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教師にタブレットを貸与した研修員制度、その成果は? 〜淡路市教育委員会7年間の歩み(後編)〜

2018年06月21日 記事

2012年から段階的にタブレットの導入を進めた淡路市教育委員会。同市では実証校や研究校を設けて学校単位でタブレット端末を配布するのではなく、ICT活用に意欲的な教員を募り、その者に必要な機材一式を貸与する「研修員制度」を考案した。そのねらいは、着実なタブレット活用をめざしてのことだが、淡路市では教員研修にも力を入れ、その模様は前編でも紹介した。スタートから7年目、同市では現在、タブレット活用はどのくらい浸透しているのだろうか。後編では、小中学校における具体的なタブレット活用と成果、これからの取り組みなどを紐解く。

iOSアプリをあらゆる学習場面で活かし、教師の指導範囲を広げる

淡路市が考案した「研修員制度」で研修員に選ばれた教師たちは、どのようにiPadを活用しているのだろうか。

 

同市のiPad活用で特徴的なことは、授業支援ツールなどの大型システムをメインに使用するのではなく、カメラやKeynote、iMovie、SafariなどiOSアプリを中心に活用を広げていったことだ。これについて淡路市教育委員会事務局教育部 学校教育課 特命参事兼指導主事の吉岡幸広氏は、「カメラやKeynoteなど、iPadに最初からあるアプリを使うだけでも、授業を変えていくことはできます。まずは、“あるものを使っていこう”“無料アプリを使おう”というスタンスでiPadの活用を始めました」と語る。

 

活用場面としては、児童生徒の発表、情報収集や観察記録、表現・制作活動などの個別学習、また調べ学習やフィールドワーク、話し合いなどの協働学習と、実に幅広い場面でiPadを活用している。しかも、淡路市の場合は教員研修が充実しているため、多くの教師がこうした多様な場面でiPadを活用できるのも特徴だ。小中学校・特別支援合わせて、ほぼ全教科でiPadの活用事例があり、すべての研修員の実践レポートも共有されている。

※「一斉授業」(左上)では教師による教材提示、児童生徒のノートを写真に撮って映写、前時の板書を写真に撮影して学習過程を見える化するなどの使い方が多い。「個別学習」(右)では情報収集や調べ学習、観察などの記録活動、シミュレーションやビデオクリップなどを活用した思考を深める学習、表現や制作活動にiPadを活用している。「協働学習」(左下)では発表や話し合い、意見整理やまとめ、協働の表現・制作活動、フィールドワーク、クラス・学校・地域を超えた交流学習などに活用している。

また、淡路市では中学校の英語や理科、保健体育など一部の教師は、学習コース管理アプリ「iTunes U」を利用した授業も実践している。iTunes Uでは教師がアーカイブした教材や資料を自分のペースで見たり、宿題や成果物の提出に活用できることがメリットで、クラウドを意識した学習スタイルにも挑戦している。ほかにも、美術や音楽のコラボ授業では、作成した万華鏡に音楽アプリ「GarageBand」で音楽をつけるなど、教科横断型の学びも生まれているという。

※淡路市が公開している「iTunes U」の学習コース(https://itunes.apple.com/jp/institution/awaji-city-board-of-education/id688246854?l=en※外部ページに移動します。閲覧にはiTuneのインストールが必要です。

こうした多くの実践が行われている中で吉岡氏は、「授業実践の中でも特に印象的だったのは、ベテランの先生やひとつの技能を極めた先生、授業力のある先生などが、“今まで指導の限界だと思っていたことでも、ICTを使うことで可能になった”と話されていたことです。こうした先生はICTを使わなくても授業の質は高いのですが、ICTを使うことでより指導範囲が広がるのだと感じました」と語る。

 

例えば、元アスリートの教師は、走り高跳びの授業で「助走」「踏み切り」「空中動作」「着地」のパーツごとに動画を作成し、練習方法をKeynoteにまとめて、いつでも子どもが見られるようにした。今までの授業では、教師が手本となって実技を披露し、これらの連動した動きは一瞬でしか見せられなかったが、ICTを使うことで子どもたちは何度もスローで動画を見ながら、苦手な部分を確認できる。このような学習は、子どもの気づきが多く、「動画を見たら、最後の3歩のリズムが遅かったから、最後の3歩に気をつけて跳ぶようにした」など課題解決につながる意見も聞かれたという。ICTを使えば、教師が授業の中で、“できない”と思っていたことでも可能になる。教師の使い方1つで、まだまだ子どもの能力を伸ばすことができるのだ。

生徒の実感値から読み解く、淡路市タブレット活用の成果は?

このようにiPadの活用が広がる淡路市であるが、どのような成果が出ているのだろうか。H28年度に市内のある中学校で実施された生徒質問用紙の結果から、いくつか紹介しよう。

 

淡路市では生徒質問用紙について、新学習指導要領に提示された「何ができるようになるか」「どのように学ぶか」に関連する項目を重視している。なぜなら、新学習指導要領においては、情報活用能力の育成が重視され、ICTを活用した学びが新学習指導要領のめざす方向性と合致していることが大切だからだ。そのため、タブレットを使った学習において、生徒たちがどのような実感を得ているのか気になるところである。

 

まず、多くの生徒はタブレットを使った学習で「発表する機会」や「話し合う活動」が増えたと感じているようだ。これまで一斉授業の形式で、教師の話を受け身に聞くことが多かったが、タブレットを活用するようになってからは、生徒同士の意見共有や共同編集が容易になり、コミュニケーションをとる機会が増えたようだ。また、授業の中で発表する場を多く作ることができるようになったのもタブレットの恩恵だといえる。

続いて、生徒質問用紙の中で全国平均を大きく上回ったのが、下記の質問だ。情報収集・編集・発信などの情報活用能力が向上したと感じる生徒が全国平均よりも圧倒的に多く、またコミュニケーション能力や思考力・判断力・表現力が向上したと感じている生徒も多いのが見てとれる。日常的にICTが活用されていなければ、生徒の実感も得られないこと考えると、淡路市では当たり前の学習ツールとしてタブレットを活かしていることがわかる。

淡路市ではH29年度の生徒質問用紙についても、同じような傾向にあるという。これについて吉岡氏は、「2012年のタブレット導入時は、まさか新学習指導要領の内容がこんな風に変わるとは思ってもみませんでしたが、淡路市では当初から21世紀型スキルの育成をめざして授業改善に取り組んできました。こうした生徒たちの結果を受けて、タブレットがインフラとして使われるようになり、授業が変わったといって良いと思います」と手応えを語る。

議会や行政、教育現場におけるICT活用への理解が淡路市の強み

もちろん、こうした成果が得られたのはICTだけの力ではない。淡路市がもっとも力を入れた教員研修やそれを支える教育委員会のサポート体制、保護者の理解など、さまざまな支えがあってのことだろう。その1つ、行政の立場からタブレット導入を支えたのが、淡路市教育委員会事務局 教育部 学校教育課 主査の宇城英稔氏だ。同氏は主に議会への理解や予算確保、教員研修や端末管理などさまざまな作業を裏方で支えた。

 

宇城氏はタブレット導入7年を振り返り、「市長発案だったので、他の市に比べると進めやすかったです」と語る。「しかし、保護者や議会での理解を得るために、さまざまな方に現場に来てもらって、実際に子どもたちが使っている姿を見てもらうようにしました。やはり、一度でもタブレットを使って子どもたちがイキイキと主体的に学んでいる姿を見てもらうと“タブレットを使った授業はいいですね”と理解を示してくれることも多かったです」と話す。ほかにもまちづくりの事業を進める他部署などと連携をとりながら、教育現場におけるICT活用の重要性をわかってもらうなど、ICTの取り組みが長期的に根づくよう進めてきたというのだ。

 

淡路市教育部長の西岡正雄氏は、ICTの取り組み全体を振り返り、「実証校を設けてタブレットを導入する方法ではなく、研修員制度を進めてよかったと考えています。21世紀型スキルの育成というゴールに向かって、教師たち自身がそれを実現するための活用法や中身を思考錯誤し、実践してくれたことが、今の結果につながった。先生の発想の中でタブレット活用を広げていけたと思います」と手応えを語る。

 

一方で、淡路市も未だ多くの課題を抱えている。その1つが教師の島外への異動だ。せっかく若い教師が来て、研修員として育成しても、その後は島外へ異動してしまうことも多い。ほかにも、これまでは研修員のボトムアップに注力してきたが、今後は、学校の将来を見通して動くトップレベルの研修員育成も必要性を帯びてきたと西岡氏は話す。

 

淡路市では今年、5カ年の「タブレット活用教育推進事業」が最終年度を迎えた。準備段階の2012年度から数えて7年の月日が過ぎたが、その間の同市の取り組みを振り返ると、教師らの最初の一歩が、学びを変えるために重要であると知る。同市は、そうした教師らの一歩が集まって前進してきたアドバンテージがあり、2020年の新学習指導要領の本格実施の際には、良いスタートを切るだろう。今後も、子どもたちが本当の意味で“アクティブラーナー”になれるよう、教師らの導きに期待したい。

 

※左から淡路市教育委員会 特命参事兼指導主事 吉岡幸広氏、同教育部長 西岡正雄氏、同主査 宇城英稔氏。

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