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ICTのメリットを活かした授業改善で、生徒の主体性と多様性を伸ばす〜宮崎・小林市教育委員会(後編)〜

2019年02月27日 記事

 

 

2017年度から学習者用タブレットPCを配備し、2年間の実証研究に取り組んだ宮崎県小林市。その全体的な概要については小林市教育長の中屋敷史生氏に話を聞き、前編で紹介した。後編の本稿では、同市のICT活用研究モデル校である小林市立東方中学校が2018年12月に開催したICT公開授業の内容についてレポートする。2年間の実証研究で、どのような成果をもたらしたのか。公開授業の様子から探る。

動画で可視化、試行錯誤を深めるためのICT活用

宮崎県小林市は、2017年度から市内の東方小学校と東方中学校をICT活用研究モデル校に指定し、学習者用タブレットPCを活用した実証研究に取り組んでいる。同市では、これまでにも電子黒板とプロジェクター等のICT機器を全小・中学校に整備し、教師によるICT活用には取り組んできたが、今回のように子どもたちがICTを活用するのは、この実証研究が初めての試みとなる。2年間の実証研究では、小・中が連携しながら合同で取り組み、「確かな学力を身に付けた児童生徒の育成〜主体的・対話的で深い学びにおけるICTの活用」を研究主題に進められた。

 

2018年12月に東方中学校で実施されたICT授業公開は、同市の教育関係者らが大勢参加した。最初に行われたのは、中学2年生の体育の授業で、マット運動と跳び箱運動の単元でICTが活用された。学習のねらいは「自分の技を安定して行うためのポイントを考えて、練習を工夫することができる」というもの。生徒たちはタブレットPCを活用して、自分の技を動画に撮影し、それを見ながら自分の改善点を克服するための練習を考えた。

 

授業ではまず、生徒たちが補助運動や練習をした後、動画撮影から始まった。その後、撮影した動画を見ながら、どこをどうすれば良くなるのかグループで話し合う。「顎が出ている」「足の位置が問題なのではないか」など気付いた点を出し合い、グループの中には、もう一度、場所を変えて撮影し、2方向から見た動画をもとに改善点を出し合う姿も見られた。

2方向から動画で実技を撮影。

動画を見ながら改善点を話し合う

その後、課題点を改善するためにどのような練習を行えばいいかを考えた。生徒たちは手の位置を何度も確認ながら跳び箱を跳んだり、逆立ちではブリッジで背中を反るような練習を取り入れてみたりと、さまざまな試行錯誤を重ねた。授業の最後は、教師が何名かの生徒の動画を取り上げ、練習前と練習後を比較し、どのように改善されたのかを全体に共有した。生徒からはこのような授業について「自分の姿が良く分かった」「どのように改善すればいいのか分かりやすくなった」という意見が聞かれた。

授業支援ソフトを用いて、練習前と練習後の動画を比較。

意見共有をICTで効率化し、対話の時間を創出する

続いては、中学3年生の国語の「おくの細道」の単元で、授業支援ソフトを活用した授業が公開された。授業は「俳句(夏草や)にはどのような思いが込められているだろうか」をテーマに、本時は「涙を落としはべりぬ」に込められた芭蕉の思いを考えた。

 

生徒たちは、事前学習として平泉や芭蕉に関する調べ学習に取り組んでおり、その内容をもとに芭蕉の思いを読み取りワークシートにまとめている。授業では、授業支援ソフトの「発表ノート」を利用し、ワークシートの内容を仕上げるところから始まった。その後、グループ活動に入り、それぞれのワークシートを共有して、互いにどのように芭蕉の思いを読み取ったのかを話し合う。

ワークシートに書いたものを写真に撮り、授業支援ソフトにアップロード(写真左)。グループワークでは授業支援ソフト上で、互いのワークシートを共有した。

グループ内で個人の考えを共有した後は、今後はグループとして本時の課題である「涙を落としはべりぬ」に込められた思いをまとめる活動に取り組んだ。生徒たちは、なぜそう考えたのか、理由や根拠となる資料を提示することに気をつけながら、発表ノートにまとめの意見を書き込んだ。授業の最後には、グループでまとめた内容を全体で発表し合い、意見交換を行った。

グループとしての意見をまとめている場面(写真左)。授業の最後はグループの意見を共有した(写真右)

この授業を担当した日髙幸浩教諭に話を聞くと「情報の共有がスムーズに行えるようになり時間短縮につながっている」と述べた。今まではホワイトボードなどを使ってグループによる意見交換を行っていたが、書く作業や発表する際に時間がかかることがネックであった。その点、タブレットは、生徒が場所を動く必要もなく、文字が見づらいという問題もない。意見共有もスムーズに進み、短縮できた時間を生徒同士が対話する活動に使えるというのだ。また自分の意見を表現するのが苦手な生徒も、他の生徒の意見を参考に書くことができるのもメリットだ。日髙教諭は「タブレットPCを使うようになってから、生徒たちが積極的に関わる部分が増えたと思います。アウトプットの質・量も高まっています」と手応えを述べた。

書き込みをリアルタイムで共有し、意見交換を活発に

最後の公開授業は、中学1年生の数学で「平面図形」の単元でタブレットPCが活用された。本時のねらいは、75°を作図し、その手順を他者に分かりやすく説明すること。授業では、「校庭に埋められた宝物を探せ!」をミッションに、朝礼台から75°の方向にある宝物の場所を求めた。

最初に取り組んだのは、個別学習による75°の作図だ。生徒たちは前時までの知識を用いて、まずは自分で定規とコンパスを使いながら作図に挑戦した。途中、どのように考えれば良いか分からない場合は、前回の授業で撮影した作図の動画を見ながら、自分の考えを導き出した。その後、作図した図形を写真に撮って、授業支援ソフトの「発表ノート」で共有。グループ内で自分がどのように考えて作図したのか、その手順を説明し合った。

(写真左)前時に撮影した作図の動画を見ながら、本日の課題である75°の作図の方法を考えた。(写真右)自分が作図した75°の図形を撮影して、授業支援で共有。

授業支援ソフトを用いて説明し合うメリットは、リアルタイム性を活かした書き込みや意見交換ができることだ。発表者が図形をペンでマークしながら説明すると、同じように聞いている生徒たちのタブレットPCにも、そのマークが反映され、分かりやすく伝えることができる。また空いたスペースに補足説明を書き込んだり、Undo機能ですぐに消したりすることも可能なので、意見交換も活発になりやすい。授業では、生徒たちが互いに書き込み合って話し合いを活発に進める姿が見られた。最後には、グループで話し合った作図の手順について動画で撮影し、クラス全員で共有した。

 

それぞれのタブレットに発表者の図形を表示。自分がどのように考えて作図したのかをタブレットPC上でマークしながら分かりやすく伝えた。

同授業を担当した本薗理子教諭はタブレットPCを活用した学習のポイントについて、「多様な意見を共有できる」「思考を表現しやすい」「書き込みが容易」「記録を蓄積できる」といった点がメリットであると述べた。情報共有、意見交換の際にICTを用いることで、効率的に進められるという。一方で、不具合の端末対応に時間がとられることや、生徒のICTスキルに差があることがICTを活用するうえで課題点であると述べた。

 

学習をあきらめない、主体的に学ぶ生徒が増えた

以上のように、東方中学校の公開授業では3教科でICTの活用が披露された。ICTを授業改善のツールにし、どのように活用すれば教師の指導力向上、または生徒の学力向上につながるのか、この2年間で現場の教師たちがさまざまな取り組み実践してきたことが伝わってきた。

小林市立東方中学校 小園裕美子校長

東方中学校の小園裕美子校長は実証研究を振り返り、「授業が効率化され、生徒たちが主体的になりました」と手応えを述べた。ICTがあることで生徒の表現や思考などアウトプットが多様になったとともに、授業についていける生徒が増えたこともICTの良さだというのだ。友達の意見を見ながら、自分の意見を発することができたり、友達と同じ方法で自分もやってみたりと、学習をあきらめない姿勢が見られるようになってきたという。

 

一方で、教師側の課題としては、「新しいことにチャレンジできる教師をもっと増やしていきたい」と小園校長は語った。今の時代はスマートフォンも普及し、仕事でもICTを活用するのは当たり前。そうした時代を生きる子供たちに対して、学校が社会の動きに合わせて変わらなければ、未来を生き抜く力を身につけるのはむずかしい。ICTを使うことが教育のめざすゴールではないが、それを上手く活用しながら、さらに学びを深化させたいというのだ。

 

今後は遠隔授業や特別支援学級でICTを活用してみたいと話す小園校長。子供たちの未来のために、ICTの可能性をさらに広げていきたい考えだ。

 

前編はこちら

 

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