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2年間の実証研究で見えたICT活用の成果と予算化実現のポイント〜宮崎・小林市教育委員会(前編)〜

2019年02月04日 記事

宮崎県小林市教育委員会は、2017年度から市内のICT活用研究モデル校2校(東方小学校・東方中学校)で2年間の実証研究に取り組んだ。これまで電子黒板やプロジェクターを活用した授業には取り組んできたが、さらにもう一歩、ICT活用を発展させるために学習者用タブレットPCを配備。2019年度から着手するICTの本格導入に向けて準備を進めた。2年間の実証研究でどのような成果を得られたのか、またICT環境整備のポイントは何か。詳しい話を小林市教育長の中屋敷史生氏に話を聞いた。

宮崎県 小林市教育長 中屋敷史生氏

人生100年時代の教育環境を見据えて、まずは学校教育から着手

宮崎県小林市は、県の南西部に位置し、宮崎市の中心部から車で約1時間の距離にある。霧島連山と九州山地に囲まれた雄大な自然が残る地域で、人口は約44,000人、市内には小学校が12校、中学校が9校ある。

 

小林市では、地域に活力を与える人材育成をめざし、学びと健康を軸にした「0歳から100歳までの小林教育プラン」を掲げている。教育委員会といえば、学校教育だけに携わっていると思われがちであるが、同市教育委員会は社会教育も含めた教育施策を重視した。学校という場をコミュニティの中心にしながら、生涯を通じて充実した学びを提供しようというのだ。

 

同市の教育長 中屋敷史生氏は「活力のある小林市にしていくためには、いつまでも健康で学び続けられる環境が重要だと考えています。ICTはそれを多様な形で実現できるツールであり、まずは、これからの社会を担う子供たちからという考え方から、学校教育にICTを導入しました。いずれは社会教育の講座などにも広げていきたいです」と想いを語る。

0歳から100歳までの小林教育プラン

とはいえ、めざす教育プランに対して、ICT整備の予算が簡単に下りるわけではない。

小林市では平成22年度に国の補助事業を受けて、全小・中学校に電子黒板やプロジェクターを整備したものの、それらはあくまでも教師が教えるためのものだ。学習者が活用するICT機器の整備は、莫大な費用がかかる上、本当に効果があるのかも導入前は分からない。中屋敷氏は「個の学びをどう実現するかは長命の課題であり、その課題解決のためにも効果の裏付けが必要でした。」と語る。そこで、ダイワボウ情報システムの協力の下、2年間の実証研究に取り組むことにした。ICT活用でどのような授業ができるのか、実際に学校現場で挑戦していこうというのだ。

ICTを活用し授業改善の実証研究を開始。対話の活性化に効果あり

小林市の実証研究は、同市の東方小学校と東方中学校をICT活用研究モデル校にし、2017年から2018年までの2年間実施された。ICT活用の目的は授業改善であり、「確かな学力を身に付けた児童生徒の育成〜主体的・対話的で深い学びにおけるICTの活用〜」を研究主題に取り組んだ。当初、ICT活用研究モデル校の2校には、東方小学校24台、東方中学校22台の計46台のタブレットPC、それに伴うソフトウェアや無線LAN等を整備した。また、その後も学習者用デジタル教科書、授業支援システムなども追加で配備された。

 

タブレットPC導入前の課題点について中屋敷氏は、「授業が一方向であること」と「子どもの考えの多様性を引き出せていないこと」の2点を挙げた。同氏によると、教師たちは今まで行ってきた授業スタイルから抜け出そうとしているが、授業が一方向になりがちだという。授業中の子どもとの対話も、教師を介して行われており、子供同士が対話をする場面が少ない。結果として、教師と個々の子どものやり取りで終わってしまい、子供同士の対話による学習内容の理解が得られることが少ないというのだ。また、子どもたちは同じ考えの者同士でまとまりがちである。子どもたちに、より事象に対する見方や考え方の多様性に気づかせるためにも、異なる考えをもつ子どもたちの意見を引き出せるよう教師のスキルを伸ばしたいという。

 

このような課題認識をもちながら始まった小林市の実証研究であるが、2年間で様々なICT活用が研究・実践された。以前から、電子黒板とプロジェクターを活用した授業が頻繁に行われていたこともあり、学校現場では“ようやくタブレットPCがやってきた”と歓迎されたという。2018年12月には2年間の実証研究の成果を発表するICT授業公開も行われ (この内容は後編で紹介)、当日は教師たちが「主体的・対話的で深い学びにおけるICT活用とは何か」を考えながらデザインされた授業が公開された。

 

中屋敷氏は「今回の実証研究を通して、以前に比べて子供同士の話し合いが活発になり、対話の部分でICT活用の効果がみられたと思います」と効果を述べた。一方で、子どもたちの学習内容の理解を促す有効なICT活用はまだ研究段階であり、この部分は今後も引き続き取り組んでいきたいと話した。

子供や教師の反応は?将来に役立つ学びをしていると実感する子供たち

学校での子どもや、教師たちは、タブレットPCを使った授業について、どのような感想を持っているのだろうか。

 

これについて中屋敷氏は、子どもたちの感想としては「学習が分かりやすくなった」「調べたい時に、簡単に調べられるのが便利」「みんなが何をやっているのか分かって安心する」という意見が多いと述べた。さらに同氏は、最も印象的だったものとして「将来、就職したときに役立つ」いう生徒の感想を挙げた。これは単にタブレットPCの操作ができるようになったという話ではなく、子供たちが学校で学んだことが社会に役立つと実感できたことを意味している。「学校知が社会で役立てられていないともと言われていますが、ICTの活用を通して、このように感じる子供がいると知って、とても嬉しかったです。学校はここをめざしていくことが大切だと改めて思いました」と中屋敷氏は語る。

 

一方で、教師の感想としては「主体的に意欲をもって取り組むようになった」「子供の考えるプロセスが分かるのが良い」「子どもたち同士がアドバイスする環境が生まれた」といった意見が挙げられた。今までの授業では教師が教える講義型が多かったが、タブレットPCを活用することで、児童生徒のつながりが増え、主体的に活動しやすくなったというのだ。さらに中屋敷氏は教師の変化として、「ICTを共通言語に、教師同士が教科の隔たりを超えてコミュニケーションを取るようになりました」と述べた。今までの中学校には、“それは英語科の話だから”“自分は理科だから関係ない”といった教科担任制の文化が根強く残っていたが、タブレットPC導入後は、教師同士が互いに授業論を語り合うようになった。タブレットPCがもたらした大きな変化のひとつだと同氏は話す。

ICT関連予算を取るためには、必要性を訴え、現場をみてもらうことが大事

このように2年間の実証研究を通して、さまざまな知見や成果が得られた小林市。今後どのようにICT活用を進めていくのだろうか。

 

すでに小林市ではICT環境整備の準備を着々と進めている。2019年度中には市内のすべての小中学校に無線LANとタブレットPCを整備する計画を策定しており、本格的なICT活用に取り組んでいく。文科省が講じた「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018~2022年度)」の地方財政措置を予算化につなげるほか、総務省のWi-Fi関連事業に関する補助金も利用するなど、教育委員会はICT環境整備に尽力している。

 

ちなみに、多くの自治体はICT環境整備について、いくら地方財政措置がされていても予算化につなげることがむずかしいと課題を抱えているのが現状だ。これについては、中屋敷氏も、小林市も簡単に進んだわけではないと打ち明ける。教育委員会の職員がこれからの教育にICTが必要であること、教育格差を広げてはいけないことなどを必死に訴え、その結果、市長の学校視察が実現し、ICTを活用した授業を生で見てもらうことができたという。中屋敷氏は「やはり一度でも子供たちがICTを使って学習している場面を見てもらえれば、“これは必要だ”と実感してもらえると思います」と語る。これからの地域を担う子供たちに何が必要か。ICT環境による教育格差にどう対応するか。実際の学校現場を見てもらえれば、ICTの必要性が伝わり、予算化にもつながるというのだ。

 

もちろん、ICT機器の導入がゴールではない。本当のスタートはここからであり、小林市も全小中学校におけるICT活用をいかに進めていけるかが重要なポイントとなる。子供たちに新たな学びを届けることはできるか。小林市の挑戦は、今後も続く。

小林市教育委員会の方々

左から牟田主事、山下教育部長、中屋敷教育長、古沢主幹

 

後編はこちら

 

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