プログラミング教育の現状と小学校への導入
わか子:プログラミング教育って現状はどうなっているのでしょう? そもそも学校で教えているのですか?
稲葉さん:現在、小学校では必修化はされていませんが、中学校では2012年度から技術・家庭科の「プログラムによる計測・制御」という内容が必修になり、中学生全員がプログラムを学ぶようになりました。車型ロボットの教材でライントレースを行う授業などが主流かと思います。ロボット等を操作する際にはコンピュータでプログラムを作成しています。
また、高校では情報科でプログラミングが扱われています。情報科には「社会と情報」と「情報の科学」の2科目があり、どちらかを選んで学ぶのですが、プログラミングは「情報の科学」で必修になっています。
わか子:そうすると2020年に小学校でプログラミング教育が必修化された場合って、どうなるのですか? どのような形で子どもたちは学ぶのでしょうか?
稲葉さん:プログラミング教育については各方面から内容の充実を求められていたこともあり、文科省では有識者会議を開催。2016年6月に「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について」が取りまとめられました。その中で、小学校にプログラミング教育をどのように導入するかについても触れています。
「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について」によると、小学校におけるプログラミング教育を必修化するといっても、コンピュータに関する新しい教科が設けられるわけではありません。算数や理科など既存の教科の中で、プログラミングを取り入れた学習が実施されることになり、何年生の、どの教科で、どんな内容を何時間学習するのか、といった具体的な中身については各学校が判断します。各学校の教育目標、ICT環境や指導体制といったそれぞれの実情に合わせて進めていくというわけです。
としお:なるほど。学年に合わせた段階的な教育を考えていかないと子どもたちに「難しい!」という気持ちだけ残してしまうなぁ…。どんな風にプログラミングを教えるのか、いろいろ考えていかなければいけないということですね。
何のために小学校でプログラミングを学ぶのか?
わか子:そもそも、なぜ小学校でプログラミングを学ぶのでしょうか? 正直なところ本当に必要なのか分からなくて…。
稲葉さん:はじめに申し上げたいことは、小学校のプログラミング教育については“プログラマーの育成が目的ではない”ということです。確かに今、第4次産業革命と呼ばれるほど技術が進化し、世界的にもIT人材の需要が高まっていますが、小学校段階のプログラミング教育はIT人材の育成が直接の目的ではありません。
わか子:え、でもコードを書いたり覚えたりするんですよね?
稲葉さん:小学校のプログラミング教育は、いろいろな知識やコーディングを覚えることが目的ではありません。あくまでも子どもたちが体験を通して、自分もコンピュータを使って何かを作ることができるという“作り手”になれるという気づきを与えること、そしてプログラミングを通した課題解決の学習で「プログラミング的思考」を身に付けることが目的になります。
わか子:プ、プ、プログラミング的思考? それは何ですか?
稲葉さん:極端にまとめると「論理的に考えていく力」です。詳しくはこちらの「小学生段階におけるプログラミング教育のあり方について(議論の取りまとめ)」をご覧ください。
わか子:ふむふむ(資料を読んでいる)。つまり、コンピュータの規則性に基づいて論理を組み立てたり、課題を解決する思考、ということですね。
稲葉さん:身近な生活でコンピュータが使われるようになった今、子どもたちがその仕組みを知ることは大切です。与えられたものや世の中にある便利なものをただ受け身に使うのではなく、プログラミングの学習を通してコンピュータがどのように動いているのか知り、子どもたち自身が“コンピュータでモノをつくることができる”という発想を持つことが重要だというわけです。
稲葉さん:ほかにも、小学生のうちは“コンピュータって楽しい、面白い!”と興味を持って向き合うことも大切だと思っています。
わか子:小学生であれば、なんでも楽しいと思いながら学べる年齢ですものね。コンピュータに興味を持ったり、プログラミングで何かを作ってみたいという子どもたちが、これから学校で出てくるわけですね。
ICTやプログラミング教育の導入、まずは環境の整備が大切
わか子:プログラミング教育の必要性については理解できるのですが、いざ小学校でプログラミングの授業を実施するのって、かなり難しいなと思ってしまうのです。その点はどうなのでしょう?
稲葉さん:もちろん、プログラミング教育の導入に当たっては課題が多いです。ICT環境の整備、指導法の開発や教材の充実、先生方の研修会、あと、この分野は専門知識を持った方と関わりながら進めていくことも有効なので外部の人材や企業を巻き込むことも重要だと考えています。
わか子:そうですね。でも、いろいろお話を聞いているとICT担当になった私としては、まず学校のICT環境を整備することが重要だと思いました。タブレットやコンピュータがなければ、そもそもICTを活用したアクティブ・ラーニングやプログラミング教育ができないですもんね。あとは…コンピュータが苦手っていう先生たちにも使ってもらえるように進めていかなきゃなぁと思っています。う?ん、大変そう。
稲葉さん:大丈夫です。ICTを教育現場に導入することは、今までの教育を否定し、ICTで新しいことを始めようというものではありません。高度情報化社会の今、教育に限らず、あらゆる分野において今の状況をさらに良くしていくためには、ICTがひとつの手段として活用されています。教育においても同様で、教育の質を上げるためにICTは手段として有効で、子どもたちの思考力・判断力・表現力の育成につなげていけると考えています。ですから、わか子さんがICT担当として子どもたちにどんな環境を準備できるか考えることはとても大切です。まだまだこれから勉強することがでてくると思いますが、がんばってくださね!
わか子:はい! がんばります! 稲葉さん、わかりやすいお話、ありがとうございました!
~~~帰り道~~~~
としお:稲葉さんに話を聞いてみてどうだった?
わか子:そうですね、正直なところ、必要なことが見えてきたからこそ、お話を聞く前よりやることの多さに頭がパンクしそうです…。
としお:そうかぁ。でも何が必要か気づくことは、とても大きな一歩だと思うよ。電子黒板や教師用PC、無線環境などタブレット以外にも用意しなければならないICT機器もあるしね!
教員がどのような授業をしたいのかによって、ICT製品を導入する優先順位も変わってきますよね。また、そもそもICTを導入するといっても、昨今は教育現場で使用できる製品も多様になり、どれを選んでいいのかも悩むところです。
次回の連載ではそんな疑問をとしお先生に教えてもらいます! 普段はスマートフォンを使うことが多く、コンピュータといえば校務用パソコンくらいしか使わないわか子。どんな事を教えてもらえるのでしょうか?お楽しみに!
<プロフィール>
わか子:小学校教員3年目。教員という職業に少し慣れてきたところで校長先生からICT担当に任命される。子どもたちのためにICT環境を整えようと奮闘中。足腰が強く、電車の揺れにも動じない。
としお:小学校教員25年のベテラン。趣味はコンピュータ製作で、ICTにも詳しく、各地に専門家の知り合いがいる。朝食はパン派。
稲葉さん:文部科学省 生涯学習政策局 情報教育課情報教育振興室 室長補佐。突然の取材にも資料を用意し丁寧に答えてくれた。