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School Innovationセミナーin広島 レポート[前編]

2017年09月25日 記事

8月18日、「School Innovation セミナー in 広島」(主催:一般社団法人日本教育情報化振興会)が広島県立広島産業会館で開催された。教員や教育関係者が多数参加し、ICT機器の整備、利活用ノウハウについて活発な議論がなされた。その模様を前後編に分けてお伝えする。前編では、総務省による基調講演と広島県下のケーススタディをレポートする。

整備と導入の具体的段階、迫る

「School Innovation セミナー in 広島」のテーマは、「失敗を恐れないための段階的整備と有用性」。すでにICT機器の導入是非、アクティブ・ラーニングの導入是非を議論する段階は終わっている。ICT機器は導入すべきだし、新しい学習法であるアクティブ・ラーニングは取り入れるべきで、そこに議論の余地はもうない。教育関係者が現在悩んでいるのは、ICT機器の整備とアクティブ・ラーニング導入の具体的な方法論だ。

 

児童生徒にとってその学年での学びは1年間しかない。教師が試行錯誤する時間を最小限にして、効果的に「学びの改革」を実現していくためにはどうすればいいのか。教育関係者の悩みは具体的で切実なものになってきている。今回の「School Innovation セミナー in 広島」では、すでに「学びの改革」に挑戦し、軌道に乗せている先進事例を築いた現役教師が登壇し、活用実践を発表した。概念的な話ではなく、極めて具体的な話であるため、参加をした教育関係者にも得るものが多かったようだ。

セミナー冒頭で趣旨の説明行う広島工業大学情報学部 竹野英敏教授。後半のパネルディスカッションでもコーディネートを担当した。また、会場に隣接したスペースでは、ICT機器の展示も行われていた。参加した教職員は、パンフレットをもらったり、説明員の説明を受けたりした。

32年度にはクラウド利用学校を100%に

冒頭、総務省情報活用支援室の本橋充成課長補佐による基調講演「総務省における教育ICT政策」が行われた。講演内容は総務省の政策概要を説明するだけでなく、かなり踏み込んだものだった。

 

「教育ICTの意義には3つの『A』があります。Active(学びを活性化)、Adaptive(学びの最適化)、Assistive(学びを支援)の3つです」

 

特に参加者の心を捉えたのが、ICT機器は過疎地や貧困世帯といった教育資源に限界がある子どもたちにとって有力なAssistiveツールになるという話だ。ひとり親世帯の貧困率は50.8%に達し、大阪府の調査によると「子どもを塾に通わせることができない世帯」は、標準家庭では3.6%であるのに、貧困家庭では35.7%に達している。ところが「子どもがスマホ・タブレットを持っている世帯」は、標準家庭で56.6%、貧困世帯で61.5%と逆転するのだ。

 

「あくまでも大阪府の調査であり、各家庭の事情は異なりますので、このデータだけで論じることはできませんが、もし、子どもたちが持っているスマホやタブレットを授業で活用することができれば、貧困の世代連鎖を断ち切る大きな武器になるかもしれません」

 

もう1つ参加者が関心を示したのが「ICT整備は二極化している」というものだ。普通教室の無線LANの整備率は全自治体の平均を取ると26.1%になるが、実は100%整備の自治体が226あり、0%の自治体が555もある。つまり、0と100で、全自治体の半数近くを占めてしまうのだ。このような二極化している自治体が隣り合っている例も珍しくないという。

 

「隣り合った自治体は、生活圏を同じにすることが多い。整備されている自治体の子どもが、親の都合で隣の自治体の学校に転校して、あれ?とびっくりすることもあるのではないでしょうか」

 

この二極化を解消するときに、常に問題になるのが「整備はしたいけど、予算がない」という話だ。しかし、これも「本当なのでしょうか?」と本橋氏は疑問を投げかける。地方交付税不交付市町村76団体(予算が豊富)と財政力指数下位50市町村(予算が厳しい)のICT整備率を比較してみると、豊かな市町村はPCが7.8人に1台、無線LAN導入率は35.2%、一方で予算が厳しい自治体ではPCが1.9人に1台、無線LAN導入率は49.3%と、予算が厳しいはずの自治体の方がICT整備率は高いのだ。

 

もちろん、財政面で余裕のある自治体は学校数も児童生徒数も多く、一方で厳しい自治体はどちらも少ないため単純比較をすることはできない。しかし、本橋課長補佐はこれまでの常識に反するデータを提示して、ICT機器整備とアクティブ・ラーニング導入にもっとも必要なのは、関係者の情熱と工夫なのだとメッセージを送った。

 

さて、総務省のICT教育政策の全体像は、天地人の3つにまとめられると本橋氏は話す。天は教育クラウドの普及。地は無線LAN整備支援。人はプログラミング教育などの支援人材の確保だ。教育クラウドは、教育に使うさまざまなコンテンツが利用できる「教育クラウドプラットフォーム」で、総務省が仕様などの標準化を行った。これを各現場で利用すれば、低コストで必要な教材が自由に使えることになる。すでに実証事業が行われ、検証が済み次第、どの学校からでも利用できるようになる。このクラウドは、教材だけでなく、校務の支援も行い、平成32年度にはクラウドを利用する学校を100%にする目標だ。無線LAN整備は、学校が学びの場であるだけではなく、防災時の避難場所となることも意識した整備事業を進めていく。また、支援人材はプログラミング教育を重点として、あらゆる人材をメンター(指導者)として育成し、プログラミング教育を支援していく。

基調講演をする総務省情報活用支援室 本橋充成課長補佐。総務省の政策をただ説明するだけでなく、多くの教育関係者が漠然と抱いている「常識」を覆すデータを提示するという内容の濃い講演となった。

県下の教育ICT先進事例

広島県内の事例紹介は、広島市立藤の木小学校の村中智彦教諭と東広島市立寺西小学校の石川真紀教諭が行った。藤の木小学校では各教室に1台の電子黒板、1人1台のタブレットPC(以下、TPC)の環境が整っている。使い方としては、極めて標準的なものだ。資料、Webなどの資料を表示する。また、ワークシートをTPCに配布して、直接書き込みをさせ、隣同士で見せ合ったり、電子黒板に大きく映して発表させたりする。

藤の木小学校がユニークなのは、TPC導入をきっかけに学習規律の指導を徹底して取り組んだことだ。タブレットは授業が終わると充電保管庫に必ずしまう。各自が自分のTPCをきちんと管理をすることが求められる。年度初めには「タブレット開き」という特別授業を行う。そこで教えられるのはTPCの基本的な使い方から片付け方まで。つまり、TPCを使って、授業だけでなく、教育全体にプラスの効果をもたらすように工夫をしている。

 

現在、教員側の課題となっているのは、IWBと従来の黒板、TPCと紙のノートをどのように組み合わせるかという問題だ。現在は、ノートに書く活動は必ず行うことにしている。手を使って書くという行為には、高い学習効果がある。書くということは同時に考えることであり、体を使うことで五感を刺激するからだ。ICT活用と「かく」をどう組み合わせれば学習効果が上がるのか、それを模索している。

 

小学校3年生の社会科「広島の様子」という授業では、自分が住んでいる場所の町並みを動画撮影し、これを繁華街の動画と比較することで、相違点、類似点を紙のノートに書き出させる。また、広島のデジタル地図を使って、その周辺環境を考察する。この場合、TPCはあくまでも「情報を取り出す道具」であり、紙のノートが「情報をまとめる道具」になっている。

事例紹介を行う広島市立藤の木小学校、村中智彦教諭。学習規律と「かく活動」を重視したICT教育を行っている。

石川教諭は、前任校であった東広島市立八本松小学校で行ってきた5年間のICT活用への取り組みを発表した。各普通教室1台の電子黒板かTV、4人に1台のTPCが配備されている。1年目の「とにかく使ってみよう」から試行錯誤をしながら活用を進めてきた様子を紹介した。

 

最初に挑戦したのは、ICTが苦手な教師を減らし、得意な教師を増やすことだった。そのために、TPCなどの機器を職員室で管理するのではなく、教室に常設した。さらに、利用率の統計を取るようにした。利用率が数字で見えると、教師がもっと活用しよう、活用しないとまずいなと考えるようになり、利用率が年ごとに高くなっていった。しかも、利用率が高くなると、活用の質もそれに合わせて高くなっていたことを実感したという。

 

八本松小学校でも課題になっているのが「電子黒板と黒板の使い分け」「TPCと紙ノートの使い分け」だった。5年生の算数「合同な図形」では、TPCを持って校内を周り、窓などの合同な図形を探し、TPCで撮影するという活動を行った。そして、気づいたことを紙のノートにまとめ、発表するノートをTPCでつくる。紙のノートは考えをまとめる道具、TPCは発表する道具という使い分けをしている。

 

ICT活用が進んでいくと、教師同士が活用法についてランチタイムに情報交換したり、研究会に出席する、率先して自ら研究授業を行うなど、ICT活用は児童生徒だけでなく、教師側もアクティブ・ラーニングの効果を実感しているという。

 

2つの事例は、ともに「ICTを従来の授業計画の中に効果的に組み入れていく」という考え方で、ICT活用が模索されている。特に重要なのが、両校ともに「ノートに書く、考えをまとめる」ということを重視していることだ。

事例紹介を行った東広島市立寺西小学校 石川真紀教諭。試行錯誤でICT教育を進めてきたが、利用率が上がれば、質も上がることを実感したという。

事例紹介のコーディネートを務めた鳥取県岩美町立岩美中学校 岩﨑有朋教諭が提示した資料。改訂された指導要領では「コンピュータ」「見方・考え方」という言葉が急増する。それだけ、ICT教育が要求されるようになっているということだ。

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