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読みのつまずきの早期発見・支援とデジタルとの「いい関係」

2017年11月22日 記事

促音、長音、拗音、拗長音といった特殊音節でつまずいた子どもは、語を正確に素早く読むことにもつまずき、読解力を身につけることが難しくなり、ひいては国語だけでなく他の教科や日常生活にまで影響を受け、「勉強嫌い」になってしまいがちだ。この特殊音節のつまずきが顕在化する前の段階で、予防的に支援していくのが多層指導モデルMIM『読みのアセスメント・指導パッケージ』である。このMIMに待望のデジタル版が登場した。

特殊音節でのつまずきを見逃すな

特殊音節とは、小さい「っ」の詰まる音(促音)、「う」や「お」で表す伸ばす音(長音)、小さい「ゃ」「ゅ」「ょ」の拗音などを指す。子どもの中には、このような特殊音節を書いたり読んだりするところでつまずく子どもが意外と多い。特殊音節の表記法は、合理性のない恣意的なルールになってしまっているため、ある意味「とにかくそういう決まりだから」と覚えて慣れていった経験をお持ちではないだろうか。

 

例えば、小さい「っ」は、小さな声で「つ」と発音するのではなく、発音そのものが存在しない。小さい「っ」の場所で「発音を切る」という通常の発音とは質的に異なる動作をしなければならない。また、大人でも「こうり」を「小売(こ・う・り)」と読むべきか、「公理(こーり)」と読むべきなのかは、前後の文脈から判断しないとうっかり誤認することがある。このような特殊音節は、目に捉えた文字を発音すればいいというわけではなく、いったん頭の中で操作をして、それから発音しなければならないのだ。

 

この特殊音節のつまずきを早期に発見し、つまずきが顕在化する前に支援していくのが「MIM(ミム)」と呼ばれる多層指導モデルだ。MIMはMultilayer Instruction Modelの略で、「多層指導モデル」という名前そのものの意味。「通常の学級において、異なる学力層の子どものニーズに対応した指導・支援をしていく」というコンセプトで、国立特別支援教育総合研究所・主任研究員の海津亜希子先生により生み出された指導モデルである。学研では、以前からこのMIMに基づいた『読みのアセスメント・指導パッケージ』を提供していたのだが、文部科学省の委託を受け、書籍版による指導成果をさらに向上させるために『多層指導モデルMIMデジタル版』が開発された。MIMは全体から個まで、子どものつまずきに対応した指導を組み合わせるモデルで、タブレット端末で学べるデジタル版は現場からの要望も強かった。子どもはタブレットでアプリを使って学習を進め、教員がPCで学習履歴などを集中管理することも可能だ。株式会社学研プラス 教育ICT事業部の中島隆司氏はMIMによる指導の必要性を次のように話す。

 

「特殊音節でつまずいてしまうと、その後の読解力に影響を及ぼします。本や他の教科の文章題を読むのが苦手というだけでなく、日常生活にまで影響を及ぼしてしまうことがあるのです」(中島氏)

※株式会社学研プラス 教育ICT事業部文教事業室企画事業課 デジタル教材リーダー 中島隆司氏。

つまずきが顕在化する前に支援するMIM

特殊音節のつまずきは文字や語を正確に、かつ素早く読む力にも影響を与え、読解力のつまずきに直結してしまう。特殊音節でのつまずきが放置されたまま成長し、社会に出れば、例えば仕事で書類を読んだり書いたりすることへの苦手意識や劣等感を抱いたまま生きていくことになる。こうなると人生そのものにも影響を及ぼす、ということにもつながってしまう。

 

「そこでMIMが予防的支援に使われるのです。子どもが学習につまずく前に、またつまずきが深刻化する前の早い段階で、指導者が適切な指導・支援を行うことを目指しています」(中島氏)

 

特殊音節が小学校で登場するのは、1年生の国語の時間。1学期の5・6月頃から指導が始まるが、この時期に合わせてMIMを用いた学習支援を行うことが多い。MIMでは初めにアセスメントテスト(めざせ よみめいじん)を行い、つまずきのある子どもを抽出し、そのつまずき度合いに応じた学習支援を行っていく。具体的なイメージとしては、すべての子どもに定期的なアセスメントテストを行い、個々のつまずきのニーズに対応したグループ指導、最終的には小集団や個別指導まで幅広い学習支援を行い、すべての子どもに適切な学習支援を行う。このように、通常の学級において、異なる学力層の子どものニーズに対応した指導・支援を行う、ということから多層指導モデル(MIM)、という概念が生まれている。

アセスメントテストは特殊音節に関するドリル形式のものが2つ用意されている。1つは「絵に合うことばさがし」。3つの選択肢の中から絵に合う語に丸をつけていくドリル。もう1つは「3つのことばさがし」。3つの語が続けて書いてある文を素早く読み、語と語の間を線で区切っていくドリル。子どもはそれぞれのドリルを1分間の限られた時間の中で、正確に素早く横に解いていくことになるが、縦に集計すると、特殊音節別の得点が集計できるようになっている。これを1カ月に1回程度の割合で11回実施することで、子どもがどの段階の指導ニーズを有しているかを把握することができる。

※『読みのアセスメント・指導パッケージ』のアセスメントテスト「めざせ よみめいじん」。

このアセスメントテストを定期的に実施していきながら、まずは通常学級内での効果的な指導(6月から7月頃が一般的)を行う(1stステージ)。ここでも伸びが乏しい子どもに対しては、通常の学級内でさらに補足的な指導(9月から12月頃)を行う。さらに、それでも伸びが乏しい子どもには、小集団や個別形式で集中して指導(1月から3月頃)を行う。このようなアセスメントテストを使って、異なる学力層の子どものニーズに対応した指導・支援をしていくのがMIMの考え方だ。

※MIMに関しては独立行政法人国立特別支援教育総合研究所に詳しく掲載されている(http://forum.nise.go.jp/mim/)。

通常学級における多層指導の必要性

もう1つ重要なのが通常学級における多層指導の必要性だ。通常学級にも約4.5%程度、学習障害(LD=Learning Disability)の子どもが在籍しているといわれ、このLDの子どもは特殊音節でつまずきを示すことが多いことがわかっている。しかし問題は、LDといっても一般の子どもとの区別は極めて難しいことである。LDの1つであるディスレクシア(読み書き障害)では、読み書きに問題を抱えているものの通常会話による意思疎通には問題がないことが多い。また、LDも程度はさまざまであり、通常かLDかの線引きは明確ではなく、むしろグラデーションのように連続していると考えるのが妥当だ。そのため、LDは「個性の1つ」と考えるようになってきている。

 

「特別支援教室のあり方も変わってきています。例えば東京都では平成28年度以降、そのあり方が大きく変わります」(中島氏)

 

東京都の取り組みの詳細はここでは割愛するが、この取り組みによってより多くの子どもが支援を受けられるようになり、また、特別支援の指導教員(巡回指導教員)と担任の教員の連携が図りやすくなる。そしてこの取り組みのサポートツールの1つとして、MIMという考え方が大きな力となる。また、同じ学級の中にさまざまな個性を持った子どもたちが一緒に学ぶ場合、従来の一斉授業ではつまづきのある子どもに最適な支援が行き渡らない可能性がある。そこでMIMの活用である。MIMを使った取り組みの中でさらにタブレットなども活用しながら、グループ指導、小集団・個別指導を効果的に取り入れ、すべての子どもに適切な学習支援を行うのだ。通常学級おいて多様な個性、多様な価値観を学ぶことは、人格形成にも必ずプラスになる。

個々のつまずきへの対応が可能な多層指導モデルMIM

MIMで注意しなければならないのは、従来の「一斉学習」とはまったく考え方が異なっているという点だ。一斉学習は、原則的に全員が同じ教材を使う。基本から応用までが編集された教材で、つまずきのない子どもはどんどん先に進む形になる。一方、MIMではアセスメントテストは全員が同じものを受けるが、それ以降は苦手な部分に適した教材で個々のつまずきに対応した指導が進められる。全員がつまずきに応じた学習をすることになるので、効果的な指導を受けることができる。

 

自身も『読みのアセスメント・指導パッケージ』の模擬授業経験がある同社教育ICT事業部の川﨑愛里沙氏も、MIMは学級経営がやりやすいと話す。

 

「小学1年生というのは天真爛漫な子が多く、グループや個別で異なる学習をしても、劣等感を感じるというようなことはなかったと思います。教員の学級経営の中で十分対応できると感じました」(川﨑氏)

※株式会社学研プラス 教育ICT事業部文教事業室学校事業課 川﨑愛里沙氏。

そして『多層指導モデルMIMデジタル版』が登場したことにより、よりMIMを実行しやすくなった。一斉、グループ、個別と種々の指導形態を活用するMIMは、タブレットなどのデジタル機器との相性がいいのだ。

 

「実際にデジタル版を使われた教員の方からの反応はすごくいいです。特にすでにMIM書籍版を実践されている教員の方からは、MIMがものすごく実践しやすくなったとおっしゃっていただけています」(川﨑氏)

 

『多層指導モデルMIMデジタル版』の一番大きな利点は、子どものモチベーションが上がることだ。『読みのアセスメント・指導パッケージ』だけの場合、たとえドリルが1枚でも、問題数全体が見えてしまうため、「こんなにたくさんあるの?」と負担に感じてしまうことがある。しかし、デジタル版であれば1問ずつ表示されていくので、全体の量がどれくらいあるかを気にせず進められる。また、音やビジュアルなどゲーム的な要素もふんだんに取り入れているため、結果としてモチベーションを下げずに学習を進められる。指でタッチをして回答する、タッチペンを使って文字を書くというタブレット特有の動作も子どもたちにとっては新鮮だ。

 

「特に重視したのが、達成感を得られる仕掛けを随所に用意したことです」(中島氏)

『多層指導モデルMIMデジタル版』のユーザーインターフェイスイメージ。

全体が島を探検するストーリーになっていて、教材をこなすたびに探検した場所が増えていく。また、教材を終えるのにかかった時間が表示され、自己記録の更新に挑戦をする。そしてなによりもタブレットアプリになっているという点が大きい。

 

MIMの一斉学習、グループ学習の段階は、国語やホームルームといった授業枠内を活用して実施できるが、個別学習の段階は通常授業内での実施が難しくなる。そのため、給食準備中や放課後などの空き時間を活用することが多い。ここでさらにタブレットを使えば自宅に持ち帰らせて自宅学習を併用するということも可能になり、MIMの実施が柔軟に行えるようになる。

 

一方で、教員には教材の進度、成績などがほぼリアルタイムに集計できる点が好評だ。子どもが学習した記録は今後クラウドにアップロードされ、教員用端末で集中管理をすることができるようになる。

 

「MIMは通常学級の教員が、簡単な2分程度のテストを通じて子どものつまずきの早期発見をするところから始められる画期的な指導モデルです。気軽に導入することを考えていただければと思っています」(中島氏)

 

 

特殊音節でつまずいたために、読解力が身につかず、国語だけではなく、他の教科にまで影響を与えるということを予防する『読みのアセスメント・指導パッケージ』と同『多層指導モデルMIMデジタル版』。もし、ここをないがしろにして勉強嫌いになり、そのまま社会に出て「私は頭が悪い」という劣等感を持ちながら生きていくのだとしたら、教育は教育としての責任をはたしているとはいえなくなってしまう。些細なつまずきを予防することで、子どもたちは、自分の人生を歩めるようになる。

※『多層指導モデルMIMデジタル版』の管理画面の一部。何ができていて何ができていないかなど、進捗と成績がほぼリアルタイムに把握できる。

多層指導モデルMIM デジタル版」詳細ページはこちら

 

 

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