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School Innovationセミナーin山陰まつえ -次世代教育に向けた環境整備と体制構築-【後編】

2019年11月18日 記事

パネルディスカッション②「教員の負担を減らす手立てとICT—次世代ICTを取り入れた将来的な教育現場での環境をビジョンとして、今からできる働き方改革の在り方について—」

パネルディスカッションの2つ目は「教員の負担を減らす手立てとICT—次世代ICTを取り入れた将来的な教育現場での環境をビジョンとして、今からできる働き方改革の在り方について—」。校長、地域、コーディネーター、教育委員会という立場の異なるお三方の働き方改革の取り組みを発表していただき、それに基づいて議論を深めるというものだ。パネルディスカッションのコーディネーターは島根県立大学人間文化学部の高橋泰道教授。

まず、高橋教授から趣旨説明があった。教員の働き方改革問題の発端は、2014年6月のOECDによる「国際教員指導環境調査」の結果が発表されたことだ。ここで日本の中学校教員の勤務時間が週53.9時間であり、OECD各国の中で最長であることが明らかになった。2017年4月には、文部科学省の「教員勤務実態調査」の結果が公表された。これによると、時間外労働が週20時間を超える教員が、小学校では約3割、中学校では約6割に達することが明らかになった。

ここから教員の働き方改革が始まった。一義的には教員の負担を減らし、教員自身の人生を豊かにし、人間性や創造性を高めることだが、最終的には児童・生徒に質の高い教育が提供できるようにすることが目的だ。

Society 5.0社会に向けて、学校も学習用に整備されてきたICT機器を活用して校務負担を減らすことは当然だ。しかし、具体的にどうするのか、まだ明快な答えを誰も持っていない。そのヒントを探るというのがこのパネルディスカッションの目的だ。

 

島根県江津市立高角小学校、石橋邦彦校長

石橋校長は、美郷町立邑智小学校で3年間校長を務めたのち、現在の高角小学校の校長を務めている。邑智小学校では1人1台のタブレット端末、高角小学校では1学年分1人1台のタブレット端末が整備されている。

タブレット端末は学習効果を高めるために導入されたものだが、教員の負担を減らすことにも大きく寄与している。授業の準備もしやすく、児童にとってわかりやすい授業ができる。準備も以前は写真を撮り、拡大コピーをして教材を作っていたものが、タブレット端末があれば写真を撮るだけで済む。そのまま電子黒板やプロジェクターに映すことができ、さらに拡大が必要であればその場で指で拡大ができる。調べ物もしやすい。発見した資料をその場で保存できる。教員の教務作業はおおいに効率化された。

しかし、石橋校長は、すべてをデジタル化すべきではなく、アナログのよさも活用すべきだという。このデジタル教材とアナログ教材を橋渡ししてくれるのがタブレット端末だ。アナログ教材の一部を拡大提示したい場合は、タブレットでその場で写真を撮り、プロジェクターに投影することができる。デジタル教材、アナログ教材、そしてタブレット端末という組み合わせで、授業の質を上げるだけでなく、授業準備も大きく効率化している。

 

働き方改革は、このような小さな工夫を、貯金のように少しずつ積み上げていく「塵も積もれば山となる」やり方でしか実現できないと石橋校長は認識をしている。しかし、ICTを使った働き方改革にはひとつ落とし穴がある。それはICTの得意な教員はどんどん教務を効率化していくが、苦手な教員はそのまま変わらないということになってしまう。石橋校長はこれは「オレ流の働き方改革」でしかなく、教員が全員参加し、自発的に行う「オレたち流」にする必要を感じた。

そこで行ったのがICTと働き方のワークショップをこまめに開いたことだ。ここで意見交換が行われ、現在ではさまざまな工夫が生まれている。職員会議で、学級状況の報告をするときはタイマーを動かし2分にまとめる、児童の話をするときは顔写真を表示して他の教員にも誰であるかがわかるようにするなどの小さな工夫が教員の中から生まれてくるようになった。

 

高角小学校では、夕方6時(退勤時間後1時間)で、ある学年部のほとんどの教員が帰宅をしている。これには秘密がある。石橋校長の発案で、「カエルゾウ」というサークルを作り、手作りの会員証を発行している。そして、その会員になった教職員は「今日は何時に帰ります」ということを、教員全員が見ることのできるボードにネームプレートを貼ることで宣言ができる。そして、宣言通りに帰宅するというわけだ。他の教員も退勤時間がわかるので、それに合わせて必要な連絡や申し送りをするので、本人は時間通りに帰ることができる。

ある校長が石橋校長に相談をしたことがあるという。その校長は「定時退勤の日」を設け、その日は全員が定時で帰ることを提案したという。しかし、その試みはうまくいかなかった。他の日の残業が増え、定時退勤も次第にないがしろになっていった。「オレたち流」=自発的な改革ではなく、「オレ流」=教員の都合を無視した半ば強制になっていることが原因だ。

石橋校長は「ICTの効果は無限大」「オレ流ではなくオレたち流の改革」の2つの考え方で、教員の働き方改革を進めている。

石橋校長が提示したICT活用による負担軽減の概念図。ICT導入当初は機器の使い方を覚えたり試行錯誤をしたりするために、業務効率はかえって悪くなることがある。しかしそれを乗り越えれば、成果が出てくる。つまり、ICT機器を整備すればすぐに成果が出るというICT万能的な考え方の働き方改革ではうまくいかないという。

 

島根県立隠岐島前高等学校、教育魅力化コーディネーター、中山隆氏

中山氏は、隠岐島前高校の教育魅力化コーディネーター。地域社会を巻き込んだ教育を実現する仕事をしている。中山氏は働き方改革の3か条を定めている。

1)ワクワクしながらチームで、新しい挑戦をし続ける。

2)チームで目的・目標を考え、活動は記録に残し、改善し続ける。

3)成功だけではなく、失敗すらも開いて笑い飛ばせるチームでいること。

この3か条に基づいて、今年度の1学期(4月から夏休みまでの期間)に6つもの挑戦を行なった。「外部講師との政治・経済の授業」、「全国の高校生との交流」「プチ講演」、「外部との打ち合わせ」、「オープンスクールへの卒業生参加」「探究活動のサポート」だ。短期間に6つもの挑戦ができたのは、ICTを活用したからだ。Webex Meetings(遠隔会議システム)を利用した。政治・経済の授業に、官公庁の職員に遠隔で参加をしてもらう。専門家に遠隔で講演をしてもらう。外部の人と遠隔で交流する、議論するというものだ。生徒が探究活動を行うときも、遠隔地の専門家にアドバイスをもらうことができ、他校との越境型プロジェクトとして実施することも可能になってくる。離島にある島前高校ならではの発想だ。体を動かす場合、旅費がかさむ上に日帰り出張というのがほぼ不可能になる。その間、校務は止まってしまう。それが遠隔で行えば、費用がほぼゼロになり、移動時間もゼロになる。

隠岐島前高校では、教員の出張も「職員室にいながら出張」をする。打ち合わせをするべき相手と遠隔会議システムでつないで打ち合わせをする。これは経費、時間が節約できるだけでなく、思わぬ効果があったという。それは、「この打ち合わせに○○先生も同席してもらえばよかった」と思うことがあっても、リアルな出張打ち合わせでは日を改めて再度行うしかない。しかし、「いながら出張」では、その先生をパソコンの前に呼んでくればいいだけなのだ。

 

隠岐島前高校は、離島という不利な地理的要因を克服するため遠隔会議システムを活用するしかなかった。しかし、遠隔会議という手段を得たことにより、島外の人と繋がるだけでなく、教育関係者以外の専門家とも繋がることが容易になり、それが隠岐島前高校の授業の質を高めることになっている。

中山氏は「ワクワクするチーム」で仕事をすることこそが働き方改革だという。ただし、中山氏の言うチームは隠岐島前高校のスタッフだけでもなく、隠岐の地域社会の人々だけでもなく、全国の教育関係者だけでもなく、隠岐島前高校の挑戦に興味を持ち、応援してくれるすべての人がチームだという。隠岐島前高校は、遠隔会議システムというICTを活用して、多くの人と繋がり、教員の働き方改革を進めているだけでなく、最も重要な教育の質を高め、魅力を増やすという目的を達成しようとしている。

中山コーディネーターが提示したチームの働き方改革の3カ条。具体的な施策というよりは、意識改革に比重が置かれている。教員自身の意識改革が最も重要だということでパネリストの意見が一致した。

 

愛媛県西条市教育委員会指導部スマートスクール推進係CIO久嶋耕司CIO補佐官

久嶋補佐官は、西条市教育委員会のメンバーではあるが、教職員でもなく行政人でもなく、民間企業の営業マンだ。総務省の地域おこし企業人交流プログラムで、西条市教育委員会に出向をしているというユニークな人材だ。

西条市はICT機器の整備状況は良好で、環境的には恵まれている。教員の勤務状況も、小学校の教員の月間の超過時間(残業時間)が25校の平均で45時間44分、中学校が10校の平均で59時間31分と、過労死ラインの月80時間からは大きく下回っている。

ところが、これを教員個人を単位として調査をしてみると、小学校教員の11.0%、中学校教員の28.7%が過労死ラインと呼ばれている月80時間以上の残業をしている。しかも小中教員の19.3%が月80時間以上の残業を3ヶ月以上連続、もしくはこの1年のうち8ヶ月以上しているという極めて緊急を要する厳しい状況であることが判明した。しかも、勤怠管理のシステムが多少自分で調整できる仕組みであり、月の残業時間が80時間に達する直前で操作をする教員もいると推測され、西条市教育委員会では、現実は、この厳しい数字以上に厳しいと受け止めているという。

しかも昨年の残業時間と比べると、今年はほぼどの月も残業時間が増えている。「ICTの整備が進めば、効率的に働けるようになり、自然に残業時間は減少していく」ということはなく、やはりなんらかの対策をしなければ働き方改革は進まないとも認識しているという。

 

西条市では、3年前から業務改善推進委員会をスタートさせ、働き方改革を進めている。その中で、西条市立玉津小学校で「はよ帰ろうプロジェクト」(通称はよプロ)を進めている。

プロジェクトメンバーはまず現状把握から始めた。「教員への満足度調査」「教員ワークフローの作成(1日の仕事の見える化)」「行事・事業の洗い出しと分類」の3つで、特に後者の2つについてはABC分析を行い、どの項目が重要であるかを見極め、どの項目に対して改善を行えば高い効果が得られるかの目安をつけていった。

そして3つのカテゴリーにおいて施策が実行された。方法、場所、人の意識の3つだ。

 

やり方デザイン:校時の変更。時間泥棒削減励行。月1回の「はよ帰ろうデー」

やる場デザイン:職員室のレイアウト変更

やるひとデザイン:断捨離デー

 

施策はこの3カテゴリーに分類をされているが、実はすべての施策は教員の意識改革に結びついている。時間泥棒削減励行は、教員が校務終了後に雑談混じりでクラスの状況や授業の相談などをする習慣を改革するものだ。教員同士の交流という点では大きな効果があることだが、長時間にわたってしまうこともある。そこで、長話は「相手の時間を泥棒すること」という意識を持ってもらい、時間を決めて話をする習慣に変えていった。

校時の変更、職員室のレイアウト変更については、若手教員を中心に複数のチームを作り、案を提案してもらい、コンペで決定した。これが大きかった。それまでの常識では、校時や職員室のレイアウトは変えてはいけないものと思い込んでいたが、これにより、年度途中で変えてもかまわない、自分たちで提案して変えることができるという意識に変わった。

 

このような施策を行なった結果、改善策を実施してから玉津小学校の教員の超過時間は目に見えて減っていった。直近では25校の平均値よりも14時間も少なくなっている。

また、満足度調査もプロジェクト開始前と実施後に行い、比較を行った。満足度は大きく向上していた。超過時間が短くなり、同時に満足度も向上していることから、やらされて働き方改革をしたのではなく、自主的に働き方改革ができたと玉津小学校の教員は感じていると考えることができる。

しかし、一方で、課題も見えてきた。最も大きな課題は、教職員の固定観念を変えることが最も重要なのだが、最も難しいということ。また得られた成果や目的、意識の共有が難しい。学校の中だけでできることには限界がある。できれば、実現可能なモデルが欲しいなどだ。

久嶋補佐官は、このモデル問題についてパラドクスも感じているという。玉津小学校の成功例をロールモデルとして、他の小中学校でも同じようにやってみても、それはあまりいい結果を生まないだろう。学校が抱えている課題はそれぞれに異なる上に、その学校の教員にしてみれば「やらされる」働き方改革になってしまう。玉津小学校の事例が成功した要因は、自主的に施策を考え、実行することで、教員の固定観念が崩れ、意識改革が自然に進んだことだからだ。他の学校でも、教員が主体となって、どのような施策をすべきかを自分たちで考えなければ意識改革は起こらない。とはいえ、プロジェクト開始直後は「どこから手をつけていいのかわからない」と戸惑うことも多いので、軌道に乗るまでの参考にできるロールモデルが欲しいという声は教員からも挙がっているという。

久嶋補佐官も、「デジタルとアナログの上手なミックス」が働き方改革のカギになると感じている。デジタルは時間削減効果は非常に大きいので積極的に活用すべきだが、業務の総量そのものを減らしてくれるわけではない。業務量を減らすには、教員の意識改革が必要であり、そのためにはアナログ的な教員同士の意識共有、コミュニケーションが重要になってくる。このデジタルとアナログをどう組み合わせるかが教員の働き方改革の大きなポイントになる。

久嶋補佐官が提示した玉津小学校での働き方改革の成果。プロジェクト開始後、すぐに効果が現れ、直近では、残業時間が他校の平均値よりも月間14時間も短くなっている。

お三方の発表ののち、ディスカッションが行われた。教員の働き方改革にはなにが重要かというテーマだ。

 

(中山)お二人の事例を聞いて、「教員が前向きになった」というのが共通したキーワードになっているように感じました。

 

(石橋)高角小学校の教員は、元々が前向きな姿勢を持っている教員たちです。そこに「自分たちで考える」施策を設定したことが成果に結びついたと感じています。教員が自主的に考え、それで小さな成果が生まれる。それがさらに前向きにつながるという流れになって行きました。

 

(久嶋)実は、プロジェクト開始直後、働き方改革に後ろ向きな先生が一人いらっしゃいました。生徒のために時間をかけたいという熱心な教員です。その方が、校長から強めに叱責をされて、定時で帰宅したことがありました。すると、仕事の一部をしないで帰ったのに問題はなく、初めて元々不必要な仕事であることがわかったとおっしゃるのです。早く帰って、家族との時間も取れたそうです。早く帰るのは意外にいいとおっしゃる。この先生は、その経験を職員室の中でいろいろな人に話し、「あの先生が?」という話が教員の間で伝播していきました。これが全員が前向きの姿勢が生まれるのに大きかったように思います。

 

(高橋)意識や目的の共有、オレ流からオレたち流へという話を聞くと、もうひとつのキーワードが「チーム」ではないかと思います。隠岐島前高校では、主幹教諭を中心にしたチームでさまざまな挑戦をしていますが、チームをうまく作っていく工夫のようなものはありますか。

 

(中山)主幹教諭はものすごく仕事量が多いんです。私たちチームもものすごく仕事量が多い。チームがやるべき業務を見える化してみたところ、1200項目にもなりました。これをすべてこなすのは無理なので、若手の先生たちを巻き込んでいきました。私たちから声をかけて、チームの仕事を他の先生と一緒にやるということをしながら、チームの輪が広がっていきました。

島外からの視察があると、主幹教諭はグラウンドで綱引きをして、海士町を体感してもらうということをします。おかしいですよね。でも、それが幸せなことだと実感しています。チームの人たちは、苦しいことがあっても、いつも笑ってくれるんです。どんなことがあっても、大きな声で笑ってくれる主幹教諭がいるということは、島前高校にとって本当に幸せなことだなと思います。こういう人たちと仕事ができる幸せを感じています。

 

(久嶋)玉津小学校の事例が成功をしたのは、人に恵まれたからです。アドバイザーとして入っていただいた民間コンサルタントの方も玉津小学校出身者で、ものすごく情熱を持って仕事をしていただきました。さらに、田口校長の熱意がものすごく強かった。こういった熱意を持たれている教員・地域の方々のためにも、働き方改革の問題に素早く取り組んでいきます。

 

(石橋)ICTが入ってきている今、できることは働き方改革への土台作りだと思います。その中で働き方改革を、小さなことからでいいのでやっていこうという土台を作り、小さな成果を出して手応え感を感じること。これが大切なのではないかなと思います。

 

(高橋)今回、ご提案、ご紹介をしていただいた学校、地域はICT環境整備が比較的進んでいる地域です。働き方改革の土台作りをするには、ICT環境が整備されていることが前提となります。行政の方にはぜひ環境整備も積極的に進めていただきたいとお願いをしたいところです。

また、学校の実態に適した働き方改革が必要であること、人間関係=「チーム学校」も重要であると感じました。ICTの活用は授業×ICT、人×ICT、この2つの効果を無限大にするには、授業作り、人作りも重要になってくるのだと感じました。

 

 

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