校長先生から教師のタブレット利用を高めるべく、授業での活用法について校内研修会を開くように依頼された前回のわか子先生としんじ先生。
二人はICT担当として、ベテラン教師のはやお先生にアドバイスをもらいながら、どのような内容の校内研修会が良いのか、アイデアを出し合いながら話し合いました。
そんな中、新米教師のしんじ先生は「もっとICTを活用しなければ」という想いが強くなり、タブレットを使うことに一生懸命な授業をしてしまいます。
その様子を見たわか子先生は、新米教師のしんじ先生に話しかけました。
児童用タブレット、壊れないかどうか心配!
わか子:しんじ先生~。今日の5時間目って社会だったでしょう? タブレットを1人1台使って授業していたわよね。
しんじ:はい、そうですけど…なにか?
わか子:なんだか教室がシーンとしている様子だったけど、いったいなにをやっていたの?
しんじ:えっ、前回の授業で調べた内容を次の授業で発表してもらおうと思って、プレゼンテーションのスライドにまとめる活動をしていたんですよ。ほら、今年から導入された授業支援システムにプレゼンの機能があったじゃないですか! あれを使ってみようかと思って。
わか子:そうだったのね。でも、なぜ、その授業であんなにもシーンと静かなだったのかしら? 気になって様子を見に行ったけど、子どもたち、一言も話さず、ずっとタブレットの画面を見たままだったわよ…。
しんじ:ああ?! それはですねぇ、1人1台でタブレットを使うときって、落としたり壊したりしないか心配じゃないですか。だから「タブレットを触っているときは話してはいけない」というルールで騒がしくならないようにしたんですよ。それに授業中はずっと使っていたほうがタブレットの利用率もアップするかと思いまして。ほら、校長先生もタブレットの利用を高めたいって仰っていたじゃないですか。
わか子:あ、あ、あのねぇ?。解釈まちがっているよ?!
しんじ:えっ。ダ、ダ、ダメでしたか?
やれやれ、新米教師のしんじ先生は積極的に授業でタブレットを活用しようとがんばっているのですが、どうも方向性が間違っているようです。
しかし、授業で児童がタブレットを使うとなると、「落としたり、壊したりしないか心配」という、しんじ先生の気持ちもよくわかります。
特にタブレットを学校共有で使用している場合、壊れてしまうと他の先生の授業にも影響が出てしまいます。
わか子:しんじ先生の気持ちもよくわかるわ。でも、うちの学校に導入されているタブレットは学校で使うことを前提に設計されたモデルだから丈夫にできているのよ。だから、余計な心配をしないで。
しんじ:そうなんですか!? 児童生徒向けのタブレットというのがあるのですね!
昨今は学校現場にもタブレットが多く導入されるため、メーカー側も学校で使うのに適したタブレットを用意しています。
例えば、児童が持ち運びしやすいように軽量化されていたり、教室以外で使うことを想定して防塵・防水機能を備えていたり、ほかにも机の上から落下しても破損しないよう衝撃に強い設計にするなど、文教モデルともいえるタブレットが出ています。
わか子の学校もそうしたタブレットを導入しているので、しんじ先生は破損の心配に気を取られることなく、タブレットを自然な形で使えば良いとわか子はアドバイスをしているのです。
さまざまな学習場面で活用できる児童生徒用タブレット
わか子:でもね、しんじ先生。校長先生が「校内のタブレット利用率を高めたい」と仰ったからって、授業中にずっと使えばいいというものじゃないわよ。
しんじ:そうですか? でも、プレゼンのスライドをつくるときって黙々と作業できるほうがはかどりませんか?
わか子:そうかもしれないけど、子どもたちはわからないことを相談し合ったり、途中経過を見せ合ったりする時間も必要よ。タブレットを使うことを目的にしちゃダメ!って、いつも言ってるでしょ。あと、1人1台で使うことが利用率の向上にはならないわよ。グループで協力しながらプレゼンスライドをつくるほうが深い学びにつながることもあるから、授業のねらいと合わせて考えてみて。
児童用のタブレットは、使える端末の台数や学習場面によって活用方法は異なります。
例えば、3~4人に1台のタブレットを活用する場合は、理科の時間や校外学習などグループ学習で使えます。写真や動画を活用して記録を撮り、教室に戻ってからは、それらを見ながら作文やレポートにまとめるといった具合です。
2人1台の場合は、授業支援システムを使ってタブレットに書いた内容を電子黒板に映写するのも良いでしょう。
特に低学年においては、自分たちの書いた文字が電子黒板に映るだけでも楽しいようで、漢字やひらがなの練習に活用できます。
2人ペアになって、どちらかが教え役になったり、交代で使ったりと、相手と協力して使うと良いでしょう。
1人1台でタブレットを活用するときは、できることが大きく広がります。なかでも授業支援システムを活用して、クラス全員のタブレット画面を教師用タブレットで一斉表示することができれば、子どもたちの多様な意見を活かした授業が可能になるでしょう。
これまで手を挙げて発言するのが苦手だった児童の意見をリアルタイムで知ることができたり、誰が、どの問題でつまずいているのかも把握できます。
ほかにも、児童のレベルに応じたドリル学習を行ったり、家庭に持ち帰るなど多様な使い方が可能です。
しんじ:なるほど~。学習場面や用途によっていろいろな使い方ができますね!
わか子:そうなのよ。だからこそ、タブレットを使う部分、使わない部分のメリハリをつけることも大切なの。子どもたちにも、「映像を使って伝えたほうがいいからタブレットを使おう」「模造紙にまとめたほうがわかりやすいから紙を使おう」という具合に、学習内容や目的によってタブレットを使うかどうかを考えさせることも大切よ。
しんじ:わかりました!以後、気をつけて使います!!
ICT活用の先には「学習ポートフォリオ」も…
はやお:おや、しんじ先生にわか子先生。なんだか今日も大変そうだね。
わか子:いえいえ。そんなことありませんよ。しんじ先生にタブレットを使うことばかりを目的にしてはいけないって話をしていたところです。ね、しんじ先生?
しんじ:そうなんです。自分、まだまだ未熟者でして…、でもわか子先生、あと1つ、いいですか?
わか子:どうしたの?
しんじ:子どもたちが授業でつくったプレゼンデータを動画サイトにアップしたらダメですか? 自分もびっくりしたのですが、子どもたちがつくったプレゼン、とっても良くできているんですよ。できれば保護者の方にも見てもらいたくて。
わか子:動画サイトですって(怒)!!! あのね、しんじ先生!!!
はやお:まあまあ、わか子先生、そんなに怒らないで。しんじ先生の話も聞いてみよう。どうして、動画サイトが良いと思ったの? しんじ先生。
しんじ先生は、動画サイト上に「非公開グループ」を作成し、そこに子どもたちのプレゼン発表を撮影した動画をアップすれば保護者に見せることができると考えたのでした。
非公開グループであれば、一般の人には見えず、関係者しか見ることができないため問題ないと判断したわけです。
わか子先生は、新米教師のしんじが話すことに驚いたものの、データの共有は学校の方針としてどうすべきか、今一度考える必要があることと伝えました。
しんじ:そうですかぁ。せっかく保護者の方に見てもらえると思ったのになぁ。
はやお:でも、しんじ先生が話したことは、これからタブレットを活用していくうえで大きな課題になる部分だね。
わか子:えっ、どういうことですか?
はやお:これからの時代、児童がタブレットなどでつくった作品や成果物が、学習ポートフォリオとして大切になっていくという話だよ。
学習ポートフォリオとは、平たくいうと、子どもたちが何を学んできたのかがわかる学習記録のことです。
具体的には作文、レポート、作品、テスト、活動の様子がわかる写真や動画などが当てはまるでしょう。
タブレットを授業で活用するようになると、個々の学習活動が記録しやすく、データの保存も可能です。こうしたデジタルのメリットを活かして、先進的な教育機関では学習ポートフォリオとして蓄積する動きも始まっています。
テストの点数だけで評価するのではなく、子どもたちがなにを学んできたのかを見ることで、多様な評価につなげようというものです。
わか子:なるほど~! 確かに、タブレットを学習に使うと子どもたちのデータは蓄積されるわね。「3年生の頃には、こんなことやった!」って子どもたち自身も振り返りやすいし。
はやお:そうだね。学習ポートフォリオに関しては、今後、大学入試や就職時などに重要視されるという意見もあるね。そのため、一部の中学校や高校では、学習ポートフォリオのシステムを導入する学校も出てきているよ。いずれにしても、小学校においても子どもたちのデータをどう扱うか、教師としても考えておかなければいけないってことだね。
しんじ:また、難しい問題が出てきた…(涙)
わか子:そうねぇ。でも、しんじ先生、情報収集だけでも始めておきましょう!
この後、ICT 担当のわか子先生としんじ先生は、子どもたちのデータをどのように扱うのが良いのか、先進校を見学することにしました。
さて次回は、いよいよICTを活用した授業デザインについて深掘りします。お楽しみに!
自然な流れで児童の活用につなげる
授業でもゴールがあるように、ICT活用にもゴールが必要です。 今回の事例には、スライドにまとめるシーンがありました。学習者が手軽に制作できることはタブレットの強みでしょう。ただ、スライドに何をまとめるのか、何枚にするのか、何分で行うのか、といった条件を揃えることも必要です。また、制作の順序は、もっとも大事なことからつくるようにします。そうすれば、時間切れになっても、伝えたいことは見せることができます。 子どもたちは、見栄えにもこだわりますから、書いた文字に対して、書体や色、大きさ、飾り枠などの選択に時間をかけてしまうことも少なくありません。そこで、これらを明確にするためにルーブリック(評価指標)を用意するとよいでしょう。活動や制作物、操作技能など、目的に合わせて指標を作ることで、指導者も学習者も同じ評価の視点をもつことができるようになります。 タブレットがないから実践ができないと思われがちですが、用紙をラミネートしたものやワークシートをクリアファイルに入れて、ホワイトボードマーカーで書かせることもできます。私は「なんちゃってタブレット」と呼んでいます。これを使えば、低学年でも、書いたり消したりすることに慣れていきます。また、サイズを大きくしていけば、グループで共有するボードとしても活用できます。 こうしたツールで、学習者の思考を支援するような活用を考えていきたいものです。 (札幌市発寒西小学校 教諭 山田秀哉) |
<プロフィール>
わか子:小学校教員10年目。新しい学校でもICT担当となり、子どもたちのために日々奮闘中。
飼っている犬が自分の身長を追い越したので、敬語で話すようになった。
はやお:小学校教員30年のベテラン。趣味はコンピュータ製作で、ICTにも詳しく、各地に専門家の知り合いがいる。
一緒に住んでいる双子のとしお先生と誕生日パーティをする約束をしていたが、うっかり忘れて怒られてしまった。今日は早く帰って夕飯作らなきゃ。
しんじ:小学校教員3年目。学生時代、野犬に襲われているところをわか子先生に助けられた事から教師を目指すようになった。
わか子先生が飼っている犬を見ると、何故か鳥肌が立つ。