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宮城県教育委員会が取り組んだICT環境整備とは?(前編)

2019年04月09日 記事

宮城県教育委員会は、教科指導におけるICT活用を「MIYAGI Style」と名付け、2018年度からICT環境整備を本格的に着手した。教師用タブレットとしてiPadを約1,000台導入したほか、推進するための体制として、リーダー的な役割を持つ教師を「MIYAGI Styleスタイリスト」に任命。さらには教師によるBYODを認め、働き方改革にも着手するなど独自の施策を進めている。宮城県はどのような取り組みを行っているのか。宮城県総合教育センター 教育推進部 情報教育班 主幹(指導主事) 山下 学氏(取材当時:宮城県教育庁教育企画室 情報化推進班 主幹兼企画員)に話を聞いた。

教師間の共通理解を促す「MIYAGI Style」の提案

宮城県教育委員会は、2013年3月に前計画である「みやぎの教育情報化推進計画」(現計画は、「第2期みやぎの教育情報化推進計画」(2017年3月))を策定し、主体的に学び、考え、実行できる児童生徒の育成に取り組んでいる。なかでも、これからの社会では情報活用能力の育成が必須であることから、翌2014年にはICTを活用した教育を進めるため「情報化推進班」を設置し、本格的なICT導入の準備/検討を開始した。長期的には、ICTのメリットを最大限に活かせる一人1台環境をめざし、「個」に応じた学びを実現していく方針だ。

 

その第一歩として、宮城県教育委員会は教科指導におけるICT活用を「MIYAGI Style」と名付け、取り組みを進めた。具体的には、一斉学習から協働学習、個別学習へと段階的・発展的にICT活用を進めようという提案で、まずは一斉学習におけるICT活用をめざした。ちなみにMIYAGI Styleの頭文字には“Miyagi ICT Youth Approach Growing with Innovation Style”(児童生徒のためのICTによる授業改善)の意味が込められており、教師らが共通理解を持ってICT活用に取り組めるよう方向性を示した。

MIYAGI Styleについて宮城県教育庁教育企画室 情報化推進班 主幹兼企画員 山下学氏は、「理想は児童生徒一人1台の環境だと思いますが、予算的に厳しいうえ、教師にとっても、いきなりそこをめざすのはハードルが高いのです。そのため宮城県では、MIYAGI StyleのVer.1である一斉学習から段階的に始めることにしました」と語る。

 

一方で山下氏は、ICTの取り組みを進めるにあたり、教師によってICTの捉え方が異なることを課題に考えていた。現場では受け持ちの教科や教師のITスキル、学校での立場などによってICTを語る目線が異なり、議論が噛み合わないこともある。そうなれば、全体の取り組みに発展せず、場合によっては“ICTは要らない”といった論調も生まれてしまう。それを避けるためには、教師らの共通理解が必要であり、宮城県ではMIYAGI Styleと名付けてICTの活用目的や導入のフェーズを明確にした。山下氏は「現場では“MIYAGI Styleという共通言語で、いろいろな教師が同じレベルでICTについて語り合うことができます。些細なことですが、新しいことを学校現場に持ち込むためには、こうしたコミュニケーションの工夫が重要だと考えています」と語る。

教師用タブレットに1000台のiPadを導入。

一斉学習におけるICT活用から取り組むことになった宮城県教育委員会は、2015年度から2016年度の2年間、ICT導入に向けた検証事業を県立高校6校で実施した。その結果、教師の指導力向上や生徒の学力向上において手応えが得られたことから、2018年度にICT導入を本格的に開始した。

 

宮城県教育委員会が整備したICT環境は、下記の通りだ。一斉学習の中で教師が資料や映像を大きく提示できる環境を整備した。いずれも2018年度から段階的に整備を進めている。

 

<宮城県における県立学校ICT機器整備推進事業(2018年度から4カ年計画)>

・無線LANの整備(無線LANのみ2017年度より3カ年計画)

   全県立学校の全ての普通教室と一部の特別教室

・大型提示装置

   全ての普通教室及び一部の特別教室

   常設型と移動式を合わせて約2,000台

   プロジェクタを常設した教室には、映写兼用黒板を設置

・教師用タブレット

   全ての普通教室及び一部の特別教室に1台ずつ

   整備機器はiPad で約3,000台を導入

・タブレット管理用PC

   各学校に1台ずつ。MacBookを配備

・タブレット設定用多機能ハブ

   各学校に1台ずつ

 

※特別支援学校を含む

 

宮城県のICT環境整備で特徴的なところは、教師用タブレットとしてiPadを選択し、その管理用PCとしてMacBookと多機能ハブを各学校に配備したことだ。検証事業の際はマルチデバイスで行ったが、教師の方から”iPadが使いやすい“と声があがったことが機種選定の決め手になった。山下氏は「一斉学習におけるICT活用という視点で、iPadが良いと判断しました。黒板にパッと資料や映像が写せますし、ICTが苦手な教師も直感的に操作できるのが良いと思いました。また教育系アプリが豊富である点もICTを授業に取り入れるうえで扱いやすいと判断しました」と語る。最終的に平成30年度は約1,000台のiPadを教師用タブレットとして導入し、活用をスタートさせた。

 

 

一方で、これだけ膨大な数の教師用タブレットをどのように管理・運用するかは課題だ。一般的にはMDM(Mobile Device Management)を導入するケースが多いが、宮城県の場合は、教師による活用がメインであることから、MDMの導入は見送った。代わりに、各学校に管理用のPCとしてMacBookと多機能ハブを配備し、iOSデバイスの集中管理ツール「Apple Configurator 2」で複数台の教師用タブレットを管理できる環境を整備した。

 

教師用タブレットの管理・運用について山下氏は、「予算的にICT支援員を配置することがむずかしかったので、教師が自分たちで端末管理できる環境を整備しました。しかし、別の考えとして、現場の教師がトラブル対応や端末管理に関するノウハウを持つことも重要だと考えています。たとえICT支援員を配置できたとしても、全ての学校に常駐できる人数を揃えることはむずかしいですし、現場の教師が自ら、スピード感を持ってニーズに応じた運用ができることは、メリットだと考えています」と語る。現場で“できること”を増やすためには、教師側にもノウハウを蓄積することが大切だというのだ。宮城県教育委員会では、端末管理についても研修やiTunes Uをとおした情報提供などでサポートしていくという。

ICTで何か面白いことをやってみたい教師たちをリーダーに

宮城県教育委員会は「MIYAGI Style」をさらに浸透させるため、推進リーダーの役割を担う教師を「MIYAGI Style スタイリスト」に任命し、取り組みを広げる体制を整えている。初年度は7名の教師を任命し、教師のICT活用を推進する校内研修や資料作成などを担った。

 

スタイリストの選定基準については、ICTスキルの高い教師ばかりが選ばれているわけではない。山下氏は「スタイリストは、これまで、様々な事業で一緒にICTを活用した授業について考えてきた教師から “ICTを授業改善に役立てたい”“ICTを活用した授業の魅力を伝えたい”と思ってくれる教師を選んでいます。新しい取り組みを進めるためには試行錯誤も多いため、教師自身が楽しみながら関わってくれる人を選びました」と語る。周りの教師をどのように巻き込んでいけるか。それにはまず、ICTを推進する教師自身が楽しんでいることが重要だというのだ。

 

一方で、宮城県教育委員会はスタイリストでない教師もICT活用について積極的に学べるよう、「MIYAGI Style」に関連するコンテンツをさまざまな形で公開している。県立学校には約6,000人もの教師が在籍しているため、全員に取り組みを周知・徹底するには紙の文書だけではむずかしいからだ。そこで宮城県教育委員会では、忙しい教師たちでも自分のスマートフォンやコンピュータからアクセスして学べる環境を用意した。たとえば、アップルが提供するオンライン講座の管理サービス「iTunes U」には、iPadの操作方法や活用事例、さらには校内研修で使用できるスライドなど、多数の講座を公開。ほかにも、YouTubeでは「MIYAGI Style」の概要を動画配信するなど、隙間時間でICT活用を学べる場を提供した。

宮城県教育委員会が作成したiTunes Uのページ。iPadの操作方法や活用事例、さらには校内研修で使用できるスライドなど、多数の講座を公開。教師がいつでも学べる場を提供している。

宮城県教育委員会はICT活用を周知するため、YouTubeで概要を説明する動画を公開した。「MIYAGI Styleのすすめ」https://youtu.be/_G5-caLc0Fw

教師のBYODを実現し、働き方改革にも取り組みを拡大

宮城県教育委員会のICT活用でさらに特筆すべきことは、教師の私物端末を持ち込むBYODを認め、教師の働き方改革にも着手したことだ。無線LANを整備する際に、校務系と学習系のネットワークを完全に切り離し、教師と児童生徒のBYODが可能な環境を実現した。

 

といっても、教師が私物端末を校内で使うためには、情報モラルの研修を受け、どのデバイスを持ち込むのかを申請しなければならない。もちろん、ウィルス対策がされているもの、OSは改造していないものなど、性能的な制限は設けられている。現場ではiPadを個人で購入し試行錯誤を重ねる教師や、iPadとMacBookを使って授業を行う教師など、ICTを活用する教師が増えているという。

 

また教師のBYODとは別に、教師が職員室のコンピュータで作成した教材データを学習系ネットワークで活用したり、自宅でも教材データにアクセスできる環境として、クラウドサービスの「Office 365」を提供している。こちらも希望する教師が研修を受けて使用するシステムで、多くの教師が効率的な環境を求めて申請しているというのだ。

 

山下氏は「教師たちにいかにICTを使ってもらえるかが課題です」と話している。「ICT機器を整備したからもっと使ってほしいのではなく、教師がICTを使った分だけ子供たちの学びが変わると信じています。いずれは子供たちもタブレットを持って学ぶ日が来ますし、その時をイメージしながら、今後のICT活用を進めていきたいと考えています」と山下氏は想いを語ってくれた。

 

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