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School Innovation セミナー in 関西 レポート [前編]

2018年02月08日 記事

1128日、School Innovation in関西が、大阪府北区梅田ブリーゼプラザで開催された。多くの教員、教育関係者が参加し、平成30年度から実施される新学習指導要領で、ICT教育をどのように行っていけばいいのか、そのノウハウについて活発な議論がなされた。その模様を前後編2回に分けてレポートする。今回の前編では基調講演をお届けする。

教育の情報化の動向

「School Innovation in関西」(主催:一般社団法人 日本教育情報化振興会主催)のテーマは「新学習指導要領を見据えたICT活用」。2017年3月、新しい学習指導要領が公示された。この新学習指導要領は、幼稚園では平成30年度、小学校で平成32年度、中学校で平成33年度、高等学校(平成30年に公示予定)で平成34年度と順次実施されていく。もっとも大きな改訂ポイントの1つが「教育の情報化」だ。冒頭に、文部科学省 生涯学習政策局 情報教育課 情報教育振興室の稲葉敦室長補佐による基調講演「教育の情報化の動向」が行われた。稲葉氏も、新学習指導要領の最大のポイントの1つは「教育の情報化」だと考えている。

 

「よくいわれていることですが、人工知能が進化することで現在の子どもたちが成人する頃には、今ある職業の半分ほどがなくなるとも予測されています。現在学校で教えていることは通用しなくなるのではないかという危機感が、学習指導要領改訂の背景にあります」(稲葉氏)

 

そのため、新学習指導要領は現行と比べ構造そのものが大きく違ったものになった。現行の学習指導要領は「なにを学ぶのか」を規定したものだった。しかし、新学習指導要領は「(子どもたちに)なにができるようになってほしいのか」を明確にし、そこから「なにを学ぶのか」、さらに「どのように学ぶのか」まで踏み込んで規定している。

具体的には大きな2つの改訂の柱がある。1つは「カリキュラム・マネジメント」、もう1つは「アクティブ・ラーニング」だ。

 

カリキュラム・マネジメントとは、従来の教科別、単元別の固定化した授業計画ではなく、学習目標を達成するため教科を縦断し、弾力的に授業計画を立てていくというもの。それには人的資源、物的資源を積極的に活用し、学校内だけにとどまらず地域などの外部資源も活用する。当然、ICT機器を活用することが重要となる。また、教育の質を高めていくため、データに基づいたPDCAサイクル(Plan, Do, Check, Action)を構築することも求められている。ここでもICT機器を必然的に活用することになる。

 

もう1つのアクティブ・ラーニングは、すでに浸透した言葉になっているが、「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」の3つに集約される。そして、新学習指導要領下におけるICT機器の役割を考える、

1)アクティブ・ラーニングをする生徒が使う学習用具として

2)外部の人的資源、物的資源を授業に活用するためのコミュニケーション機器として

3)授業計画を評価検証、改善していくための校務機器として

の3つが考えられる。

 

多くの教師が直面している情報教育の中でも、不安が大きいのがプログラミング教育だ。新学習指導要領では、プログラミング教育が小学校では必修化、中学校では技術・家庭科で充実、高校では情報科で必修化される。ただし、プログラミング技法そのものを教えるわけではない。特に小学校学習指導要領の解説には「プログラミング言語を覚えたり、プログラミングの技能を習得したりといったことではなく、論理的思考力を育むとともに、プログラムの働きやよさ、情報社会がコンピュータをはじめとする情報技術によって支えられていることなどに気付き」と解説されている。

※文部科学省 生涯学習政策局 情報教育課 情報教育振興室・稲葉敦室長補佐。講演の中で新学習指導要領の改訂のポイントは「教育の情報化」にあると指摘した。新学習指導要領は、「何を学ぶか」だけを規定するのではなく、「何ができるようになるか」(達成目標)、「どのように学ぶのか」(方法)という従来教員に任されていた領域まで踏み込んだものとなっている。

「小学生が、コンピュータを使って問題解決をするというところまではなかなか到達できないかもしれません。しかし、問題解決にはコンピュータなどの機器が利用できるということを理解してもらい、将来社会に出て、問題に直面したときにICT機器を利用して解決する意欲を持ってもらいたい。それがねらいです」(稲葉氏)

 

今後、文部科学省ではこのような考え方をまとめた「小学校プログラミング教育指針(仮称)」を教師向けに示す予定だ。また、文部科学省、経済産業省、総務省やIT企業などと連携して「未来の学びコンソーシアム」を設立し、教材の開発、普及、さらには人的支援なども行っていく予定だ。

新学習指導要領を見据えたICT活用

2つ目の基調講演では、コーディネータを務めた大阪教育大学学院 連合教職実践研究科の寺嶋浩介准教授による「新学習指導要領を見据えたICT活用」が行われた。寺嶋氏は、「教育のICT活用を進めたいが、事例などの参考になる資料が少ない」という声があることに対し、事例はすでに豊富にあるという点を指摘した。文部科学省の「教育の情報化の推進」のWebページでは、さまざまな事例が紹介され、報告書のようなきちんとした形式にまとめられたものや、臨場感のあるビデオなど、豊富な資料が揃っていると話す。

 

「教育ICTの教員研修をするときは、まずこのような資料を共有するところから始めてみるのもいいのではないかと思います」(寺嶋氏)

 

ICT活用そのものは、2000年頃から始まっているが、ICT活用の第1段階は「置き換え」である。例えば、教師が電子黒板を使って一斉授業を行い、児童生徒は自分のタブレットの電子教科書のドリルで演習を行うという事例が豊富にある。これはICT機器を使っているとはいうものの、授業のスタイルは従来のものと変わらない。

 

「児童生徒は、ICT機器を使って回答を電子黒板に転送してクラスの前で発表するなど、そういうことがやりやすくなり、決められた授業時間の中で量的に増やすことが可能になっている。これがICT活用の第1段階の効果だと思います」(寺嶋氏)

 

しかし、2010年頃から教育ICTの考え方が変わってきた。

 

「児童生徒の学びに注目をして、それぞれがどのような形で理解をしているのかということに着目したICT活用が始まってきたのです」(寺嶋氏)

 

その最たる例が、一斉学習から個別学習への変化だ。あるいはグループ学習、協働学習などだ。限られた時間のなかでの一斉学習だけでは、すべてを子どもたちが学習内容を理解することは難しい。自分たちのなかで、自分たちで考え、自分たちなりに理解を進めていくという学習活動が必要になってくる。

※大阪教育大学学院 寺嶋浩介准教授。基調講演では「これまでの教育ICT」を概観し、コーディネータを務めた後半のパネルディスカッションでは「これからのICT教育」について議論をした。第1段階の教育ICTでは、電子黒板、タブレットによる電子教科書というICT機器は活用するものの、黒板と教科書の置き換えで、授業のスタイルは従来の一斉授業と変わらない。効率をよくして、生徒が発表する時間を増やす試み。

では、今後、新学習指導要領に沿って教育ICTはどのように変化をしていくのだろうか。寺嶋氏は「従来の学習指導要領は、なにを学ぶかを規定して、それをどのように教えるのかは教師に任せていました。それが新学習指導要領では、子どもがどのように学ぶかに着目し、教師が指導するにあたって気をつけるべきことがより強調されるようになったのが大きな違いです」と話す。

 

アクティブ・ブラーニングが注目をされているが、現場の教師の間では「一斉授業がどうしても必要な部分がある」「教師、児童生徒の意識改革が難しい」という声もよく聞かれるという。そこで、段階的に導入していく方法を考えてもいいのではないかと寺嶋氏は勧める。第1段階では、「児童生徒が主体的に学ぶので、楽しく学べる」というアクティブ・ラーニングの基本的な効果を狙ってスタートする。アクティブ・ラーニングの目標は、教科を超えた課題解決能力を身につけることだが、いきなりその目標を達成するのは難しいのだから、その目標達成までのステップをどう刻んでいくかがカギになる。

※第2段階の教育ICTでは、一斉学習と個別学習の充実に変化が起きる。児童生徒はタブレットで自分の進度で学習をする。教員は児童生徒全員にではなく、個別に学習を支援していくようになる。学習スタイルは、さらに協働学習に進む。そこでは、すべてICT機器で行われるのではなく、ホワイトボードや付箋のようなアナログツールも利用される。ICT機器にこだわるのではなく、学習目標を達成するのに最も適したツールが採用されていくようになる。

2つの基調講演は、新学習指導要領を挟んで、「これまでのICT」を概観した内容だった。そして、この後で行われたパネルディスカッションでは「これからのICT教育」について議論された。その模様は、後編でレポートする。

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