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黒板メーカーがつくる“コクバン” 黒板に映せるウルトラ短焦点プロジェクタ「ワイード」が生まれるまで。

2017年07月31日 記事

黒板を進化させ、未来の“コクバン”をつくっている黒板メーカー・サカワの最新製品が、ウルトラワイド短焦点プロジェクタ「ワイード」だ。縦横16:6という特殊なサイズに対応しており、標準的な黒板の左右いっぱいにスライドを投影することができる。また、4:3の投影では、黒板の左、中央、右に投影箇所を、リモコンで簡単に切り替えることができ、黒板の余白部分には板書ができる。多くの学校で採用されている曲面黒板にも歪み補正をして投影できる(※)など、授業で使われることを前提にした機能が備えられている。デジタルだけではない、スライドと板書を併用できるハイブリッドな次世代の“コクバン”だ。このワイードを開発した株式会社サカワ 坂和寿忠常務取締役にワイードの誕生ストーリーを聞いた。

※2017年3月発売の湾曲黒板対応モデル(SP-UW360iR)より対応。

※株式会社サカワ 常務取締役 坂和寿忠氏

不変だけど課題

「黒板って、明治の頃から本質はほとんど変わっていない製品なんです」

 

明治時代初期に、寺子屋などで塗板(とばん)と呼ばれる黒板が使われ始めた。それから140年、塗料が漆から合成樹脂に、色が黒から緑に、マグネット対応の鉄板ベースに、木材フレームからアルミフレームに、曲面黒板が登場したという変化はあったものの、チョークで書いて黒板消しで消すという本質はまったく変化していない。

しかし、教科内容が次第に高度になるとともに従来の黒板は限界に達し、多くの課題が浮かび上がってきている。1つは、教員が板書をしている時間が無駄だということだ。一般的な授業時間は45分~50分。決して長くない授業時間の中で、教員が板書をし、児童生徒がそれをノートに写すという、教員も児童生徒も「頭を使って考えない」時間は短ければ短いほうがいい。どの教員も授業中、児童生徒の頭をフル回転させる授業デザインを目指している。

 

もう1つは、手書きの板書では詳細な図などを描くことは難しい。社会科の地図や理科の写真などは黒板では対応できず、別の教材を用意しなければならない。

 

「その欠点を補うために登場してきたのが、いわゆる電子黒板です」

 

これまでの電子黒板には2つの流れがあった。1つは単純なプロジェクタで黒板やスクリーンに投影するというもの。事前に資料をPowerPointなどでつくっておけるので、「板書に時間が取られる」という課題は解決された。さらに、地図や写真といった詳細な図版を児童生徒に見せることができたり、PCのデスクトップをミラーリングしてインターネットや動画の情報を見せることもできるようになった。

 

しかし、短焦点プロジェクタを黒板に投影するためには設置工事が必要になるという問題があった。工事をせずにプロジェクタを床置きし、スクリーンシートに投影するという方法もあるが、狭い教室の中ではどうしても場所が取られる。

 

そこで普及したのが液晶ディスプレイパネル型の電子黒板だ。簡単にいえば、大型タブレットで、PCで作成した図版類を表示できるだけでなく、電子ペンで書き込みをしたり、メニューをタッチして操作をすることができる。

 

しかし、新たな課題も生まれた。電子黒板の本質は大型タブレットなので、教員用PCと有線、あるいは無線で接続するなど事前の設定作業が必要になる。授業準備に集中したい現場の教員にとって、機器の操作方法を新たに学び、毎回、機器の設定をするというのは決して小さな負担ではない。また、画面に書き込める、メニューが操作できるといっても、使い方や環境によってはうまく反応しなかったりすることもある。授業中、接続が切断するなどトラブルが起きることもある。

 

その使い勝手が理由で、扱いが簡単なプロジェクタを好む教員もいる。プロジェクタも単に映像を投影するだけのものから進化をし、電子ペンを使って、映像中のメニューをタッチすることで操作ができるようになり、さらに黒板上にレールを付け、プロジェクタが移動できるようにし、投影部分を動かすことができるようになっている。

 

「ただ、電子黒板も最新のプロジェクタも、問題は画面が小さいということなんです。特に一斉授業では、せっかくワイドな黒板があるのですから、黒板いっぱいに映像を映したいという要望を教員の方々からよく耳にしました」

※ICT環境の常設化が進む普通教室の一般例。児童生徒から見やすいように黒板にホワイトシートを敷き、そこにレール可動式の単焦点プロジェクタから教材(PC経由)を投影するタイプが設置されている。

デジタルだけどアナログ

その現場からの要望に、サカワが応えた。16:6というウルトラワイドのプロジェクタ「ワイード」を開発した。黒板の端から端までを使って、映像を投影することができる。また、2017年3月に発売された新機種では外光の反射を防ぐための曲面黒板にも対応し、歪みのない状態での投影が可能。音楽の時間の楽譜表示、国語、英語の長文表示などに適している。

 

さらに、ワイードのユニークな機能が「デジタルスライド」。4:3の標準サイズで投影した場合は、黒板の左、中央、右の表示位置を、リモコンからボタンひとつで切り替えることができる。余白部分にチョークで板書をするという使い方ができる。国語では左に表示、右に板書。英語、数学では右に表示、左に板書。理科、社会では中央に表示、左右に板書などさまざまな使い分けができるのだ。

 

「ウルトラワイド表示だけの機能だったら、現場の教員の方からの支持はいただけなかったと思います。デジタルスライド機能があって、初めて教室の中で使える道具になったのだと思います」

 

現場の教員にとって「板書」はとても使い勝手がいい。オールデジタルの電子黒板では、あらかじめ授業スライドを完璧に用意しておく必要がある。それよりは、必要な教材をPCに入れておき、投影しながら板書で適宜補うというやり方の方が自由度が高い。また、児童生徒の理解度を見て、臨機応変に板書の内容を変えていくということもできる。柔軟に授業を展開できるのだ。

 

「オールアナログの黒板には効率が悪いという課題があります。オールデジタルの電子黒板には自由度が少ない、画面が小さいという課題があります。最適解は、アナログとデジタルをうまく組み合わせることだと思います」

 

坂和氏は、教室の中に黒板は残り続けるという。

 

「パッと書けて、パッと消せる黒板は、教室内の筆記具として使い勝手がものすごくいい」

 

かといって黒板は残し、電子黒板を導入し、プロジェクタも使うでは、狭い教室が乱雑になってしまうし、それを使いこなさなければならない教員の負担もかえって増えてしまう。

 

「教室の中は、できるだけシンプルであった方がいい。スクリーンは1つというのが理想だと思います」

 

現在のアナログ黒板にデジタル機器を組み合わせて、電子黒板的な使い方もでき、アナログ黒板的な使い方もでき、さらにそれを組みわせてハイブリッド黒板として使うことができるものを現場の教員たちは求めていると坂和氏は見ている。ワイードはその教員たちの要望に応えた製品だ。

ワイードは最大140インチのウルトラワイド画面に、2つの画面を並べて表示(2系統同時出力)させたり、電子ペンで投影画面をタッチすることでPCの操作ができる。物理的に黒板上のレールを移動させる必要がないため、授業自体がスムーズに進行できる。

高い、だけど高くない

ワイードは、小・中・高等学校で一般的に使われているプロジェクタの倍の面積に投影することができる。そのため、本体価格は一般的なプロジェクタの倍程度になる。しかし、一般的なプロジェクタの場合、黒板上部にレールを設置する工事が必要になる。一方で、デジタルスライド機能のあるワイードは、黒板上部に固定設置するだけでいいので、簡易工事のみで済む。この工事費を考えると、両者の総費用はさほど変わらなくなる。

※スペースに余裕がある教室ならともなく、一般の普通教室では黒板上にレールスライドを取り付けてプロジェクタを設置することが多い。しかし、取付工事の手間や設置条件、メンテナンス等、複合的に考えた場合、ワイードの優位性は高い。

さらにワイードは耐久性も優れている。レーザー光源を採用しているので、ランプ寿命は約2万時間。これは多くの学校で一般的に使われているプロジェクタの6倍超となる。また、レール移動型のプロジェクタを移動するときは、手が届かないので、棒のような器具を使って移動させることになる。授業中に移動をするのは煩わしいし、移動させたことにより投射位置が微妙にずれて、調整をしなければならなくなることもある。ワイードは固定取り付けをするので、そのような面倒もない。

サカワだけどサカワ

サカワは創業98年になる老舗黒板メーカー。現在では木造建築などにも事業を広げ、経営は安定している。

 

「実は、黒板って、安定産業なんです。少子化時代だといっても学校の数が大きく減っているわけではありません。ただ、単価は下がり続けているので、売上は微妙に右肩下がりで、将来伸びる要素はありませんが、経営が厳しくなるというほどの深刻さは、業界内にはありません」

 

坂和氏は創業家に生まれたため、当然のごとくサカワへ入社することが既定路線になっていた。

 

「入社前はものすごく悩みましたね。黒板をつくるのかぁと。安定産業ではあるけど、僕もみんなも給料はなかなか上がっていかないよなと(笑)。給料が上がらないということは、若くて優秀な人材が入ってこないともいえます。これはサカワの将来にとって深刻な問題だと思いました」

 

サカワの技術、ノウハウを活かして、新規事業を起こすという道もあった。

 

「でも、僕は黒板にこだわりたかったんですね。やっぱりサカワは黒板メーカーですから。だったら、次世代の“コクバン”をつくろうと考えました

 

ところが、坂和氏が社内でそういう声をあげていくと、周りの反応は逆風ではなく、無風だった。反対するでもなく、賛成するでもなく。ベテラン社員が多かったサカワでは、自分たちの技術を大切にし、アナログ黒板をつくり続けていくことこそ使命だという考えが主流だったのかもしれない。

 

その頃、政府のスクール・ニューディール政策(2009年)が動き始め、多くの教室に電子黒板が入り始めた。「これは黒板が変わっていくな。うちは黒板メーカーなんだから、率先して新しい黒板をつくっていなければ」と感じたと坂和氏は当時を振り返る。

 

坂和氏はひとり、ICT事業を立ち上げ、開発会社とともにハイブリッド黒板アプリ「kocri(コクリ)」を共同開発した。スマートフォンの中に入れた教材をプロジェクタで黒板に投影したり、罫線だけを黒板に投影して、そこに板書ができるなど、デジタルと黒板を融合させたユニークなアプリだ。

 

「kocriは現在でも多くの教室で使っていただいています。しかし多くの先生から、もっと広く投影できたらいいのにという要望をたくさんいただきました。このときの経験がワイードの開発のきっかけになっています」

坂和氏がひとりで走り続けていると、やがて会社の様子も変わってきた。いつの間にかICTに強く、未来志向の若い社員が増えていき、自然な新陳代謝が起こり、社員の平均年齢は10歳以上若返ったという。

 

それでも坂和氏は、つくっているのは“コクバン”だという。

 

「確かにデジタルだったり、アプリだったりとICTを使ってはいますが、僕たちがいつも考えているのは、どうやったら使いやすい黒板がつくれるかということです。ワイードも機器としてはプロジェクタですが、僕たちの意識の中では“コクバン”なのです

 

黒板メーカー・サカワは、創業以来98年、コクバンをつくり続けている。再来年には100周年を迎える。

 

「ワイード」詳細ページはこちら

「Kocriスクールライセンス」詳細ページはこちら

 

株式会社サカワ様ホームページはこちら

 

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