DISの教育ICT総合サイト

県主導でICT推進 大分発「ICTスマートデザイナー」とKocriの関係【後編】

2017年05月26日 記事

 今後10年を見通した長期の教育計画「教育県大分」創造プラン2016を策定し、県内すべての子どもたちに未来を切り拓く力と意欲を身につけさせる教育を推進する大分県。この計画に含まれる「教育情報化」の部分を担うためのアクションプランとして策定されたのが「大分県教育情報化推進プラン2016」となる。その中心人物である土井敏裕氏と、スマートデザイナー1期生として活躍中の森脇真帆氏に話を聞き、大分県における教育情報化への取り組みの“今”を確認する。

大分県教育庁 教育財務課 情報化推進班 指導主事 土井敏裕氏(右)とICTスマートデザイナー1期生 別府市立南小学校 森脇真帆氏(左)
大分県教育庁 教育財務課 情報化推進班 指導主事 土井敏裕氏(右)とICTスマートデザイナー1期生 別府市立南小学校 森脇真帆氏(左)

情報モラル・情報セキュリティの向上とICT教育を見据えた教室デザインの重要性

今回の取材では、前編で紹介したスマートデザイナー 梶原八千代氏(国東市立安岐小学校教諭)の授業を見学したのち、同じくスマートデザイナーである別府市立南小学校 森脇真帆氏の授業も見学した。森脇氏は梶原氏と同じく同事業の1期生に選出された教員だ。氏がICTスマートデザイナー育成事業の公募に申し込んだ動機は、これからますます重要になってくる、子どもたちの情報モラルに対し学校側からどうアプローチしていくかも考えてのことだったと話す。

 

「これからは、幼い子どもたちの周りにもタブレットなどのデジタル端末が増えていくと思います。そんなデジタルネイティブな子どもたちが小学校に入ってきたとき、タブレットなどの端末と学校内でどう付き合っていけばいいのか。子どもたちの情報モラル面を含めて、タブレットを導入した際にどのように授業に使えるかというところを研究したいと思いました」(森脇氏)

 

当然ながら、大分県としても教育情報化における情報モラルやセキュリティは重要な事項として位置づけており、県内の学校を個別に訪問する、ICTを活用した授業づくりと情報モラル・セキュリティの研修を年間120本以上実施している。

 

「モラルやセキュリティを考えれば、極端にいえば学校内ではタブレットを使わせないのが一番安全かもしれません。ですが、それではインターネットやICT機器を活用するがゆえの表現などを子どもたちからシャットアウトしてしまうことになります。だから情報モラルを高め、安全に使えるセキュリティ体制を構築する必要があり、そこが難しいところでもあります」(土井氏)

 

森脇氏はスマートデザイナーとしての1年目(昨年度)は小学1年生、2年目の今年度は持ち上がりで2年生を受け持っている。授業でのICT機器の活用においては、前編で紹介した梶原氏と同様、ハイブリット黒板アプリ「Kocri(コクリ)」を活用している。

 

「Kocriを使って、教科書にあるものをそのまま大きく見せたり、重要な部分を囲って強調したりしています。子どもたちのグループ学習といった使い方には向いていませんが、わかりやすく効果的な授業を行うための教員向けツールとしてはとても優秀だと思います。生活、学級活動、道徳、算数、国語などさまざまな授業に使っていますが、一方で、この教室はかなり明かりが入ってくる造りになっているので、時間帯によっては黒板に投影した内容がまったく見えなくなってしまうこともあります」(森脇氏)

※別府市立南小学校で森脇氏が受け持つ教室は、窓側、廊下側の両方から光が入る開放型の教室だった。学習の場としては明るいイメージは歓迎されるが、ICT機器の活用という面では黒板に投影した画面が見づらくなるといった問題が生じる。

 授業が行われた教室は、外側全面が大きな窓となっており、時間帯によっては黒板周辺にも日光が降り注ぐ。廊下側は壁が撤去されており、こちらも非常に明るく開放的だ。子どもが学習する場としては理想的ともいえる環境なのだが、Apple TVとプロジェクタを使って黒板上に写真を映し出す際には大きな問題となる。ICT機器を使った授業の実践は、ある意味光との戦いだと森脇氏は語る。

 

前編文末でも述べたが、大分県のICTスマートデザイナー育成事業では、タブレットを活用した新しい授業デザインの研究のほかに、ICT機器を取り入れた教室環境デザインの構築もミッションとして掲げられている。森脇氏が直面した教室の明るさに関する問題は、多くの学校に共通する課題として挙がっているという。

 

「どの学校でも、教室というものの造りは、できるだけ明かりを取り入れるコンセプトとなっています。プロジェクタで写真を黒板に映し出すといったやり方は最初から想定されていないのです。それを解消するための仕組みが必要で、現場からの声が重要になってきます」(土井氏)

 

例えば、より高性能のプロジェクタを導入すれば黒板に映し出したときの見やすさはある程度改善されるだろう。ただし、日の光に対してプロジェクタの光量で勝負するのは効率的とはいえず、高性能なプロジェクタは導入コストも飛躍的に高くなってしまう。そのため、プロジェクタを設置する位置を調整したり、遮光タイプのロールカーテンを窓際に追加したりといった工夫でローコストに対処することが現実的だ。森脇氏は、黒板上にロールタイプのスクリーンを設置することで、ある程度明るさの問題を解消している。このスクリーンは、ICTスマートデザイナー育成事業で貸与されたものではなく、市から整備されたICT機器のセットの中にあったものを利用しているという。こうした各先生の細かな工夫がICTスマートデザイナー育成事業でまとめられ、その他の学校の教室においても、ICTを活用した授業を快適に行うためのTipsとして提供されていくのだ。

※黒板前に出ての発表など、子どもたちの移動が多い教室では、子どもの席の近くに置くとぶつかって表示がずれるというトラブルも多いという。そのため、プロジェクタを設置する場所にも工夫が必要となる。

ICTスマートデザイナー育成事業が生み出した成果と、大分県が進める教育情報化のこれから

 ICTスマートデザイナー育成事業は、大分県教育情報化推進プラン2016が掲げる3つの基本方針「子どもたちの情報活用能力の向上」「教育の情報基盤の構築」「教育情報化に向けた環境整備」のすべてに対しての取り組みといえる。タブレット機器を活用した新しい授業デザインを模索し、それにより子どもたちの情報活用能力を育成。ICT機器を取り入れた教室環境デザインを模索することで、ICT機器やインフラの最適解を提示する。さらに、選出されたスマートデザイナーが各市町村における教育情報推進のリーダーとして活躍することで、教育情報化のための各市町村独自の推進組織にも貢献している。スマートデザイナーの活用内容からは、子どもの情報モラルを向上させ、総合的な情報セキュリティを構築するためのTipsを確認することもできる。

 

年に数回の集合研修の中で、スマートデザイナーたちは意見の交換を行っているが、当然それだけでは十分なコミュニケーションが取れているとはいえない。大分県には、「OEN(Oita Education Network)」という、大分県内の教職員をつなぐネットワークシステムが構築されている。Google Appsを利用したシステムで、メール、カレンダー、ドライブなどの機能を無料で利用することができる。

 

このOENシステムの中にスマートデザイナーの掲示板が設けられていて、スマートデザイナーや関連する職員による意見交換や実践事例の共有、アプリ情報の交換などが活発に行われている。その他にも、スマートデザイナー公開授業のフォームを提供したり、アンケートを実施したりと、さまざまな用途で使われているという。事業開始当初は自分が受け持っていたICT機器のトラブルシューティングも、今では本サイトで教師同士がアドバイスをすることで解決できるようになったと土井氏は語る。

 

ちなみに、大分県教育委員会では、校務をサポートするシステムの操作をはじめ、各学校におけるネットワークインフラやICT機器のトラブルなどに対処するヘルプデスクを設置している。県立高校だけでなく、各市町村におけるICT活用時のトラブルも幅広くサポートしており、スマートデザイナーのトラブルにも対応してくれる。こちらも大分県の教育情報化をスムーズに推進させるために必要不可欠な組織といえよう。

※県教育委員会ヘルプデスクは県庁舎内に設置されており、8名のメンバーが常駐していてさまざまなトラブル・質問に対応している。写真提供:土井敏裕氏

 OENシステムや大分県学校成績管理システム(Arms)という県立高校の総合成績管理システムを運用するなど、大分県では校務の情報化も積極的に推進し、事務作業量の軽減や業務の効率化を図っている。また、大分県教育委員会が学校現場の優秀な取り組みを動画配信する「大分県教育庁チャンネル」(参照記事ーーhttp://sip.dis-ex.jp/news.html?id=113)を展開するなど、教育現場を盛り上げるための取り組みにも積極的だ。

※大分県学校成績管理システム(Arms)は、出欠席の入力や考査得点・評点の入力など多様なデータを一括管理することができ、校務の大幅な効率化を実現している。現在は県立高校向けのみだが、県立中学校向けも準備しているところだという。図版提供:土井敏裕氏

※YouTube上に展開している「大分県教育庁チャンネル」では、ICTを活用した授業を含め、大分県の学校におけるさまざまな取り組みが動画で配信されている。図版提供:土井敏裕氏

ICTスマートデザイナー育成事業は、今年4月からの平成29年度で3年目を迎え、1期生の研究は3月で終了となる。

 

「本年度最後の集合研修で、最後に1期生にひとりずつ話してもらったんですよ。そうしたら、全員から『やってよかった』という声が聞けました。管理職クラスから若手教師までメンバーはバラバラなのですが、ICT教育を研究する仲間ができたこと、普段は交わらない小・中・高の先生間でつながりができたことが大きかったようです」(土井氏)

 

29年度からはスマートデザイナー3期生の公募と選定が始まる。29年度のICTスマートデザイナー育成事業も、基本的に目に見えることは本年度とあまり変わらないと土井氏。27~28年度の成果として、18校の公開授業(取材時は16校が実施)と100本の指導案が残ったが、現在はこうした成果をどのように表に出すかを考えているという。

 

タブレットを活用した学校・市町村における授業づくりの先駆者を育成し、全国的にも高いレベルの教育情報化を推進する大分県の取り組みは、日本における教育ICTの今後を占う意味でも見逃すことができない。3年目を迎えるICTスマートデザイナー育成事業を始め、大分県が推進する教育情報化事業のこれからにも注視していきたい。

 

 

前編はこちら

教育ICT関連記事一覧ページにもどる

ICTスマートデザイナー育成事業で活用されているKocriの商品ページはこちら

ページトップに戻る