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県主導でICT推進 大分発「ICTスマートデザイナー」とKocriの関係【前編】

2017年05月23日 記事

後10年を見通した長期の教育計画「教育県大分」創造プラン2016を策定し、県内すべての子どもたちに未来を切り拓く力と意欲を身につけさせる教育を推進する大分県。この計画に含まれる「教育情報化」の部分を担うためのアクションプランとして策定されたのが「大分県教育情報化推進プラン2016」となる。情報活用能力の向上からICT機器・インフラの整備、教育情報化に向けた組織の編成まで、幅広い教育改革を意欲的に進める大分県の取り組み、その中核に迫ってみる。

大分県教育庁 教育財務課 情報化推進班 指導主事 土井敏裕氏(右)とICTスマートデザイナー1期生である国東市立安岐小学校 梶原八千代氏(左)
大分県教育庁 教育財務課 情報化推進班 指導主事 土井敏裕氏(右)とICTスマートデザイナー1期生である国東市立安岐小学校 梶原八千代氏(左)

教育情報化を牽引「ICTスマートデザイナー育成事業」とは?

 大分県教育庁 教育財務課 情報化推進班の指導主事を務める土井 敏裕氏は、県が推進する教育情報化におけるキーマンである。平成31年度までの教育情報化アクションプラン「大分県教育情報化推進プラン2016」は「子どもたちの情報活用能力の向上」「教育の情報基盤の構築」「教育情報化に向けた環境整備」の3つの基本方針を掲げて推進されているが、土井氏はそのすべてに深く関わっている。

大分県教育庁の教育財務課 情報化推進班で指導主事を務めている土井氏の携わる仕事は多岐に渡り、効果的なICT事業の実践から快適なICTインフラの構築、市町村ともリンクした教育情報化のための組織作りなどを進めている。写真提供:土井敏裕氏

 3つの基本方針は密接にリンクしているわけだが、そのひとつである「子どもたちの情報活用能力の向上」は、児童生徒の発達段階に応じた情報活用能力の育成や、ICTを効果的に活用した授業の推進を実現するための方針となる。そして、それを実現するための県教育委員会の取り組みとして、「ICTスマートデザイナー育成事業」が平成27年度から実施された。小・中・高の校種を問わず、タブレット端末をはじめとするICT機器を活用した授業づくりの先駆者、授業デザイナーを育成するための本事業は、土井氏が中心となって推進されている。

 

なぜ県主導といえるこの取り組みが必要なのか?

 

「現在大分県には18の市町村があるのですが、ICT機器がまったく入っていないところはありません。ただ、一番導入されているところでもタブレットがグループ1台といったレベルには達していないのが現状です。タブレット端末以外にも電子黒板、書画カメラといったICT機器に関しても、市町村によって格差があります。県立高校には今年度から本格的に導入していきますので、今後は市町村もそれを見ながら進めていくといった流れになると思います」(土井氏)

 

つまり現況として、県立高校に関しては今年度から本格的な導入を進めていく予定ではあるが、県全体でのICT環境整備は市町村によって格差があるということだ。

 

県立高校ではすべての普通教室に電子黒板機能付きのプロジェクタとスクリーン、Apple TV、そして教師には1人1台のiPad、生徒にはグループ1台のタブレットを導入していく。まずは本年度3校、来年度3校に導入し、校内の組織づくりと活用推進、研修の在り方などを実証する。その後、予算的な問題がクリアできれば大規模整備に入り、最終的に県立高校すべての整備を行う予定だという。

 

県の取り組みとしては、高校の整備が中心となり、小・中学校に関しては各自治体の枠組みで整備が進められていく。とはいえ、ICT機器の選定から効果的な授業を実践するための研修、それに伴う組織作りまでをバラバラに行うのは極めて効率が悪い。

そこで考案されたのが「ICTスマートデザイナー育成事業」だ。平成27年に始まった本事業は、1期生は全県から公募、2期生は各市町村より1名の教員を選出。各教員にはタブレット端末(iPad)と付随する機器、アプリが貸与され、ICTを活用した授業デザインの研究を行っていく。

 

公募する際に校種の指定はなく、選出されたスマートデザイナーは小・中・高校までの教員が混在している。2年任期で、1年目には教員用に1台のタブレットを使った研究、2年目は教師のタブレットに加え児童生徒が5~7台のタブレットを使った授業の研究を行っていく。校種を特定せずに選定していることもあり、ICT機器の使い方から授業に使うアプリの選択など、すべてを自由に行ってもらったと土井氏は語る。

 

「ICT機器をバリバリ使いこなすというのが目的ではなく、あくまで授業づくりの研修だと思っています。なので、ICTを活用した授業づくりにおいて、それぞれがどんな答えを出すのかに注目しました」(土井氏)

選出されたスマートデザイナーには、教師用iPad1台にApple TV、プロジェクタ、ハイブリット黒板アプリ「Kocri(コクリ)」のアカウント、ロイロノートスクールのアカウントなどが貸与される。2年目になると生徒用iPad5~7台も追加され、より多様な活用研究が行えるようになる。図版提供:土井敏裕氏

 平成27年度に1期生18名が選出されて研究がスタート、28年度には2期生17名が選出され、今年3月で1期生の任期が終了する。1期生の任期終了に合わせて3期生の公募・選定も進められる予定となっている。年に数回の集合研修が開催され、スマートデザイナー同士のつながりをつくり、お互いの授業研究の共有も実現。1期生18名の公開授業が行われ、100本の指導案が提出されるなど、着実に成果が上がっている。

 

そのスマートデザイナーの1期生であり、小学1年生を担当して授業研究を行っているのが、国東市立安岐小学校(くにさきしりつ・あき)の梶原八千代氏だ。

平成27年度に1期生が選出されたICTスマートデザイナー事業は、本年(29年度)で3年目を迎える。1期生の任期は3月で終了し、今後はそれぞれの市町村におけるICT教育を牽引していくことになる。また、新たに3期生(29年~30年)の応募が始まるという。図版提供:土井敏裕氏

効果的な授業を行うためのICT活用を模索するスマートデザイナーの活動内容

 今回の取材では実際に梶原氏の授業を見せていただいた。教室内には黒板前にプロジェクタとApple TVが配置され、黒板上にロールタイプのスクリーン、黒板の横には大型テレビと書画カメラを用意。見学したのは国語の授業で、イギリスとメキシコの風習と日本との違いについての学習だった。Kocriを使ってさまざまな写真、画像を黒板に投影することで、子どもたちが授業に集中できるような授業を展開していた。

電子黒板アプリ「kocri」とApple TV、プロジェクタを使って、黒板上に授業に関連する写真を次々に表示。ロールタイプのスクリーンに教科書の内容を表示し、児童がその画面上に線を引くといったインタラクティブな活用もされていた。

「Kocriを使うと、授業用に用意した写真や画像をテンポ良く表示できて、拡大や縮小も簡単に行えるので助かっています。それと、自分が操作しているところが児童には見えないようにデザインされているのもうれしいですね。授業中、例えば効果的な写真などを選びながら操作していても、児童には気づかれませんから(笑)」(梶原氏)

 

ICTスマートデザイナー育成事業の1期生として2年間研究を続けてきた梶原氏は、昨年度、今年度ともに1年生を担当している。昨年度は、iPadを使ってどのように授業を展開できるのか、iPadを使った方がいい場面、使わないほうがいい場面を見極めることをテーマに研究を進めたという。

 

「国語・算数・生活の授業を中心に、写真を撮って黒板やテレビで表示して見せるという形から始めました。実際の写真を投影することで、子どもたちが写真に引きつけられ、その結果授業に集中させる効果がありました」(梶原氏)

 

また、授業の効率化、準備の時短という面でもiPadとKocriの組み合わせは大きな貢献を果たしてくれたという。iPadやKocriなどICTを活用して授業を展開した場合は、アナログだけで授業を展開させた場合に比べて準備にかかる時間が大幅に短縮されるのだ。

 

そして2年目となる今年度は、児童用のiPadが貸与されたため、グループ学習時に使わせている。1年生ということもあり、iPadを触ったことがある児童はほとんどいなかったが、使い始めるとすぐに順応したという。一度教えるとすぐに操作を覚え、さらに教えていない使い方を考え出すこともあったと梶原氏は話す。

 

「体育の飛び箱の授業で、グループごとにiPadでビデオを撮って、自分がどこで手をついて、どう着地しているかなどを確認し、褒め合いながら授業を進めていたのですが、そのうちスローモーションで録画をしだして、『先生こっちのほうがわかりやすい!』と。子どものほうが発想は柔軟で、いろいろ使いこなすのが早いですね」(梶原氏)

 

小学1年生における複数の活用事例はあまりないため、梶原氏の研究する授業デザインは、他の先生方にとっても大きな価値があると土井氏は話す。

「ICTスマートデザイナー育成事業ではiPadやプロジェクタなどのICT機器を各先生に貸与しますが、その使い方は自由です。極端な話、まったく使わないのもアリで、自分なりの答えを出してくださいというスタンスです」(土井氏)

 

小学校と中学校、高等学校ではタブレットの使われ方も異なり、効果的に使えるアプリも変わってくる。そのため、校種を問わずに選定されたスマートデザイナーの教員には、自分の担当する児童生徒や所属する学校の環境に合わせて活用することが求められる。それぞれの環境や児童生徒に合わせて最適な授業を模索した結果は、同校種のみならず幅広い学校でのICT実践に役立つはずだ。

 

それだけではない。例えば市町村から整備されたICT機器や環境では、壊してもいいから児童生徒にどんどん使わせる、といった研究を行うのは難しい。そういった試行錯誤も許されるICTスマートデザイナーだからこそ、その研究結果は活きた事例として今後、他の教育関係者にも良い影響を与えてくれるのだろう。

 

梶原氏の教室には、効果的な授業が行えるようにICT機器が配置されていた。児童が前に出て発表を行う際に足を引っかけたりしないよう、コンセントから伸びるケーブルにはカバーが付けられていた。

 

「以前は教卓も前にあって、その他にもいろいろあってゴチャゴチャしていたのですが、子どもが前に出て発表する時間を増やしたいと思ったため、ほかの先生にアドバイスもらったりして子どもの動線を大切にした教室レイアウトに変えていきました」(梶原氏)

 

実は、ICTスマートデザイナー育成事業ではタブレット端末を活用した新しい授業デザインの研究にとどまらず、ICT機器を取り入れた教室環境デザインの構築も大きなミッションとして掲げられている。本記事の後編では、もう1人のスマートデザイナーである別府市立南小学校の森脇 真帆氏にお話しを伺い、ICTスマートデザイナーに課せられたミッションについて、より深く見ていくことにしよう。

 

後編に続く

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