学校からの積み重ねが大事

わか子がICT担当に任命されてから数カ月、ようやく、彼女の学校にも試験運用として活用できるタブレット端末が数台導入されました。わか子は早速、ICTを活用した授業に挑戦し、子どもたちも、日が経つにつれてタブレットが上手く使えるようになってきました。

そんなある日のこと、授業で子どもたちがプレゼンのスライドをつくろうとした時のことです。前回につくったデータを開いた途端…、

「先生!! 私がつくったスライドが、いたずらされている!」

わか子:な、なんやて!

わか子が見ると、そのプレゼンには内容とは関係のない不適切な言葉が書かれています。どうすればいいのか戸惑うわか子。こんな時はとしお先生に相談です。

わか子:としお先生、子どもたちがタブレットを使う前に、“やってはいけないこと”のルールを決めたり、情報モラルについて教えておくことが必要だと思うのです。

としお:なるほど~。確かに子どもたちがタブレットを活用していくうえでは重要な問題だね。情報をどのように扱うのか、タブレットを使う時は何に気をつければいいのか、今の子どもたちが学んでおくことは重要だ。よし! 知り合いに情報モラルや情報リテラシー教育に詳しい校長先生がいるから、勉強しに行こう!

わか子:はい、ぜひお願いします!!

そんな経緯でとしお先生とわか子が訪れたのは、柏市立柏第二小学校(千葉県)の西田光昭校長。西田校長は長年、教育機関におけるICT活用の実践で陣頭指揮を取られていたとともに、児童生徒の情報リテラシーや情報モラルの啓蒙・向上について広く活躍されています。

柏市立柏第二小学校 校長
西田光昭氏

わか子:西田校長、やはり、情報モラル教育って小学生から必要ですよね?

西田校長:そうですね。今、スマートフォンやネット関係で子どもたちのトラブルがもっとも多い時期は中学生だといわれています。なぜ、この年代にトラブルが起きるのかを考えると、やはり小学生のうちから情報の扱い方やスマートフォンの使い方などを、積み重ねで学んでいく必要があると思います。情報モラルだけじゃなく、情報リテラシーの育成も同時に考えていくことが大切だと思いますね。

情報モラルや情報リテラシーはタブレットを“使いながら教える”

わか子:そうすると、子どもたちがタブレットを使う前に、やってはいけないことのルールを決めておくほうがいいのでしょうか?

西田校長:もちろん、年齢やクラスの状況に応じてそうしたルールを決めるのもひとつの手段だと思います。しかし、情報モラルに対する基本的な教員の姿勢は、タブレットを“使いながら教える”ということが重要だと思うのです。

わか子:つ、つ、使いながら、教える?ですか?

西田校長:そうです。タブレットやICTを使う授業ではさまざまなトラブルが発生します。それをリスクに感じて、“危険だから使うのをやめよう”ということではなく、発生したトラブル自体も情報モラルを教える学びの場だと捉えていくことが大切だということです。情報モラルに関するトラブルは、特別な知識がないと指導ができないと思っている先生もいますが、基本的には生活指導と同じだと考えればいいと私は考えています。

例えば、「友達の悪口を掲示板に書き込んだ」「個人が特定される情報をアップしてしまった」など、こうしたトラブルは一見、ITに詳しくなければ指導ができないと思われがちです。しかし、本質的には“他人を傷つける発言はしない”“知らない人に自分の情報を教えない”など、普段の生活でも守るべきモラルと同様であり、ICTだからといって特別に構える必要はないというわけです。それと同時に西田校長は、“ネットに書いた情報は拡散される”“一旦書き込んだ情報を完全に消すことは難しい”など、インターネットやデジタルの特性を普段の授業で教えておくことが重要だと指摘しています。

やってはいけないことのルール

わか子:なるほど~。紙とデジタルでは情報の伝わり方や扱い方が異なるということですね。

西田校長:そうです。例えば、子どもたちは調べ学習の時にインターネットを使ってさまざまな情報を検索しますが、検索した情報が本当に正しいのか確認することはできるでしょうか。ほかにも、ネット上の画像を使う時は著作権など大丈夫でしょうか。このような情報リテラシーを育成していくためには、普段の授業でICTを使いながら子どもたちにその都度、教えていくことが重要だと思います。

わか子:そのとおりかもしれません。あらかじめ“やってはいけないこと”を言葉で説明されるよりも、子どもたちにとっては実際にタブレットを触りながら、失敗を通して体験するほうが身につくかもしれないですね。私だって、スマートフォンの操作で失敗することがありますが、その時に何が間違っていたのかを知ったり、新しいことを覚えたりすることがありますからね。

紙とデジタルでは情報の伝わり方や扱い方が異なる

学校の守られている中でタブレットを使う

わか子:でも西田校長…、タブレットを使いながら情報モラルや情報リテラシーを教えていくことの重要さはわかるのですが、教員としては最低限の安全を確保しておくことも大切ですよね?

西田校長:もちろんです。子どもたちが使う端末やネットワークにフィルタリングをして、有害サイトなどを規制することは必要です。ほかにも、安全なセキュリティのシステムを構築したり、迷惑メール対策も考えておくことが大切でしょう。そして何よりも、子どもたちには本当に困った時はひとりで解決しようとせず、相談窓口を設けている専門機関に頼ることを教えておくことも重要です。

困った時の相談窓口

わか子:なんだか、私、ICTに疎いので情報モラルが教えられるかどうか、不安になってきました…。

西田校長:わか子先生、そんなこといわないで。あなたはまだ若いから知らないかもしれませんが、インターネットが使えるようになって、まだ20年ちょっと。携帯電話でネットが使えるようになったのなんて20年も経っていませんよ。そんな状況だから、今はまだ法律の整備も十分とはいえないし、人によって情報モラルや情報リテラシーに対する意識も異なることが多い。つまり、多くの保護者、大人だってよくわからない人が多いということですよ。だから、最初からトラブルなしを目指すのではなく、タブレットを使っていく中で、一つひとつのトラブルに対してベテランの先生と相談して進めていけばいいんじゃないかな

わか子:そうですね。私にはとしお先生がついているから大丈夫です!メガネと違って、伊達じゃないですから!

としお:あちゃー、これは1本取られたね!よーし、今日はお祝いだ!

こうしてわか子は、西田校長の話を最後にICT担当としての基礎的な勉強を一旦終えることになりました。これからは、タブレットの本格導入に向けてさらにパワーアップすべく、もっとたくさんのことを学びたいと、わか子は考えています。子供たちの豊かな未来のために、ICTを使って価値ある学びを実践したい。次にわか子に会う時は、どんな先生になっているか期待してくださいね!

一つひとつのトラブルに対してベテランの先生と相談して進めていく

<プロフィール>

わか子:小学校教員3年目。教員という職業に少し慣れてきたところで校長先生からICT担当に任命される。子どもたちのためにICT環境を整えようと奮闘中。1歳頃まで関西に住んでおり、たまに関西弁が出る。

としお:小学校教員25年のベテラン。趣味はコンピュータ製作で、ICTにも詳しく、各地に専門家の知り合いがいる。実はわか子が小学生の時、担任の先生だった。

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