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School Innovationセミナーin広島 レポート [後編]

2017年10月20日 記事

8月18日、「School Innovation セミナー in 広島」(主催:一般社団法人日本教育情報化振興会)が広島県立広島産業会館で開催された。教員や教育関係者が多数参加し、ICT機器の整備、利活用ノウハウについて活発な議論がなされた。その模様を前後編に分けてお伝えする。後編では、パネルディスカッション「ICTを活用したアクティブ・ラーニングとICT環境整備のポイント」をレポートする。

多角的視点で教育ICTを

「失敗を恐れないための段階的整備と有用性」をテーマに据えた今回のセミナーでは、基調講演、広島県内事例紹介(前編参照)の後、パネルディスカッション「ICTを活用したアクティブ・ラーニングとICT環境整備のポイント」が行われた。

 

コーディネーター役として広島工業大学情報学部 竹野英敏教授、パネリストには広島県広島市立藤の木小学校 島本圭子校長、鳥取県岩美町立岩美中学校 岩﨑有朋教諭、インテル株式会社教育事業推進担当部 竹元賢治部長が登壇。校長、教諭、企業人と異なる立場からの意見により、多角的な視点からの議論となった。主なポイントは、「ICTは子どものどのような力を育むのか」「教師のICTスキルをどのように高めるか」「どのような計画、整備をすればいいのか」の3つだ。

※セミナー最後に行われたパネルディスカッション。コーディネーターは広島工業大学情報学部 竹野英敏教授(左)。パネリストは鳥取県岩美町立岩美中学校 岩﨑有朋教諭、広島県広島市立藤の木小学校 島本圭子校長、インテル株式会社 竹元賢治 教育事業推進担当部長。

ICTは子どものどのような力を育むのか?

岩﨑:

私たちの学校では、「子どもたちの能力を育てたいのでICTを活用する」という考え方ではなく、まずICTとは無関係に、学校の理念に基づいて、育てたい子どもたちの能力というものを10にまとめています。その個々について、この能力を育てるためにはICTを活用したほうがいいのか、紙の教科書とノートがいいのかという考え方をしています。ICTはあくまで道具だという位置づけです。

 

島本:

私たちは試行錯誤で導入していったものですから、「こういう力をつけるためにICTを活用しよう」ではなく、「こういう力を伸ばすことができることがわかった」という感覚です。6年間使った児童たちへのアンケート結果では、「自分の考えを分かりやすく説明できた」「文字入力で自分の考えを表現できた」「授業がわかりやすくなった」が上位にきます。次期学習指導要領が目指す主体的・対話的で深い学びの実現にも役立つと考えています。

例えば、文字入力では校内でキーボード選手権という大会を開催しています。文字入力が速くなるということよりも、子どもたちが使えるという自信を持ち、今度は、TPCなどで自分の考えを表現する、まとめるという力を支えているのだと思います。

また、このキーボード選手権を情報モラルの学習と組み合わせて、地域の方にも参加いただいて行いました。ICTを軸に、地域の人と繋がっていくことにより、子どもたちのさまざまな力が育まれていくのではないかと思っています。

 

竹元:

ICTは、時代にあった目的を達成するための情報活用能力を育ててくれると思います。例えばカメラですが、私たちの時代は24枚撮りのフィルムで、現像に出さなければ写真が見られませんでした。今では、デジタルカメラで何枚でも好きなだけ撮ってその場ですぐに見ることができます。すると、何の力が要求されるかというと、膨大に撮影した写真から状況や目的に応じて最適なものを選び出す「情報種の取捨選択」能力が必要となります。そういう力を学校でのICT活用で身につけさせていかなければなりません。

 

極めて面白いディスカッションである。岩﨑教諭は現役教師の立場から「あくまでも教育の基本理念に基づいて、子どもたちの能力を育てる。ICTはその道具、教材の1つ」といういわば教育の王道的考え方だ。一方で島本校長は校長の立場から、「地域の人と交流する」という学習よりも大きな枠組みの人間力育成に対するICT機器活用の効果を発見している。企業人である竹元氏は、社会が子どもたちに要求するスキルという観点から述べている。三者三様の視点は、そのどれもが重要。教育は現場教師だけでなく、さまざまな立場の人が議論に加わる必要があることを再認識させられた。

※企業人としての立場から、学校経営をする校長としての立場から、現役教師としての立場から、ICTは子どものどのような力を育むのかの意見が述べられた。

教師のICTスキルをどのように高めるか?

竹元:

ICT利活用のすべてを一気にやろうとするのではなく、まず授業の中の教具として教師が利用したうえで、児童生徒たちに文具としての活用を促すという方法論をとっていただきたいと思っています。そこで一番重要なのは意識の問題です。従来型の「教師が児童生徒に教える」授業ではなく、「教師は授業をデザインするデザイナーなのだ」という意識を持っていただきたい。その意識を変えるために、企業や自治体などの研修会などを活用していただいて、新しい知識、考え方を積極的に取り入れてもらいたいと思っています。

 

島本:

ICT機器が整備されているというのは、その学校の強みです。学校の強みというのはさまざまあって、ICT環境というのもその1つだと考えています。経営の視点からは、そういう強みを伸ばしていくことが学校をよくすることにつながっていくと考えています。具体的にはビジョンをきちんと示し、教師たちがそれを実現できる環境=研修会など学びの機会や仕組みを整えるということです。

 

岩﨑:

教師にも得意・不得意はありますから、現実的には、得意な教師からICTの活用は始まっていきます。この「使ってみる」という教師を少しずつ増やしていくのが一番いい方法ではないかと思います。ちょっと姑息ではありますけれど(笑)、なかなか使っていただけない教師でも、周りがみんな使っている状況をつくって外堀を埋めていき、そこで「どうですか?お手伝いしますよ」と声をかけるとうまく全員がICT活用を実践する状況がつくりだせます。

一方で、ICTツールの特性は理解しなければなりませんが、実際の操作はさほどできなくてもいいのかなと思っています。子どもたちに教えてもらえばいいのです。教師の腕の見せ所というのは、ICT機器の操作ではなく、やはり授業デザインだと思います。いかに子どもたちが「絶対やり遂げたい!」と思わせる仕掛けをつくれるか、そこにICTを効果的に組み合わせられるかを考える、そこだと思います。

 

パネリストの一致点は「教師は、ICT機器の操作といったスキルは高くなくていい」。その代わり、「ICT機器の特性を知り、授業デザインに効果的に組み込めるスキル」は高いレベルで要求される。そのためには、教師が自ら学ぼうとするアクティブ・ラーニングをしなければならないという話で、登壇者の意見は一致した。

どのような計画、整備をすればいいのか?

岩﨑:

自治体の規模によって違ってくると思います。小さな自治体では学校数も少なく、比較的教育予算を取りやすいところは多いのですが、大きな自治体ですと学校数も多く、なかなかすべてを整備するのは大変です。

いずれの場合でも、その自治体のビジョンに沿った計画提案が重要になります。多くの自治体が望んでいることは、納税者を増やすということですから、子どもたちがICTで高いスキルを身につけることにより、場所にとらわれずに生きていけるようになる。つまり、30歳になってもその自治体に住んで納税者になってもらえる。そういう提案が必要です。

教師は、自治体の政策については専門家ではありませんが、ひとりの親として、ひとりの住民として、どのような教育が望ましいかを考え、「TPCが何台欲しい」というようなお願いではなく、自治体のビジョンに沿った提案をすることも必要です。

大きな自治体の場合には、多くの学校を同じにするのではなく、それぞれの学校が特色を持つ必要があります。プログラミン教育が充実しているとか、教育ICTが充実しているとかなど、まず学校の特色を打ち出し、それに見合った整備をしていくことが重要ではないでしょうか。

 

島本:

弊校の場合は、ICT機器がすでに整備されているという恵まれた状態だったので、整備後の維持をどうするかというお話をしたいと思います。まずICT支援員の存在は、とても重要です。ICT支援員が担当している仕事を教師が肩代わりするというのはかなり難しいと感じています。人的資源の確保・継続が問題になります。

もう1つは予算の確保です。プロバイダーの契約料、電子黒板の清掃・調整、機器のさまざまなメンテナンスと、年に130~40万程度かかっています。さらに機器を更新するとなると、もう学校予算では難しい。企業や地域の支援を活用することも重要です。学校だけの問題でなく、教育委員会、自治体、地域、企業と密に話し合うことが必要です。

 

竹元:

一度に整備をしようとすると失敗します。まさに文部科学省などが提案している段階的整備に沿ってやっていただきたい。(http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1386881.htm
また、ICT導入支援アドバイザーという制度があります。これはエキスパートを学校に派遣をして、導入支援をするというもので、非常に効果が上がっています。こういう制度も活用していただきたい。

うまくいっている事例では、学校だけでなく、自治体の行政や議会も含めた政産官学の連携が行われています。首長や議員の方々にもICT教育の効果を理解してもらい、議会で「早く整備してほしい」という声を出してもらう、整備の推進力になっています。また、他の先進的にICT教育に取り組む地域を参考にしたり、連携をしながら協議会等で整備計画を立て推進していくこと鍵になると思います。

 

ここでもパネリストの意見は一致している。一気に整備するのではなく、文部科学省などが提案する段階的整備計画に沿って進めていく。そして、整備後には人的資源と予算の確保が必要になる。それは学校だけで動くのではなく、地域の議会、行政、企業と連携を取りながら進めていくということが鍵になる。

 

 

School Innovation セミナー in 広島は、今後も各地での開催が予定されている。詳しい情報、開催予定などについては、イベント情報一覧(https://sip.dis-ex.jp/event_index.html)にて随時掲載していく。

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