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School Innovation セミナー in 山陰 レポート [前編]

2018年01月24日 記事

11月7日、「School Innovation in山陰」が島根県松江市くにびきメッセ(島根県立産業交流会館)で開催された。多くの教育関係者が参加し、ICT機器の整備、利活用ノウハウについて活発な議論がなされた。その模様を前後編2回に分けてご紹介する。前編は基調講演とゲスト教員による事例紹介レポートだ。

総務省の取り組みと段階的整備例

「School Innovation in山陰」(主催:一般社団法人 日本教育情報化振興会主催)のテーマは「失敗を恐れないための段階的整備とポイント」。すでにICT機器を導入すべきか、アクティブ・ラーニングなどの新しい授業スタイルを取り入れるべきか、といった議論の初期段階は終わっている。教育関係者が現在悩んでいるのは、どのような手法で「1人1台」の理想的な整備環境を実現し、各段階で最適な授業デザインをするにはどうしたらいいかという具体論だ。

 

幸いなことに、すでに先進的な学校が「学びの改革」に挑戦をし、軌道に乗せている事例が豊富になってきている。今回のSchool Innovation in 山陰では、そのような先進事例を築いた現役教諭が登壇し、活用実践事例を発表。パネルディスカッションも行われた。概念的な話ではなく、極めて具体的な話であるため、参加した教育関係者にとって得るものが多かったようだ。

冒頭に、総務省情報活用支援室の田村卓也室長による基調講演「総務省における教育ICT政策」が行われた。講演内容は総務省の政策概要を説明するだけでなく、かなり踏み込んだものとなった。総務省は教育ICTについて、主に教育クラウドの普及、Wi-Fiの整備支援、支援人材の確保といった政策をとっている。児童生徒や教員がWebブラウザからデジタコンテンツ教材などを利用できる「教育クラウドプラットフォーム」については、「先導的教育システム実証事業」において、112校、1万3694人が参加し、実証を行った。

 

情報面でも全国の学校を支援している。「教育ICTガイドブック Ver.1では、教育ICT活用の先進事例を豊富に紹介しているほか、ICTの導入手順を準備、計画、調達、運用、検証の5段階に分けて詳しく解説しており、全国の教育委員会等に配布するとともに、総務省のホームページにおいて無料で公開している。

※総務省では平成26年度から平成28年度まで「先導的教育システム実証事業」として、時間や場所、端末やOSを選ばず、最先端のデジタル教材等を利用でき、かつ低コストで導入・運用可能な「教育クラウドプラットフォーム」の実証を行った。その成果等をガイドブック及び参考仕様にまとめ、平成29年6月30日に公表している。平成29年度からは、文部科学省と連携し、学校の教職員が利用する「校務系システム」と、児童生徒等が利用する「授業・学習系システム」間の、安全かつ効果的・効率的な情報連携方法等について実証する「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」を実施している。

また、田村室長はプログラミング教育の普及推進について、「若年層に対するプログラミング教育の普及推進」事業において実証を通じた教材等の開発を行ったこと、そしてそれら教材を実際の授業(教育課程内)において活用する動きも進んでいることを紹介。29年度においても引き続き指導者(メンター)確保のために、課外での実証等を通じて指導者を育成していくという。

ICTと非ICTの組み合わせた授業デザイン

現役教員による事例紹介は、島根県の隠岐の島町立西郷小学校 吉川剛教諭、鳥取県の岩美町立岩美中学校 岩崎有朋教諭、島根県の三刀屋高等学校掛合分校 飯塚洋教諭の3人が行った。小、中、高、それぞれでの事例紹介となった。

 

西郷小学校はICT環境がまだ整っていない。パソコンルームがあり12台のパソコンが用意されているが、クラスは20名前後なので「2人に1台のPC」の環境。これでは理想的な授業活用ができないと、思考を整理するためのアナログツール「まなボード」とiPod Touchを授業に活用をしている。

 

iPod Touchは動画を児童に見せるため、あるいは、教科書の一部や児童のノートの一部を大型テレビに拡大表示するツールとして使っている。大型テレビへのミラーリングには「EZCastPro」を使っている。一方で、児童の思考をまとめるツールとしては「まなボード」を使っている。まなボードは書き込みや貼り込みなどをしていくことで、思考を見える化する優れたアナログツールだ。同様の働きをするタブレットアプリもないわけではないが、試行錯誤は手作業のほうが圧倒的にしやすい、グループで議論しながら作業ができるなど、まなボードが優れている点も多い。半面、発表をする/保存することが難しいという課題がある。まなボードは小さいので発表には向かない。また、保存は写真を撮るしかない。このようなとき、タブレットがあれば、まなボードをタブレットで撮影して大型テレビに拡大表示をしたり、写真として保存したりすることができる。「タブレットはICTツールと非ICTツールの橋渡し役となり、教室のなかの学びのためのツールが連携し合えるようになる」と吉川教諭は話す。

 

また、発表をビデオ撮影して学校外の人に見せるという活動では、練習不足から演者のぎごちなさが残ってしまう。これもタブレットがあれば、自分たちのリハーサルを撮影し、見返して意見を出し合うことで、より発表の仕方の上達のスピードが上がるのではないかという。

 

ICT機器の環境が整っていない学校はまだまだあるし、非ICTツールにもまなボードのような優れたツールがある。しかしタブレットがあるだけで、ICTツールと非ICTツールをうまく連携させることができるようになる。予算をかけて最新のICT機器を揃えるのではなく、さまざまなツールを組み合わせて、効果的にICT機器を活用することが重要なのだと再確認させられる事例だ。

 

ICT機器がたくさん導入されても、それはあくまでも道具で方法論にすぎません。どういう目的の授業を展開するか、それにどうICTという道具を活かしていくかという考え方が重要だと思います」(吉川教諭)

※ICT整備がほとんどなされていない環境で、非ICTツールをうまく使った授業を展開。タブレットがあれば、ICTツールと非ICTツールをうまく連携できるようになるという。

岩美町立岩美中学校では、iPad miniが30台と、教室にはプロジェクターとノートPCがある。さまざまな用途でICT環境が活用されているが、思考をツリー状に整理するアプリ「E-VOLVOX」を使った授業例が紹介された。岩崎教諭の授業の特徴は、「学ぶ仕掛け」が随所に用意され、それを活かすためにICT機器が使われている点だ。

 

授業コンセプトは、まず生徒に必要な基本知識を教えて、次にその知識を組み合わせるだけでは解決できない課題を提示するというものだ。生徒は学んだ知識を駆使したうえに、図書やネットでの自主的な調べ、同級生との相談・協力をしあいながら、答えに近づいていかなければならない。このとき教師は「生徒それぞれのペースを保障」「試行錯誤の時間の確保」「試行錯誤しやすい環境の提供」に心がけ、間違っても“正解”へ誘導したりすることはしない。ファシリテーターに徹する。

 

タブレットは「1人1台」のフル装備が理想的と考えられているが、岩美中学では2人に1台の配備だ。しかしこれを逆手にとって、2人1組で1台のタブレットとE-VOLVOXに考え方をまとめさせている。このとき、2人は必ず相談をしなければならない。ある程度考えがまとまると、出来上がったツリー図を他のペアと見せあう。このとき、「人のまとめ図に必ずケチをつけなさい」と指導をしているという。生徒同士の考え方がぶつかりあい、自分の考え方を改善していく機会が作れるようにしているのだ。さらに、最後は「その課題解決を通じて学んだこと」を書かせていく。

 

「学んで、課題を解決して終わりでは、ただ授業が進んでいくだけで、生徒は流されていってしまうかもしれません。自分のなかに残ったもの、得たものを確かめるために、紙のノートにまとめ文を書かせています」(岩崎教諭)

 

ここでも、ICT機器を活用しようという発想ではなく、先に授業のデザインがあって、そこにICT機器をどう効果的に活用するかという発想になっている。

※2人1台のタブレット環境を逆手にとって、2人の生徒が対話、協力し合わなければならない授業デザインを構築している。調べたことをE-VOLVOXを使ってツリー状に整理をしていく。思考をそのまま形にするツールなので、人によって形が異なる。自然と、対話と議論が生まれていく。

三刀屋高等学校掛合分校は、島根県雲南市の山間地にあり全校生徒80名程度の小さな高校。1クラス分1人1台の環境(タブレットが合計42台で、教師は1人1台、生徒は授業中に1人1台使える環境)がある。この学校の生徒たちはさまざまな問題を抱えている。学力の面で問題を抱えていたり、精神的なつまずきを抱えている生徒が多い。不登校の率も高い。そのため、一般的な一斉授業というのが成り立たないため、教員は以前からさまざまな工夫をしてきた。

 

「私たちがICTに出会ったとき、今までの授業を効率化しようではなく、根本から授業スタイルを見直そうという発想になったのです」(飯塚洋教諭)

 

そこで取り入れられたのがアクティブ・ラーニングだった。課題を与え、それを生徒たちがインターネットなどで調べてまとめる。調べてまとめるツールとして、ICTと非ICTを組み合わせて利用している。調べるのはタブレット、まとめていくのはホワイトボードとして使えるシート。これを教室の窓ガラスや壁に貼り、グループでマインドマップの形にまとめていく。そして、それをタブレットで写真に撮り、共有したり、発表したりする。

 

飯塚教諭の授業は、あえて「無茶振り」をしていくそうだ。例えば、「日本に雨緑樹林はあるかないか。1時間でクラスとして結論を出しなさい」というような課題を出す。何をやってもいい。相談をしてもいい。でも、クラス全員で結論を出すことというルールを定める。生徒は、気候と植生の関係については学んでいるが、雨緑樹林という言葉は初めて聞くものだ。そこでまず「雨緑樹林とは何か」をタブレットで調べ出す。すると、キーになる図表を見つけてくる生徒がいる。飯塚教諭はそれを拾い上げて、クラスに提示をし、解説をし、課題を解決する方向に導いていく。

 

ここで重要なのは、簡単には答えが出せない「無茶振り」課題、「クラス全員で結論を出す」というルールだ。クラス全員で結論を出さなければならないので、相談せざるを得ない、協力し合わざるを得ない。なかには識字障害の生徒もいる。その生徒は文字を読むのは苦手だが、知性が劣っているわけではない。周りの生徒はわかっているので、ごく当たり前に手助けをする。問題を抱えている生徒たちがそれぞれに補い合い、無茶振りの課題に挑んでいく。

 

「ICT機器は生徒に使わせてナンボだ」と飯塚教諭はいう。生徒がタブレットやPDFによる電子レポートの共有などのICT機器を使わざるを得ない授業デザインを計画することがもっとも重要なのだ。

 

紹介された事例は小、中、高それぞれであり、ICT整備状況もさまざまだ。しかし、いずれも機器だけに頼るのではなく、非ICTのアナログ思考ツールも併用され、タブレットがICTツールと非ICTツールを円滑に連携させる役割を担っているのが印象的だった。また、3人の教諭ともまず骨太の授業デザインがあり、そこに思考ツール、まとめツール、発表ツールとして、ICT、非ICTツールを効果的に使っている。ICT機器を整備していくことはもちろん重要だが、その前に、しっかりとした授業の目的とそれに適した授業デザインがなければならないということを参加者は再認識していた。

※問題を抱える生徒が多く、旧来型の一斉授業がほとんど成立しない環境で、ICT機器を使い、アクティブ・ラーニングを実践。従来型の知識学力ではなく、自主的に学ぶことのできる力をつける授業を展開している。ICTツールと非ICTツールがうまく連携をしている。考えをまとめるのはホワイトボードシート、それをタブレットに取り込み、共有、発表、書き込み。最後にPDFにして、電子レポートにまとめる。

※コーディネーター役を務めた阪上氏からは参加者に向けて「ICT活用の障壁は何でしょうか?」という質問が投げかけられた。十分整っているところはまだまだ少ないものの、今回の3事例を振り返れば、ICT活用を促進するために必要な要素はICTと非ICTの組み合わせによる授業デザインこそが主体的・協働的・深い学びにつながる。

後編では、自治体関係者によるパネルディスカッションの様子をレポートする。

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