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School Innovationセミナーin山陰まつえ -次世代教育に向けた環境整備と体制構築-【前編】

2019年10月23日 記事

2019年8月7日、島根県立産業交流会館(くにびきメッセ)において、「School Innovationセミナーin山陰まつえ」が開催された。主催は一般社団法人日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)。

本セミナーのテーマは、「次世代教育に向けた環境整備と体制構築」。具体的には、2つのテーマについて語られた。ひとつは、小学校で必修化されるなど小中高で充実するプログラミング教育にどう対応をしていくかという教務の問題。もうひとつが、大きくなるばかりの教員の校務作業負担をICTを活用していかに軽減化していくかという問題の2つだ。ICTを教務と校務の両面にどのように活かしていけばいいのかということが議論された。

内容は、文部科学省初等中等教育局情報教育・外国語教育課情報教育振興室の小林努室長補佐による基調講演の後、「小中高一貫したプログラミング教育」「教員の負担を減らす手立てとICT」という2つのパネルディスカンションが行われた。

前編では、小林室長補佐による基調講演をご紹介する。

 

セミナーの冒頭では、主催者であるJPET&CEC普及促進部の渡辺浩美情報教育担当部長による開会挨拶、放送大学の中川一史教授によるセミナーの趣旨説明が行われた。

続けて行われた小林室長補佐による基調講演は、遠隔講演という新しい試みで行われた。小林室長補佐は東京霞が関の庁舎にいたまま講演を行い、これをネット回線で松江の会場と結ぶというものだ。音声や映像はクリアであり、講演中はスライド資料のみが会場の大型モニターに表示されるため、聴衆は内容に集中することができる。講演そのものがICTの最も分かりやすい活用事例になっているというユニークな講演だった。

当日の基調講演は東京霞が関と松江の会場を結ぶというICTの事例を体現したものとなっていた。

現代は情報社会と呼ばれるが、それはもはや終わりに近づいている。次の社会が始まろうとしている。「Society 5.0」と呼ばれる新しい社会だ。人類社会の進化を、狩猟社会を1.0、農耕社会を2.0、工業社会を3.0、情報社会を4.0と定義すると、今始まろうとしているのは5.0にあたるという考え方だ。すべての機器がインターネットに接続されるIoT、大量のデータを分析し、新たな価値を生むビッグデータ、人間を超える高度な判断が可能になる人工知能、多様で複雑な作業の自動化が可能になるロボットなどの技術により、社会は大きく変わる。具体的なイメージは、政府広報オンラインの中の「Society 5.0」(https://www.gov-online.go.jp/cam/s5/)のページに解説と、イメージをわかりやすく表現した5分程度のムービーがある。

Society 5.0の概念図

現在の教育は、その新しい社会を担う人材を育成しているのだから、新しい社会で必要とされる力を育てなければならない。そこで、新学習指導要領が令和2年度から小中高で順次実施されていく。

ポイントは3つある。一つ目は、情報活用能力を言語能力と同様に「学習の基盤となる資質・能力」として位置付けたこと。2つ目は、これを実現するため、学校のICT環境整備、ICTを活用した学習活動の充実を明記したこと。そして、3つ目が、小学校でのプログラミング教育の必修化及び小中高を通じてプログラミング教育、情報教育を充実させること。

もうひとつの大きな変化が、デジタル教科書が使用できるように、平成31年4月1日から改正学校教育法が施行されている。教育課程の一部において「通常の紙の教科書に代えて」デジタル教科書を使用できるようになっている。

 

新学習指導要領への対応が、小中高では進み始めている。「平成30年度教育委員会等における小学校プログラミング教育に関する取組状況等について」の調査では、2017年度と2018年度の取組状況を比較している。全面実施される2020年度に先行してプログラミング教育の授業を取り入れている自治体の割合は16.1%から52.0%に増加をした。逆に、特に取り組みをしていない自治体の割合は56.8%から4.5%に大幅に減少をした。

「平成30年度教育委員会等における小学校プログラミング教育に関する取組状況等について」(文部科学省)より。プログラミング教育に対する取り組みは2018年度でおおいに進んだ。
すでに授業を実施している自治体が52.0%に達している。

 

このような進捗の背景には、文部科学省が提供する支援環境が充実してきたこともひとつの要因だと考えられる。「小学校プログラミング教育の手引」の作成。ポータルサイトを通じて指導事例を普及。教師用研修教材の公開。「未来の学びプログラミング教育推進月間」の設定。市町村教育委員会などの担当者を対象にしたセミナーの実施などがある。プログラミング教育ポータルについては「未来の学びコンソーシアム」で検索、教師用研修教材については「プログラミング教育 研修教材」で検索をすることで見つかる。

 

学校現場の努力、文部科学省による支援態勢などもあり、教員のICT活用指導力は着実に向上をしている。平成19年からの推移を見ると、「授業中にICTを活用して指導する能力」が、52.6%から76.5%へと目立って向上している。その他の活用力、指導力も着実に向上している。唯一課題となっているのが「児童・生徒のICT活用を指導する能力」で、向上はしているものの、現在でも67.1%とやや低い位置に留まっている。今後、授業の中でのICT活用事例が増えていくとともに、向上をしていくことが期待される。

 

「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」(文部科学省)。
「授業中にICTを活用して指導する能力」が急速に向上をしている。

一方で、学校のICT環境整備については「脆弱であること」「地域間格差があること」を危機的な状況だと認識しているという。教育用コンピュータの整備目標は「3クラスに1クラス分程度」(1日1コマ分程度、児童・生徒が1人1台の環境で学習できる環境)で、これは3人で1台のコンピュータという計算になる。しかし、各都道府県の平均は5.6人に1台と隔たりが大きい。

この課題を解消するため、文部科学省では「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」を策定し、単年度1805億円の地方財政措置を講じた。しかし、これは「学校のICT環境整備に必要な費用も、標準的な教育行政に必要なもの」という考え方で基準財政需要額として算定される。基準財政収入額がこの基準財政需要額よりも小さい自治体に対しては地方交付税が交付され、地域間の格差が解消される仕組みになっている。ところが、この地方交付税の支出先は、地方自治体が独自に決めることができるため、医療、介護その他に財源を投入することもできる。そのため、ICT環境整備に必要な費用は「基準財政需要額」の中に組み込まれたが、地方交付税で補っている地方公共団体の中には、他の行政課題に地方交付税を投入してしまうことがあることも可能性としては否定ができない。そのため、地方公共団体で、ICT環境整備=標準的な教育行政の必要性を確認し、きちんと予算化をしていくことが求められている。

 

最後に、多くの教育関係者が気になっている高大接続改革について触れられた。Society5.0を支える人材を育成するために「知識・技能の確実な習得」「思考力、判断力、表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」の3つを「学力の3要素」として定め、大学教育だけでなく、大学入学者選抜、高等学校教育の3つを一体として改革していくものだ。

この高大接続システム改革は、2015年度から2024年度までのスケジュールで進んでいる。この改革は、高校と大学だけではなく、小学校、中学校にも影響を与えていく。小林室長補佐は、新学習指導要領への対応を進める際にも、高大接続がどのように改革されていくのか、そのスケジュールもにらみながら、小学校、中学校、高等学校の学習指導を改善していっていただきたいという。また、学校の改革は、文部科学省だけ、教師だけで成し遂げることはできない。関係者の力を結集し、時には地域社会の力も借りて、進めていくことが重要だとした。

 

遠隔講演は、機材トラブルもなく、スムースに進行した。まさに、遠隔教育が未来のことではなく、今日にも実現できる活用事例であることを小林室長補佐自らが実演することにもなった。

 

 

 

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