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School Innovationセミナーin山陰まつえ -次世代教育に向けた環境整備と体制構築-【中編】

2019年11月05日 記事

パネルディスカッション①「小中高一貫したプログラミング教育-発達段階に応じたプログラミング教育と、小中高接続・連携を意識したプログラミング教育」

パネルディスカッションの1つ目は「小中高一貫したプログラミング教育—発達段階に応じたプログラミング教育と、小中高接続・連携を意識したプログラミング教育」。

小中高3人の現役教師が各学級での取り組みを紹介し、それに基づいて議論を深めるというものだ。特に小中高で、プログラミング教育をスムースに接続するにはどうしたらいいかが焦点になった。コーディネータは放送大学の中川一史教授。

 

まず、中川教授から趣旨説明があった。今、子どもたちの身の回りにはコンピュータが内蔵された機器であふれていて、それが生活を豊かにしている。仕組みの1から10までを知る必要はないが、より活用するためには基本的な仕組みの理解が必要になる。「コンピュータはブラックボックスではない」ということを子どもたちが認識しながら関わっていくことが重要だという。

新学習指導要領に記述されているプログラミング教育と現行学習指導要領の記述を比べるとその違いは歴然となっている。小学校では現行学習指導要領にプログラミング教育は明記されていない。中学では技術家庭科の中の計測制御の中で行われている。また、高校では教科「情報」の中で「社会と情報」「情報の科学」の2科目の中から1つを選択することになっている。8割の高校は「社会と情報」を選択しているが、プログラミング教育は2割の「情報の科学」の方でしか行われていない。つまり、高校生の8割はプログラミング教育を受けずに卒業することになっている。ところが、2020年から始まる新学習指導要領では、小中高ともにプログラミング教育は必修になる。現状と、新学習指導要領が掲げる理想にはまだまだ大きな隔たりがあるのだ。

そこで、小中高それぞれの現役教師に取り組みを発表していただき、どのように小中高でプログラミング教育を接続、連携していけばいいのかを俯瞰をし、議論を深めていく。

「小学校のプログラミング教育事情〜校内研修のメニューから〜」(鳥取県倉吉市立河北小学校、田中靖浩教諭)

プログラミング教育には、3つの方法がある。

A)アンプラグドコンピューティング:コンピュータを使わない学習

B)ビジュアルコンピューティング:コンピュータだけを使う学習

C)フィジカルコンピューティング:物も使うダイナミックな活動

 

Aのアンプラグドコンピューティングでは、紙のワークシートを使って行なっている。ロボットに買い物に行かせるには、地図上をどのように動かせばいいか、それを付箋のような命令を並べてプログラムする。また、朝起きて学校に行くまでに何をするかをカードで並べる。このようなアンプラグドな教材、指導アイディアはかなり揃ってきているという。

Bのビジュアルコンピューティングでも、教材は揃ってきている。ビスケット、スクラッチ、スクラッチジュニア、スモウルビーなどのビジュアルプログラミング言語が揃っている。また、Hour of Code、プログルなどチュートリアルサイトも揃っているので、教材として活用ができる。

Cのフィジカルコンピューティングにもさまざまなデバイスが登場しているが、田中教諭が注目しているのがMicro:bitだ。多数のセンサーが内蔵されているので、さまざまな装置と組み合わせることで、暮らしに役立つ装置を作ることができる。温度センサーとモーターを連動させ「暑くなったら扇風機を回す」装置や人感センサーとライトで「人が近づくと灯りをつける」装置などを、どのようなシーンで使えばどのように役に立つのかを児童に考えさせて、簡単な工作とプログラミングを行う。

田中教諭は、このような「アンプラグド」「ビジュアル」「フィジカル」の教材を複数用意して、低学年、中学年、高学年に適宜活用している。学年に適した教材は違ってくるので、複数の教材を用意しておき、適宜最適なものを利用していく体制を作っておくことが重要だという。

 

田中教諭が分類をした3つのプログラミング教育の手法。コンピュータがなくてもプログラミングはできる。それぞれの教材を複数用意して、目的、学年に合わせて使うことが重要だという

「中学校におけるプログラミング教育」(島根県安来市立広瀬中学校、瀬崎邦博教諭)

プログラミング教育は、すべての教科の中でプログラミング思考を養うために行われるものだが、現実には技術家庭科の技術の時間が中心的な役割を担っていくことになる。しかし、授業時間は思ったより少ない。第1学年、第2学年では年70時間、第3学年では35時間しかなく、しかも半分は家庭科なので、技術分野の授業は年35時間、第3学年では17.5時間しかない。さらに、技術分野の中では4つのカテゴリーに分かれていて、プログラミング教育に適した「情報の技術」は、第1学年では0時間、第2学年では13時間、第3学年では17.5時間しかない。

新学習指導要領にこの現状を当てはめた場合、プログラミング教育がどの程度行えるかを島根県技術・家庭科研究会が試算したところ、第2学年で8時間、第3学年で14時間、中学3年間を通じて合計22時間程度という結果になった。

瀬崎教諭が提示した、中学の技術家庭科の中で、プログラミング教育がどの程度の時間できるかの試算。中学3年間の合計で、わずか22時間程度しかない。

島根県のプログラミング教育の特徴は、プログラミング言語「Ruby」をビジュアルプログラミング言語化した「スモウルビー」の活用が盛んだということだ。これはRubyの開発者であるまつもとゆきひろ氏が島根県松江市在住であるという縁で、2012年度から松江市長が市内の全中学校17校でRubyを使ったプログラミング授業を実施するというユニークな地方創生策を打ち出し、松江市を起点に島根県中に広がりを見せている。

広瀬中学校では、このスモウルビーとロボットカーを利用して、自動運転する車のプログラミングを技術の時間の中で行なっている。ロボットカーはレンタルをし、ワークシートは松江市のサイトで提供されている標準ワークシートを活用している。

もうひとつの取り組みが、島根県安来市には県立情報科学高校があり、広瀬中学校からも近いために授業協力をしてもらっていることだ。情報科学高校の3年生が、広瀬中学校の生徒にマインドストームを使ったプログラミングを教えてもらうという試みだ。生徒同士で教え合うという双方にとっての学習効果も大きいが、もうひとつの狙いは教材の問題だった。中学校の教材費で、さまざまなICT関連の教材を揃えることは難しい。そこで、マインドストームやタブレットという教材が揃っている情報科学高校に協力をしてもらい、チューターとなる生徒に教材も持ってきてもらって授業を展開している。

スモウルビーではスモウルビープログラミング甲子園という全国的なコンテストが行われている。中学生にはハードルが高い大会だが、希望者には情報科学高校で冬休みに2日間学ばせて、エントリーをした。プログラミングに意欲的な生徒であっため、中学生ながら決勝大会まで進出するという大きな成果も上がっている。

 

瀬崎教諭が現在課題と感じているのは、キーボードの入力練習の時間をどう捻出するかということだという。プログラミングの授業を展開する上で、生徒がキーボードを打てることの重要さを痛感している。しかし、少ない技術の時間内で練習時間を取るわけにはいかない。小学校の間に一通り身につけておくというのが理想だが、それも現実には難しい面がある。幸いなことに、プログラミングの授業は生徒たちに好評で、技術教室に時間よりも早くきてくれる生徒が多い。その時間にコンピュータを開放して、タイピング練習ソフトなどを提供して、自主練習をさせるということでカバーをしている。

「プログラミング教育の実践」(島根県出雲商業高等学校、山﨑孝之教諭)

山崎教諭は商業科目が専門で、情報に関する科目は商業科目において代替指導している。新学習指導要領では、高校でも「情報I」「情報II」が必修科目になるほか、専門高校ではさらに専門教科に適合した形のプログラミング専門教科が設置される。

高校生はほぼ100%スマートフォンを所有しているため、最近まではスマートフォンの使い方を指導することもあったが、その段階は終え、「使い方」から「作り方」へと指導内容が変化をしている。デジタルデバイスの使い方についてはもはや高校生には教えることはないほどだが、デジタル作品の作り方となると、まだまだ指導が必要になる。また、キーボードに関しては不慣れな生徒もいるため、1年生の間はスクラッチなどのビジュアルプログラミング言語が教材としては適している。並行して、キーボードの練習時間を取り、タイピングに慣れされると、ビジュアルプログラミング言語から、タイプしてコーディングしていくプログラミング言語に自然に移行をしていくという。

 

商業高校の情報科では、プログラマーを養成するわけではない。社会に出て、経営や会計とITを結びつけたスキルをつけることが目標だ。そのため、プログラムの技術ではなく、考え方を重視した授業を展開している。プログラミングに関しては、オンラインプログラミング学習サイト「Progate」の中学・高校プラン(無料コース)を活用している。進度だけを設定し、学習時間は生徒各自に任せている。

そのため、授業そのものは手作業になることが多い。トランプゲームを例にとり、普段無意識に考えている戦略をカードに言語化し、アルゴリズムを組んでいく。またじゃんけんプログラムでも同様に無意識で行っていることを言語化し、アルゴリズムに組み、最後にはプログラムに落とし込むということをやっている。

商業科で重要なプログラミングは、「手作業のシステム化」を行い、自動化していくことだ。授業内容もそれを意識しているし、また学校行事でのアンケート登録、集計の自動化プログラムも作成した。タブレットでアンケートを入力してもらい、自動集計するというプログラムを、設計、仕様決定から実践した。

このような活動は、4人1組のチームで行うが、リーダー、サブリーダー、プログラマー、デザイナーという役割分担を決めることがポイントだという。この役割分担は作業分担ではなく、最終決定権をその人が持つということだ。プログラムは4人全員で行うが、最終決定をするのはプログラマー。デザインも全員でアイディアを出すが、最終決定をするのはデザイナー。こうすることでチーム内のコミュニケーションが活発となり、自然にコミュニケーションスキルが身についていく。ここが重要だという。

山﨑教諭は、プログラミング教育を行う中で、教師の役割がティーチングからコーチングへと変化することを感じたという。「教える」のではなく、経験と知識を用いて「一緒に考える」存在になるという。

パネルリストお三方の発表の後、ディスカッションが行われた。プログラミング教育を展開していく中でどのようなことが重要かというテーマだ。

(瀬崎広瀬中学教諭)キーボード習得の重要性を感じています。小学校3年でローマ字の学習を行い、ホームポジションをとった正しいタッチタイピングを小学生のうちに身につけておくと、中学でのプログラミング教育は短時間でも大きな効果が得られると感じます。また、出身小学校によってキーボードへの習熟が違っているので、ある程度レベルを揃えてもらえると中学校としてはありがたい。プログラミング教育に関わる小中の教員同士で意見交換できる場が必要なのではないかと感じています。

 

(山﨑出雲商業高校教諭)自分だけで、あるいは学校の中だけで解決しようとせずに、外に向かって「困っている」「教えてほしい」ということをアピールしていくことが大切だと思います。すると、意外なところから教えてもらったり、アイディアをもらったりすることがあるからです。学校の外との連携を築いていくことが必要だと感じています。

 

(田中河北小学校教諭)小学校の教員が大切にしていることは、まず、どんな力を育てたいのかをしっかりと意識することです。それが明確になって初めて授業計画が立てられて、授業が実行できるのです。この育てたい力を意識するには、教師自身が教材を使ってみることが大切です。しかも、教師が楽しんでやってみる。そこからすべてが始まると感じています。

 

(中川放送大学教授)小中高の教員お三方の話を伺って、小中高のプログラミング教育をスムースに接続する鍵は、コンテンツ(授業内容)ベースではなく、コンピテンシー(育てたい力)ベースなのだということがよくわかりました。ゴールとすべきものは3つ。「AI時代の情報社会への対応力」「社会に役立つ人材育成」「論理的思考力の育成」。この三角形を見据えて、小中高の教員が授業を展開することで、小中高のプログラミング教育の接続と連携が見えてくると感じました。

 

 

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