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School Innovation セミナー in 山陰 レポート [後編]

2018年01月30日 記事

11月7日、「School Innovation in山陰」が島根県松江市くにびきメッセ(島根県立産業交流会館)で開催された。多くの教育関係者が参加し、ICT機器の整備、利活用ノウハウについて活発な議論がなされた。その模様を前後編2回に分けてご紹介する。後編の今回は、自治体担当者によるパネルディスカッションの模様をお届けする。

タブレット端末の導入にパターンはあるのか

School Innovation in山陰(主催:一般社団法人 日本教育情報化振興会主催)のテーマは「失敗を恐れないための段階的整備とポイント」。基調講演、島根県内事例紹介(前編参照)ののち、パネルディスカッション「失敗を恐れないための段階的整備とポイント」が行われた。コーディネーターは放送大学・中川一史教授。パネリストは島根県教育庁・柿本章学力育成スタッフ上席調整監、島根県美郷町教育委員会・田邊哲也教育長、島根県益田市教育委員会・中尾瑞紀派遣指導主事の3名。教育庁、教育委員会という行政の立場からの議論が交わされた。

冒頭、コーディネーターを務めた中川教授よりタブレット端末の導入におけるパターンが示された。「タイプ」「台数」「誰が(購入者)」によって6パターンがある。しかし、この6パターンは単に台数が増えていく連続したものではなく、4つのカテゴリーに分けられるという。

 

第1のカテゴリーは「教師用」「教師に1台」だ。これは、実物投影機やプロジェクターという教師がコントロールして使うものの延長なので、タブレットを違和感なく導入できる。タブレットをカメラや実物投影機、プロジェクター投影などに使うパターンだ。第2のカテゴリーは「グループに1台分」。現在、もっとも多いケースだ。第3のカテゴリーは「1人1台」で、ある意味、理想的な環境。しかし、さらにその先がある。

 

第4のカテゴリーは、同じく「1人1台」だが、学校や自治体が用意するのではなく保護者が購入をする。機種の指定こそあるが、BYOD(Bring Your Own Device=自己所有のデバイスを持ち込む)になっている。米国などでは、教育の現場でもBYODが主流になっていて、さらには機種もバラバラ、それどころか家にあるパソコン、タブレットなど、それぞれが好きなものを教室に持ち込んでくるそうだ。中川教授は、「日本もいずれそのようなBYOD環境になるということまで見据えて、タブレット導入の段階を踏んでいくことが重要だ」とした。

※放送大学・中川一史教授は、段階的整備には6つのパターンがあるが、質的に4つのカテゴリーにまとめられる。これを意識して、段階的整備を進めていく必要があるとした。また、最終的にはそれぞれが異なる機器を使うBYOD環境になっていくだろうとも示唆した。

島根県下の段階的整備、その実証研究事例

柿本上席調整監からは島根県のICT教育への取り組みが紹介された。島根県では平成26年度に「第2期しまね教育ビジョン21」を掲げ、5年間でさまざまな取り組みを実行していく。基本理念は「島根を愛し、世界を志す、心豊かな人づくり」で、「学力」「社会力」「人間力」の3つを育てようとするものだ。学力とは従来の知識、技能だけのことではなく、知的好奇心、学習意欲、学習計画力などの「学ぶ力」が重要視される。学ぶ力により、さらなる知識・技能を身につけ、それがさらに学習意欲を向上させるという循環が生まれることを目指している。生涯にわたって学び続ける力、姿勢を身につけさせるのが目標だ。

 

ただし、ICT機器の整備については課題を抱えている。文部科学省の推奨では、1学級あたりに電子黒板が1台、教育用コンピューターが生徒3.6人に1台となっているが、島根県の場合、それぞれ0.13台、1台あたり4.6人にとどまっている。また、授業スタイルもまだまだ一斉授業式、講義式が多く、教科書の内容を網羅することにほとんどの時間が取られるインプット中心から変わることがなかなかできていない。

 

島根県としては、この授業スタイルを変えるためにもICTの活用が鍵になると考え、「ICTを活用した新たな学び推進モデル事業」を進めている。平成26年度は、松江北高校、飯南高校、益田翔陽高校、平成27年度に浜田高校に、タブレット端末などのICT機器を配備するというものだ。すでに「授業の効率化」「学習効果の向上」「授業の質の向上」などの成果が確認されている。

※島根県教育庁・柿本章学力育成スタッフ上席調整監は、島根県のICT教育の取り組み「第2期しまね教育ビジョン21」を紹介。ICT機器を導入することで、旧来型の一斉授業方式を変革する起爆剤に利用する狙いを持っている。

美郷町教育委員会・田邊哲也教育長からは、美郷町の小中学校でのICTへの取り組みが紹介された。美郷町は小学校が2校、16学級、児童数260名。中学校2校9学級、生徒数109名。タブレットの導入が始まって3年目になる。すでに海外を含む遠隔地とつないで、語学などの交流学習が行われている。また、体育などでも動画撮影が活用されている。さらに、タブレットで調べ、ノートにまとめるなどのICT機器と非ICT機器のコラボも行われている。

 

このような成果を受け、平成27年度からは小学校4年以上で1人1台のタブレットを整備。さらに平成29年度から小学校3年生、平成30年度に小学校2年生、平成31年度に小学校1年生に1人1台のタブレットを整備していく。平成27、28年度を導入期、平成29、30年度を定着期、平成31、32年度を改善期と位置づけている。美郷町では、ICT教育とともにふるさと教育を、教育の二本柱としており、魅力ある教育を核に、「美郷で学ばせたい」「美郷で働きたい」と考える人を増やし、美郷町の課題である人口減少の解決に挑戦をしていくと田邊教育長は話す。

※島根県美郷町教育委員会・田邊哲也教育長は、美郷町のICT教育の取り組みを紹介。魅力のある教育を実践することで、人材育成だけでなく、子どものいる家庭の移住、仕事が生まれることによる移住を促し、美郷町の大きな課題である人口減少にも歯止めをかけたいという。

益田市教育委員会・中尾瑞紀派遣指導主事からは、益田市のICTへの取り組みが紹介された。益田市では東京学芸大学、東芝との三者でICT導入の実証研究を進めている。益田市が「実践記録、事例の蓄積」、東京学芸大学が「研究フレーム提供、研究サポート」、東芝が「機器提供、技術サポート」を担当し、匹見小学校(生徒数22名)、匹見中学校(生徒数16名)の山間部の学校に1人1台のタブレット、安田小学校(児童数243名)の市街部の学校に児童用36台、教師用8台を整備し、新たな授業スタイルの開発とその効果研究を行っている。

 

現場教師の間では、当初戸惑いや不安も大きかった。しかし、それは杞憂であることがすぐに判明した。児童生徒に自由に使わせてみたところ、どんどん面白い使い方を“開発”していくのだ。それを観察し、事例として蓄積していくことが教員の役割になった。子どもたちが真っ先に使ったのは、やはりカメラだ。簡単に撮影でき、枚数制限も考える必要がない。観察をするとき、見学に行く時にはタブレットが自然と活用される。さらに、撮影した写真を教師や同級生の間で見せあい共有するということも自然に始まった。過去の学習の時に撮影した写真を見て、「学習の振り返り」も自然に行われるようになった。

 

いろいろ意見はあったが、黒板の板書を記録として撮影することも始まった。さらに、図書室で探した資料をコピー代わりに写真に撮るということも行われる。

 

教師たちが気づいたのは、児童たちがよく動くようになったことだ。撮りたいものに近づく、よく見える場所に移動する。児童たちが自分でもっとも撮影しやすい位置に積極的に動いて行く。また、もう1つ大きな変化は対話が増えたことだ。タブレットに写真を撮影し、それを見せ合うことで自然と相談や議論が生まれる。児童生徒同士が1枚のタブレットに集まって話し合うと言うシーンが圧倒的に増えた。さらに、先生との対話も増えた。タブレットで撮影をした写真を教師に見せて、質問をするということが増えた。

 

益田市の取り組みはICT機器導入のまだ初期段階にすぎず、タブレットも大型カメラとして使うという初歩的な使い方が主体になっている。しかし、大きな成果が見込める道筋が見え始めている。参加した教員、教育関係者の多くが「段階的整備」の本質的な意味を理解したと感じた。「教師に1台」→「クラスに1台」→「グループに1台」→「児童生徒に1台」と台数を増やしていくことも段階的整備の1つの側面だが、それ以上に重要なのが授業デザインであるということだ。前編の事例紹介、後編の行政からの状況報告でもわかるように、1人1台のフル装備でなくても効果的なICT教育は十分に展開できている。それどころか2人1台のほうがかえって対話型学習が進むという、整備不足を逆手に取るような授業デザインまで見られた。

※島根県益田市教育委員会・中尾瑞紀派遣指導主事は、益田市のICT教育の取り組みを紹介。東京学芸大学、東芝の協力を仰いで、ICT機器の効果を研究するところから着手をしている。児童生徒の自由な使い方の中から、ICT機器のさまざまな長所が見え始めている。

もちろん、1人1台のフル装備であったほうが授業デザインの自由度が上がるのだから、そこが理想ではあるものの、段階的整備の道半ばであっても十分に効果的なICT教育が実践できることが明らかにされた。

本質的な「段階的整備」とは、少数のICT機器が導入された段階で、それに見合った授業デザインを考案し、次により学習効果を高めるのに必要な追加機器の整備を考えて行くという、授業デザインと機器整備がらせん状に回りながら、フル整備を目指して行くことだ。その先は、米国のようなBYOD環境が見えてくる。

 

多くの教員、教育関係者が、今後、より深く研究しなければならないのは、ICT機器そのものではなく、それを活用するための授業デザインであることを再確認して、School Innovation in 山陰は、幕を閉じた。School Innovationは、今後も全国各地での開催が予定されている。詳しい情報、開催予定などについては、主催である一般社団法人 日本教育情報化振興会を参照していただきたい。

※中川氏は全体の振り返りとして各発表内容からキーワードを指し示した。どれも「失敗を恐れないための段階的整備とポイント」としては欠かせないものばかりで、教育の情報化を促進するためには「ひと・こと・もの」の3本の矢が同時に、かつ実態に合わせてステップを踏むことが肝要であることを改めて強調した。

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