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教師にタブレットを貸与した研修員制度、その成果は?〜淡路市教育委員会7年間の歩み(前編)〜

2018年06月08日 記事

自治体レベルのタブレット端末導入は、実証校やモデル校を設けて実証研究を行い、そこから管轄する他校に端末を配備するパターンが一般的だ。この方法のメリットは端末管理がしやすい、組織的に取り組めるなどがある一方で、稼働率がなかなか上がらない側面も見られる。淡路市教育委員会ではこうした導入方法こそICT活用が広がらない原因だと考え、「意欲的な教員を募り、その教員に対して必要な機材一式を貸与する」というこれまでにない手法でタブレット導入に着手した。前編では同市が2012年から取り組んできたタブレット導入、教員研修を中心にレポートする。

※左から淡路市教育委員会 特命参事兼指導主事 吉岡幸広氏、同教育部長 西岡正雄氏、同主査 宇城英稔氏。

教育の質向上をめざしてタブレット導入を実施、iPadを選んだ理由は?

兵庫県淡路市は、神戸市の中心街から車で約1時間、淡路島の北部に位置する自治体だ。人口約43,000人の都市で、市内には小学校12校、中学校5校がある(H30年度時点)。淡路市では全国の地方都市と同様に深刻な人口減少の課題を抱えており、この20年間で小学校は10校も減った。そのため同市では地域活性化の施策として、「教育・観光・企業誘致」を3本柱に掲げ、なかでも教育の質の向上は企業誘致にも欠かせないとして教育施策を改革の最優先事項に位置づけた。

 

その淡路市では、特色ある教育をめざしてタブレット端末導入に着手した。具体的にはH24年度から準備期間として「淡路市フロンティアプロジェクト」を、また2年後のH26年度からタブレットの本格導入を実施し、5カ年計画の「淡路市タブレット活用教育推進事業」をスタートさせた。同事業では、H30年度までに市内の小学4年生から中学3年生までの児童生徒と教師を対象に、タブレットの1人1台体制を実施構築する目標を掲げ、今年、この目標は達成される。現在、淡路市では小中学校合わせて約2300台のiPadが稼働しており、小学4年生から中学3年まで、「切れ目ない学び」をめざした“デジタルキャリアノート”の取り組みを進めている。

 

私立学校のタブレット導入でよく選択されるiPadを、淡路市が選んだ理由は何か。これについて淡路市教育部長の西岡正雄氏は、「直感的な操作性やバッテリーの持ちの良さ、教育系アプリが充実していたことが良いと思いました。また、タブレット導入の準備を始めた2012年当時は、タブレットの選択肢も今ほど多くはなかったものの、他製品と比べたトータルコストではiPadのほうが安価であると判断しました。それは今日においても同様かと考えています」と語る。

 

こうしてH24年度に導入されたiPadは、淡路市では学校単位で配布するのではなく、授業でICTを活用したいと考える意欲的な教師を募り、その者に必要な機材一式を貸与するという導入方法で展開していった。淡路市はこれを「研修員制度」と呼び、教師にiPadを紐付ける形でタブレット活用をスタートさせたのだ。

※iPadやApple TV、電子黒板(プロジェクター)、無線LANなどのICT環境は、2012年度から段階的に整備。

ICT活用に意欲的な教師に機材一式を貸与した「研修員制度」の中身とは?

淡路市がH24年度に「研修員制度」をスタートしたときは、市内の小中学校からICT活用に意欲のある教師を募り、最終的に5名の教師を研修員に選んだ。翌年度は新たに15名、H26年度はさらに50名と、段階的に研修員の数を増やしてその人物に必要な機材一式を貸与し、学校現場で着実にタブレットが活用されるよう整備した。研修員に貸与された機材一式は具体的に下記のとおりであるが、研修員によってはiPad40台が貸与され1人1台環境に挑む研修員もいた。こうした機材一式はすべて研修員に紐付いているため、たとえ研修員が学校を異動したとしても、これらの機材一式も異動先の学校へ持っていくという。

※①iPad11台(教師用1台、児童生徒用10台)、②Wi-Fiアクセスポイント、③プロジェクター、④Apple TV、⑤タブレット保管庫

淡路市が学校単位でタブレットを配備せず、ICT活用に意欲のある教師に機材一式を貸与する「研修員制度」を採用した理由はなにか。これについて西岡氏は「実証校や研究校を決めてタブレットを導入するパターンは良い面もありますが、“みんなで使おう”と呼びかけても、結果としてICTに詳しい先生だけが使うか、もしくは誰も使わないでタブレットが保管庫に眠ったままという話がよくあります。こうした状況を防ぐためにも、タブレット導入の最初は、教師の自発的な行動やモチベーションが大切だと考え、研修員制度を考案しました」と語る。莫大な税金をかけて事業を実施する以上、タブレットを死蔵させるわけにはいかない。タブレット導入を成功に導くためには、授業でICTを使う価値に理解を示し、現場で根気強くトライ&エラーに挑む人材が必要だ。そうした考えから、教師にタブレットを紐付ける研修員制度の方が稼働率は高まると判断したのだ。

 

もう1つ、淡路市には研修員制度を後押しした理由がある。それは、財政的な理由からICT支援員の配置を見送ったことだ。確かに、教師のICT活用を支えるICT支援員の存在は重要だが、現実的に予算確保が難しい。そこで淡路市では、ICT活用を実践した研修員が次の研修員へノウハウを教える仕組みを作ったり、研修員が参加できる教員研修を充実させるなど、研修員同士が互いに協力し合う体制を築くことでICT支援員の課題を克服しようとした。

教師主導、小規模で行う教員研修が、確実なタブレット活用の支え

「研修員制度」がタブレット導入の要となった淡路市では、研修員に選ばれた教師の研修事業にもっとも力を入れた。淡路市教育委員会事務局教育部 学校教育課 特命参事兼指導主事の吉岡幸広氏は教員研修について、「研修員の教員研修は、教育委員会主導で行うのではなく、教師主体の運営で、小規模グループで実施しているのが特徴です」と語る。教育委員会が研修日時をセットアップしたり、研修テーマを決めるのではなく、それぞれのグループで開催日時や研修内容を決めて行い、教育委員会は講師派遣や資金面、出張許可などのバックアップを提供するという。

 

とはいえ、この研修スタイルになるまでにはさまざまな試行錯誤があったと吉岡氏は打ち明ける。というのも、研修員制度が始まった最初の1〜2年は、ICT活用に積極的な教師が研修員になったこともあり、全体で研修を行うことができた。ところが3年目以降はiPadの導入台数も増え、ICT活用に積極的でない教師やICTに不得手な教師も巻き込んで進めていく必要性が出てきた。そのため、教員研修のやり方を見直し、部会を設けて、少人数で行うスタイルに変更したというのだ。

※緑線はiPad導入台数、青線は研修員の人数。ターニングポイントは、研修員が70名を超えたH26年度。この頃から研修員全体で研修するのが難しくなり、部会を設けた。H27年度は、その部会をさらに目的別に細かく分けた。※地区別部会はiPadを初めて使う教師らが地区別に集まる部会のこと。

自身も小学校教師時代に研修員の経験を持つ吉岡氏は「自分の経験上、ICTの取り組みを実践するためには、話を聞いているだけではだめで、少人数でいろいろ話をしたり、失敗できるような環境が大切だと考えています。しかし大勢の研修会になると、どうしても“観客”が出てしまうので、小規模の研修会が必要だと考えました」と語る。ちなみに、研修員は最大3年しか継続できない。これも同じ人が研修会を仕切るのを避け、常に新しい教師が部会を活性化できるよう配慮されている。実際に、新しい研修員の柔軟な発想や、構えない自然な使い方に、新たな気づきをもらう教師もいるという。

※「研修員」に選ばれた教師らによる研修風景。淡路市ではiPadを初めて活用する教師への研修を手厚くしている。「アクセスポイントの使い方」「カメラの使い方」など、“これだけ知っていれば明日から使える”といった内容を、わかりやすく説明しているという。

このような形で行われている淡路市の教員研修だが、実に年50回以上も開催されている。吉岡氏は「現実的に考えて、市教委主導の形をとっていたら、これだけの回数の研修を行うことは難しかったと思います。教師主導で、授業改善というゴールに向かって研修を進められたことが、日々の活用につながりました。これからも教師同士が化学反応を起こせるような関係づくりに努めていきたいです」と吉岡氏は語った。

今でこそタブレット導入は珍しくないが、2012年に同市が事業を実施したときは全国的にも先進的な取り組みだった。そうしたなかで、“前例に倣え”ではなく、「研修員制度」という独自の導入スタイルに挑んだ意味は大きい。

 

後編では、実際のタブレット活用事例や成果、課題について深く掘り下げる。

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