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LTEタブレットとフルクラウド環境が支える、つながりのある探求学習(後編)

2018年03月19日 記事

グローバル人材育成を掲げる大阪教育大学附属池田中学校では、ICTを活用した教育活動をさらに深めようとLTEタブレットとフルクラウド環境を導入し、2017年から2年間の受託研究に取り組んでいる。英語の反転授業やグループによる探求学習にICTを活用し、生徒の実践的な英語力を高めるとともに、質の高い学習をめざす。後編の本稿では、同校の中学2年生が実証研究のなかで取り組んだ長期プロジェクトの探求学習を紹介する。

交渉力とコミュニケーション能力の育成をめざす探求学習

大阪教育大学附属池田中学校(大阪府池田市・以下、附属池田中学校)は2017年より、YOGA BOOKを用いた「LTEタブレットとフルクラウド環境下における効果的なICT活用方法」の実証研究を受託した。対象となったのは中学2年生。同校は国際バカロレアのMYP候補校であり、MYPコーディネーターで外国語科を担当する石川剛教諭のもと、交渉力とコミュニケーション能力の育成をめざした、全14時間の探求学習が実施された。

 

テーマは「Study Abroad Fair(留学フェア)」。生徒たちはグループで協力して海外の国や地域を調べ、多くの生徒を呼び込めるようPRを行う。この取り組みについて石川教諭は「事前に生徒にアンケートを実施したところ、48.7%の生徒が海外留学を考えていることがわかりました。そのため、この学習では海外への理解を深めるとともに、他者との対話を通してコミュニケーション能力が育成できるよう考えました」と語る。

 

全14時間の探求学習は、「良いプレゼンテーションとはなにか(5時間)」「プレゼンテーションの準備(4時間)」「留学フェア(3時間)」「自分の行きたい国に関するスピーチ(2時間)」という流れで進められた。また石川教諭があげた単元の目標は下記の通りである。

○積極的にペアワークやグループワークに参加する

○聞き手が理解しやすいように工夫して自分の意見や事実を表現する

○話のメインアイデアを適切に理解する

○不定詞を用いた文の構造を理解する

 

生徒たちは、この探求学習のすべてにおいてタブレットとクラウド環境を活用した。情報収集や情報共有、プレゼンテーションの作成など、学校の授業だけでなく、自宅でも作業を行うことで、新しいコミュニケーションに挑戦した。

大阪教育大学 副学長 附属図書館長 教育学部 英語教育講座 教授の吉田晴世氏(奥)と大阪教育大学附属池田中学校 MYPコーディネーター 外国語科教諭 石川剛氏(手前)

リアルタイムでプレゼンスライドを共有できる環境で、伝える力を磨く

取材をしたStudy Abroad Fairの授業では、本日の先生役を務める生徒の掛け声から始まった。生徒たちは英語で挨拶をしたり、英語の歌を歌ったりしながら、和やかな雰囲気をつくった。

 

続いて帯学習として行われている「Skill-Up Marathon(スキルアップ・マラソン)」に取り組んだ。この時間は、リスニングの音声を聞き、キーワードを抜き出して、それについて話し合ったり、簡単な問題を問いたりした。生徒たちはすでに反転授業として家庭で同じリスニングの音声を予習しているため、授業で1度聞くだけでも内容を理解できているようだ。石川教諭は「自宅で何度もリスニングをしているせいか、授業中もためらうことなく、自信を持って発言できている」と手応えを語る。

 

その後、ペアになってプレゼンテーションで役立つフレーズを練習した。例文はクラウド上のエクセルファイルで共有されており、生徒たちは各自のタブレットから、そのファイルにアクセスして練習を行う。プレゼンが苦手な生徒にとっては、学校だけでなく、いつでも自宅からアクセスして練習できるのがメリットだ。

プレゼンテーションで使えるフレーズをクラウド上で共有。授業中にそれを見ながら、プレゼンの練習を行う。

情報リテラシーの育成が課題

全14時間にわたって実施された探求学習を終えたとともに、2年間の実証研究の中間地点を迎えた石川教諭。ここまでの取り組みを振り返って、生徒のどのような点を成長したと感じているだろうか。

 

ICTがあるのとないのとでは、グループワークのコミュニケーションに大きな違いがあることがわかりました。必要に応じて情報収集をしたり、それに対してリアルタイムで意見を交換したり、また、ときにはグループで一斉に同じことを調べたりなど、新しいスタイルのコミュニケーションが生まれているなと感じました」(石川教諭)

 

もちろん、生徒の全員が最初からタブレットの操作に慣れていたわけではないが、生徒同士の教え合いも生まれ、グループ内ではそれぞれの得意なことを活かして役割分担を行うような姿も見られたという。

 

今回の実証研究を通して教師側が得られたメリットとしては「時事ネタなどネット上にある英語の生教材が扱えることです」と石川教諭は述べた。オリンピックのオフィシャルサイトにアクセスしたり、英語のニュースを見たりするなど、生徒が社会とつながっていることを実感しやすい環境を提供できた。ほかにも、eポートフォリオ(OneDriveを使用)については、生徒の学習履歴が蓄積されることで、振り返りがしやすい点をメリットに挙げた。クラス全員の多様な意見に触れやすく、主体的な学習には必ず必要な環境だと同教諭は話す。

 

一方で課題点はなにか。石川教諭は「タブレットの操作など生徒の教え合いが生まれたものの、やはりOffice365の使い方に慣れるまでは時間がかかりました」と述べた。これまで学校として、コンピュータを活用した学習が少なかったため、プレゼンテーションのスライド作成では時間を要したという。作業が遅れた生徒や操作がわからない生徒に対しては、放課後に個別対応するなど、フォローする必要があったというのだ。

 

また、Study Abroad Fairの探求学習においては、インターネットで情報収集を行うときに、情報の精査が課題になった。

 

「生徒たちの調べた内容が本当に正しいのかどうか、出典は信憑性の高いサイトなのかどうか。もちろん取り組んでいるときは注意して見ていましたが、生徒が扱う情報のすべてを確認する時間がとれず、その点は課題であったと考えています」(石川教諭)

 

次年度については、オーストラリアの中学校とSkypeを通してつながり、英語の交流学習を実施したいと石川教諭は抱負を語る。一方、実証研究としては「同じ2年生を対象とすることで、学年の経年変化も見ていきたい」という。吉田教授は「今回見学いただいた授業では、実証研究におけるフルクラウド環境活用の一部をご覧いただきました。単元の目標を達成するためには臨機応変に最適な手段を選択していくことが重要であり、その意味では先端を行く多くの選択肢がこの実証研究にはあります。次年度はさらに学びの選択肢を広げるICT活用をしていきたい」と抱負を話す。

 

新しいコミュニケーションから生まれる学習が新しい生徒にも実りをもたらすことができるか。附属池田中学校の取り組みは続く。

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