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School Innovation セミナー in 関西 レポート [後編]

2018年02月16日 記事

11月28日、School Innovation in関西が、大阪府北区梅田ブリーゼプラザで開催された。多くの教員、教育関係者が参加し、平成30年度から実施される新学習指導要領で、ICT教育をどのように展開していけばいいのか、そのノウハウについて活発な議論がなされた。その模様を前後編2回に分けてレポートする。後編ではパネルディスカッションの注目ポイントを中心にお届けする。

適切な環境さえ与えられれば自発的に

School Innovation in関西(主催:一般社団法人 日本教育情報化振興会主催)のテーマは「新学習指導要領を見据えたICT活用」。基調講演(前編参照)では新学習指導要領の改訂のポイント、そして「これまでの教育ICT」について説明がなされた。これを受けて、パネルディスカッション「新学習指導要領を見据えたICT活用」では、「これからの教育ICT」について、事例紹介と議論が行われた。コーディネーターを務めたのは大阪教育大学学院 連合教職実践研究科の寺嶋浩介准教授。パネリストには、清教学園中・高等学校の田邊則彦特任教諭、京都府亀岡市立東別院小学校の広瀬一弥教諭のお二人が登壇した。

 

冒頭に、広瀬氏と田邊氏それぞれから実践事例の紹介があった。

 

東別院小学校は全校27人の小さな学校。広瀬氏は「理科という教科で活用される能力は情報活用能力との関連が非常に多いと話す。理科の教科のなかで情報活用能力をしっかりと身につけさせて、その情報活用能力を他の教科でも活かしていくことができる」と考えているそうだ。

 

例えば4年生の国語「ひとつの花」(物語教材)では、通常の読解授業のあと、「物語の登場人物の1人にインタビューをする」という課題を与えた。最後にタブレットで動画撮影をして、架空のインタビュー番組を作るのが目標だ。児童たちは読解時にも最終目標のインタビュー番組を念頭に置いて読むので、それだけでも読み方が深くなる。3人の班はカメラマン、登場人物役、インタビュアー役と役割分担をするが、インタビューの内容(台本)は3人で相談をして考えなければならない。そしてリハーサル撮影をして、最終的にタブレットで撮影したインタビュー番組をつくる。その番組のなかでは、「お父さんのことは覚えていますか?」「覚えていません。でも、コスモスの花をくれたことをかすかに覚えています」というやりとりがされる。ここで広瀬氏は活動に「ルール」を与えていた。台本の内容は必ず本文の記述を元にすること。多少の想像を加えることはいいが、必ず本文の記述にある内容を元にして考えなければいけないとする「ルール」だ。

 

また、毎時間に行うルーブリック評価として、評価の基準を明確にすることも重要だという。問いに対して「覚えていません」という一文の回答よりも、「覚えていません。でも、コスモスの花を…」という二文のほうが評価は高くなる。

 

「目標、評価基準を明確にすれば、あとは子どもたちに任せても理解が深まる授業が進んでいきます。逆にいえば、適切な目標、適切な評価基準を使って、児童の行動に筋道をつけていくことができます」(広瀬氏)

 

このようなプロジェクト型学習では、確かに子どもたちは楽しんで授業に取り組むものの、ややもすれば動画撮影という作業そのものを楽しんでしまい、学習のねらいから外れていってしまうこともある。広瀬氏は「適切な目標、適切な評価基準を与え続けることで、児童の行動に筋道をつける」ことが、授業のねらいに到達させる重要な鍵になると話す。

 

6年生の社会科では、Minecraft(マインクラフト)を使った授業が行われている。Minecraftとは、用意された仮想空間のなかにブロックを配置して、自由な発想の建造物をつくっていくゲーム。いわゆる積み木遊びだが、自由な発想で作品づくりが行えることから、教育現場での利用が世界的に増えている。特に重要なのが、子どもたちが共同作業でつくれるという点だ。授業では、歴史的な建造物である古墳をMinecraftで再現するという活動が行われた。もちろん、古墳の形がどのようなものであるかを調べて、可能な限り正確に再現する。また、古墳には内部構造があり、なかには埋葬品が収められている。このようなものも、図書やインターネットの資料を調べて再現する。制作するときも、班で、土台づくり、古墳づくり、埋葬品づくりなど、分担を決めて、共同作業を進めていく。

 

この授業は子どもたちを夢中にさせたようだ。

 

「子どもたちから、スキンという機能を使うと人に好きな服を着せることができるので、当時の服装を調べて再現してもいいか?という提案がありました」(広瀬氏)

 

仮想空間のなかで、古墳時代の服装をしたキャラクターが動き回り、古墳をつくることになった。

 

「私が想定した授業の枠組みを超えた学習が行われることになりました。これは私も初めての体験です。子どもたちは小学生といっても、適切な環境さえ与えられれば自発的に行動していけるのだなと感じました」(広瀬氏)

※京都府亀岡市立東別院小学校 広瀬一弥教諭。小規模校であることを活かして、児童との距離感が近い教育ICTを実践している。4年生国語の授業では、教材となっている物語の登場人物にインタビューする番組づくりを題材に適切な目標、適切な評価基準を与え続け、主体的に学習を進めさせている。また社会の授業ではMinecraftを使って、仮想空間のなかに古墳を再現。児童たちは授業目標にない「当時の服装の再現」まで自主的にやり始めた。想定していないところまで自主的に学習を進められる姿に感心したと話す。

大規模校ゆえの環境整備

学校法人清教学園 清教学園中・高等学校は1学年10クラスもある大規模校。1クラスは38から44人で、細やかな個別学習を実践するはなかなか難しい面がある。そこで利用しているのが、「eポートフォリオ」だ。eポートフォリオとは、生徒の日々の学習や活動のすべてをデジタル情報として記録する仕組み。提出したレポート、部活動や課外活動の記録なども保存され、生徒と教師のコメントのやりとりなども保存される。これを生徒だけでなく、教員、保護者も共有することで、教員は生徒に対して適切なアドバイスを与えられるだけでなく、生徒本人も振り返ることで、新たな「気づき」を得て、自発的に理解を深めていくことができる。

 

「これだけの説明だと、なかなかイメージしづらいかもしれません。どのようにeポートフォリオを活用しているか、ぜひ清教学園の方に見学にいらっしゃってください」(田邊氏)

 

このeポートフォリオを活用にするには、教師、生徒の活動のほとんどが電子化されている必要がある。当然、生徒1人に1台の環境である必要がある。清教学園では、今年度から高校1年生にBYODで個人端末を持たせている。また、Chromebookを200台用意し、校内の無線LAN環境に接続し授業で活用している。

 

「eポートフォリオに蓄積されるのは、学習成果物だけではなく、学びのプロセスすべてが保存されます。生徒が大学受験をするとき、あるいは就職の面接をするときに、自分のeポートフォリオをまとめて、自分はこういう学びを経験してきましたというエビデンスを提出できる。そこまでいくのが理想です」(田邊氏)

※テクノロジーを教育に利用する場合の指針であるRuben Puentedura博士が提唱した「SAMR」モデルを説明する清教学園中・高等学校の田邊則彦特任教諭。同校は日本教育工学協会(JAET)の学校情報化認定を取得しており、発表ではeポートフォリオが詳しく説明された。生徒の提出物、課外活動の記録、教員とのやりとりなど、学校での活動のすべてが保存され、いつでも振り返ることができる。eポートフォリオを実現するには、生徒1人に1台のICT機器がある環境が必要。清教学園ではiMac、MacBook、iPad、Chromebookを用意すると同時に、高校1年生はBYODで個人端末を活用している。

強化から変換へ、進む情報化

事例紹介のあと、コーディネーターとパネリストによるパネルディスカションが行われた。内容は情報教育の進め方で、現段階の小、中、高の情報教育は、中学で断絶があり、中学の情報教育をどう組み立てるかが重要だという点に焦点が当たった。

 

田邊氏:小学校、中学校の現場の教師の方から、プログラミング教育をどう進めたらいいか相談されることがあります。その話を聞いて「これは困った状況になっているな」と感じています。1つは現場の実情です。新しい学習指導要領では英語教育、道徳教育、プログラミング教育という3つの柱があります。ところが、先生方のエネルギーが英語と道徳に取られてしまって、プログラミング教育はやりたいのだけれどそちらまで回せない実情があるというのです。もう1つは学習環境の充実です。プログラミング教育を行うICT環境が不足をしているために、「『プログラミング的思考を学ぶ』ということで我慢してね」といっているように、私には聞こえてしまうのです。

 

広瀬:そうですね。私たちは算数の比例の学習で、プログラミング言語のスクラッチを活用しています。比例(一次関数)のグラフが直線になるということを直感的に理解してもらうために、いくつかの点を計算してグラフ上にプロットしてもらいます。でも、手計算ではどうしても打てる点の数に限界がある。スクラッチで点を打つプログラムを書くと、点を打つ間隔を簡単に変えることができます。間隔を小さくしていくと、点が集まって線のように見えてくる。これで、比例のグラフは点の集まりが直線になっているのだということを直感的に理解できるわけです。児童からは「円も多角形の一種ですね」と発言がありました。正多角形の角の数をどんどん増やしていけば円に近づいていく。そういう微分と積分のようなことまで自分で気がついてくれるのです。またこれは授業外の活動ですが、人感センサーを利用して、人が教室に入ってきたら教えてくれるセンサーのプログラムを楽しみながらつくったりしています。

 

寺嶋プログラミング教育には、教科のなかで楽しみながら学ぶという方法と、教科外で遊びながら学ぶという方法がありますね。

 

広瀬:はい。小学生には、各教科のなかでプログラミング教育をするというのは少し無理が出てくるように感じています。やはり、遊びのなかから学ぶという方が自然だなと。

 

寺嶋:スタート時は、教科の枠組みとか、プログラミング的思考ということがあるのでしょうけど、その後に、自然に楽しめるステージを見出せないと、楽しさや学びにつながっていかなくなるかもしれないですね。

 

広瀬:プログラミングの本質からは外れてしまうかもしれませんが、自由に楽しませていくなかから見出せる発見のようなものが、小学生という発達段階を考えると必要ではないかなと思います。

 

寺嶋氏は、「お二人の取り組みは、新学習指導要領を見据えてというよりも、それ以前から信念に基づいた教育を少しずつ積み上げてきて、それが新学習指導要領でよりやりやすい環境に近づいているのだと感じている」と話す。同時に、今度は学習指導要領で規定されるため「やらなければならない」というプレッシャーが教員にはかかることにもなる。パネルディスカッションでは、そういう教員の本音も聞くことができ、多くの聴衆が時間に制限があることを惜しみながら、School Innovation in 関西は幕を閉じた。

 

※パネルディスカッションでは、プログラミング教育について本音の議論が交わされた。映像は、東別院小学校で行われたスクラッチを使った算数の授業。一次関数が直線になることを、プログラムを使って理解するというもの。

School Innovationは、今後も全国各地での開催が予定されている。詳しい情報、開催予定などについては、日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)のホームページを参照していただきたい。

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